今年もこわなふざけた小説をお願いします。
「朝から、どーしたんだよ彰?」
「んー、ちょっと気になることがありましてねぇ」
話しかけてきた卜部に答えながらも、パソコンを動かす手を止めない彰。
(なーんか、気になるんだよなぁ。カレンのあの態度)
先日の、ルルーシュの誕生日会でのカレンの様子に違和感を覚えた彰は、ここ最近のブリタニア軍の動きやレジスタンスの動きを探っていた。
本来なら、カレンのグループの動きを探れば良いだけなのだが、弱小レジスタンス過ぎて碌な情報が手に入らなかった。
だが、それはおかしいのだ。本来であれば、どんな情報でも東京のレジスタンスの様子なら彰の耳に入っている。それが入っていないということは、誰かが情報を意図的に上手く隠しているということだ。
数で負けているレジスタンスが勝つには不意打ちが最も効果的である。そのためには、情報の秘匿は最重要案件だ。とはいえ、ゲットーに様々な情報源がある彰の耳にも入らないとは、かなりの徹底の仕方と言っても良い。
問題はここからだ。ここまで徹底できる人間は限られている。少なくともカレンや他の奴等の話を聞いた限りじゃ臨時リーダーの扇って人じゃあ、無理だろう。となると…
(紅月ナオト…どうやら、優秀だって話は嘘じゃなかったらしいな)
前のリーダーの紅月ナオト以外にあり得ない。
しかし、大した逸材である。ここまでできるのが日本解放戦線に何人いることやら。
まあ、強いて言えば、ここまで完全に情報を隠すと逆に何かあると疑われる可能性が高いので、ある程度の情報は流すべきだったとは思うが、無名のレジスタンスのリーダーということを考えれば十分に合格ラインだろう。たらればを言っても仕方ないが紅月ナオトが倒れなければ、今後に期待のグループになったと思う。
とにかく、紅月ナオトがそこまでして隠したいこととなれば、かなり大きな仕事になると考えて良い。そうだとすれば、次に考えなくてはいけないのは、どんな仕事なのかということだ。
普通に考えれば紅月ナオトのグループ程度が起こすテロなど、たかが知れているが、何となく普通に考えると大怪我することになる気がする。
であれば普通ではない状況になれば良い訳なのだが、カレンの様子がおかしくなったことから察するとカレンも知らされるまではテロを仕掛ける日時は知らなかった可能性が高い。
つまり、当事者でさえ、直前まで何時、普通ではない状況になるのか分からなかったという訳だ。だとすると、それは日時限定のイベントを利用するテロだということになるが、今日どころか近日中に行われるイベントにそれらしきものは全く発見できなかった。
なので、他のブリタニア軍や他のレジスタンスのネットワークにハッキングを仕掛けてはみたものの今のところ成果らしき成果はない。
流石に彰もため息を吐く。これで勘違いだったら、馬鹿以外の何者でもない。いや、普段から言われてるけど。
そんな彰を見かねてから卜部も差し入れを渡してくる。
「全くまた勝手に動いてるってことかよ。俺じゃなかったら問題になってるからな。まあ良い、とりあえず食え。お前朝飯も食べてないだろ」
「何だかんだ優しい卜部さんに感謝っす。ヒュー男前〜」
「男に褒められても嬉しくねぇよ」
「卜部さん…格好良いです」
「女声になっただけで喋ってるのはお前だろうが!」
怒鳴っているが、やはり優しい。これで何で女性にモテないのだろうか。顔以外は大体完璧な人なのに、何が悪いのだろうか。やはり、顔が悪いのだろうか。
(ん…毒ガス?)
どうでも良いことを考えていた彰の目に物騒な単語が飛び込んできたことで、彰の身体がフリーズする。
そんな彰の様子に気付かない卜部は、自分も飯を食べながらパソコンの画面の単語に驚きの声をあげた。
「おいおい、毒ガスって…そんな情報聞いたことねぇぞ。てか、やっぱりお前流石だな。よくもまあ、そんな目新しい情報を次から次へと見つけてくるもんだ」
そんな卜部の賞賛の声も彰の耳には入らない。何故なら、自身が想像する最悪のパターンが脳裏に浮かんだからだ。
「あの馬鹿!」
「うお!?ちょ、彰、お前どこ行くんだ!?午後の会議はどうすんだよ!?」
「すいませんが、お腹痛いんで欠席です!」
「そんな馬鹿みたいな嘘で通せるか!おい、待てって!」
卜部の声を気にもせずに彰はひた走る。自分の考え過ぎならそれでも良い。だが、そうでなければ急がなくては手遅れになってしまう。そして、そうなる可能性が高いだろうと彰は薄々感じていた。
「…であるからして、この場合は」
授業に出席してはいるが、ほとんどそれを聞かずにルルーシュは一昨日のことを思い出していた。
(カレンのあの態度…妙に引っかかる。一体何を隠している?)
