何故自分がこんな所に来なくてはならないのだろうか。
彰の心中は文句で一杯だった。
場所はよく分からん所の地下。目隠しされて連れて来られた訳だが、何の説明もなく30分くらい待たされている。
逃げようかなと考えていると、目の前のドアがスッと開き中から黒服の男が出てきた。
「準備ができた。お忙しい中、会ってくださるのだ。失礼のないように感謝を持って接しろ」
その言葉を聞いた彰は無言で手を上げて発言する。
「分かりました。失礼のないように、会わないで帰らせていただきます。というわけで失礼します」
「いや、それが失礼だからな!?」
黒服の男は帰ろうとする彰を慌てて止める。
どうやら、逃げさせてはくれないらしい。
彰はため息を吐く。藤堂さんも面倒な命令をしてくれたものだ。
〜3日前〜
「お会いしていただけて、光栄と言うべきかな?片瀬少将。藤堂中佐」
怪しげな仮面を被った男は二人の女を引き連れて片瀬と藤堂の前に現れた。
その姿を見て片瀬と藤堂は驚きに目を広げる。
一方、側で立っていた彰の顔はそれを見て引き攣る。やってくれたな、あの野郎。
意外な人物の登場に片瀬は言葉を失うが、藤堂は何とか冷静さを保ち話を始める。
「まさかの人物が出てきたものだ。君がシンジュクの指揮を取っていたと認識して良いのかな、ゼロ?」
「正確に言えば違うな。あの時の私はゼロではなかった。あの時はただの…世間知らずのブリタニアの学生だったよ」
そこまで言うとゼロは自ら仮面を外す。そこから現れたのはブリタニア人の子供であった。
予想外過ぎる行動に藤堂も後ろに立っていたカレンも絶句する。
これによって場の主導権は完全にブリタニア人の子供、いや、ルルーシュに握られた。
それを把握したルルーシュは、ニヤリと笑う。
ここまでは全てルルーシュの読み通り。それを認識しているのは、この場においてルルーシュ以外では彰のみであった。
「では、改めてご挨拶させていただこう。私がゼロ…ルルーシュだ」
彰は予想された最も面倒な展開になったことに内心でウンザリしていた。
何故、こんなことになったのかと言うと話は更に2日前に遡る。
藤堂たちから彰はシンジュクの件について、尋問を受けた。絶対に話せないことは完全にしらばっくれたのだがシンジュクで指揮を取っていた者の存在については流石に知らないで通すことに無理があった。
なので妥協案として、本人が会うと言ってくれたら場を設けることに同意させた。ルルーシュが会わないと言えばそれで話を終わらせようと思ったからだ。
かと思ってたのに、ルルーシュは「思ったより遅かったな。では明後日に会うことにしよう。場所はお前が決めたら良い」と言いやがった。それを聞いて彰は顔を強張らせて「この性格破綻者が…」と呟いたが、ルルーシュは悪そうに笑って「何のことだ?お前が会わせようとしたんだろう?」と返答してきやがった。
この男の厄介な所は彰がルルーシュと藤堂たちを会わせたくない理由を全て分かった上で会おうとしていることだ。性格が悪いにも程があると思う。
そんな彰の心中が顔に出ていたのか、ルルーシュは平然と答える。
「これはお前らの組織の根本的な問題だ。何時かは問題になっていたさ。俺はそれを加速させるだけに過ぎない。遅いか早いかの違いだ。避けようと考えることに無理がある」
まあ、言われずともお前なら分かっていると思うがなと言うルルーシュの圧倒的な正論に彰も黙るしかない。
側で聞いていたカレンは意味の分からない二人の会話に疑問符を浮かべていたが、その様子が唯一の彰の癒しだった。
完全に主導権を握ったルルーシュは、片瀬少将から日本解放戦線からの協力を取り付けた。
その代わり何かあったら喜んで協力させてほしいなどと言う思ってもいないだろうことを平然と言うルルーシュに、彰だけでなく後ろで控えているカレンも若干ジト目を向けていた。
片瀬少将は完全にルルーシュの提案を鵜呑みにし、自分たちにとって都合の良い展開になったという感じで笑っている。この性悪男がそんな自分たちに不利な提案を無償でするわけがないんだがなぁ。
とは言え、ルルーシュの言葉に嘘はないだろう。ただ、その行動の真意を言っていないだけだ。まあ、これは交渉なので言ってしまえば、真意を読み取れていない片瀬少将と藤堂さんに問題があるという話になるのだが。
