ルルーシュは満たされていた。
色々と危ないことがあり、その問題は今もって解決していないが、あの様子から怪しい動きをするまでは保留にしておこうと考えた。
だが、そんなことすら今のルルーシュにはどうでも良かった。何故なら
「ほら、ナナリー。口にジャムが付いてるよ」
「お、お兄様!恥ずかしいです」
ナナリーの口許に付いたジャムを自らの手で拭くルルーシュの姿を見て、紅くなるナナリー。
幸せな時間だった。平穏を壊す悪魔もカレンも今日はいない。明日はカレンは来るかもと言っていたが、それでもナナリーと一緒にはいられる。
つまり、この二日間は多少の邪魔(カレン)は入るかもしれないが、概ねナナリーと二人だけの時間を過ごすことができるのだ。
ルルーシュにとって、こんな幸せなことはない。
この上ないほど上機嫌なルルーシュが今日のデートのプランを練っていると、ナナリーが声をかけてきた。
「あ、お兄様。言い忘れていたことがありました」
「何だい、ナナリー?」
「明日なんですが、少しお出かけしてきてもよろしいでしょうか?」
「明日?構わないが、随分と急だな。どうしたんだ?」
内心少しショックなルルーシュだったが、ナナリーのお出かけを邪魔するのも悪いと思ったので、何時もの態度を装った。
(ふむ…カレンと出掛けるのか?それとも、シャーリーか、会長か…いや、クラスメイトの可能性もあるが…)
「はい。デートなんです」
その瞬間、ルルーシュの世界は壊れた。
「彰さん、今日はお願いします!」
「彰樣。私からもよろしくお願いします。あの…本当に私はついていかなくてもよろしいんでしょうか?」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ。任せておけ、ナナリー、小夜子さん」
次の日。彰との約束の場所までナナリーを連れてきた小夜子は本当に自分が付いていかなくても大丈夫なのか、尋ねたが彰もナナリーも心配ないの一点張りだった。
そこはかとなく、どころか非常に心配な小夜子だが、本人が大丈夫だと言っている以上、無理やりついていくのも憚られる。
「分かりました。では、お気をつけて」
「おう。んじゃ、ナナリー行くぞ」
「はい、彰さん」
小夜子の心配をよそに二人は先に進んでいく。
そんな二人の三百メートル後方では…
「No.1。ターゲットを補足した」
身長が高い日本人がライフルを構えて彰を狙っていた。
それを聞いた、No.1と呼ばれたブリタニア人の青年は冷静に答えた。彼はブリタニア人にも関わらず着物を着ている。更に、眼帯をつけ、吸っていないにも関わらず片手にはキセルを持っている。
「そうか…No.4。照準を合わせろ。俺が合図をしたら即座に撃て」
「了解」
ふうとブリタニア人の青年はため息を吐く。冷静を装ってはいるが、顔には少し青筋を浮かべ、内心は殺意で満ち溢れていた。
(保留にしておいて正解だったな。まさか、こんな形で裏切るとは…まあ、良い)
ニィッと男は邪悪に笑い、言い放つ。
「俺は、ただ壊すだけだ…ナナリーを奪ったこの世界を!撃てえ!!」
「待ってたぜ!じゃあな、彰!」
命令を受け、日本人の男は引き金に手をかける。そして
「「じゃ、ねぇだろぉ!!!!」」
「「ごふっ!!??」」
突然現れたカレンとアヤノに頭を踏みつけられ、地面へと沈むのであった。
「何やってんのよ、ルルーシュ!朝から怪しい動きをしてるから後をつけてみたら…あんたまでボケてどうすんのよ!一人残された私は、このボケだらけの世界でどうすれば良いのよ!泣くわよ私!ツッコミ放棄するわよ!?」
「リョウもだよ!カレンに言われてついてきてみれば…何やってんのよ、朝から!」
「ルルーシュじゃない…妹を守り隊会員No.1だ」
「リョウじゃねぇ…妹(娘を含む)守り隊会員No.4だ」
「うっさいわよ!変装までしてバカじゃないの!?いや、確かに似てる所はあるけども!お互いに世界を壊したい中二病だけれども!」
地面に埋もれながらも妙なところを訂正するルルーシュとリョウに突っ込むカレン。
そのやり取りを見て、頭を抱えるアヤノ。
「たく…で、何時こんなブリタニア人と知り合ったんだ?」
「そう言えば…ルルーシュ、あんたリョウと顔見知りだったの?」
「いや、会ったのは今朝が初めてだ。リョウという名前も今知った」
「へぇ、お前ルルーシュって言うのか」
「知らなかったんかい!何で名前も知らない奴と暗殺をする気になるのよ!」
そのカレンの発言にフッと笑う男二人。
「甘いな、カレン。俺達に名前など意味はない」
「ああ。俺達は互いに妹(娘でも可)を愛していることが分かればそれで良いんだよ」
「良いわけあるかぁ!!何よ、その気持ち悪い結束!」
「確かにカレンの言う通りだな」
「分かってくれた?」
カレンの魂の叫びを聞いてルルーシュはカレンの肩に手を置く。
「俺も最初は妹を愛し隊に娘を愛する奴が入るのは無粋だと思った」
「そっちじゃないわよぉ!!!」
「俺も最初は妹を愛する奴なんて気持ち悪いと思ってたぜ」
「いや、本人を目の前にしてそんなこと言うあんたが一番気持ち悪いぞ、リョウ!」
「だが、そんな俺達の視界を開かせてくれる存在がいたんだ。その方の名前は分からない…だから俺達はこう呼ぶ」
「ああ。果てしない闘争に終止符を打った伝説の英雄…妹を愛し隊会員No.0であり、創設者だ。畏敬を込めてみんなあの人のことをこう呼ぶんだ」
ルルーシュとリョウの声が揃う。そうあの方の名前は
「「奇跡を呼ぶ【ゼロ】と」」
「「いや、ちょっと待てぇ!!!」」
暴走する二人にカレンとアヤノが声を荒らげる。
「何だカレン」
「ふっ、そうか、アヤノ。お前にもゼロの凄さが分かったか」
「何だじゃないわよぉ!!何となくだけど!何となくだけど、こんな所でゼロが出てくるのは間違ってる気がするわ!」
「同意見だ!手遅れになる前に止めろ!」
「まあ、せかすな。俺達もただ見ていただけじゃない。ちゃんと力はつけた」
「力って何だ!?絶対に普通の力じゃないよな!?」
「ああ。ゼロに任せきりじゃない。数いる妹を愛し隊の中でも発言力がを持ち、皇帝のように振る舞えるようになった俺達も今では四皇と呼ばれるまでになった。No.4以外の二人は顔も知らんがな」
「何でもありか!!あんた何髪のシャンクスになるつもりよ!」
そんな騒ぎの中でもターゲットを捉えていたリョウはターゲットが移動するのを見つけた。
「ん!?おい、No.1!ターゲットが移動したぞ!」
「何!?ちぃ、ここからでは死角だ!No.4移動するぞ!」
「了解だ!No.1への借りはここで返す!」
言うや否やあっという間にその場からいなくなってしまった二人。
取り残されたカレンとアヤノは呆然としたあと、大声で叫ぶ。
「「いや、二人とも待てぇ!!!!」」
さりげなく、アヤノが初登場