ルルーシュを励ましていたカレンは、物音から彰が来ていたことに気付いて目を向けた。
「彰!あんた来てたの!?じゃあ、お願いあんたも「あ、すいません、お邪魔しました」って帰るなぁ!」
彰は何やら嫌な予感がしたのでそのまま帰ろうとしたが、カレンに後ろ首を掴まれて動きを阻害される。
捕まった以上、自身と同程度の戦闘能力を誇るカレンから逃げるのは難しいと判断した彰はため息を吐く。疲れていたので、これ以上面倒ごとに関わりたくなかったのだが。
「逃げないであんたも手伝いなさいよ!私だけじゃ、どうしようもないんだから!」
「さっきからブツブツ言ってるアレのことだろ?もう無理だよ、アレがナナリーに嫌われたら他の人が励ましたってどうしようもないよ。諦めよう」
「いや、そうかもしれないけど、ちょっとは努力しようとしなさいよ!そもそも、C.C.を匿おうとしたあんたにも責任があるんだから!」
「そういや、何でC.C.がここにいるの?ここで匿うことにした訳?」
「そんなの私が知りたいわよ!」
カレンの話によると、新宿の扇達と合流し、生き残った人たちの怪我の治療や状況の整理が終わったカレンは、扇の命令で一度家へと帰るように言われたので、ルルーシュの家へと帰ってきたらしい。
いや、お前自分の家に帰れよと彰は思ったが、話が進まないので黙っていることにした。
その後、ルルーシュの家の玄関でC.C.の隠れ場所を一時的に用意したルルーシュと偶然合流したカレンは「今日は疲れてるから泊まる」とルルーシュにゴリ押しして、許可を取ってから一緒にリビングへと入った。ほとんど、有無を言わさぬ迫力だったのは言うまでもない。
しかし、そこで事件は起こってしまった。
〜カレンの回想開始〜
「あ、おかえりなさい。お兄様。カレンさん」
「おかえりなさいませ、ルルーシュ様。カレン様」
「おかえりなさいませ、ルルーシュ様。あら、カレンこんな遅くにどうしたの?」
笑顔で二人の帰宅を迎えるナナリーと小夜子と仁美の声に、二人は反応できなかった。何故なら
「おかえり。ルルーシュ。カレン。遅かったな」
この場にいるはずがないC.C.がいたからだ。
何でここに、この女がいるのだとルルーシュに問い詰めようとしたカレンだが、ルルーシュはルルーシュで想定外の事態に思考が停止していた。本当に予定外の事態の時には役に立たない男である。
しかし、そんな二人の思考を知る由もないナナリーは自らの疑問を聞く。
「そういえば、こちらのC.C.さんと仰る方はさっきお兄様の知り合いだと仰っていたんですけど、どういった知り合いなんです?」
「え?いやあ、それはな」
出来るだけナナリーに嘘はつきたくないルルーシュは、ナナリーの質問に対して答えに詰まる。しかし、そんな時にC.C.がルルーシュの援護をする。
「将来(契約)を誓った仲だ」
「え!?」
なお、その援護はルルーシュを助けることではなく殺すことに使われるようです。微妙に真実を含む発言に、ルルーシュとカレンの顔がひきつる。
ナナリーは何故かC.C.の台詞に固まっていたが、暫くすると震える声でルルーシュに確認を取る。
「お兄様…今、C.C.さんが仰っていたことは本当なのですか?」
「いや、うん、まあ、嘘というわけでもないが」
「そう…ですか」
そう言うと、ナナリーは顔を伏せる。その様子を見たルルーシュは心配してナナリーの顔を見る。そんなルルーシュに
「お兄様の…浮気者ーーー!!!」
「ぐほっ!?」
「ルルーシュ!?ちょ、ちょっと待ってナナ…リー」
ナナリーのアッパーが炸裂する。ルルーシュの身体は放物線を描き、地面へと叩きつけられる。予想外の展開にカレンはナナリーの誤解を解こうとするが、その声も止まってしまった。何故なら
「何でなんですか…お兄様…カレンさんという存在がいながら」
ナナリーが泣いていたからだ。その涙を見てカレンとルルーシュの思考は完全に止まる。しかし、ナナリーの誤解は進んでいく。
「カレンさんは凄く優しくて暖かい人なのに…何で浮気なんかするんですか!この浮気野郎!人でなし!女たらし!そんなお兄様なんて…お兄様なんて…大嫌いです!行きましょう、小夜子さん!仁美さん!」
「あ、はい、ただいま!」
「分かりました」
仁美は慌ててナナリーの車椅子を押して移動し、小夜子はカレンにルルーシュのことを頼んだと伝えて扉から出て行った。
待って!置いていかないで!と思ったカレンは手を伸ばしたが、無情にも扉は閉じられてしまった。
恐る恐るカレンはルルーシュの方を見る。さっきからずっとピザを食べてるバカ女が役に立たないのは明白なので、何とかするのは自分しかいないのだが…どうこうできる気がしない。
だって完全に無表情なんだもの!完全に目が死んでるんだもの!
