「い、痛いんだけどカレン…何でここにいるの?と言うかこんなことする人だったっけ…?」
「うっさいわよ!アンタらが悪いんでしょうが!ツッコミ不在のまま、ボケばかり増えてんじゃないわよ!と言うか、アンタこそ何でここにいんのよ!」
「ユーフェミア様に頼まれたんだ…行方不明のジェレミア卿が心配だから探してくれって…」
突如として現れたカレンのツッコミと言う名の攻撃を貰ったスザクはその場で蹲るが、律儀なことにしっかりとカレンの質問には答えていた。
いきなり現れたカレンに、シャーリーと隠れて見ていたヴィレッタが驚き過ぎて完全に思考が停止している中、スザクはリョウに自分の任務を告げた。
「すいません。こちらの病院にジェレミアという軍人は入院していらっしゃらないでしょうか?」
「いや、知らねぇな。もしかしたら他の奴なら知ってるかもしれねぇから、聞いてみたらどうだ?」
こういった突然の展開に慣れているリョウは、スザクの質問にアッサリと嘘を答える。
この病院に居ないのは知っているが、居ないと断言したら何故知っているのかという話になるので嘘を言ったのだ。
その嘘をアッサリと信じたスザクはそうですかと返事をし、カレンとシャーリーにまたねと伝えてこの場を去る。この男は何をしにこの部屋に来たのだろう。
スザクが去ったことで、カレンはくるっとリョウ達の方に振り返り口を開いた。それを見て焦ったリョウたちは、慌ててカレンの言葉を止めようとする。
「で?アンタら三馬鹿はこんな所で何を「おおーっとお客様!内密な相談があるのでちょっと良いですかぁ!?こちらです!」ちょ!?何なのよ!?」
正体がバレたらマズイので、カレンが喋り終わる前にリョウとアヤノはカレンの肩を掴み、強引に後ろの扉の中に連れて行き、頭を下げて頼み込んだ。まあ、最悪バレても構わないアヤノは頭を下げてないが。
「頼むカレン!俺たちの正体は内密に頼む!」
「はあ?何でよ?」
訝しげにリョウを見るカレンに溜息を吐きながら、アヤノは事情を説明する。それを聞いたカレンもアヤノ同様に溜息を吐いて、ジト目でリョウを見る。
「事情は分かったけど…何してんのよアンタは。酒は程々にって言葉も知らないの?」
「私も全く同意見だが…まあ、今回だけは許してやってくれカレン。本来ここで働いてない医者でもない男が患者を診てるなんてことになれば、あのヤブ医者は間違いなくクビになり、リョウの内臓は取られるだろう。だから協力してくれとは言わんが正体をバラす事だけは勘弁してくれないか?」
「まあ、良いわよ。別にリョウが医者やってたって私には問題ないしね」
そんなカレンの言葉に一安心したリョウは安堵の息を吐き、三人揃って他の面子が居る所に戻ってきた。
「あ、あのカレン?知り合いだったの?」
「えーと…まあ、うん。私もこの病院偶に来るからね」
シャーリーの質問にあははと顔を痙攣らせながら、カレンは誤魔化すように笑う。
続けたら面倒なことにしかならないと考えたリョウは、会話を断ち切ってシャーリーの診察を続けようとする。
「待たせたな。じゃあ、これから診断の続きを「お前らちょっと待てぇぇぇぇぇ!!」んだよ、うるせえな!」
だが、放置されている間に何とか喋れるようになった、マダオことアノウが口を開いて会話を止める。
リョウはそのことに青筋を立てて怒鳴っているが、縛られて殺されそうになっているのだから、アノウの言葉は当然と言えば当然である。
「何を逆ギレしているのだこのヤブ医者は!おかしいだろ貴様ら!何でこんな風に完全に縛られている患者を見て、普通に診断を続けているんだ!」
「え?診療をしてるんじゃないんですか?」
「何処の国のどんな治療だ!?こんな治療方針があってたまるか!!おい!お前もそう思うだろ?」
シャーリーの的外れ過ぎる返答にアノウはキレながら返答し、同意を求めるようにカレンを見る。
「え?まあ、そう思いますけど」
そう言うと、カレンは遠い目をして諦めたように笑う。
「私はこれぐらいのことでツッコむのは止めたんです」
「おい、お前諦めるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!諦めたら試合終了だぞ!!安西先生だってそんな姿は見たくないぞ!?」
「アンタに私の何が分かるのよぉぉぉぉぉ!!私だってね!諦めたくなんかなかったわよ!だけどしょうがないでしょ!?世界は残酷なのよ!優しくなんかなかったのよ!!安西先生だって許してくれるわよぉぉぉ!!」
「許すわけがないだろうがぁぁぁぁ!!安西先生は最後まで諦めないんだよ!!お前に安西先生の何が分かる!!知ったような口を聞くな!!」
「少なくともアンタよりは知ってるわよ!!あの人を全国に連れて行きたいと思ってんのよ!今でもバスケがしたいと思ってるのよ!!」
「いや、もう途中から完全に安西先生の話になってるぞテメエら!!ボケなのかツッコミなのかハッキリしろや!!」
完全に収拾がつかなくなったカレンとアノウの会話にリョウが横槍を入れる。そうでもしないと止まらないと思ったからだ。
そんなカオスな状況を
(な…何なんだアイツらは一体…?)
