「良いか、テメエら!全速力でシンジュクまで行け!軍の奴らは俺が対処する!」
「りょ、了解っす!」
銀行強盗の車の中で銀行強盗に指示を出した彰は、そう言って一息つく。焦らせるようなことを言ったが、逃げる事に関して、彰は大して心配していなかった。
何故なら軍の奴らはチラホラ見られるのだが、全員
『ユーフェミア様は何処かー!?』
『殿下が大変なのです!戻ってください!』
とか言ってて全くこちらに注意を払わないからだ。ユーフェミアと言えば第3皇女の名前だが、まさか誘拐でもされたのか?流石にないか。まあ、それよりも今の問題は…
「…」
「そんなに見るなよ。照れちゃうだろ?」
無言で俺を見てくるシャーリーへの対処が優先である。ノリと勢いで思わず俺の正体言っちゃったけど、マズかったかな?まあ、良いか。どの道近い内に話す予定だったし。
「そんなこと言ってる場合!?テロリストって本当なの!?今まで私たちを騙してたってこと!?」
「おい、人聞きの悪いことを言うな。俺は一度も自分がテロリストじゃないって言ってないぞ」
「そりゃそうだけど!あー、もう!偶然入った銀行で銀行強盗に襲われて誘拐されて、友達がテロリストっていうことをカミングアウトされるってナニコレ!?何の厄日なの今日!?あー、もう頭パンクするよ!今ならルルがゼロだって言われたり、カレンもテロリストの仲間だって言われても受け入れられる気がするよ!」
「お前すげえな」
「何がよ!?」
「いや、別に」
彰は、こほんと咳払いをして話を変える。
「まあ、この話は後で幾らでもしてやるよ。とりあえず今は逃げることが大事なんでな。我慢してくれよ」
「…本当に後で話してくれるの?」
「本当だって」
彰の言葉にシャーリーは、はぁ〜と長いため息を吐くとその場でコテンと横になった。
「もういいよ、今日は疲れた…彰がテロリストでも何でも良いから早くこの状況を何とかしてよ…」
「自分で言っといて何だが、切り替え早いなお前」
「半分ヤケになったのよ!!…それに…私はテロリストだったとしても彰は約束は守る人だって知ってるから」
シャーリーの妙な信頼を感じるが、彰からしたら理由が分からない。俺は何時の間にこの娘の信頼を勝ち得るようなことをしたのだろうか。
「兄貴!そろそろシンジュクです…だけど問題が!」
「どうした?」
「検問です!アイツら網をかけてやがったんだ!」
流石にノンストップでは行かせてくれないか。まあ、予想通りと言えば予想通りだ。
「よし、運転を代われ」
「構いやせんが…何をするんで?」
「お前らを車から降とす」
「は!?じょ、冗談ですよね?」
「そんな訳あるか。持てるだけの金だけ持って歩いて逃げろ」
コイツらの車は完全に銀行強盗の車だと認識されているはず。こんな車で何時までも移動していたら、何時までも追われるに決まっている。逆に言えば…この車が移動している限り、狙われるのはこの車だということになり、歩いて逃げるコイツらは大して注目されないだろう。かなりのスピードで走っている車から落とされたコイツらが、無事かどうかは保証しないがな。
俺のセリフから本気だと分かったのか、二人の銀行強盗の顔は青褪めてシャーリーに助けを求めるような顔を向けるが、シャーリーは黙って首を振った。
「諦めた方が良いと思う…この人やるとなったら本気でやるから」
「そういうことだ…じゃあな!お元気で!」
彰に蹴られて突き落とされた銀行強盗はゴロゴロと地面を転がるが、まあ死ぬことはないだろう。多分。
残されたシャーリーは、運転をする俺の肩を掴んで引きつった笑顔で祈るように声を発する。
「ねえ、彰?私たちのこれからの行動は、銀行強盗が居なくなったんだし大人しく残ったお金を返すか、そのまま残ったお金を置いて逃げるかのどっちかだと思うけど…ねぇ、どっちかなんだよね!?どっちかなんだよね!?」
「何を言ってるんだシャーリー?そんなの決まってるじゃないか」
彰はニコリと笑ってシャーリーに返答をする。
「そんなもん…強行突破で検問をぶち破る第3の選択肢に決まってるだろうがぁぁぁぁ!!」
「もうヤダこの人!薄々分かってたけど、絶対に穏便な選択肢を選ばない!」
ブワっと涙を溢れさせたシャーリーを尻目に、彰は有言実行と言わんばかりにアクセルを全開にして検問を強行突破した。
その後、二時間以上二人の警察からの逃亡劇は続いたという。
「ここがシンジュク…酷い状況ですね…」
リョウたちに頼んで連れてきて貰った、先日の戦いにより荒れ果てたシンジュクを見て、ユフィは悲しみで目を伏せた。
そんなユフィの様子を見てスザクは恐る恐る声をかける。
「ユフィは…何でここに来たかったの?」
「私の兄が…ここで亡くなったからです…最近は会えてませんでしたけど…優しい兄でした」
失った過去を懐かしむように空を見上げながら言うユフィを見て、スザクもトゥードゥーもかける言葉を失う。当然リョウたちもそうだったが、その理由は全く異なっていた。それは悲しみの感情ではなく
(いや、そいつ超生きてる!!多分今頃家でテレビ見てるよ、そいつ!)
