「…で?何でお前らは俺の場所が分かったんだ?」
「C.C.に感謝するんだな。アイツが居なけりゃ間違いなくここには来れなかった」
ゼロ曰く。ルルーシュの家でダラダラしていたカレンの元に、初めて見たレベルで真剣な表情をしたC.C.がルルーシュの危機を伝えてきたとのこと。
何でそんなことがC.C.に分かるのか理解できないが、本当だったら一大事なのは間違いない上に、ギアスなんてとんでもないものを与えられる女に常識を当てはめることがそもそも間違っていると考えたカレンは急いで彰に電話をかけた。
彰もカレンと同じ結論に至ったのか、即決でC.C.の言う場所に向かうことが決まった。
しかし、何が起きてるか分からない場所に三人で向かうことに多少の不安を覚えた彰は、黒の騎士団の団員を動かすことを提案した。
カレンはゼロでないと部隊は動かさないと言ったのだが、彰は悪い顔で笑いながら、こう告げた。
「何言ってんだ?『ゼロ』なら、ここにいるじゃないか」
「…なるほどな。だから、『ゼロ』がここにいるわけか。ゼロの正体は不明。存在は結果が証明する。結果として、それに助けられた訳か」
「馬鹿かお前。お前らが信頼し合う仲間だったら話は早かったんだよ。都合の良い所だけを強調してんじゃねぇ」
ぐうの音も出ない彰からの正論に、流石のルルーシュも気不味げに視線を逸らした。
実際に彰が言うように、ルルーシュが黒の騎士団のメンバーから信頼されていれば「ルルーシュのピンチなの!皆、力を貸して!」とカレンが伝えるだけで話は済んでいたのだ。
ところがこの童貞野郎は信頼どころかカレン以外に顔も明かさずに、結果を出せば良いんだろう?と言わんばかりに全員の不平不満を実力で黙らせてきた。本当に能力だけは高い童貞である。こいつ以外には不可能な芸当だ。そのせいで、こいつが居なくなった時のことが全く考えられてない組織が出来上がる訳だが。
まあ、そんな訳で黒の騎士団とは言うものの、内実はゼロの指揮がなければほとんど機能しない部隊なのだ。メンバーにも責任は無いとは言わんが、誰も信じずに全部一人でやろうとするトップの童貞が一番悪いと思う。
だからこそ、わざわざ彰がゼロに化けてゼロとして命令しないといけなくなったわけだ。彰でなくとも、文句の一つや二つは言いたくなるだろう。
「ま、まあ、今はそんな話はどうでも良いとして」
「どうでも良くねぇが、合わせてやるよ。何だ?」
ルルーシュの露骨な話題転換に気付きながらも、ここで話すような内容でもなかったので彰は話を合わせた。
「アレはどういうことだ?」
突然、真顔になったルルーシュが指を指す方向を確認した彰は、納得したように頷いた後で続けた。
「アレはまあ…アレだよ。そういうことだよ」
「…やはり、アイツも人外だったのか?」
「今更気付いたのか?」
ルルーシュと彰の視線の先では、ナイトメアに乗ったカレンが暴れていた。
本当に文字通り暴れていた。誇張でも何でもなく、リアル版無双ゲームと言っても過言ではないくらいに無双していた。
相手のナイトメアも5、6台くらいいるようだが、全く相手になっていない。
カレンの目の前にいる存在は人もナイトメアも関係なく、悉くなぎ倒されている、
しかも、ナイトメアのマシンポテンシャルは互角程度だと言うのだから笑うしかない。何なんだあの化け物は。下手をすればスザクより、ナイトメアの腕に限れば上なんじゃないのか?
ルルーシュはその姿を驚き過ぎて呆然と見ているが、彰に関してはそうではなかった。
ごく最近だが、ナイトメアの訓練をする機会があったのでカレンも誘って模擬戦をしたのだが、梃子摺るどころか後一歩で負ける所まで追い詰められた。
カレンは悔しがっていたのだが、彰としては冗談ではない。ナイトメアに乗っている年数は、解放戦線の彰と弱小レジスタンスのカレンでは全く違う。しかも教えてくれる存在などいなかったはずだ。
本人に聞いてみると、説明書だけ見て後は何となく動かしているらしい。何だそれ。新たなバグか?
