彰はにこやかに微笑みながらリョウ達の隠れ家に一人の男を連れて来ていた。
それを見たリョウ達三人の顔は引きつっている。
その姿を目に収めた彰は、こほんと咳払いをしてから告げる。
「今日から君たちの弟になるクロヴィス君だ。仲良くしてやってくれ」
「はじめまして。クロヴィスだよ。よろしく頼む」
「「じゃ、ねぇだろぉ!!!」」
「ぐふおぅ!?」
彰とクロヴィスの挨拶にツッコミを我慢できなくなったリョウとアヤノのコンビネーションキックが炸裂する。彰はクロヴィスガードを発動して防御した。クロヴィスは気絶した。
「おい、ブリタニア人だからって差別するな。そんな人間じゃないだろ、お前らは」
「頭沸いてんのか、てめえは!」
「それ以前の問題だ、この大馬鹿!一体何処の世界にテロリストの傭兵の家に皇族を住まわそうと言う奴がいるんだ!」
「ここにいる。俺がいるだろ?」
「もう殺そう、コイツ!手遅れだよ!頭が!」
完全にヒートアップしているリョウとアヤノを見て、ため息を吐く。全く情けない。これぐらいのことで取り乱すとは。
「何で俺らがおかしいみたいになってんだ!おかしいのは、テメェの頭だろうが!早くそんなの捨ててこい!」
「待ってよ、お父さん!道に捨てられてたんだ、また捨てるなんて出来ないよ!」
「捨て猫か!そして、誰がお父さんだ!」
「一緒にキャバクラ行ったこと黙っててあげるから!」
「黙ってねぇだろ!おい、馬鹿止めろ!」
「リョウの来月の小遣いは五割カットだな」
「許してくれ、アヤノ!俺はお前一筋だ!お前にメッチャ似てる女がいるってこの馬鹿にそそのかされただけなんだ!」
「その方が気持ち悪いわぁ!私に近寄るなぁ!」
「つぶほう!」
リョウの変態発言によって発動したアヤノの飛び膝蹴りによって、リョウは気を失う。やれやれ、シリアスな話が続かない奴等だ。
「困った奴等だ…んで?ユキヤはどーなのよ?」
「僕は別に良いけどね。家賃さえ貰えれば構わないよ」
「流石だな、話が早い。顔バレしてるから外には出せないが日光を与えておけば勝手に成長するから気にするな」
「植物か!」
「分かったよ、日光と適度な水分があればそれで良いんだね?」
「だから、植物か!おい、止めろ、この家はただでさえ既に一人引きこもりを抱えているんだぞ!これ以上、不良債権を増やせるか!」
「ねぇ、アヤノ。もしかしてそれ僕のこと?僕のこと言ってる?」
ユキヤの問いかけを無視して、彰とアヤノは互いに向き合う。一人は手懐けた。一人は倒れた。残る敵はあと一人!
当然、アヤノはそれを自覚して戦闘態勢を構える。両者ともに負けられない戦いがここにある。
まず、彰が仕掛ける!彰のターン!ドロー!
「アヤノ。よく考えろ。この取引はお前のためでもある」
「何が私のためなんだ?」
「コイツは政治と統治者としての能力は死んでるが、その代わりに芸術関係の能力は高いんだ。特に絵が上手い。美術館に普通にあっておかしくないレベルだ」
「だから、どうした。そんなこと私に関係ない。まさか、それを売って儲けろと?転売するのも楽じゃない。断る!」
アヤノはその程度のことで私が動くかと鼻で笑う。
しかし、彰にとっても、ここまでは予想の範囲内。問題はここからだ。
「話はここからだ…コイツは絵が上手い。そしてお前はあの方の影響を受けて小説を書いているな?」
「な!?お前何で知って」
「まあ、聞けよ。つまりは…だ。コイツの画才があれば、お前の妄想に絵を加えることができる」
まさに青天の霹靂という風にアヤノに衝撃がはしる!それを感じた彰はここぞとばかりに畳み掛ける。
「素晴らしい出来になると思うぞ?そうすれば、お前はあの方に一歩近付ける!お前の妄想は新たな形に生まれ変わることができるんだ!」
彰の言葉にアヤノの顔は青くなったり、赤くなったりを繰り返す。そして
「…いいだろう。こいつを迎え入れてやる」
彰の勝利が決まった。彰は小さく、ガッツポーズをする。
契約はこれで完了と言わんばかりに、すぐ様、クロヴィスの生活費をユキヤに渡した彰は逃げるように隠れ家から出て行った。
これで懸念事項が一つ減って安心した彰は、こうなった原因を思い出す。そもそも、アイツが俺にあんなギアスをかけなければこんなことにならなかったんだよと思いながら。