ただの罪悪感である。良心の呵責とか色んなもののために、物凄く罪の意識を感じていた。
(な、なあ、私たち悪くないよな?だって何も関係ないもんな!!?ただ匿ってあげてるだけだもんな!!?)
(と、当然じゃねぇか!俺たちはアイツから人を預かっただけだ!何もしてねぇ!攫ったのも死亡したってことにしたのも全部アイツがやったんだからな!俺たちは関係ねぇから!だから俺たちが罪の意識を感じる必要なんてこれっぽっちもねぇ!)
誰に言い訳をしてるのか分からない、リョウとアヤノの呟きも聞こえないユフィの独白は続いていく。
「天国では…兄様は何をしてるんでしょう…何を感じているんでしょう…」
(天国は知らねぇけど、俺の家では良く絵を描いてるよそいつ!庶民の暮らしを意外に満喫してるよそいつ!)
「どんなものを食べてるのかしら…想像しかできないですよね…」
(少なくとも朝はカップラーメン食ってたよ!)
「もう一度会えたらって…そう思うんです…無理なのは分かってるんですけど…心の底から…もう一度会いたいって」
(超簡単に会えるよ!こっから車で行けばすぐ会えるよ!本当止めて皇女様!泣かないで!俺たちの良心をこれ以上苦しめないで!)
涙目で語るユフィが我に返り、ごめんなさいと謝ってから地面に沈んでいるリョウとアヤノを見て首を傾げた。
「あの…リョウとアヤノは何をしてるんですか?」
「いや…ちょっと罪悪感という名のディオガグラビドンを喰らっていまして…」
良心の呵責という重力攻撃を喰らっていたリョウとアヤノは、何とか震えながら立ち上がる。
何も知らないスザクとトゥードゥーはユフィの独白を聞いて声をかける。
知らないって幸せなことだと思う。
「優しいんだね、ユフィは…そんなにもそのお兄さんのことを大切に思っているなんて」
「ああ。ユフィ君の兄を思う気持ちは嫌と言うほど私たちに伝わってきた…その兄も草葉の陰で喜んでいることだろう」
(喜べるわけねぇだろぉ!?だって生きてるんだもの!兄上様ピンピンしてるんだもの!)
