「全く…何で自分の問題に人を巻き込むかねぇ」
「私のセリフだから!それ全部私のセリフだから!」
呆れたように言う彰の言葉をシャーリーは全力で否定する。
場所は銀行強盗が運転する車の中。
運転していない一人が彰に銃を向けている最中に、二人は会話を続けている。
「いやいや、シャーリーが言ったんだろ?ピンチになってルルに助けられたいってさ。その夢が実現しただけなんだから甘んじて受け入れろよ」
「だからって実現するって思ってないから!それなのに、彰が嘘ばっかりついて私だけ人質を続けさせるからこうなったのよ!」
「分かったから揺さぶるな。もう少しリラックスしろ。焦ったって状況は変わらないから」
「へ、まさか解放戦線の人間を人質に取れるなんて思わなかったぜ。姉御!この後はどうしますか?」
「何で私が人質からジョブチェンジして、リーダーみたいになってるの!?違うからね!?私は貴方たちの犯罪とは何の関係もないからね!?」
「姉御!一生ついて行きます!」
「だからそれを止めてよ!」
どうやらシャーリーはダーマ神殿に行ってもいないのに、ブリタニアの学生から銀行強盗のリーダーに転職をしたようだ。いやはや、人生は本当に何がきっかけでどうなるか分からないもんだな。
そんな時に彰の携帯が鳴った。彰が確認してみると、千葉さんからの連絡だと確認できた。応答しようとすると、慌てたように銀行強盗は彰から携帯を奪ってしまった。
「てめえ、何普通に携帯に出てんだ!?人質なんだからもうちょっと『彰ぁ!貴様一体何処をほっつき歩いてる!さっさと帰ってこんか!』うわ、声でか!?よ、よく聞けよ、てめぇ!」
『ん?何だ貴様は?彰はどうした?』
「そいつは俺たちが預かってる!生かして返して欲しかったら要求を聞け!」
『よし、良くやった!殺せ!』
「お前ら仲間じゃねぇのか!?」
『銃で撃ったくらいで満足するなよ。首を切り、体には火をつけて徹底的に燃やせ。証拠として首を持ってくれば報奨金はくれてやる』
「どんな関係なんだお前ら!?お、おい待て…切りやがった…」
あり得ない出来事に遭遇したかのように呆然とする銀行強盗を尻目にシャーリーは、彰の肩を掴んで問い詰める。
「ねぇ、誰あの人!?一体何をどうしたらあんなに嫌われるの!?」
「気にするな、いつも通りの会話だよ。愛情表現の一種だ」
「人間関係がデンジャラス!?日本人の人間関係ってそうなの!?」
「姉御!違います!普通の日本人はそんな人間関係じゃありません!俺たちの関係は鉄よりも強いですから安心してください姉御!」
「何でその人間関係の中に私が入ってるのよ!?っていうか、そこまでリーダー扱いするならお金を返して自首してください!」
「い、いくら姉御の頼みでもそれだけは…この金がねぇと俺たちの他の家族が死んじまうんでさぁ!」
「え?どういうこと?」
意外な理由にシャーリーがどういうことか尋ねる。このテロリストの男曰く、自分たちの家族はこの間破壊されたシンジュクに住んでいたらしい。その時に娘が怪我をして入院したが、そのための金も底をついた。運転手の男も日に日に痩せ細っていく自分の家族を助けるためにこんなことをしたと言うのだ。
意外すぎるシリアスな理由にシャーリーも驚いたが、だからと言ってそれは犯罪を正当化する理由にはならない。
「でも、だからって、こんなことしても」
「分かってまさぁ、姉御!だけど俺らにはこれしか…これしか方法がなかったんですよ!」
「アホか」
泣きながらシャーリーに訴える銀行強盗の話を、今までちゃんと聞いていたかどうかも分からなかった彰が会話を遮った。
「な、何だとてめぇ!」
「んなもん、問題の先送りにしかなってねぇよ。仮に逃げられたとしても、こんなことしてブリタニアが黙ってると思うか?お前らは一生追われ続けるぞ。勿論家族もな。そうなったら入院させてくれる病院が果たしてどの程度あるんだろうな」
「そんなこと、分かってんだよ!テメエらみたいに強い組織にいる人間には俺らの気持ちは分からねぇ!奪われ続ける者たちの気持ちは!」
「確かにそうかもな。俺にはお前らの気持ちは分からん。だからぶっちゃけお前らがどうなろうとどうでも良いんだが…乗りかかった舟だし、何よりお前らの境遇にはちょこっとだけ俺の責任もあるからな。しょうがねぇから助けてやるよ」
よっこらせと言って立ち上がる彰を見て銀行強盗は慌てて銃を向けた。
「て、てめぇ!動くんじゃねぇ!」