隠してはいたが、何時もとは明らかに違ったカレンの雰囲気をルルーシュは気にしていた。
加えて、昨日からカレンに連絡を取っているのだが、全く繋がらないこともそれに拍車をかけていた。念のために、彰にも電話をしたのだが、こちらも全く応答がない。
とはいえ、これ自体は別におかしな事でもないのだ。普通に何時も会っているから忘れそうになるが、あの二人はレジスタンスであり、ブリタニアを倒すために動いている。だからこそ、作戦行動中だったり、忙しければ連絡を取れないことなどあって当たり前なのだ。実際、過去にも何度かそういう経験もある。
しかし、今度ばかりはそれとは違う気がした。何の根拠もないが、ルルーシュの勘が警報を鳴らしていた。
「…ル……ル…ル…ルル!ルルってば!」
そんな考えに耽っていたルルーシュがふと気付くとシャーリーとリヴァルが呆れたように見ていた。どうやら、何時の間にか授業が終わってしまったらしい。
「やっと気付いた。もうお昼だよ?何を考えてたの?」
「ルルーシュくーん。恋人のカレンさんが休みだからってそんなに心配すんなって」
思わずルルーシュは苦笑する。からかっているだけだと分かってはいるが、何とも正解に限りなく近いことを言ってくるものだ。
「まあ、一応な。後で電話くらいはしようと思ってる」
「いいなぁ、カレンは。一度休んだくらいで心配して貰えて…でも、体調を壊したなら心配だし…うう、私はどうしたら…」
「大変だねぇ、恋する乙女も」
嫉妬したり、心配したりで忙しいシャーリーを揶揄するようにリヴァルは言うが、シャーリーのその気質を好ましいものと思っているのは、雰囲気からして明らかだった。
ルルーシュも少し穏やかな気持ちになりながらシャーリーを見ていた。そんな時に、ルルーシュの携帯が鳴った。
チラリと見て彰からのメールだと分かった。メールには、周りに生徒がいない場所に移動しろとあった。
ルルーシュは、すぐさま、席を立ち、移動した。
「すまん、二人とも!野暮用だ、少し抜ける!」
「あ、ルル!授業までには戻らないとダメだよ!」
「ああ、行ってこいよ。まあまあ、良いじゃん、シャーリー。たまには」
「たまにじゃないから、言ってるの!」
そんな二人の声を背後に聞きながら、ルルーシュは急いで学校を出て、自分の部屋へと移動し、着いたと同時に彰へと電話をかける。
『よう、ルルーシュ。悪いな、電話に出れなくて』
「そんなことは良い!お前に聞きたいことがある。カレンは『カレンなら逃亡の真っ最中だと思うぜ?』何?」
自らが質問をする前に先に答えたことから、彰もカレンの様子を気になっていたことが分かったが、逃亡の真っ最中とはどういうことだ?
