(ええ!?ちょ、ちょっと待ってよ!一体どういうこと!?)
カレンは突然始まったルルーシュと彰の口論を聞いて、その内容に驚愕していた。
一応カレンの名誉のために言っておくが、別にカレンは盗聴をして二人の会話を聞いているとか、部屋のドアの前で聞き耳をたてているとかそういうことはしていない。カレンはルルーシュのベッドの下のスペースにいたので普通に聞こえたというだけの話だ。
では何故、そんな所にカレンがいるのか。
それは簡単。一時間前にルルーシュの家から帰る直前に彰から
『ルルーシュのベッドの下に隠れといて。俺が良いって言うまで出てくんなよ。当然、他の奴らには秘密でな』
というメールが来たからだ。
ぶっちゃけ理解不能だった。
とは言え相手が理解をすることがそもそも不可能な生物なので今更ではあった。なので即時に『何で?』というメールを送ったのだが、返信が全く来ない。
無視して帰ろうとしたカレンだが、相手はあの彰。一%以下の確率で何か意味がある可能性があった。(まあ、意味の無い確率の方が大きかったが、その時はぶん殴ろうと決めていた)
しかし、自分の家族を救ってくれた大恩人であるルルーシュに黙って本人のベッドの下に隠れるというのは人としてどうなのだろうか。
しかし、彰もカレンの大恩人であり、おまけに無駄に頭が良いことも認めていた。なので、これが万一ルルーシュを助けるなどの理由であったら自分はルルーシュを見捨てたことになってしまう。
カレンは悩みに悩んだが、結局、渋々とルルーシュのベッドの下にずっと静かに隠れていた。これで意味がなかったら半殺しにするくらいは許してほしい。
一時間以上待っても全く何も起きない上に全く返信も来ない事実にカレンのストレスはピークに達し、もう帰ろうとしていた矢先にルルーシュが部屋に入ってきた。
なので、慌てて再びベッドの下に隠れていると今度は彰本人が窓から入ってきた。
意味が分からないこの現状に文句を言おうとするカレンだが、事前に『彰が良いと言うまで』出てくるなと言われているカレンはギリギリの所で思い止まった。
しょうがないので、隠れながら二人の会話を聞いていると彰の口から信じられない衝撃の事実が放たれた。別にルルーシュの出生などに全く興味がなかったカレンだが、流石にこれには驚かされた。
(ルルーシュが皇族で皇位継承者…いやいや、何がどうなってんのよ!?)
突然の急展開にカレンの脳はオーバーヒートしかかっていた。しかし、そんなカレンをさしおいて二人の会話は続いていく。
「…どうやら、惚けても無駄なようだな」
殺気すら漂わせてルルーシュは答える。しかしその殺気を受けても彰は何時もの飄々とした雰囲気を崩さない。
「まあ、そんだけ分かりやすいとな。ポーカーフェイスの練習した方が良いぜ?せっかくクールなイケメンで通ってるんだから。ポーカーフェイスはクールなイケメンには必須だろ?」
(何で、あいつこの空気の中でふざけられんの!?あいつの心臓どうなってんの!?)
ベッドの下に隠れているカレンは何もできないので、心の中で全力のツッコミをする。
「まさか、兄上が未だに俺たちの絵を描いてるとはな…本人にとっては供養かもしれんが完全に良い迷惑だ」
(ルルーシュガン無視してる!!そりゃそうよ、だってそんな空気じゃないもの!今はシリアスだもの!!)
「そういやぁ、何でイケメンはクール系が多いって印象あるんだろうな?別に良いよなぁ、熱いイケメンがいても。あー、でも最近は熱いイケメンも多いか」
(もうイケメンの話は良いのよ!!そんな話はどうでも良いのよ!!お願いだから真面目になりなさいよ、見てるこっちが怖いのよ!)
「…それで、俺をどうする気だ?解放戦線に連れていくか?それとも、ブリタニアに売り飛ばすか?」
(ルルーシュ貫いた!シリアスな空気を貫いた!)
「んにゃ、別に?」
「何?」
(は?)