隠れていたヴィレッタは、冷や汗を流しながら見ていた。
何処からか突然出てきたカレンにも驚いたが、診療どころか普通の会話すらしていない連中に、ヴィレッタは自分は一体何をしているんだろうと現実逃避を始めていた。
「私は尾行までしてこんな奴らを見て、何をしているんだろうか…」
「そりゃ、ストーカーなんじゃないの?」
突然後ろから聞こえた声に、ヴィレッタは慌てて振り返る。そこに居たのは大先生と呼ばれていた本間ユキ太郎だった。
ニヤニヤしながら現れたその男に、ヴィレッタは愛想笑いを浮かべながら答えた。
「な、何の話です?話が読めないのですが?私がここに居るのは偶然ですよ?」
「へぇ。偶然ずっとシャーリーとかいうあの女の子を尾行してるんだ?」
バレていると感じたヴィレッタは、表情を変えて隠し持っていたナイフで斬りかかるが、予想していたのかアッサリとユキ太郎は躱す。
「怖いねぇ。最近のストーカーはナイフを常備してるんだ」
「お前…何者だ?」
「世界一の引きこもりを目指している男だよ」
ナイフによる奇襲攻撃にもアッサリと対処したユキ太郎に、ヴィレッタの警戒心は最大限に跳ね上がる。
それをユキ太郎も察したのか、微妙な距離を取りながら他の面子を呼ぼうとする。だが、突然ヴィレッタの様子に変化が現れた。
「…ねぇ、何やってるの?」
「知るか!何かに引っ張られているんだ!一体何…が」
何故かヴィレッタは、何かに引きずられるように診察室の中まで吸い込まれそうになっており、それを防ぐように何とか壁にしがみついている状態だ。ユキ太郎にしても意味が分からない。自分には何も起きていないのだから。
しかも話している途中で何故かヴィレッタは途中で倒れてしまった。何が起きたのだろうと、ユキ太郎はヴィレッタから視線を外して診察室の中の様子を見る。そこでは、拘束されていたはずのアノウが仁王立ちしていた。
それを知っていたユキ太郎は、冷や汗を流しながらアノウの姿を見つめる。
「まさかアレが発動するなんてね…これは逃げた方が良いかも。この人の正体には興味があったけど、まあ良いか。あの女の子にそこまでする義理はないし」
そんなことをユキ太郎が言っている一方で
「で!?何なんですか!!?アレは!?」
診察室の中にいたせいで、ヴィレッタよりも更に強くナニカに引っ張られているシャーリーを何とか庇っているリョウとアヤノに、シャーリーは尋ねた。
うるさいから殺そうとリョウがメスを振りかぶったその瞬間に、突然ソレは起こったのだ。
アノウの拘束は外れて、何故か発生した謎の引力にシャーリーは引っ張られるようになったのだが、ギリギリとリョウとアヤノが庇ったことにより、吸収されずに済んだのだ。
「アレは悲劇の力だ。ある連中と会ったことで、マダオは職も、地位も、名誉も、妻も、お金も、人間としての尊厳も、幸運も失ってしまったんだ…その結果、幸福な者を不幸に落とすようになった…俺たちはアレをこう呼ぶ…マダオゾーンと」
「迷惑以外の何物でもない!?そこまで分かっているなら早く止めてくださいよ!」
「いや、俺たちもそうしたいんだがなぁ…よく見ろ」
アヤノの説明により当然発生するシャーリーの要望に、リョウはそれが難しいことを説明する。
シャーリーからしたら意味がわからない。一体この状況で自分は何を見れば良いのだ?
