スザクの犠牲、ごほん!スザクが料理を食べてくれたおかげで安全に移動できた二人はランスロットを目の前に話し合っていた。
「これが僕の自慢のランスロットだよ!」
「ほう、これが」
ものすごく楽しそうに自らの作品を自慢するロイドだが、彰の耳にはあまり入っていなかった。何故かというと
(何だよ、このチートナイトメア…)
一緒に見せられたテストデータにドン引きしていたからだ。
グラスゴーどころか、サザーランドすら比べ物にならない性能を誇っている。
これにスザクが乗ったとしたら目も当てられない。鬼に金棒とはこの事だろう。
はっきり言って、現在のブリタニア軍と日本解放戦線の戦力差に、これが加わったら勝ち目が見えなくなる。
その事実に頬をひきつらせる彰。
(こりゃあ本格的に、こいつ対策を考えなきゃダメだな…スザクは名誉ブリタニア人だからパイロットになれない可能性は高いが、乗った時のことを考えた対策を作るのが正解だな。まあ、それが必要ない方が良いけども)
「どーう?凄いでしょ!」
「ははは…凄いなんてもんじゃないですね。完全に化物ですよ」
「でしょ!でしょ!」
僕って天才だからねーと彰の心からの本音に満面の笑顔と自信満々の言葉で返す。
この男の厄介な所は、言葉だけでなく本当にこの男が天才だということだ。
まあ、変人過ぎるので普通の軍人が普通に考えれば絶対に採用されないだろう。それがこんなナイトメアを作れるほどの研究資金が得られているということは…
(シュナイゼルのせいか…あー、やだ、やだ)
面倒臭い…EUにいる癖に、日本にまで影響を及ぼしてんじゃねぇ。
シュナイゼル.エル.ブリタニア。はっきり言って化物である。正直、勝てる気がしない。
クロヴィスを倒そうと。コーネリアを倒そうと。ナイトオブラウンズを倒そうと。最後には、この男が立ちはだかる。こいつを倒さないとブリタニアには勝てない。
しかし、勝ち筋が見えない。心底、厄介な野郎だ。だからこそ、当面の間はEUの方に集中していて貰いたい。
その間に俺はシュナイゼルの動向を探りながら、シュナイゼルに勝つ手段を模索する(ちなみに、ランスロットのことを知れたのも、シュナイゼルの動向を探っていたお陰である)。なので、正直暫くの間はクロヴィスを潰したくねぇ…クロヴィスを潰せばシュナイゼルが日本に関心をよせちまう。今の俺らの力じゃ、シュナイゼルどころかコーネリアにも勝てねぇし。
ぶっちゃけ、クロヴィスに勝つ…というか、殺すのは簡単なのだ。このまま潜入を続けて不意打ちで殺れば終わりだ。それをしない理由は、それをするメリットよりもデメリットの方が圧倒的に大きいから。
草壁さんとかが聞けば、日本人の誇りがどーだの言うだろうが、俺にとってはどーでも良い。誇りで勝てれば苦労はない。
(まあ、今日のところはこの辺で良いか…とりあえず基本的なスペックは分かった。それに、細かい装備も少しな。特に準備もしてない段階じゃ、これ以上は無理だろ)
そう考えた彰は話を終わらせようとする。
「全く…天才には敵いませんね。ありがとうございました。良い勉強になりました」
「あはぁー。僕も開発間近のランスロットの自慢ができて良かったよー。ところでさ、代わりって訳じゃないけど一つ質問に答えてくれない?」
「はあ、良いですけど何か?」
「君…誰?」
一瞬、彰は動きを止める…が、直ぐに何事もなかったかのように答えた。
「は?どういう意味ですか?」
「おーめーでーとーうー!君の潜入は完璧だよ!どうやったかは知らないけど、データベースに登録されていないにも関わらず、ここまで来ることができた!しーかーもー、スザク君や他の人たちにも全く気付かれることなく!ここまでいけば、芸術だねぇ」
ロイドの言葉にため息をはく彰。データベースまで調べられたのならば、言い逃れはできない。
「やれやれ…時間があったらデータベースの細工までしてたんだがねぇ。生憎と急に決められた案件じゃ、そこまでできなくてね。ご参考にまで聞かせてくれ。何で気付いた?」
「君のハイスペックのおかげだよぉ!僕は自分の研究以外に興味がない。だから、興味がない人間の顔なんて100回見たって覚えない。だけど、逆に言えば興味があれば一回見たら忘れない。意味わかるよねぇ?」
「なるほどな」
彰は頭をかく。これだから変人は厄介だ。常人では見ない視点で物事を見てくる。
「そのとーおーりー!今の僕が一番探しているのはランスロットのパイロット候補!!まあ、スザク君がなればベストなんだけど名誉ブリタニア人だから問題があってねぇ。だ.か.ら.ここにいるブリタニア軍人のデータは全て見た!君ほどの身体能力があれば目に留まらないはずがないんだよねぇ。そして、目に留まったなら僕は絶対に忘れない。生憎と僕は機械よりも自分を信じているんでねぇ。幾らセキュリティーチェックを潜り抜けたとしても疑うよぉ」
「やれやれ…長い解説ありがとうよ…で?どうする?」
「何が?」
キョトンとした顔で尋ねるロイド。こいつ、状況分かってんのか?