その後、解散となったがその直前にルルーシュは片瀬少将に「ああ、言い忘れていました。片瀬少将。当然ですが『何があっても私の正体は内密にお願いします。藤堂中佐にもしっかりと言い含めておいてください』」と言いながらしっかりとギアスをかけていた。本当に抜け目のない奴である。
しかも藤堂さんにはかけないで片瀬少将にだけかける所からルルーシュも自分と同じ未来を予想していることが感じ取れた。もうやだ、コイツ。
加えて、彰は藤堂さんからゼロと協力することになったことをキョウトに伝えてくれと言われて、行きたくもないのにキョウトまで連れて来られることになった。踏んだり蹴ったりである。
自分がここに居る原因を思い出した彰は再びため息を吐く。ああ、面倒臭い。この上更に面倒臭い人に会うことになるとか嫌だなぁと考えながら連れて来られた扉の奥に案内される。すると奥には
「まあ、ゼロ様!お久しゅうございました!感動の再会に妻として私は何をすれば良いでしょうか、ゼロ様!」
「いや、俺はゼロじゃないです。神楽耶様」
皆さんご存知のロリ姫が顔を輝かせながら待っていた。彰の苦手な人ランキング堂々2位の登場である。
「ゼロ様ったら、そんな謙遜を。何時あなた様が私の期待に応えて立ち上がってくれるのかと私は心待ちにしておられましたのよ?」
「いや、立ち上がってないです。神楽耶様」
「妻として私は立ち上がった夫を見て何をすれば良いのでしょうか?でも安心なさってくださいゼロ様!私はあなたになら身も心も差し上げる覚悟はできています」
「いや、俺が受け取る準備ができてないです。神楽耶様」
「ゼロ様が既に結婚なさっていることは承知しておりますが、私はそんなことには拘りませんわ!愛があればそんな問題など関係ないのです」
「ねぇ、さっきから会話が成立してないんですけど神楽耶様。何ですかこの言葉のドッジボール」
相変わらず話を聞かないお姫様である。そこら辺に俺の意思とか落ちてないかな。
そんな風に彰が思っていたら突然首筋に刀を突きつけられる。何なのだろうと思っていると、そこには見知った顔の男がいた。その男はそのまま呟いた。
「神楽耶様の御前だ。言葉遣いに気を付けろ」
男の脅迫めいた言葉にも全く動じずに彰は、懐かしいと言わんばかりにその男に声をかけた。
「おお!ロリト君!ロリト君じゃないか!久しぶりだな!相変わらずのロリっ娘との犯罪スレスレのイチャイチャライフを楽しめているかいって、危ねぇな、おい!」
彰が話しかけている最中、ロリト君ことアキトはそのまま無言で突きつけていた刀で彰に斬りかかったがギリギリで彰に交わされてしまった。
「避けるな。上手く死ねないぞ」
「おいおいロリト君よ。恩人に向かってその態度は感心しないな。男のツンデレは需要がないぜ?」
「恩人?迷惑をかけられた記憶しかないんだがな。俺たちがEUに帰れなかったのは誰のせいだと思っている?」
「考えが浅いんだよ。良く考えろ。あのままだとお前金髪巨乳という一つの景色しか見えなかったのに俺のおかげで黒髪貧乳という真逆の景色を見ることもできたんだぞ?良かったじゃないか。他のロリコンの羨望の的だぞ」
穏やかに会話をしているように感じるが、先程からアキトは彰に斬りかかり続けており、それをギリギリで避けながら会話を続けている。変に器用な二人である。
そんな二人の様子を眺めていた神楽耶はニッコリと微笑みながら会話に参加した。
「まあ、ダメですよアキト。殺るなら首からいってくれないと」
「申し訳ございません、神楽耶様。では首狙いでいきます」
「あれ?この主人の言葉おかしいよね?完全に俺のこと殺す許可出しちゃってるよね?」
「私のことを貧乳呼ばわりする夫には、仕置きが必要ですわよね?」
「仕置きって段階じゃないですよね、それ。完全に人生にピリオド打たせる気ですよね、それ」
「心配なさらないで良いですわ、ゼロ様!あなた様なら私は…私は…」
赤くした顔の頬に手を当てうっとりとした表情で神楽耶は告げる。
「首だけになっても愛します」
「愛が重いよー、神楽耶様。重すぎて潰されそうだよ、神楽耶様」
「では、神楽耶様の許可も出た…覚悟しろ。…ああ、そうだ一応確認しておくが」
そう言うとアキト改めて剣を構え直して言葉を続ける。
「首の貯蔵は充分か?」
「充分なわけねぇだろ、このバカ。首は一個しかねぇんだよ、このバカ」
彰の言葉も効かずにアキトは彰に再び斬りかかる。くだらないデスゲームが幕を開けた。
このデスゲームは一時間以上続いたらしい。
感想欄でついに問題作とまで言われたことに笑ったけど、あんまり反論できないことに気付いた。