そんなことをシャーリーが言うと、リョウは溜息を吐く。何故こんな簡単なことが分からないのだろうか。
「気付かないのか?マダオはあの場所から一歩も動いていないんだ」
「いや、だから何なんです!?」
予想外過ぎるリョウの回答に、シャーリーは思わず大声を出す。だから何なのだと全力で叫んだ。
「信じられない高等技術です。自分の手元に来るように幸福にスピンをかけてるんですよ。南次郎さんが私にやったことと同じです」
「いや、南次郎って誰です!?というか何で二人は平気なんですか!?」
「馬鹿野郎。俺たちが幸福な訳ねぇだろ。散々な人生だぞ。お前と一緒にすんな」
「…ねえ…あの…ちょっと良い?」
今まで黙っていたカレンが突然声を発する。何だろうと残りの三人がカレンの方を見ると、カレンは微妙な顔をしながらその場に平然と立っていた。いや、むしろ若干部屋の外に押されていた。
「…一応そんなに悲惨な人生歩んでるつもりはないんだけど…何で私は押し戻されてるの?」
そんなカレンの質問に三人は暫く考え、結論を出した。
「…不幸に落ちたら一体どうなるんてすか?」
「人によるな。結構ランダムな結果が待ってる」
「試してみますか?私たちが離れたら多分分かりますよ」
質問に答えないという選択を。しかしそんなことでカレンが納得するはずもない。
「いや、待ちなさいよ!質問に答えなさいよ!何で私だけ遠ざけられてるのよ!」
再度のカレンからの問いかけに、視線を全く合わせずに三人は答えた。
「…た、多分人によってはそういうこともあるんだよ」
「ほ、ほら!カレンは結構苦労もしてたし!」
「そ、そうだ!だから安心しろ!お前がマダオだって驚くくらい不幸だってことはないはずだ!」
「…じゃあ、私と立場を代わってくれる?」
涙目のカレンが三人に頼むが、三人とも回答は決まっていた。
「「「…それはちょっと」」」
「ほら、やっぱりぃぃぃぃぃぃぃぃ!!私だって薄々気付いてたわよ!私の負担だけ異常だって!私だけボケで逃げられる機会が薄いってことくらいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
カレンはブワッと泣き出すが、そんなことをしても状況はまるで変わらない。三人が物凄く可哀想な人を見る目で見つめてくるようになっただけだ。
何故こんなことになってしまったのだろうか。
自分はこんなキャラではなかったはずだ。
何故、何故、何故、何故、何故。
そこまで考えて虚ろな目になったカレンは、目の前でマダオゾーンを発動しているアノウが目に入った。
「ふふふ…そう。アンタもボケキャラだった訳ね。つまり私の味方は未だに増えない訳ね…ああ、そう。分かったわ」
変なスイッチが入ったカレンは薄笑いを浮かべた。そしてそのまま、押し出される力に対抗してアノウの元へと歩いていく。
「今ならルルーシュの気持ちが分かるわ。最近私は私に嘘をついていた。おかしいのは私じゃないのかって嘘を。でも違った。そうじゃない。おかしいのは私じゃない。世界の方よ…だから!」
そこまで言うと、突然カレンの周りに閃光が走った。あまりの眩しさにリョウたちが一瞬目を閉じるが、その一瞬の間にマダオにかかと落としを炸裂した。
リョウとアヤノは驚きを禁じ得ない。あのマダオゾーンを破ったと言うのか?そんな人物など過去に二人しかいないからだ。
つまり、カレンはこの短期間であの人に追いついたということだ。
「リョ、リョウ…まさかカレンは…」
「ああ。多分間違いねぇ…あの野郎はこの短期間で…」
「え?何の話ですか?」
一人だけ話についていけないシャーリーは、疑問をリョウとアヤノに尋ねるが、答えになっているのか分からないリョウの独白は続いていく。
「本当に…辿り着いたと言うのか?…ツッコミの境地」
マダオゾーンの悲劇
ヴィレッタ「う…ん?ここは?」
ユキ太郎「アレ?起きたの?なら都合が良いや。アンタは誰で何であの女の子をつけてる訳?」
ヴィレッタ「何の話…ですか?というよりここは…何処ですか?」
ユキ太郎「いや…病院だけど…え?アンタまさか」
ヴィレッタ「私は…誰ですか?」
ユキ太郎「僕知ーらないっと」(全速力で逃亡)