「おー、やっと来たか」
「とりあえず、色々あって疲れた。ビールある?」
「中年のサラリーマンみたいなこと言ってるな」
電話を受けた桐島は面倒臭いとは思いながらも、渋々用事があるというリョウたちのいる隠れ家に向かった。
そこに居たリョウに文句は言われつつも、投げて渡されたビールを旨そうに飲む。
いやー、やはり一日の終りはこれだな。
あれ?そういえば
「後の二人は?」
「ユキヤはお前を呼んだ件で電話だ。アヤノは……分からん」
「何で?」
「……教えてくれないんだ」
「まだ怒られてんのか、お父さん」
「まだって言うな!!」
年頃の女心を分からんやつはこれだから困る。
「だから、あれほどお前の下着と一緒に洗うなと言ったんだ」
「言ってねえだろ!てか、何でお前がその事を知ってんだ!!」
「ユキヤから聞いた」
「ユキヤー!!!!」
怒り狂っているリョウを眺めながら、更に呟く。
「全く……娘は反抗期で息子は引きこもりか……お父さん失格だな」
「ぜ・ん・ぶ・お前のせいだろうが!!」
桐島はリョウに首を掴まれる。
大分攻撃的である。子育てに疲れたのだろう。
「おいおい、育児の失敗を俺のせいにしないでくんない?ヒステリーもそこまでいくと見苦しいぜ?」
「三年前にお前が俺たちがEUに行く船を爆破したせいで俺たちはまだこんな所にいることになったんだろうが!」
過去のことを未だにグチグチと……尻の穴の小さい男だ。
「はっ!そんな昔のことは忘れたなぁ」
「こ……このクソヤロウ」
ワナワナと震えているが全く気にしない。何時ものことだ。
「んで、その引きこもりの息子は何時まで電話してるんだ?」
「その言い方止めてくんない?」
ガラッと扉を開けて引きこもり(ユキヤ)が現れた。
「僕は外に出たくないだけだから。外に出たら敗けだと思ってるだけだから」
「それを引きこもりって言うんだよ。引きこもりの特徴なんだよ」
「甘いね、彰!今は外に出なくたって生活はできるんだよ!ネット社会万歳!!」
「もうダメだな、こいつは」
何時からこいつはこうなってしまったのだろうか。父親の教育が悪かったのだろう。
俺がそんな思いを抱いているとお父さんが現実世界に戻ってきた。
「あ、おいこらユキヤ!ネットは一日一時間にしろって言ってるだろ!」
「イキナリうるさいなぁ、リョウは」
「苦労してるな。頑張れお父さん」
多分無理だろうけど。そんなことを思いながらも一応応援はしておこう。
「だから、俺はお父さんじゃ、てか、こんな話をしてる場合じゃねぇだろ!ユキヤ!早く本題に入れ!」
「はいはーい」
ピッとパソコンのキーを押し、画面を切り替えてから俺とリョウにその画面を見せる。
画面にはかなりイケメンの男が写っていた。俺は迷わずパソコンの電源を落とした。
「「何をやってんだ、テメェはーーー!!!」」
「イケメン何て滅べば良い」
「そんな理由で話の腰を折るんじゃねぇよ!」
「全く……これだから、三枚目は」
「引きこもりのお前よりはマシだ」
ぐいっと残りのビールを飲み干してから呟く。
「で?このイケメンがどうしたって?」
「どんだけイケメンを引きずってんだ……たく、ユキヤ説明してやれ」
「こいつの名前は紅月ナオト。聞いたことくらいある?」
「いや、全く」
「まあ、弱小レジタンスのリーダーくらいじゃ名前は知らないか……でも、能力はかなりのもんだよ?下手すれば彰んとこの藤堂さんくらいに化けるかもね」
「へぇ、そりゃすげえな」
「ま、あくまでも将来的にはの話だがな」
リョウまで言うとなると本当なのだろう。ほー、まだそんな隠れた実力者が身近にいたか。
「そいつの写真を見せたということは、俺に紹介してくれとか頼まれたか?日本解放戦線に加わるために」
「外れ。もしかしたら、今後は頼むつもりだったかもしれないけどね」
「何で過去形だ?まさか」
「そのまさか。死んだんだよ……表向きにはね」
「表向き?」
そのニュアンスからすると生きてんのか?
「その紅月ナオトのグループは自分達の作戦の最中に事故ってね。その結果紅月ナオトは消息不明になった……と信じてる。リョウと撲以外は」
「じゃあ、お前らは見つけたんだな?」
「ご明察……偶然だけどね。リョウが見つけた」
「なら、残りのグループの奴等に教えてやれば良いじゃねーか」
「それが、そうもいかねぇんだよ」
すると今まで黙っていたリョウが会話に参加してくる。
「生きてると言えば生きてるんだがな……死んでるといえば死んでる」
何言ってんだ、こいつ。
「意味分からん。何だ、そりゃ」
「実は傷が深すぎてね。大手術になった。その結果一命は取りとめたんだけど」
「だけど?」
溜め息を吐いてから、ユキヤは続ける。
「意識が戻らないんだよ。医者が言うには一生このままの可能性もあるってさ」
「うわぁ……面倒なことになったな。だけどよ、それなら余計に教えてやれば良いじゃねーか。その状態でも見つかれば喜ぶだろ」
「そうしたいんだが幾つか問題がある」
「問題だ?」
コクリと頷いてからリョウが話し出す。
「まず、ナオトの身体を健康に保つためには人手とある程度快適な環境が必要だ。奴等程度のレジスタンスじゃ、その場所を確保できねぇ」
「今いる病院じゃダメなのか?」
「ダメだな、早く出ていくように言われてる」
「代わりの場所は?」
「決まってねぇ」
「……なら、余計にそいつらに渡してやれよ。俺たちが匿う必要もねーだろ」
冷たいように聞こえるかもしれないが、これが現状だ。全ての人を救うことなどできない。
「俺たちも本当ならそうしたいが、できねーんだよ」
「理由は?」
「……そいつ、アヤノの親友の兄貴なんだ」
「……なるほど、お前らが何でそんなに必死になってそのイケメンを助けようとしてるのか分かったよ」
そのイケメンを見殺しにしたら、アヤノは苦しむ。そして、助ける手立ても見つかっていない以上ぬか喜びはさせたくない……か。甘いな、こいつらも。
まあ、だから、助けたいと思ってしまうのだが。
「俺を呼んだのは匿う場所を探す手助けをして欲しいからか?」
「そうだよ。一ヶ月以内にね」
「……なかなかの難題だな。まあ、一応当たってはみるけどよ」
ハーッと溜め息を吐く。
「ほんっとうに、そのイケメンは優秀何だろうな?この苦労に見合うくらいに」
「間違いないよ。それは保証する」
ユキヤのその言葉を聞いてから、飲み終わったビールをゴミ箱に投げ入れる。
……外れた。
あーあ、幸先不安だな。
紅月ナオトの設定はオリジナルです