次の話でこの話も一区切りの予定。
「ふう…ようやく完了だな」
彰はくたびれたと肩を回し、その場に腰を下ろすが、そんな彰を変な生物を見るような目でシャーリーが見つめてくる。
「今度はなんだ?」
「…散々好き勝手なことしてるのに変な所で真面目なんだなと思って」
ああ、そのことかと彰は得心がいった。
彰は警察から逃げきった後、残ったお金をシンジュクの事件の時に怪我を負った人が多い病院に全て寄付。そんなことを、シャーリーから見て傍若無人の塊である彰がするのは意外だったのだろう。
「まあ、ただの自己満足の罪滅ぼしさ」
「罪滅ぼし?」
言いながら彰の隣にシャーリーも腰を下ろす。そんなシャーリーに彰は買ってきていた二つのジュースの片方を無言で渡し、シャーリーはお礼を言ってから受け取る。
「このシンジュクの戦いは俺も参加してたからな。まあ、破壊の殆どはクロヴィスの奴が原因なんだが…俺にも多少の責任はあるんだよ」
だからこその罪滅ぼし。だからこその寄付。そんなことで己の罪がなくなるわけでは決してないのだが。
「…やっぱり本当なんだね。テロリストだって」
「ああ」
何の迷いもなく彰は即答する。
シャーリーはとても良い奴である。もちろんそれは彼女の美徳だが、彰に関しては事情が異なる。彰はテロリストだからだ。
そんな人間に疑いもしないで仲良く接していれば、何時か取り返しのつかないことになりかねない。だからこそ、彰はそうなる前に自分の正体を打ち明ける気だった。彼女が自分から距離を取るように。
「…聞いても良い?」
「何だ?」
「何でテロリストをやってるの?」
「何で…か…何で何だろうな」
彰は横になり、空を見上げる。思い出すのは自分を守ってくれた彼らのあの言葉。
「世界が平和でありますように」
恐らくあの言葉が俺の原点なのだろう。あの言葉を叶えるために、俺はまだここで足掻いているのだ。
「急にどうしたの?」
「恩人の言葉だよ」
「良い言葉だね。その人たちはどうしたの?」
「俺が殺した」
なかなかにショッキングな言葉だと思うが、シャーリーは動揺もせずに受け止めた。
「…事情があったんでしょ?」
「お前は本当に人の言葉を良いように解釈するね」
思わず苦笑してしまう。ここまでの良い奴はそうそういるもんじゃない。
「事情ってほどのもんじゃないがな…まあ、よくある話さ。俺の両親はブリタニアの侵攻時に、ブリタニア兵に殺された」
「…だからテロリストになったの?」
「それなら話は早かったんだがな。俺はその後、ブリタニアの馬鹿なお人好しの夫婦に拾われたのさ。世界の人々は皆平和に共存できると心から信じている、お人好しな馬鹿たちだった」
世界が平和でありますように。あの人たちの口癖だった。
「良い人たちだったんだね」
「ただの大馬鹿だよ。ブリタニアを憎んでいる日本人の子供を養おうってんだからな。当然俺はその人たちに懐きはしなかったさ。だけど、その大馬鹿たちはそんな俺を愛し続けたよ。その人たちを憎むのが馬鹿馬鹿しくなる程にな」
だから俺はブリタニアに良い人がいることを知っている。日本人を愛してくれる人たちがいることを知っている。
「だから彰はブリタニア人の私たちを嫌わないんだね」
「まあな。だがちょっとしたことから俺は自分の両親を殺したブリタニア兵を見つけた。復讐しようと思ったよ。だから、俺はそいつを殺そうと思って跡をつけた。それで直前まではいったんだが」
過去を思い出した彰は苦笑しながら話を続ける。
「その大馬鹿共に止められてな。怒りに負けるなって。懇願されたよ。その熱意に負けて俺は銃口を引けなかった。だけどその時、偶然今の俺の組織の人たちが来てブリタニア兵に発砲した。その時にあの人たちも死んだんだよ。俺を庇ってな」