〜3時間前〜
「で?どうするの?」
ルルーシュと彰の喧嘩を止めたカレンは、このままではラチがあかないと思い、話を進める。
どうするもこうするも、彰とルルーシュから言わせれば殺せない以上方法は一つしかない。
「誘拐するぞ」
「そうだな」
「え!?見逃してくれないのかい!?」
クロヴィスの馬鹿が何か言ってるが全員無視する。しかし言うのは簡単だが、誘拐するのは殺すよりも難しい。正直、彰だけでは不可能なのでルルーシュに考えを聞いた。
「で?具体的にどうする?」
「ギアスをかけてるから後30分間はここに人は来ない。その間に、形式上、クロヴィスはここで死んだことにする。向こうにある死体を使ってな。お前はデータを改竄してくれ。ここからなら、できるはずだ」
なるほどねと彰は頷き、殴ってクロヴィスを気絶させ、近くにあった親衛隊の死体の顔と名前を確認する。しかし、話の流れを理解していないカレンは、慌ててルルーシュに尋ねる。
「待ってよ!一体どういうこと?」
「そこの親衛隊の死体をクロヴィスにでっち上げるということだ」
「無理よ!全然似てないじゃない!」
「腕一本を残して、徹底的に燃やし尽くす」
「何で腕一本残すのよ!」
「腕を一本くらい残さないとクロヴィスが死んだ証拠にならないだろう。指紋のデータは恐らくデータで登録されているだろうから、彰が今そこの死体の指紋とクロヴィスの情報と入れ替えてる」
「燃え残った骨は!?」
「燃え残った証拠については、解剖医になる可能性がある医者とクロヴィスのかかりつけの医者全員にギアスをかけてそれをクロヴィスの死体だと証言させる。証言させた後は墓荒らしにでも見せかけて骨を回収する。後で改竄の証拠が見つかってもそうすれば検証できない」
死体が一つ足りないことになるが、ここまで人が死んでれば行方不明の死体の一つや二つ出ても誰も疑わないしなと言ってルルーシュは話を締めくくる。
カレンは医者はどうやって見つける気だと聞こうと思ったが、ルルーシュの頭とギアスがあれば、どうとでもなるのだろう。
(何でもありじゃない、ギアスって…)
何時から自分はSFの世界の住人になったのだろうかとカレンは遠い目をする。
そんなカレンの心情も関係なく事態は進んでいき、彰の作業が終わった。
「おい、とりあえず改竄は終わったぞ。ついでにクロヴィスも負傷兵に見せかけたが…どう考えても普通に行ったらバレるぞ?」
「問題ない。外で検問をしていたヴィレッタとかいう女から車を奪ってある。それがあれば簡単に移動は可能だ。問題はクロヴィスを何処に隠すかだな。ちなみに、俺の家は無理だぞ。これ以上増えたら流石に目立つ」
「偶然とはいえ、都合が良いな。さて、行くか。クロヴィスの隠し場所なら俺に任せろ。考えがある」
〜現在に戻る〜
それから、新宿の仲間たちの様子を見に行ったカレンとC.C.を隠しに行ったルルーシュと別れた彰はリョウ達の所に来たのだった。
全く、とんでもないことになったなと彰はため息を吐く。
(クロヴィスとかどうでも良いくらいにヤバイ力が見つかったな…ギアスねぇ…調べても分からんだろうな、絶対)
メチャクチャ詳細な情報が欲しい彰だが、疲れてやる気にならないし、どう考えても情報など手に入る気がしなかった。というか、簡単に調べて分かったら大問題である。
ちなみに彰の携帯の電源は切ってある。恐らく鬼のように千葉さん達から電話が来ている気がしたからだ。ただの時間稼ぎの現実逃避でしかないのだが。
そんな訳で、解放戦線の所に帰れない彰はルルーシュの家へと向かった。
そして、そこでは
「大嫌い…大嫌い…ははは。俺もう死ぬしかないのかな」
「大丈夫よ、ルルーシュ!誤解だから!ナナリーだったら絶対に分かってくれるから!私も手伝うから!だから、お願い!元気出して!」
「おい、このピザっていう食べ物はもうないのか?」
彰は思った。
何このカオス
あったかもしれない会話
クロヴィス「ルルーシュと一緒に住みたい!ナナリーと会いたい!」
ルルーシュ「論外だ!」
クロヴィス「お願いだよ、ルルーシュ!ナナリーとも会いたいんだ!」
ルルーシュ「断る!ナナリーに兄と呼ばれるのは俺だけで良い!」
彰・カレン((もしかして、こいつ兄としての独占欲からクロヴィス住まわせたくないんじゃ…))