その質問にも聞かれる前に彰は答えた。
『カレンのグループがブリタニアの毒ガスを奪いやがったんだよ。ニュースにはなってないが、恐らく今頃シンジュクは大変なことになってるよ』
ギリっとルルーシュは歯軋りをする。カレンの妙な態度の謎が解けたのだ。
「何を考えてるんだ、あいつは!自分たちのリーダーは倒れているんだぞ!どう考えても、そんな大それた作戦をやれるだけの余力が残っているわけがないだろうが!仮に上手く奪えたとしても、反撃には一体どうやって対処するつもりだ!」
『さあな。最悪考えていない可能性もある』
「馬鹿が!だったらせめて俺に相談すれば『そりゃあ、無理だろ』何故だ!!俺ならば、カレンとついでにそのグループも助けることぐらいはできた!」
ルルーシュには、その自信があった。クロヴィスがどのような手を打とうと対処できる自信が。
しかし、彰は無理だと答える。ルルーシュには、その考えが全く理解できない。
『天才でも自分のことは、分かってないらしいな』
「分かりやすく話せ!一体何の話だ!」
『好きだからだよ』
「何?」
意味が分からないという風なルルーシュに彰は言う。
『好きだから。死んで欲しくないから。あいつはお前とついでに俺にも黙ってたんだよ。危ない作戦だってことはあいつだって知ってたはずさ。もちろん、あいつのグループもな。だからこそ、お前には言えなかった。お前に生きてて欲しいと思ったから。ナナリーと幸せに暮らして欲しいと思ったから』
ルルーシュは、予想外の言葉に何も言えなかった。そんなルルーシュを無視して彰は続ける。
『誇って良いぞ、ルルーシュ。短い付き合いだが、お前は確実にカレンの大切な存在になったんだ。恐らく、あいつがブリタニア人で家族と同じくらいに守りたいと思ったのはお前ら兄妹だけさ』
ルルーシュの脳裏に一昨日のカレンの言葉が蘇る。
「…そんなんじゃないだろう。ただ、自分の兄を助けてくれた存在だからというだけだ」
『はっ。仮にそうだったとしても、それは大切な存在にならないのか?お前がそれを言うのか?妹を事件に巻き込んだテロリストに、しっかりと恩を返したお前がそれを言うのか?』
「…カレンは何処にいる?お前もそこに向かっているんだろ?俺も向かう。俺とお前がいれば、クロヴィスなど『来るんじゃねぇ』…」
彰の質問に答えられなくなったルルーシュは、別の質問をぶつけるが、それも否定される。
しかし、その否定を予測していたルルーシュは即座に言葉を返す。
「別にカレンは関係ない。俺は、遅かれ早かれ、ナナリーのために反乱を起こす気だった。そのためには、優秀な駒がいる。お前とカレンはそれだよ。俺の計画のために、お前らを失うわけにはいかない」
『だから来るなと言ったんだ』
「何?」
意外な返答にまたしてもルルーシュは、言葉が止まる。
『何も分かってないな、お前は。言っとくぞ。お前が反乱を起こしたら絶対にナナリーは悲しむし、喜ばない』
「…そんなことは知ってる。だが、俺はナナリーを『守るために。居場所を作るために反乱するって?』…そうだ」
ふんと彰が鼻を鳴らす音が聞こえた。
『なら、保証してやる。ブリタニアが何をしてきても。ランペルージを失ったとしても。お前ら兄妹は絶対に大丈夫だ。何せ、お前がいるんだからな。どんな事態にも絶対に対処できる。だから、お前がナナリーを守るために、戦場に来るならそれはお門違いだ。全く必要ない』
「じゃあ、お前は何故戦場に行く!お前なら戦場に行かなくても、別に生きることはできるだろうが!」
ルルーシュの核心に近づく彰の言葉を遠ざけるように、ルルーシュは声を張り上げる。
そのルルーシュの言葉に、彰はふうと息を吐いてから答える。
『失いたくないからだよ。俺にどんどん近づいてきた奴らをな』
自嘲するように軽く笑いながら彰は続ける。
『知ってるか?ルルーシュ。戦場で生き残るには大切な奴は少ない方が良い。いざという時に見捨てられるからな。そのはずなのに…お前らときたら勝手に俺の大切なものになりやがって。これ以上、増やす気は無かったのによぉ。まあ、だからルルーシュ。安心しな。カレンは俺が責任を持ってお前の所に返すさ。心配するな』
彰の言葉にルルーシュは何も言えなくなった。
『それでも来たいって言うなら…ナナリーのせいにするんじゃねぇ!てめえの意思で!てめえのために戦場に来い!ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア!』
それを最後に電話は切れた。
切れた後もルルーシュの足は止まったままだった。
頭では理解している。自身が行く必要はないことを。誰も自分が行くことを望んでいないことを。
だが、それでもルルーシュの足は動き出した。戦場である、シンジュクへと。
そのルルーシュの脳内では、先ほどの彰の言葉が蘇る。
(知ってるか?ルルーシュ。戦場で生き残るには大切な奴は少ない方が良い。いざという時に見捨てられるからな。そのはずなのに…お前らときたら勝手に俺の大切なものになりやがって。これ以上、増やす気は無かったのによぉ。)
ルルーシュは舌打ちをする。何を勝手なことを言ってるんだあいつは。それは…それは全部…
(全部…俺のセリフだろうが!)
ルルーシュは初めて動き出す。ナナリーと自分以外の誰かのために。
祝!原作入り!