それを聞いた彰が理解するのを諦めたのは余談である。
「何だそれは。そんな話初耳だぞ」
「最近お前が思い悩んでいるから、余計なことを言いたくなかったそうだ。思考の邪魔になるのを気にしたらしい」
その彰の発言に、自身が悩んでいるのをカレンにまでバレていたことが分かったルルーシュは恥ずかしさで顔を赤くしたが、それを見て遠慮をしてくれるような相手ではなかったので躊躇なく話を続けた。
「まあ、何に悩んでいたかなんて俺くらいになると分かっちゃってた訳なんだがな。やれやれ、面倒くさい童貞野郎だ。俺みたいな経験者と自分を比べて卑下することないのにな。諦めんな。お前には未来があるさ」
「黙れ!誰が自分を卑下していただ!俺にそんな趣味はない!」
「え?いいの?言っちゃって良いの?恥ずかしいルルーシュ君の内心のポエムを暴露しちゃって良いの?」
「良い度胸だな、貴様!良いだろう!言ってみろ!貴様の妄想だと言うことを俺が徹底的に証明してやろう!」
そんな時と場所を全く考えていない二人の口喧嘩はヒートアップするばかりで、収まる気配が全く見えなかったのだが
「「ん?」」
突如として自身の身体が浮かされたことに二人は疑問符をあげる。よく見て見れば、持ち上げられていることに気付いた。
そして二人は思い出した。
「やかましいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!こんな時まで喧嘩ばっかりしてんじゃないわよ!!!」
ここには、二人にとってはブリタニアよりも強い存在がいることを。
その存在であるカレンは喧嘩を止めない二人を見ると、ナイトメアから降りて無言で二人の側に寄ると、頭を掴んでそのまま頭と頭を衝突させた。仮面で守られている彰でさえ、発生した揺れで前後不覚になる程の衝撃だったので、ルルーシュは痛みのあまり声すら出せなくなった。
「全くあんたらは!私がいないとまともに会話も出来ないわけ!?手がかかるにも程があるわよ!」
怒髪天を突くと言わんばかりに怒っているカレンは、クドクドと文句を並べ立てる。お前のせいで会話も出来なくなったよ!と文句を言いたい二人だが口には出さなかった。まだ死にたくないからである。
そんな三人の所に、下から潜入してここまでやってきた扇たち黒の騎士団の幹部が辿り着いた。その姿を遠目で確認した彰とカレンはふざけるのを止めて姿勢を正した。
「おおい、ゼロ!カレン!無事だったか!下のフロアの連中は粗方片付けたぞ。後はこの階だけだが…その子は誰だ?」
扇はゼロとカレンが無事なことに安堵した表情を浮かべたが、ルルーシュの姿を見て疑問符を浮かべる。まあ、当然の疑問だろう。こんな所にブリタニア人の子供がいて疑問に思わないはずがない。
「おい!ブリキ野郎が何でこんな所にいんだよ!答えやがれ!」
「落ち着け玉城。今はそんなこと言ってる場合じゃないだろ?そもそも、子供に銃なんて向けるな」
「そうよ。騎士団は正義の味方なのよ?だから私が女の味方として玉城の男としての機能を終わらせてあげようと思っているんだけど、どうかしら?」
「何を終わらせようとしてんだよ井上!?ふざけんな!俺のはこれから先に需要しかねぇんだよ!」
「どうでも良いが、早く隠れないとお前これから先は供給できなくなるぞ」
「え?」
我に帰った玉城が周りを見てみると、自分以外ナイトメアや壁の残骸の陰に隠れている。そして目の前には銃を構えた男たち。状況を理解した玉城は血の気が引いた。そして瞬時に敵に背を向け逃げ出すが、当然ながら雨あられのように銃弾が降り注ぐ。
「Nooooooooooooooooooooo!!」