今でも夢に見る。俺がもし復讐しようなんて思わなければ、あの人たちは今でも生きていたんじゃないだろうか。俺がもし早くあの軍人を殺していれば、あの人たちは今でも生きていたんじゃないだろうか。
「ちょっと待ってよ!それ別に彰が殺した訳じゃないじゃない!」
「直接的にはな。だが俺が居なければ、あの人たちが今も生きてただろうってことは変わらない事実さ」
しかもその時に襲ってきた解放戦線の人たちの殆どを、俺は怒りで我を忘れて殺してしまった。笑えない話だ。俺はあの人たちの命も、あの人たちの言葉も守ることができなかったのだから。
「でも…そんなのって…」
半分泣きそうになっているシャーリーを見ると思う。こういう人たちが次の時代には必要なんだってことを。
「別に良いさ。まあ、とにかくその後何だかんだあって、結局今の組織にいることになった訳だ。俺なりにあの人たちの夢を叶えるためにな」
「…優しい世界を作るために?」
「ああ。日本人だろうがブリタニア人だろうが関係ねぇ。シャーリーみたいな奴らが笑って暮らせる世界を作る。それが俺の願いだ。…とはいえ、俺のやってることが正しいことかどうかはわからん。ぶっちゃけ、やってることは人殺しと変わらんからな」
間違いなく、死んだら両親やあの人たちとは会えないだろうなぁ、と彰は呟く。余裕で地獄行きの特等席のチケットは取れているだろうし。
そんな彰を見て、シャーリーは何かを言わなければならないと思った。
別に彰のしていることを擁護するつもりはない。それに、彰は自分の行動を罪だと断言しているし、その行動を擁護して欲しいとも思っていないとも思う。
だが何かを言わなければならないと思った。同情でも慰めでもない。彰の言葉を聞いた自分なりの思いを。
「…その話さ。ルルやカレンも知ってるの?」
何故こんな質問をしているのかとシャーリーは自分で恥ずかしくなる。自分が言いたいことはこんな言葉ではないのに。
「詳しくは知らないだろうなぁ。言ってないし。と言うか一人の例外を除いて全員知らんと思う」
しかし、返ってきたのは意外な言葉だった。そんな話を何故自分に伝えたのだろうか。
「何でそんな話を私に言ったの?」
「お前が聞いたんだろ」
「言わないって選択肢もあったじゃん」
そう言われると彰もそうだなと思う。何でこんな恥ずい話を普通にしてるのか…
彰はゴロッと寝返りを打ち、横のシャーリーの顔をマジマジと見る。
「…多分似てたからだろうな」
「私が?誰に?」
「ああ。底抜けにお人好しそうなその顔が」
自分で言っていて彰は気付いた。そうだシャーリーは似ているんだ。何処までもお人好しで。何処までも人を信じられる強さを秘めてるその瞳が。あの人たちやアイツに似てるんだ。だからおもわず喋ってしまったのだろう。
その言葉を聞いてシャーリーはフッと笑う。
「何それ。そんな理由で言ったの?」
「多分な」
「そっか…彰らしいね」
「放っとけ。んじゃ、俺も聞いて良いか?普通は軍に通報するか、距離を取るかのどっちかだと思うが、何でシャーリーは俺にそんなことを聞いたんだ?」
彰の言葉にシャーリーは吹き出す。何なのだろうか、この男は。そう思うのなら自分の正体を隠しておけば良かったのに。
「多分…私も同じだよ。彰が似てたからだと思う」
「あん?」
顔も性格も全然違う。でも妙な所で似てると思う。
「彰が似てたから…私は今まで通り接することができてるんだよ」
別に彰は、シャーリーに自分の正体を言う必要などなかったのだ。だが彰は巻き込みたくなかったから、自分のせいでシャーリーを傷つけたくなかったから言ったのだ。しかもそのことをシャーリーに伝えることもなく。
