「いやあ付き合ってもらって悪いわね、ルルーシュ!お母さんと小夜子さんが気合入れてご飯作ってくれたから食べなきゃ勿体無いんだけど、他の人と一緒だとこんなにご飯食べられないからさ!本当にあんたが居てくれて助かったわ!」
「…それは別に構わんが、お前それ一人で食べるのか?」
「そりゃそうでしょ。何?あんたも食べたいの?あげようか?」
「…そうか。いや、俺は自分のがある」
場所はアッシュフォード学園屋上。ルルーシュとカレンは二人で昼食を食べていた。
ちなみに言っておくと、これはかなり珍しい光景である。基本的に、この二人は学園ではあまり喋らないし、関わらないのだ。
二人に言わせれば『帰ったら会う奴と学園で喋る意味が分からない』ということらしい。全国のカップルに喧嘩を売っている発言である。
他の人から見れば『本当に付き合ってるのか?』という疑問が浮かぶのだが、たまに喋ったら意気投合してるし、一緒に帰る(偶然帰る時間が一緒になっただけ)姿が目撃されているので、少しドライな恋人関係なのだなと認識されているのだが、本人たちはそんな周囲からの目線に全く気付いていない。
ただ、今日は仁美さんと小夜子さんがカレンのために大量の昼飯を作ってくれたので学園でのお嬢様モードのカレンとしては、そんな大量の昼飯を食べるわけにも行かず、ルルーシュに昼飯を一緒に食べようと誘ったのだ。
その件に関してはルルーシュも問題なかったのだが、大量の昼飯が瞬く間にカレンに食されているのを見ると、カレンを病弱なお嬢様と見てファンクラブまで作っている連中に同情を禁じ得ない。本当に何でコイツ今まで周りの人を騙せてるんだ?
「てかさ、あんた良かったの?」
「何がだ?」
「彰を仲間に引き入れなかったことよ。あんなにあっさり了承しちゃってさ」
「ああ、そのことか」
カレンの言葉にルルーシュは昨夜のことを思い出す。彰はルルーシュからの誘いを断って、解放戦線に残ることを選んだのだ。カレンとしてはそれも驚きだったのだが、ルルーシュがあっさり引き下がったことの方が余計に衝撃だった。
「予想はしてたからな。それに現状、アイツが絶対に必要という訳でもない。もちろん、将来的には俺の下についてもらうがな」
「どうやって?」
「日本解放戦戦線を吸収すれば良い。あそこには藤堂とかいう奴もいるらしいしな。戦力を整えるにはどの道必要だ」
(…相変わらずの自信家振りね、コイツ…)
まだテロを始めてもいない癖に、日本のレジスタンスの希望の星である奇跡の藤堂を従わせる発言をするルルーシュに、カレンは半ば呆れてしまう。しかし、新宿の戦いを見たカレンからすれば、もしかしたらコイツならやれるかもしれないとも思ってしまう。
しかし、そこでカレンにある疑問が浮かぶ。
「相変わらずの自信家振りね…そういえば、一つ聞いて良い?」
「何だ?」
「将来的にあんた何がしたいの?」
「決まっている。ブリタニアを壊す」
「それは知ってる。私が知りたいのはその先よ。壊して終わりじゃないでしょ?」
「…まあ、一応考えてはいるが」
「何を?」
「…他の奴には言うなよ。当然彰にもな」
「わかったわ。で?何?」
「…優しい世界だ」
「は?」
ルルーシュの口から突然出たロマンチックな言葉にカレンから疑問符の声が飛ぶが、構わずルルーシュは続ける。
「優しい世界だよ。ナナリーのような身体的弱者も…精神的弱者も…皆が安心して過ごせる世界だ。戦争もなく、平和な世界だ。俺はこの世界を…そういう世界にしたいと思ってる」
「…ぷっ」
「…おい」
聞かれたから真面目に答えたことを笑われたルルーシュは青筋を浮かべる。ただカレンも悪いと思ったのか笑いながら謝る。
「あはは。ごめん、ごめん。まさか、あんたの口からそんなロマンチストみたいなセリフが出るとは思わなかったから」
「ふん、それは、悪かったな」
「べつに良いと思うわよ?それに私にとってもその方が都合が良いし」
「どういう意味だ?」
「考えてたのよ。どうやったらあんたと彰に恩を返せるか。ブリタニアを潰すのは日本解放を目指す私の夢とほとんど同じだからカウントできないし、どうしよっかなって。でも、今の話で思いついたわ。私も優しい世界を作るのに協力するわ!その世界なら彰が嫌う差別がない世界も作れるし一石二鳥!」
「おい、話の流れが急すぎる「はいはい、あんたの話は聞いてないのよ」ぐむ」
突然のカレンの宣言に抗議するように開かれたルルーシュの口に、カレンが無理やりご飯を詰め込んで黙らせる。