「俺が俺の正体を看破したお前を生かしておくと思ってんのか?今ならお前を殺せば俺の侵入は誰にも気付かれないんだぜ?」
ニヤリとした彰は刀に手をかける。
しかし、ロイドはそんな姿を見ても焦った姿を見せない。こいつ、恐怖の感情死んでるのか?
「確かにねぇ。ても、大丈夫だよぉ。だって、僕この事を誰かに言う気何かないから」
「は?」
今度は彰が聞き返す番だった。
「別に驚くことじゃないでしょ?だって、僕は自分の研究をやりたいだけなんだもの。だから極端な話、僕はブリタニアが勝とうが負けようが滅びようが別にどうでも良いんだよぉ。僕がブリタニア側にいるのは、シュナイゼルちゃんがたっぷりと研究資金をくれるからってだけだからね。別にブリタニア人だからブリタニアに仕えている訳じゃないんだよぉ」
変人の究極体である。
「なるほどな。だが、お前の説得には一つだけ大事なものが抜けてるぞ。科学者のお前になら分かるだろ?」
「あはぁ、やっぱり勢いで騙されちゃくれないかぁ。そうだねぇ、僕のさっきの話には根拠がない。こんな口約束何て守ると考える方がおかしいからねぇ」
「そういうこった。それをどう保証する?」
「無理だねぇ。保証するのは不可能だよ。なら、代わりと言っちゃ何だけど取引しない?」
「何?取引だと?」
「そうだよぉ。君がここで僕を殺さない代わりに、僕が君の頼みを一つだけ何でも聞き入れる。もちろん、これにも根拠はないし、無理な願いは無理だけどねぇ」
「ふむ」
さしもの彰も長考の構えを見せる。
本音を言えば、彰もできればロイドを殺したくはないのである。
理由はクロヴィスと同様に、シュナイゼルに目をつけられたくないからである。
ロイドの技術力は確かに驚異だが、現状ではシュナイゼルの方が遥かに厄介だ。
もちろん、この場で騒がれたら殺すしかないのだが、本人曰く言う気はないらしい。
根拠はないのだが、俺から見ても確かにロイドが俺のことを誰かに言うとは考え辛い。何故なら、本当に言う気なら俺に言わずに回りの兵士がいるときに言えば済む話なのだから(まあ、仮に襲ってきても逃げる自信はあるが)。
とはいえ、常人にはあり得ないことだろうが、ロイドは完全に変人である。常人と同じ思考回路を求める方が間違っている。
「まあ、良いか…質問に答えるなら、その条件を飲もう」
「流石ぁ。話が分かるね!どんな質問?」
「何故俺にそんな質問をした?黙ってれば問題は全くなかっただろーが」
「あはあ、そんなこと?そんなの簡単だよ!それはね
僕が科学者だからだよぉ。自らの仮説には検証をしないと満足しない人種なのさ」
ロイドと別れた彰は無事に脱出するために考えていた脱出ルートを辿っていた。
最後の質問の答えのアホらしさで完全に殺る気がなくなってしまったからだ。
(てめえの在り方を貫くためなら、自らの死も関係ないか…完全にアホだな。だけど、ちくせう。ちょっと格好良いと思っちまったじゃねえか)
そこはかとなく敗北感のようなものを感じながら急ぐ彰。そこに突然声がかかる。
「おい、そこのお前!道を開けぬか!誰の前の道に立っていると思っている!」
(ゲ、おいマジか)
振り返った場所の先頭にいたのは、クロヴィスの軍の中ではトップクラスに厄介なジェレミアだった。
ナイトメアの腕もそうだが、一番面倒なのは、その忠誠心だ。自分が死んでも皇族を守ろうとする精神は、極限状態になればなるほど面倒臭いものになる。
とはいえ、別に戦う訳ではない現状では厄介な存在ではない。
ロイドのような変人ではないし、頭も大してキレないので俺の変装がバレることなどあり得ない。
なので、ジェレミアのことはどうでも良かった。問題はジェレミアの後ろにいる人物である。
「良いんだよ、ジェレミア。そんなに怖い声を出す必要はない」
「は!申し訳ありません!しかし」
「良いんだよ、別に今は職務中じゃないしね。今の僕はただのクロヴィスであり」
懐に入っているカードを取り出しながら続ける。
「妹を守り隊の会員No.3だ!」
続編が始まる前に原作に入ってたら良いなあ(願望)