玉城は自らに向けられる銃弾をギリギリで躱しながら、何とか皆がいる所まで退避することに成功した。ゴキブリのような生存能力に、ルルーシュと彰は今後は作戦にアレを活かせないかと考え始めた。玉城の受難はまだまだ続く。
「逃げるなら逃げるって言えよ、てめえら!死ぬとこだったじゃねぇか!」
「いや、むしろ何で生きてんのよ」
「そう思うなら連れてけやぁぁぁぁ!!てめえ、この野郎カレン!そんなブリキ野郎を担いで逃げるくらいなら俺に危険を知らせろよ」
「しょうがないじゃない。命の価値が違うんだから」
「ヒロインのセリフかてめえ!?」
そんな玉城の当然の抗議をほぼ全員が無視して、この先の打開策を考え始めた。
「カレンがナイトメアに乗れば勝利は確定なんだがな。もうアレは動かんのか?」
ゼロである彰はくいっと指を先ほどまでカレンが動かしていたナイトメアに向ける。
すると、残念そうにカレンは首を振った。
「残念だけど無理よ。もともとガタがきてたし、随分と高い所から落下したから戦闘を始めた時から限界だったのよ」
その状態であんなに暴れてたのかお前と、半分人外を見るような目でルルーシュと彰はカレンを見るが、直ぐに切り替えて話を変えた。
「すると、別の方法しかないな。玉城。側に来てくれ」
「どうするの?盾に使うの?」
「俺に対して厳しすぎねぇか井上!?」
「馬鹿を言うな井上。玉城は大切な仲間なんだ。そんなことするわけないだろう」
「ゼ…ぜロぅぅぅ…」
昔からの仲間の自分への酷すぎる扱いを経験した後だったので、ゼロからの言葉に玉城は涙を禁じ得なかった。
扇は思った。仲間内でも、カレン以外には顔すら明かさないゼロを何処まで信じて良いのか分からないと。だか今の言葉で気が付いた。やはり、彼は俺たちのことを大切に思ってくれていると。自分たちのことを考えて行動してくれていると。
カレンとルルーシュは思った。あ、こいつ絶対ロクなことを考えてないなと。
「出てこねえな奴等…死んじまったか?」
「馬鹿が。黒の騎士団だぞ?んな簡単に死ぬわけねぇだろ。それに死なれちまったら、ゼロを人質にここから逃げるって計画がおじゃんになっちまうだろうが」
ゼロたちを追い詰めたと思っているヤクの密売人どもは今の状況にほくそ笑んでいた。
下の階と天井から同時に黒の騎士団が突撃をかけてきたときは正直終わりだと思っていたのだが、何故かゼロは先頭を走って自分たちが今居る階にまで仲間もほとんど連れずに突撃してきた。
罠かと訝しんが、ここまで追い詰めても何もしてこない所を見ると本当に罠ではないらしい。
しかも鬼のように暴れていたナイトメアもどうやら動かせないらしい。後から合流した仲間も極少数。
「くくくくく…騎士団が現れたと知った時には終わったと思ったが、まだツキは残ってるようだ。あのゼロを殺したとなれば俺らの評価も上がる。そうすりゃ、更にリフレインを手に入れて大儲けだぜ」
「清々しいほどの小物っぷりだな」
突然会話に割って入られた男はキレ気味に声を出した主を見やるが、その人物の姿を見て優越感に満ちた表情に変わった。
「ははははは!テメェゼロ!ノコノコと俺らの前に出てくるとはな!動くな、手を挙げろ!蜂の巣にされたくなかったらな」
「悪いが断る。これでも忙しい身なんでな。貴様らのような小悪党に付き合っている暇はないんだ」
「小悪党だとぉ!?」
「名を挙げてやることが更にリフレインを手に入れることとはな。そんな中途半端な奴など小悪党に違いないだろう」
「言ってくれるじゃねぇか!テメェ状況分かってんのか!?」
「お前らこそ分かっていないようだな。知らないのか?私は正義の味方なんだぞ?」
「は?」
密売人どもが疑問符の声を上げていると、ゼロがいきなり突っ込んできた。