「あー、もう良いから。全く…そんなショボいモデルガンで騙せるわけねぇだろうが。何回本物見てきたと思ってんだ。とりあえず、サッサとシンジュクへ向かえ」
「偽物だったの!?」
「な…何でんなこと分かるんだよ…あんた、一体…?」
衝撃を受けるシャーリーと銀行強盗を気にせずに、伸びをする彰は当たり前のことのように告げる。
「お前らがさっきから言ってたろ?日本解放戦線のただのテロリストだよ」
とんでもない面子が集まっていた。
一人はブリタニアの第3皇女様。
一人はクロヴィスを殺した犯人とされていた男。
一人はブリタニアに唯一土を付けた日本の希望の軍人(頭には買い物袋を着用)。
三人は金を貰って仕事をする裏世界の傭兵。
何とかスザクのことは知らないフリをしろと藤堂に言うことには成功したが、リョウとアヤノが滝のように冷や汗を流す中、ユキヤが思いついたように告げる。
「どうしようか。とりあえず彰でも呼んでみる?」
「お前この状況を何とかする気ねぇだろ!?こんな何時爆発するか分からない地雷原に、核爆弾ぶち込んでどうすんだ!」
「あのー、ところで何でこの方は買い物袋を頭から被っているんですか?」
リョウとユキヤの会話の流れを断ち切って、ユフィは首を傾げながら聞いてくる。
顔を隠すためだよ!という本音を言う訳にはいかないので、リョウはしどろもどろになりながら返答を返す。というか、委ねる。
「あ…あー、アレだ、ほら…何だっけ?アヤノ」
「私か!?そ、そうだねユフィ…えーと、は、流行ってるんだよ、こういう遊びが!日本人にはさ!私たち知り合いだから会ったらこういうことをするのが普通になっちゃっててさ」
「そうそう!その通りなんだ!俺たちマブダチだからさ!」
「へぇ、そうなんですか。私はてっきり顔を明かす訳にはいかないのかと思っちゃいました」
考え過ぎですね。と言って舌を出すユフィを見てスザクは和んでいるが、リョウとアヤノはそうもいかない。その通りだからである。
「あ!私閃いちゃいました!じゃあ、貴方も一緒に私たちと行動しませんか!」
(もう止めてぇ、皇女様!死んじゃうから!私たちの胃がご臨終しちゃうから!)
名案と言わんばかりに喋るユフィの言葉を聞いて、アヤノの顔は青褪めるが、買い物袋男(藤堂)は、ふむと考えるが
「ふっ。偶には若者と行動するのは良い経験か…良いだろう」
(お前は断れぇ!何の経験になるんだよ!お前は何がしたいんだよ!)
「良かったぁ!あ!私ユフィと言います。貴方は?」
「そうだな…トゥードゥーと呼んでくれ」
(微妙に偽名になってねぇ!?)
「そうですか!では、トゥードゥーさん、今日はよろしくお願いしますね!」
(いや、あんたがよろしくしてんのテロリストの希望!あんたの敵!)
そこで、先程から疑問を感じていたスザクが会話に参加してくる。
「見た時から思ってたんですが…トゥードゥーさん、僕と会ったことありますか?声に聞き覚えがあるんですが?」
「む?そうか?実は私もユフィ君に見覚えがあってな」
(気付けよぉ!?敵の親玉みたいなもんだろうが!何だよ奇跡の藤堂って!コイツ実は馬鹿だろ!奇跡の馬鹿だろ!)
「へぇ、そうなんですか!偶然ってあるんですね!」
「そうだね、ユフィ。トゥードゥーさん」
「ふっ。そうだな」
(何なのこいつら!?馬鹿しかいねぇよ、ツッコミが追いつかねぇよ!!誰かカレンを呼んでこい!)
三人の会話を聞いていたリョウとアヤノは、ツッコミ所しかない状況に心の中でツッコミしまくっていた。
「しかし、一体何処に行きたいのだ?」
トゥードゥーの疑問にスザクもそういえばと思う。
色々なことがあったせいで、未だにユフィが何処に行きたいのかを誰も聞いていないのだ。
「では、シンジュクでお願いします」
え?と思った一同がユフィの顔を見ると、先程までのゆったりとした顔から真剣な顔へと変わっていた。
「お願いします、皆さん!私をシンジュクへと連れて行ってください!」
その頃のカレンとナナリー
カレン「とりあえず、買い物は終わったわね。何しようか?」
ナナリー「カレンさんと一緒だったら何をしても楽しいから何でも良いですよ?」
カレン「嬉しいけどダメよナナリー。ちゃんと自分の意見を持たないと」
ナナリー「ふふ、分かりました。それではシンジュクの方に行ってみたいんですけど」
カレン「それだけはダメ!」
ナナリー「な、何でですか?」
カレン「何かが危険を叫んでる…絶対に今のシンジュクには行っちゃダメだって…」
ナナリー(カレンさんは何を感じているんでしょう…)