「私だ。扇。今は大丈夫か?」
『ああ、問題ないがどうしたんだ?』
「問題が発生した…という訳でもないのだが、気になる情報が入ったので調べてもらいたい」
『気になる情報?どんな情報なんだ?』
「具体的な情報は今の所はない。だが、イケブクロ周辺の組織で気になる動きをしている所はないか?」
『イケブクロ周辺…特に報告は上がってないな。もちろん、俺たちの支配下にある組織の範囲でという条件付きだが』
「そうか…では、情報を集めろ。優先度は高めに設定して良い。誰か手を空いている者に手伝わせても構わん」
『わかった』
その言葉を聞いたルルーシュは、頭の中で今ある情報を整理する。
何とか一人になることに成功したルルーシュは、早速扇に電話をかけた。あの女が言っているような、何か怪しい兆候が起こっていないか確認をするためだ。
しかし、残念ながら特に情報は得られなかった。これからのためにも、手早くトウキョウの組織のことなら、ある程度は把握できるネットワークを早急に築く必要があると思ったが、今考えるべきことではないだろう。
今考えなければいけないのは、この事態にどう対処するのかだ。放っておいても問題ないのかもしれないが、万が一のこともある。ルルーシュが想定しているよりも遥かに大きな出来事だった場合、この辺りで支配域を広げている黒の騎士団の活動に影響を及ぼす可能性もある。
彰に聞くことも考えたが、アレでも一応解放戦線の一員。現段階で彰に情報提供を依頼すれば、それは借りになってしまう。他人に借りは出来るだけ作りたくないと考えているルルーシュにとって、それは避けたい手段だった。まあ、もっと切羽詰まっている状態ならば話は変わるが、現状ではそこまで問題は大きくなっていない。
そうなってくると、現状ルルーシュにとっては、黒の騎士団の部下から情報が上がってくるのを待つことが、最善の手段ということになる。
黒の騎士団の組織に影響があるのかどうかすら分からない状態である現状を考えれば、この方法で何の問題もないはずだ。
だが
(ここの辺りは彰やカレンはともかく、シャーリーや仁美も良く利用する地域だ…有り得ないとは思うが…有事が起こったら巻き込まれる可能性も無いとは言い切れん)
彰やカレンなど、ルルーシュから見ても殺し方が分からない人種(本当に人類かどうかという段階でルルーシュは疑っている)など心配するだけ時間の無駄だが、シャーリーや仁美のような一般人が予測できない事態に巻き込まれては、無事では済まない可能性がある。
彼らはナナリーにとって大切な存在である。だからこそ、彼らが居なくなってしまったらナナリーが悲しんでしまう。それは絶対にルルーシュにとっては看過できない事態だ。それを防ぐために、ルルーシュは万に一つの可能性も塞ぐ手を打って置く必要があると考えた。少なくともルルーシュはそう思っていた。そう考えるようにしていた。
(ナナリーのためだ…他の理由など存在しない…存在してはならない)
ルルーシュの心の仮面はまだ壊れそうになかった。
「そうか…では、他にここらで問題になりそうなものはないんだな?」
ルルーシュはどう考えても一般人が足を踏み入れそうにない廃屋に居た。目の前にはきちんとした服を着た日本人が立っていた。
何故ルルーシュがそんな所に居るのかと言えば、黒の騎士団の捜査で、この廃屋がその手の連中が出入りする場所だと聞いたからだ。
ルルーシュがそこに行けば、予想通りに一般人とは思えない連中がたむろしていた。通常の状態であれば、ルルーシュの質問に答えることなどあり得ない奴等ではあるのだが、ギアスを持っているルルーシュ相手に答えないという選択肢は存在しない。そうであれば、当然
「ああ。最近起こった問題はそのくらいだ」
ルルーシュの質問に淡々と答えることになる。その質問から、ルルーシュは自身が聞きたい情報が手に入ったという確信を得た。
「そうか。分かった」
そこまで言ってからルルーシュは堂々と立ち去る。ギアスをかけられている彼等にルルーシュを止めることはできないので、当たり前のように見送ることになる。意識が戻った時には、今何が起こったのかも分かっていないだろう。
しかし、上手く言ったはずのルルーシュは、歩きながら舌打ちをして、頭の中で問題を整理しようとしていた。
(リフレインか…予想をしていなかった訳ではないが、面倒なことになったな)
情報が得られたのにも関わらず、ルルーシュの顔色は晴れない。自分が考え得る事態として考えていた事柄の中で、最も面倒な事態だということが分かったからだ。
ルルーシュが情報を仕入れた、イケブクロ周辺で活動をしている裏組織の一員である奴等の情報によると、今イケブクロではリフレインが日本人の間で大流行しているようだ。
リフレインとは、簡単に言えば麻薬の一種で、過去の幸せだった時のことを思い起こさせることができるという特性があるらしい。何ともまあ、今の日本人には縋る者が多そうな麻薬である。
これは黒の騎士団も把握していた情報であり、正義の味方の知名度を向上させるのに打ってつけなので、片っ端から摘発に動いていた。黒の騎士団が把握していなかったのはその後の問題だ。