スザクとトゥードゥーの言葉に、ユフィは笑顔を浮かべて感謝の言葉を伝える。リョウとアヤノは引き攣った顔で立っていることしかできなかったが。
ちなみにユキヤは心を閉ざしてスマホのゲームを楽しんでいる。ある意味鉄のメンタルをしていると思う。
この話題が続くことは精神衛生上大変よろしくないと考えたリョウとアヤノは、話を別の方向に向けようとする。
「な…なあ、そろそろ帰らねぇか?ほら、この辺治安悪いし」
「そ、そうだな。確かにこの辺は物騒な奴らが多い!早く帰った方が良いな!うん!」
「心遣いありがとうございます。だけど私には現状を理解する責任があるので、帰るわけにもいかないんですよ」
「そのユフィの気持ちは分かるけどさ!ここは帰った方が「おい、見ろよ。あんな所にイレブンの奴らが固まってるぜ!負け組で慰めあってんのかよ?」あん?」
リョウとアヤノがユフィを説得しようと喋っていると、少し遠くから自分たちを見て小馬鹿にしてくるブリタニア人の二人組の男がいた。
だが、普通に暮らしていればあんな連中は掃いて捨てるほど存在する。なので馬鹿にされたリョウたちもスザクもトゥードゥーも何の感情も湧かなかったが、ユフィだけは違っていた。
ムッとした顔をして注意をしようと彼らに駆け寄ろうとするが、その肩をユキヤが掴んで止めた。
「ユキヤ?」
「あんな連中相手にするだけ無駄だよ。ユフィが気にするようなことじゃない」
「でも、あんな言い方ってないですよ!」
「だから気にしないでって。じゃあ、こうしようか?僕があの二人と気持ちを入れ替えるように話してくるからそれで終わりにしようよ。だからユフィはここで待ってて」
そう言うとユキヤはそのブリタニア人の二人組のところに歩いて行った。少し話すと、三人でこちらから死角となる構造物の影に隠れた。何やらコソコソ話は聞こえてくるが、何を喋っているのかはわからない。それからしばらく経つと、三人とも見える場所に出てきた。出てきたのだが
「大丈夫だったよ、ユフィ。二人とも分かってくれたよ。これからは気持ちを入れ替えてくれるってさ」
ブリタニア人の二人組はパンツ一丁になり、首輪を付けられた状態でユキヤに引きずられていた。
「「いや、それ気持ちだけじゃなくて人間としての大事なものまで入れ替わっちゃってるんだけどぉぉぉぉぉ!!??」」
ユキヤの奇行にリョウとアヤノは全力のツッコミを入れるが、ユキヤは微笑みながら犬と化した二人のブリタニア人に話しかける。
「良かったよ。分かってくれて。やっぱり話し合いって大切だよね」
「…はい…そうですね…」
「…僕が悪かったです…だから…あのことだけは…」
「話し合ってねぇだろぉ!?完全に怯えてんじゃねぇか!何をしたんだお前!?」
「話し合ったよ?話し合った結果犬にしてくれって頼むから仕方なくさ。僕も心が痛むよ」
「とてつもなく楽しそうにしか見えないんだが!?」
「そうなんですか…分かってくれて良かった…」
「良かったねユフィ…」
「やはり話し合いこそが道を切り開くのだな…」
「ねぇお前ら何に感動したの?このドSの所業の何処に感動したの?」
あり得ないユキヤの所業に涙を浮かべて感動しているユフィ達に、リョウは疑問の言葉を発したが、構わずユフィは涙を拭ってそのブリタニア人に近づいて行き、話しかけた。
「良かったです二匹とも。今後はあんなこと言っちゃダメですよ?」
「はい…だからあの…そろそろ…」
「あら?犬になったのなら喋っちゃダメじゃないですか。喋るならワンでしょ?」
(天然隠れドS現る!?おい、もう勘弁しろよ絶対に開けちゃいけない扉に手をかけちゃってるよ皇女様!!)
「わ…ワン」
「良く言えましたね。はい、お手。あ、でも汚そうなのでハンカチの上からお願いしますね」
ご褒美と言わんばかりにハンカチを差し出すユフィを見て、リョウとアヤノに戦慄が走る。
(もうアレって扉に手をかけてるレベルじゃなくないか!?完全に足を踏み入れちゃってないか!?)
(誰か止めろぉぉぉ!!皇女様が戻ってこれなくなるぞぉ!!)
リョウとアヤノの絶叫に近い気持ちを分からないユフィの行動は続いていき、ふと思い出したように微笑む。
その笑顔はとても幸せそうであり、事情を知らない者が見れば誰でも心が安らぐ程の笑顔である。
「そういえばさっきから何か変だと思ってたんですけど、犬がパンツ履いてるっておかしくないですか?」
「僕としたことが迂闊だった。ありがとうユフィ。じゃあ、これからコイツらのパンツを「「アウトォ!!!!」」ゴフッ!!」
年齢制限がかかりかねない行動を笑いながら言うユキヤに、リョウとアヤノの全力のツッコミが炸裂した。
コーネリア総督が日本に到着したそうです
コーネリア「…」
文官A「あ…あの…新総督?」
コーネリア「…腑抜けている、たるんでいる…堕落している」
文官B「あの…寝ている状態で言われましても」
ダールトン「いかん!ユーフェミア様成分欠乏症だ!」
ギルフォード「早く写真を急げ!」
部下A「見せています…しかし、長いフライトでもはや効果が…後は直接会わねば改善は難しいかと」
ギルフォード「ならばユーフェミア様を探せ!トウキョウ中の全ての組織に伝達をするのだ!急げ!」