変な所で不器用な人間だと思う。だがその不器用さは似てるのだ。シャーリーが心から好きだと断言できるあの人に。
その事実に思い至ってシャーリーは分かった。今自分がこの不器用な男に言いたい言葉を。
「だからってわたしは別に彰のしてることを応援はできないよ。そのことで誰かに恨まれるのもしょうがないと思う」
「だろうなぁ」
だが…だが、たとえそうだとしても。彰が地獄に落ちるとしても。これだけは伝えなくてはならない。
優しく微笑みながらシャーリーは彰の目を見る。
「私は好きだよ。彰のことが」
失ってしまった人たち以外にも、彰のことを大切だと思ってくれている人たちがいることを、シャーリーは彰に伝えたかった。
その言葉を聞いて彰は思った。
「…何?二股?」
「ち、違!?こ、こ、こ、これはそういう意味じゃなくて!?」
自分の今の発言がどういう誤解を招くか、言われて気付いたシャーリーは顔を真っ赤にして否定するが、その様子をやれやれと言わんばかりに肩をすくめて見ていた彰は、呆れたように言った。
「さて、それじゃ遅くなってもアレだし、色んな男に好きって言いまくるビッチを家に送り届けるか」
「ビッチじゃないから!まだ彰にしか言ったことないから!」
それはそれでどうかと彰は思う。
これはシャーリーが悪いのか?それとも、ここまで分かりやすいのにも関わらず分かってないルルーシュが悪いのか?
どちらにしても、これはこれで問題だと思う。カレンもカレンでアレだがシャーリーも十分にアレだな。
そう思った彰は懐からゴソゴソとお守りを取り出し、シャーリーに渡す。
シャーリーとしては疑問でしかない。何故自分に渡すのだろうか。
「何でお守り?これは何?」
「両親の形見だよ」
「うへぇ!?も、貰えないよ!返す、返す!」
「嘘に決まってるだろ」
言われたシャーリーの顔に青筋が浮かぶ。この男は自分をからかわないと普通に会話ができないのだろうか。
「まあ、怒るな。余りにお前の思いが進展しなさそうなんでな。ただの後押しだよ。これを貰ったんだからデートの誘いくらいは大丈夫さ。安心して誘え」
「…何その根拠のない自信」
思わず苦笑してしまう。からかったかと思えば、こうやって励ましてもくれるのだから本当に読めない。
「というかコレ何のお守りなの?恋愛成就とか何も書いてないけど」
「…さあ?」
「…そんなお守りに効力あるの?」
「知らん。だがまあ、俺が人に何かをあげるなんて滅多にないんだ…だから」
彰はニヤッと笑い言い放つ。
「超レアだぜ?」
ジト目で見ていたシャーリーはそれを聞いてクスッと笑う。
「それ何のお守りにもなってないよ。だけど…ありがとう。大事にする」
ギュッと両手で握って笑顔で言われると彰としても少々気まずい。別にそんな大層なものでもない。
それじゃ帰るかと彰は言いながら足を進める。
その後にシャーリーはついて行きながら話しかける。
「じゃあ、今度は私が彰に何かあげるよ。このお返しにさ」
「いらん。もうお前からは十分に貰ったしな」
シャーリーは首を傾げているが、彰としては貰ったものを言う気はない。
肯定してもらって嬉しかったなど恥ずかしくて言える訳がないのだから。
「ついでに約束してやるよ。お守りまでやったのに告白もできないんじゃしまらねぇ…一般人のお前にゃ不要な心配だとは思うが、ルルーシュに告白できるまでの間はお前のことは俺が守ってやるさ」
彰とシャーリーの帰り際
ジェレミア「…マリアンヌ…様」傷だらけで倒れる
シャーリー「彰!助けてあげないと!」離れた場所から駆け寄り
彰「よし!トドメを刺そう!」持っていた銃を抜く
シャーリー「ダメに決まってるでしょ!救急車!」
彰「一応俺テロリストなんだがなぁ…」
ユフィ達が来ないせいでキューエル達にボコボコにされたオレンジ君