「癪だけど、あんたがどっかで私を信じきれてないのはわかってんのよ。そんなあんたと約束しても意味ないからあんたとは約束しない。だから、私は私自身に勝手に約束させてもらうわ」
そう言うとカレンは真剣な眼差しで告げる。
「この先何があるか分からないけど、私はあんたの夢に協力する。あんたの側に居続ける。それが私が私に誓った誓いよ」
突然のカレンの発言にルルーシュは呆然とする。そんなルルーシュの顔を見て流石に恥ずかしくなったのか、そっぽを向いてカレンは続ける。
「それに、私と彰くらいしかあんたの事情を知らないから。彰と違って私は暇だし。まあ、私はあんたたちほど頭良くないから、何処まで役に立つかは保証しないけどね」
その姿を見てルルーシュはため息を吐く。
「物好きなことだな。まあ、自分で自分に決めた誓いなら俺が何か言う資格もない。勝手にすれば良いさ。それより、そろそろ昼休みが終わるぞ。早くご飯を食べろ」
「え!?ヤバ!?もう、こんな時間!?ちょっと待って急いで食べるから!」
急いでご飯を口に入れるカレンを目に入れながら、ルルーシュは小さな声で呟いた。
「……ありがとう」
とても小さい消え入るようなルルーシュの声が届くと、カレンは驚いた顔をした後、ニンマリと笑った。
「何?何?何て言ったの、ルルーシュ?もしかして嬉しかった?もしかして照れちゃった?大きな声でもう一度言ってごらんなさい?」
「何も言っていない!そんなこと、どうでも良いから早くご飯を食べろ!」
「あー、暇だ。仙波さん、アダルト雑誌持ってきてくれません?」
「…お前、そんなこと言ってるから独房に閉じ込められていると自覚してるか?」
「そりゃ、もちろん。海よりも深く。山よりも高く」
「…はぁ」
彰はルルーシュの家から帰った翌日、独断で戦闘に参加したことで独房に1週間閉じ込められることになった。
「卜部の奴も怒っておったぞ。お前がランスロットの実戦データの取得を全部卜部の手柄にしたことをな」
「しょーがないでしょう。卜部さんが何の手柄もなかったら俺以上に責められる。そうしたら、藤堂さん側の奴等で庇う奴が出てくる。そんな面倒ごとになるのはごめんですよ」
「そこまで分かってるのなら、もう少し自重して欲しいのだがな。では、独房に閉じ込めた中佐に思うところはないと?」
「あるわけないじゃないですか。むしろ、これくらいやらないと朝比奈さん辺りは納得しないでしょ」
「そうか。なら、何故朝比奈がそんなに怒るかわかるか?」
「そりゃ、朝比奈さんみたいなタイプなら軍規には厳しいでしょ」
「…分かっとるようで実は分かっとらんな」
頭が痛いと言いたげにコメカミを抑えた仙波は、ため息を吐いて続ける。
「まあ良い。ところで、知っとるか?お前がクロヴィスを殺したから厄介なことになっとる」
「俺じゃないですけどね。知ってますよ。こんだけ周りが騒げば嫌でも耳に入ります」
「その犯人と勘違いされた奴が捕まった。枢木首相の息子の枢木スザクらしい」
「へぇ、人身御供ですか」
「向こうも立場があるだろうからな。公開処刑が行われるらしい。助けるかどうかで戦線でも軍議が起こった。どうなったか知りたいか?」
ニヤリと笑いながら仙波さんは言うが、彰としては話など聞かなくてもどうなったか分かる。
「いいです。結論はわかりますし。どうせ、草壁さんが行動を主張したけど、藤堂さんがどう考えても罠だと反対。それを聞いた片瀬さんが反対に決定。そんなところでしょ?」
まあ、藤堂さんの言う通り罠だろうけど。そんな罠に飛び込むなど余程の馬鹿か天才かのどちらかだ。
「可愛げのない奴め…戦線の決定にお前はどう思う?」
「んー、別に良いと思いますけどね。確かに助けたら宣伝にはなりますけど、それで終わりです。進んで名誉ブリタニア人になった奴が、助けられたからってテロ組織に入るとも思いませんし」
「処刑は明日だ…明日まで独房のお前では何もできんが、個人としては残念だな」
「何がです?」
「お前が自由なら…何としてでも助けるだろうと思ってな。人に罪を押し付けて黙ってられる奴でもあるまい。この罠の中でどうやって枢木スザクを助けるのか見てみたかった」
「そりゃ買い被りですよ。ただまあ…助けるのは見られるかもしれませんが」
「…それは別の組織が枢木スザクを助けるということか?この状況で?」
「さて。それはわかりませんがね。ただの勘ですよ」
枢木スザクの友達のアイツが、自分のせいで友達が死ぬのを見てるとも思えん。さて…明らかに罠の中でアイツはどうするのかね。
彰くん、独房のためスザク君救出に参加できず