彰の返答に隠れて聞いていたカレンでさえも疑問の声が出そうになった。何故、わざわざ苦労をして調べて何もしないと言うのか。
どう考えても、割に合わないし、理解できない。
そう考えたルルーシュは手の平を机に叩きつける。衝撃で机の上に立てられていたチェスの駒が床に散らばる。
「ふざけるな!ここまで調べて何もしないだと!?そんなことがあるか!」
普段からは考えられぬルルーシュの怒声。それを聞いても彰は耳をほじりながらダルそうに答える。
「しゃーねーだろ?気になっただけなんだもんよ。ていうか、そもそも
見捨てられた皇子に人質としての価値なんてあるわけないだろ?」
くっと悔しそうな顔をするルルーシュに彰は続ける。
「敗者は斬り捨て、勝者が正義がブリタニアの国是だ。敗者である捨てられた皇子のためにブリタニアが動くとはとてもじゃないが思えないな。まあ、クロヴィスなら動くかもだが…そもそも、俺にとっちゃあいつなんて敵でも何でもないんだよ」
だから、俺にとってお前に人質の価値はない、と彰は伝える。
(まあ、本当なら御輿としての価値はあるけども)
ブリタニアに捨てられた皇子など御輿には最適だ。だが、今の日本解放戦線ではルルーシュは御輿にはならない。それは日本解放戦線が日本を助けるために動いているからだ。ルルーシュがトップに立つならば、ブリタニア人を倒すのではなく、世界をブリタニアの支配から解放するために、ブリタニアという国を倒す組織でなければならない。
だが日本解放戦線がその方向に変化することは難しいだろう。彰としても、変化の意味と価値を藤堂さんに何度も説明しているのだが一更に変化がない。まあ、幹部のほとんどが反対していれば当然と言えば当然だが。
「では何故その話を俺にした?黙っていれば、何も問題はなかったはずだ」
「そりゃ、お前が鋭すぎるのが原因だ。こんな事実を黙ってれば何時か綻びが出る。まあ、普通の奴くらいならだまし続けられる自信はあるが…お前は例外だ。そん時に疑われるくらいなら今話した方がマシだ」
ルルーシュの頭のキレが自身を上回っていることは分かっている。こういう相手には隠し事をせず、堂々と話した方が良い。このような相手の内面に踏み入るような事柄なら尚更だ。
「…俺にそんな話を信じろと言うのか?」
「事実だからな。信じてもらうしかねぇな」
「嘗めるな。人質として以外でも俺たちを利用してできることなど無数にある。お前がそれをしないという証拠など、どこにある?」
「証拠だと?…はっ!ルルーシュ。俺はお前のことを誤解してたみたいだな」
「ふん、俺がそんな言葉で流されるとでも思っていたか?」
「いや、逆だ。最初に会った時はお前のことを冷静に周りを見ることができる人間だと思ってたんだが…どうやら、違ったようだな」
「何?」
ピクリとルルーシュは眉を潜める。
「周りを冷静に見ているわけじゃねぇ。お前は周りを信じることができないだけだ。はっ、お笑いだな。童貞野郎の分際で一人で何でもできるとでも思ったか」
「貴様…」
ギリッと歯軋りをして彰を睨み付けるルルーシュ。そんな空気の中でカレンは思った。
(ルルーシュって童貞だったんだ…)
おい、カレン。考えるのは、そこじゃない。
「前にナナリーを守ると言ったな?人を信じないでどうやって誰かを守れる。断言してやるよ、今のお前じゃ誰も救えないし、守れない。シャーリー達やナナリーどころか自分自身もな」
「黙れ…」
「お前がナナリーを大事にしてるのは知ってるし、見てれば分かる。だが、お前のそれは独り善がりだ。お前はナナリーの気持ちを考えてない。なにせ、お前はナナリーでさえも本当は信用してないんだからな。お前は、てめえの理想を勝手にナナリーに押し付けているだけだ」
「黙れ!」
キレかけているルルーシュを見ても彰は、ふんと鼻を鳴らして言い続ける。
「このままじゃ、ナナリーがお前の守りたいナナリーじゃなくなった時、お前はナナリーを殺すことになるかもな」
その彰の発言にルルーシュの中のナニカがキレた。
「黙れと言っているだろうが!」
怒鳴りながらルルーシュは彰に掴みかかる。それを見て流石に飛び出そうとしたカレンだが、彰はそれを手で制する。
「貴様に!貴様に何が分かる!親に!兄妹に!親戚に!信じていた者全てに裏切られ!利用され!殺されかけ!泥水を飲みながらでも生きてきた俺達兄妹の気持ちが!貴様に何が「わかんねぇよ」」