カレンが慰めの言葉を探していると、急にルルーシュが窓へと歩き出し呟いた。
「…死のう。もう、母さんの死の真相とかどうでも良い」
「だめぇ!それだけはだめよ、ルルーシュ!何とかなるから!絶対に大丈夫だから、それだけは思い止まって!」
〜回想終了〜
「なるほど。不幸な事故だったな」
「何処がよ!どう考えてもそのバカ女のせいでしょうが!」
ルルーシュを励ましながら片手でカレンはC.C.を指差す。しかしなぁと彰は言う。
「嘘は言ってないだろ?」
「お前は流石だな。理解が早い」
「誤解を生みまくってるわよ!そもそも、この女がここにいるからこんな問題が起こるのよ!この家の住人じゃない人は出て行って!」
「カレン。お前それマジブーメラン」
まあ、俺も人のことは言えないけどと思いながら彰は言う。それに、C.C.にフラフラされる方が余程困るので、彰としてはこの家にいてもらった方が正直助かるのだ。
「うっさい!あんたどっちの味方なのよ!」
「んなこと言われてもねぇ…じゃあ、C.C.。俺の家に住むか?」
「断る。私は契約者の側を離れる気はない」
「だってさ。諦めよう」
「早いわよ!もうちょっと粘りなさいよ!」
「いや、無駄だって。絶対に言うこと聞くわけないじゃん。そもそも、俺はC.C.に命令できる立場じゃねぇし」
それにと彰は続ける。
「カレン。お前にも責任があるんだぞ?」
「何で私のせいになるのよ!」
「お前がナナリーの好感度を爆上げしたから、こんなことになったんだろーが」
元々親しい相手にはお節介を焼きたがるカレンの性格が災い?して、カレンと接する機会が多いナナリーの、カレンに対する好感度は凄いことになっている。ルルーシュと一応付き合ってることも関係して、たまにカレン姉様とナナリーに呼ばれて赤面していることを彰とルルーシュは知っている。
「ほう、そうなのか?良くこのシスコンが怒らなかったな」
意外と言う感じでC.C.が言う。まあ、気持ちは分からんでもない。
「思うところはある感じではあったけどな。多分お兄様の立場は守られたから良かったんじゃねぇか?」
「ふふ…ははは…ふははははは!!!!」
彰とC.C.が会話していると、蹲っていたルルーシュが突然笑い声を上げながら立ち上がる。ぶっちゃけ、怖いと思った三人はルルーシュから若干距離を取る!
「俺はずっと考えていた…失われたナナリーの好感度を取り戻すにはどうしたら良いのかと…そして、今のお前らの言葉で閃いた!くくく…世界は変わる!変えられる!」
(普通にナナリーの誤解を解消すればそれで済む話だと思うが、気付いてないんだろうな)
ルルーシュの話を聞いて、彰はそんなことを思ったが、聞こえないのでルルーシュは話を続けながら何故かカレンの肩を掴む。
「俺はそのために今の世界を壊し!新たな世界を作る!だからカレン…結婚しよう!」
「アホかぁ!!!!!!!」
ルルーシュの発言で顔を真っ赤にしたカレンのアッパーがルルーシュの顎に突き刺さり、宙を舞う。
死んだかなと思いながら彰とC.C.はその姿を見ていた。
殴った張本人であるカレンはまだ動揺が治らないのか、顔を赤くしたまま喋り出す。
「しっかりしろ、ルルーシュ!!正気に戻れぇ!!ば、ば、ば、馬鹿言ってんじゃないわよぉ!!」
「カレンも随分と動揺しているな」
「イケメンに告白されたことに対する照れ隠しもあるんだろ」
「外野は黙れえ!」
更にカオスと化した場に追い打ちをかけるように、ルルーシュはフラつきながら立ち上がる。
「落ち着けカレン。これはナナリーの俺への好感度を取り戻し、喜んで貰うための政略結婚だ。つまり、愛などなくても問題ない。偽物のカップルが偽物の夫婦になるだけだ」
「ねぇ、最低のこと言ってんだけど、このクズ!殴っても良い!?殴っても良いわよね私!!」
既にお前殴ってるよと思いながら、彰とC.C.はことの成り行きを見守る。
「だから落ち着け!それに、結婚したらお前にもメリットがある…一番のメリットはお前はこの家で暮らせるようになるということだ。もうこれからは、シュタットフェルト家に帰る必要もなくなる」
ルルーシュの言葉に、カレンに一瞬迷いが浮かぶ。カレンはシュタットフェルト家にいるよりも、ここにいる方が遥かに居心地が良い。だから、ルルーシュに何度も住まわせてくれるように頼んでいるのだが、イエスの答えは帰ってこない。
ここで暮らすことはカレンの目下の夢でもあるのだ。だが、しかし…しかし…
「だ、だからってそれが理由で結婚なんてできるかぁ!」
乙女の心的に色々不味かった。ルルーシュはカレンの言葉に舌打ちをする。これで買収できると思っていたのだろう。それを見てカレンの顔に青筋が浮かぶ。このクズ、これぐらいで私が結婚してくれると思っていたのだろうか。
「彰!C.C.!黙ってないであんたらもこのクズになんとか言いなさいよ!」
カレンは後ろにいる仲間たちに顔を向ける。しかし
「なるほど、最近の結婚式場はこんなに変わったのか」
「とりあえず、費用の計算から始めようぜ?予算の中から出来ることを決めないとな」
後ろにいたのは仲間ではなく、敵だったようだ。その事実にカレンの思考が停止するが、そのうちにルルーシュが会話に加わる。
「違うな。間違っているぞ。予算も大事だが、何より大事なのはバリアフリーの式場であるかどうかだ。ナナリーが参加するのだからな」
「確かにな。じゃあ、これはどうだ?」
「お前は乙女の気持ちが分かっていないな。それならこっちだ」
自分の話を聞かずに勝手に式場の予定を決めていく連中に、カレンの中のナニカが切れた。そして
「あんたら…あんたら全員私の話を聞けぇ!!」
カレンの絶叫がこだました。
カレンがシャーリーだった場合
ルルーシュ「結婚しよう」
シャーリー「はい」
彰・C.C.「「おめでとう!」」
完
…こうなっちゃうから、シャーリーは出しにくいという裏事情