突然の展開に一瞬狼狽えた隙をついて、ゼロは持っていた武器を叩き込んだ。その衝撃で2、3人は宙を舞った。
密売人達は自分の目が信じられなかった。ゼロの速さや腕力にも勿論驚いた。だが、それ以前の問題に驚いた。
何故ならゼロが持っている武器は物ではなく
「正義の味方の私が弱き者を利用している屑に負けるものか。正義は勝つと決まっている」
人間(玉城)だったからだ。
「「「いや、仲間武器にして振り回してるお前の方が屑だろうがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」
信じられない展開に密売人達だけでなく、武器(玉城)まで突っ込みを入れた。
「お前らのような小悪党のレベルでは到達できまい。私のレベルまでな」
「分かるわけねぇだろうが!!だって最下層だもの!そこより下のレベルないもの!」
「私程のレベルになれば武器は問わない。そこにあるもの全てが武器だ」
「だったら、他の物武器にしろやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!何でわざわざ俺を武器にしてんだテメェ!」
「一番無くなって困らない物だったからな」
「そこいらに落ちてる瓦礫よりも俺の方が価値が低いのかよ!?」
「さあ、覚悟はできてるか?小悪党ども」
「俺の話聞けよ!」
「玉城が身を呈して活路を開いてくれたんだ。私はその覚悟を無駄にはしない。玉城の痛みを…思い知るが良い!」
「いや、俺に痛みを与えてんのお前ぇぇぇぇぇ!!」
そんな玉城の絶叫が響く中で、真上では赤髪の少女が舞い上がっていた。
「あんたらのターンは終わったのよクズども。さっさと道を…開けなさい!」
その少女は叫びながら、落下のスピードを利用して持っていた武器を密売人達に叩きつけた。
その威力は凄まじく、先程のゼロの攻撃を上回る攻撃力だった。
その少女は皆の注目を集めながら、凛々しく高らかに宣言した。
「紅月カレン!ただ今戦場に復活したわ!」
新たな武器(扇)を携えながら。
「「「いや、お前もかいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」」」
最初の一撃で気絶した扇以外の全員(ルルーシュと井上を除く)が同時に突っ込みを入れた。皆の心が一つになった瞬間だった。
「流石だなカレン。お前なら来てくれると思っていた」
「当たり前でしょ?仲間じゃない」
「いや、その仲間を武器にしてるのお前!!」
「くそ、舐めやがって!ふざけてんじゃねぇぞ、お前ら!まだコッチには一台だけナイトメアが」
あり得ない展開に切り札たるナイトメアを前線に出そうとしたが、出す前に砲弾のような何かがナイトメアに突き刺さり、前線どころか後方へと吹き飛んだ。
何が起きたと密売人のリーダー格の一人が呆然とする中、残った黒の騎士団の一人の女が何かを放り投げたような格好をしていることに気が付いた。
まさかと思った男は冷や汗を吹き出したが、現実は変わってくれずに騎士団の一人の女である井上は呟いた。
「杉山キャノン!」
「なんでもありか、テメェら!?」
その姿を見ていたルルーシュは思った。何があっても井上を怒らせることは止めようと。
「今更だな」
「当たり前でしょ?」
信じられない現実に文句を言っている男の背後に、一匹の悪魔と一匹の鬼が舞い降りた。
その悪魔の顔は仮面に隠れて見えないが、ニコリと笑った鬼の表情はこの上なく恐ろしかった。
「こっから先は全部…」
「私たちのターンなのよ!」
その後、ヤクの密売人達が今後一生のトラウマになるレベルの虐殺(イジメ)が繰り広げられたのは言うまでもない。
次でこの話も一区切りつけたい!