彰は半狂乱になりながら怒鳴ってくるルルーシュの手首を掴み、逆の手でルルーシュの顔面をぶん殴る。
当然のように吹き飛ばされるルルーシュ。それを見て我慢の限界がきたカレンがルルーシュを庇うように前に立つ。
「彰!やり過ぎよ!これ以上やるなら、私が相手にはなるわよ」
「カレン!?お前何処から!?」
「え!?えーと、あの、その」
ルルーシュから投げられた質問にカレンは答えを探す。勢いのまま出てきてしまったので、そこまで考えてなかったのだ。そんなカレンを助けるように彰は会話に加わる。
「俺が呼んだんだ。カレンに怒るのは筋違いだぜ」
「貴様!一体どういうつもりだ!」
「その方が良い方に転がると思ってな。ぶっちゃけ、こういうのは俺の柄じゃねーし」
「何の話だ!何を企んで「ルルーシュ!落ち着いて!とりあえず冷静になって」お前は黙っていろ、カレン!お前には関係ないだろうが!」
倒れていたルルーシュを起こすために手を出していたカレンの手をルルーシュは振り払う。
そのルルーシュの行動と発言が、色々と言いたいことがあったが我慢していたカレンをキレさせた。
「ゴチャゴチャとうるさいのよ、あんたは!」
「ウグ!?」
今度はカレンがルルーシュの胸ぐらを掴む。キレていた自分に逆にキレてきたカレンを見て少し冷静になるルルーシュ。しかし、カレンはヒートアップする一方だった。
「あんたがルルーシュ・ランペルージだろうが、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアだろうが、そんなの知らないわよ!私が知ってるのはね!偉そうで!ヘタレで!無駄に頭が良いイケメンで!シスコンで!お人好しなのに、変な所で不器用で!頑固な、ただの『ルルーシュ』よ!それ以外どうだって良いのよ!その、ただの『ルルーシュ』は、私の家族を、一番大切なものを守ってくれた!だから、今度は」
一息ついてカレンは続ける。
「私が守るから!シャーリー達を!ナナリーを!あんたを!あんたが守りたいものを私も守るから!だから…私のことくらい信じなさいよ!私はあんたの彼女でしょうがぁ!!!」
言い終わったカレンは掴んでいた手を離す。自然とルルーシュはストンと座ることになった。しかし、ゼェゼェと息を吐きながら自分を見てくるカレンに怒りも忘れて呆然とする。
そして、彰はそれを見て、聞いて肩を揺らして大笑いする。
「だーっはっはっはっ!たまんねぇな、おい!どっちが彼女だ、おい!カッコよすぎるだろうが、彼女!」
それでも笑いは収まらないのか涙目で彰は続ける。
「くっくっくっ。良かったなルルーシュ。お前は信じていないかもしれんが、お前のことを信じている者が少なくとも二人はいる。手始めに…その二人のことは信じてみないか?」
スッと手を出す彰。それを見て先程の自分の発言を思い出して赤くなりながらもカレンも手を伸ばす。
まだ呆然としながらもその手を見つめるルルーシュ。ルルーシュは伸ばされたその腕を
「悪いが…まだ保留だ。俺にはまだその腕を掴むことはできん」
取ることは出来なかった。
ムッとしたカレンは怒ろうとするが、彰は何とかそれを制止する。
「まっ、良いんじゃねーの?いきなり変われって言われても無理だろ。さっきも言ったけど、お前の気持ちなんざ俺達は知らんしな。だから、待っててやるよ。お前がこの手を掴むまでな」
「…何時になるかは分からんぞ」
「それだけ聞ければ十分だ」
ニッと笑う彰を見て、不貞腐れるルルーシュ。ようやく何時も通りになった二人を見て、カレンも笑うが、思い出して彰に尋ねる。
「あんたさ…こうなるのが分かってたの?」
「そりゃ、もちろん」
「嘘をつけ。行き当たりばったりだろうが」
「結果オーライだろ?まあ、せっかくだし、俺は知ってるけどカレンにルルーシュのここまでの人生でも聞かせてやれよ。一応保留とはいえ、信じてるんだろ?」
「…別に聞かせるような話でもないがな」
そこで語られたルルーシュの今までの話を聞き、「ブリタニア皇帝ぶっ殺す」と言って飛び出そうとするカレンを二人がかりで押さえたのは余談である。
ご都合主義ですいません!
ぶっちゃけ、このSSの始まりのきっかけは、ふと、このシーンが頭に浮かんだからでした。