「桐島出ろ。期限の1週間だ」
「やっとっすか。やれやれ、肩が凝ってしょうがない」
藤堂に言われて牢から出された彰は疲れたと言わんばかりに肩を回す。
その姿を見た藤堂は若干申し訳なさそうに謝る。
「すまなかったな。迷惑をかけた。ランスロットの情報はお前が持ってきたのだと分かってはいたのだが、こうでもしないと周りに示しがつかなくてな。それに、できればスザク君の件はお前にも意見を聞きたかったのだが」
「俺が勝手にしたことなんで気にしなさんな。スザクの件は間違ってないと思いますよ?助けたところで、絶対に解放戦線に参加はしない。それどころか処刑されにブリタニアに戻る可能性が高い。まあ、それが今の法にとっては『正義』ですからねぇ。そして、あいつはその『正義』に従う。アイツを殺すためにでっち上げられた茶番だとしてもね」
「むう…」
藤堂は複雑そうな顔をしている。幼少期のスザクと過去を知る身としては思うところもあるのだろう。彰としてはどうでも良いが。
それよりも、彰としては先に確認をしておきたいことがある。
「ところで、その処刑の時間は?晒し者にしたいなら、テレビ放送するでしょ?」
「あ、ああ。丁度始まるところだと思うが」
「そうっすか。じゃあ、行きましょうか」
そう言うと彰は藤堂と移動しながらテレビのある部屋に向かう。着いた後、テレビを見ながら携帯を見ると、カレンからあり得ない数の電話がかかってきていた。ルルーシュはそれで俺の状況が何となく分かったので諦めたのだろう。
とりあえずカレンに電話をしようとすると、テレビの映像に画面を被った謎の不審人物が現れた。
『私は…ゼロ』
不審人物はそう言うと、そのままジェレミアにスザクを渡せと言い出した。同時にナイトメアに囲まれるが、見えていないかのように話を続けている。
突然の展開だった。しかし、横の藤堂さんと前の方にいた卜部さんと仙波さんと千葉さんは『おい、こいつ誰だよ。お前知ってんだろ?』と言わんばかりのジト目を向けてきたのだが、彰は完全にシカトを決め込んだ。実際知らないし。まあ、予想はつくけど。あんな派手な格好であんな派手なことができるのは、あのシスコン以外に思い当たらない。というか、他にいてたまるか。
普通に考えたら、あのゼロとかいう変態の行動と服装は頭がおかしいとしか思えないが、彰は別の感想を抱いた。
(手としてはアリだな。とりあえずインパクトは抜群だ。もしこれで仮にスザクを助けて逃走に成功したら、一躍スターになれる。無名から名を売るのにこれ以上の手はない。まあ、このナイトメアに囲まれた状況から逃げられればの話だが)
本当にあのシスコンはどうやって逃げるつもりなのだろうかと期待しながら見ていると、アイツはギアスという特殊能力を一回使っただけで、あの絶望的な状況からスザクを救出して無事に逃げ去った。
当然見ていた解放戦線の連中はゼロとは誰だと大騒ぎ。問い詰められたくない彰は、騒ぎの隙をついて解放戦線のアジトを抜け出した。
「くく…はっはっはっ!」
解放戦線のアジトから出て、目的もなくフラついていた彰は先程の光景を思い出して、思わず笑ってしまった。
あのシスコンは、確かにギアスという特殊能力を持っている。だが、アイツ以外に誰があんな真似ができる?誰が一つだけ命令を聞かせるだけで、あの軍隊から人を助けられる?