そんなことをしていれば当たり前だが、リフレインの供給が減る。しかし需要は変わらないので値段がとんでもなく上がる。そうであれば、売れば莫大な利益になると考える馬鹿が現れる。困ったことに実際に現れた。
その馬鹿はある商人のグループの末端に属しており、その組織の商売のルートを勝手に利用して、ある筋からリフレインを大量に仕入れることに成功した。
更にそいつは手に入れたリフレインを売ろうとしたのだが、さっさと売れば良いものを、欲に目が眩んであらゆる組織に声をかけて、一番条件が良い組織に売ろうと考えた。若しくは足元を見て値段を釣り上げようとした。
そんな才覚があれば良かったのだが、残念ながらその馬鹿にそんな才覚など存在しなかったので、上手く立ち回ることが出来ずに殺されてしまった。
しかも最悪なことに、その馬鹿はリフレインの隠し場所を、イケブクロに隠したことしか言わずに殺されてしまったので、現在その大量のリフレインの隠し場所を知るものは誰もいない。
その情報を掴んだ残された麻薬組織は、血相を変えてイケブクロ周辺を探しているのだが、まだ見つかっていないらしい。そのせいで今のイケブクロは、麻薬組織のどんぱちのオンパレードになっているらしい。危ないとかいうレベルの話ではない。
本来であれば完全に警察が出てくる案件なのだが、クロヴィス時代の名残で警察組織は汚職が蔓延しており、上までその情報が伝わっていないので警察が動くことは期待できない。マジでクロヴィス碌な仕事をしてねぇ。
(この情報はそんなに簡単に仕入れることはできないはず…しかも俺に危ないと忠告をしたということは、麻薬組織の連中ではないだろう…ということは、あの二人は商人のグループの一員か)
ルルーシュは仕入れた情報と分析から、ジノとジャンの素性を素早く推理した。まあ、分かったところで現状役に立ちそうにない情報ではあるのだが。
とりあえず何か理由を付けて、仁美やシャーリー達には何があっても絶対に暫くはイケブクロ周辺には行くなと言い含めて、早急に黒の騎士団を動かして、この危険地帯の治安を何とかすることをルルーシュは決心した。
そんなことを考えて、ルルーシュが廃屋の階段を降りていると、下の階段を誰かが上がってくる音が聞こえた。ルルーシュは焦る素振りも見せず、にギアスを使用する準備をする。初見であれば、どんな人間でも間違いなく対処することが可能のはずなのだが、できなかった。何故なら
「ルルーシュ様!見つけました!ダメですよ!こんな危ない場所に一人で入っては!」
「仁美さん!?」
下の階から現れたのは仁美だったからだ。何やら怒っているが、ルルーシュはそれどころではない。
何でこんな所にいるのかと問い詰めようかと思ったが、そんなもの自身を尾行してきたに決まっている。
自身の迂闊さを呪いたくなったが、そんなことをしても現状は変わらない。とにかくこんな所に仁美が居るのは危険しかないので、慌てて一緒に外に出ようとするのだが、その前に上の階で爆発音が鳴り響いた。
仁美はもちろんルルーシュですら、驚愕で動作が停止する。しかしその間に爆発によって廃屋の上の天井が崩れ落ち、ルルーシュと仁美の所に落下してきた。
「仁美さん!」
考える間もなく、反射でルルーシュは仁美を突き飛ばし、落下物の範囲外へと突き飛ばす。自身も逃げようとしたのだが、ルルーシュの身体能力でそんなことをしたせいで完全に足を捻ってしまい、満足に立ち上がることすらできなくなってしまった。
「ルルーシュ様!私のせいでお怪我を!」
「大丈夫ですよ。大したことではありません」
半泣きになりながら近寄ってくる仁美にルルーシュは微笑みを浮かべるが、痛みのせいで脂汗をかいていては誤魔化せるはずもない。急いで手当てをと自身の服の一部を破って包帯がわりに利用しようとしている仁美を見ながら、ルルーシュの耳には下の階で乱闘が起きている音が聞こえた。
ルルーシュは自身の間の悪さに歯ぎしりする。最悪の現状だった。
つまり、ルルーシュが偶然情報収集に訪れた廃屋で、偶然麻薬組織の乱闘が起こっているのだ。それ以外に今の爆発や下の乱闘騒ぎは考えられない。
しかも自身と一緒にいるのは、カレンや彰どころか一般人である仁美で、自身は足の怪我で碌に動くことすらままならない。
(将棋で言えば飛車角落ち…いや、それどころではないな。くそ、何の厄日だ!)
ルルーシュの高性能の頭脳は勝ち目がないと訴えてくる。こうなっては如何に上手く負けるかの勝負になると。確実に何かを捨てなければ生き残れないと。
ルルーシュと仁美の勝ち目のない戦いが始まった。
ルルーシュの評価表
絶対に守る存在 ナナリー
守る存在 仁美、小夜子、シャーリー、会長、リヴァル
できれば守ってやる存在 黒の騎士団のメンバー、生徒会以外のクラスメート
倒すべき存在 ブリタニア一族
仲間にしたい存在 スザク
評価外(人外) 彰、カレン、C.C.
彰「まあ、打倒だな(スザクも人外だが)」
カレン、C.C.「納得がいかない」