(面白い…面白すぎだぜ、あの馬鹿)
徐に彰は携帯を取り出す。先程から電話をしているが繋がらないカレンではなく、別の人に電話をかけた。
『はい』
「よう、ハニー!久し振りだね!元気だった?」
ブツっと電話が切れる。普通に考えたら中々に失礼な行為だと思うが、彰は特に何の気持ちも抱かずにもう一度電話をかける。
『…はい』
「何だよ、ハニー!久し振りの電話なんだからもう少し素直な反応しようぜ?」
『物凄く素直な反応をしていますよクソダーリン。お久しぶりですね。あなたの声を久し振りに聞いて私は大変不快です』
敬語なのにそこはかとなく悪意を感じる気がしたが、彰は気のせいだと思うことにした。
「相変わらずだな。まあ良い、今日は報告することがあったから電話したんだ」
『事後報告ですか、ゼロ?』
「ゼロは俺じゃねぇよ。そろそろ動き出す…お前くらいには言っとこうと思ってな、ハニー」
『あなたがそう言うなら、そう言うことにしときましょう、クソダーリン。しかし、この段階で動くとなると、ゼロという男の影響を考えざるを得ませんが問題ありませんか?』
「ああ。それもあるな」
『一般的に言えば、ゼロの行動による周りへの影響を見てから動くべきです。あなたがそれを分かっていないはずがありません。それなのに、動く意味があるのですか?日本解放戦線の改革もできていない現状で?』
相変わらず痛いところを突いてくる女である。
「それを言われると痛いが…状況が許してくれんのでな。クロヴィスが死んだ。ゼロというテロリストも現れた。ここまで大ごとになってブリタニアが動かないわけがない」
『だとしても、こちらが手を差し伸べることはできませんよ。片瀬少将は日本人至上主義です。そんな彼が私たちに助力を請うことはないでしょうし、日本解放しか考えていない組織と手を組むメリットもありません』
「ああ。そうだな。だから待ってろ。そのうち、この状況が変わるさ」
『そうですか。ではまた状況が変わった時に』
「いや、良いのか?」
『何がですか?』
「アイツらのことだよ。お前なら心配してない訳がないと思ったんだが」
『はあ。そんなことですか』
何となくだが、呆れている感じが伝わってくる。
『あなたと違って定期的に連絡をしていますから、あなたに聞く必要はありません。それに、私はあなたのことを何時もふざけてばかりのやる気のない最低のゴミで、さっさと離婚届に判を押して死んでしまえと思っていますが』
散々な言われようである。
『…信頼はしています。だから、あなたが守ってくれると信じているだけですよ』
「…あっそ」
そして、どちらともなく電話を切った。相変わらずの口が悪い、どうにも苦手な女である。本当に結婚相手の選択を間違った。顔だけは美人なんだけどなぁ。
「ふう…」
生理的に受け付けないゴミ虫野郎との電話を終えて、ため息を吐く。
しかし、アレが動くとなるとブリタニアも変わらざるを得ないだろう。そうなると距離的に離れているこちらも無傷という訳にもいくまい。
そう考えていると、近くにいた二人の男のうち一人がニヤニヤ笑いながら喋り出す。
「久し振りの旦那様とのお話だってのに、随分と難しい顔してるじゃねぇか。レイラ・桐島しょうぐってギャァア!!??」
喋っている時に額にボールペンが刺さった男を見て、ボールペンを投げたレイラはにこやかに告げる。
「あら、ついていますね。アシュレイ中尉。もう一つ呼吸できる場所を増やしてあげようと思ったのに、額に当たるなんて」
「何しやがんだこのアマァ!」
「最大限の譲歩はしたつもりなのですが?次に私のフルネームを呼んだら眼球抉りとりますよ?」
とてつもない笑顔でとんでもないことを言うレイラに、アシュレイは本気を感じ取り、口を噤んだ。
静かになったのを見たレイラはこほんと咳払いをして本題に入る。
「では、ひろし中佐。軍議を開く準備をして欲しいのですが」
「いや、あの私ひろしじゃないんですけど…」
先の惨状を見ていたので、微妙に遠慮しながら口を開いたクラウス中佐の言葉を無視してレイラは続ける。
「分かってますよ、ひろし中佐。この段階で軍議は必要ないということですよね。ですが、早くしないと手遅れになる可能性があるのです」
「いや、だから私はひろしじゃなくて」
「いや、ひろしのおっさんの言う通りだぜ」
「あの…はい、ひろしで良いです」
アシュレイまで自分をひろし呼びしたことでクラウスは諦めた。泣いて良いと思う。
「ブリタニアが動いてからでも俺たちが動く必要はねぇ…そもそも、アイツがブリタニアを揺さぶれるのかも微妙だしな」
アシュレイの言葉にレイラはふっと笑う。
「では、賭けましょうか?アシュレイ」
「へぇ、あんたが言うとは珍しいねぇ…何をかけるんだ?」
レイラの笑みを受けてアシュレイも笑う。おおよそ、賭けの内容が分かったからだ。
「そうですね…それでは
次に日本に登る太陽を」
気が向いたら、この二人が何で結婚したのかについてのエピソード書きます