「あはははは!久しぶりだなぁ、彰!再会を喜ぼうぜ親友よブヘ!」
「誰が親友だ大間抜け。何でリフレインなんて危ないもん盗まれてんだ」
ルルーシュからこの事態が起こった原因を聞いた彰は、小悪党どもを全員ぶちのめして少しばかりゆったりしていたカレンを除く黒の騎士団に後処理を託した後(ゼロとカレンと井上以外の幹部は敵以上にボロボロになっていたのは余談である)、隠れてゼロの変装を脱ぎ、周囲を彷徨いながら居るであろう人物を探していたら、予想通りというか何というか、大量のリフレインを持って移動していたジノとジャンを発見した。
遭遇したジノは久しぶりの再会を喜んで彰にハグをしようとするが、男にハグをされたところで全く嬉しくない彰は、近づくジノの顎に蹴りを喰らわせて沈黙させた。
「アイツが俺に任せてくれれば大丈夫って言うから信じたんだけどなぁ。まあ、しょうがないよな!大将の役目は部下を信じることだもんな!」
「おい、もうこいつ殺そうぜ。お前が大将になった方がマシな組織になるだろ」
「それは間違い無いですが、大将が無能の方が、副将の私が輝くので生かしておいてください」
「あははは!何か酷いこと言われてる気がする!」
けどまあ、良いかと言って笑っている馬鹿を見ると、人類が皆こいつみたいなら楽なのにと彰は思ったが、同時に世界が滅ぶと思ったのでこの考えを封印した。
「んで?そのリフレインが例の盗まれたリフレインってことか?物騒な薬を扱いやがって」
「それは違います。それは死んだ奴が、私たちの組織の名前を使って勝手に買い取っただけです」
「その方がヤベェだろうが。セキュリティどうなってんだよ。ガバガバだろ。痴女だってそんなにガバガバじゃねぇぞ」
「ちなみに私はガバガバじゃありません」
「聞いてねぇよ」
「そうだ!ジャンはむしろキツキツだぞってぶるワァァァ!!」
「殺さないんじゃなかったっけ?」
「アレで死ぬようならとっくに殺してるので大丈夫です」
「まあ、そりゃそうだな」
トンチンカンなことを喋り出したジノに向かって、ジャンは無言で裏拳を顔面に放ち、2、3メートル後方へと吹き飛ばす。
普通であれば衝撃映像だが、生憎と普通の人間がいないので何事もなかったかのように話は進む。
「実際セキュリティはガバガバですね。私が厳しくしたくても頭がアレですから。何処からか誰かを拾ってきたかと思えば、素性も確かめずに無条件に仲間に加える。何時か誰かに刺されますよ」
刺されたくらいで殺されるかどうかは疑問ですがと呟くジャンに、彰は無言で首を縦に頷いて肯定する。
この場にカレンやルルーシュが居たら、「お前が言うな」と全力でツッコミを上げていただろう。
「アレはアレで需要があるんだがな。馬鹿みたいな器の大きさ。それでしか救えない奴らもいる。その底に穴が空いてることが最大の欠点だが、稀にお前みたいな器にこべりついた物好きがサポートしてやれば、何とか器として機能するだろ」
「貴方のサポートをレイラがしていたようなものですか。まあ、貴方たちの場合夫婦だった訳ですが」
「うるせぇよ。半分破綻してるようなもんだっつの」
「むしろ、まだ繋がっていることに私は驚きを隠せないのですが」
少ししか知らないが、その少しの間だけでもレイラがどれだけ苦労をしていたかをジャンは知っている。良く未だに関係が続いているものだ。世界七不思議に加えても良いかもしれない。
「ままならないものですね。貴方みたいに好き勝手やっても捨てられない人もいれば、どれだけ尽くしても捨てられる人がいる。本当に世界は理不尽ですよ」
「テメェの話だろ?愚痴ならアイツにでも吐くんだな。悪いが俺はそんな優しくねぇし、何より俺には慰める資格なんてねぇよ」
「また殺り合う気ですか?あの人と」
「そうだと言ったら?俺を殺すか?」
彰はチラリと片手でナイフを掴んだジャンを見る。しかし、ジャンは首を振るとゆっくりとナイフから手を離した。
「生憎と…私にはその資格はありません。逃げて逃げてひたすら逃げて…未だに逃げ続けている私には」
「別に逃げるのは悪いことでもねぇだろ。テメェにとっては、あの野郎が全てだった。その全てが粉々に砕けたんだ。三年くらいで元に戻るようなチャチなもんじゃねぇよ」
「珍しいですね、励ますなんて」
「珍しく愚痴られたんでな。タイムサービスだ。そろそろ終了だぞ?俺の真面目時間は1日2分しかもたない」
「カップラーメンもできないじゃないですか」
「バリカタなら何とかいけるだろ」
「俺はどっちかと言えば少し柔らかめの方が「「だから聞いてねぇよ(ません)」」バグフ!?」
起き上がって早々変な会話の入り方をしたジノが、無表情の二人によって顔面に蹴りを入れられる。痛さのあまりのたうち回っているのに、加害者の二人はカケラも悪いと思っていない。最低である。
「おら、サッサと帰れ。俺は忙しいんだよ。テメェらはもう日本に用はねぇだろ」
「アハハ!相変わらず手厳しいな!」
「嫌われてるんじゃないですか?人類から」
「もっと手厳しい奴が身内にいた!?」
「すいません、間違えました。生物から」
「いや、それ対象の幅広がってる!!」
ジノとジャンのくだらないやり取りにため息を吐いた彰は、ひらひらと手を振ってそのまま立ち去ろうとする。
そんな彰の背中に向かってジャンは問いかけた。
「一つ聞いて良いですか?あの人が全てを終わらせようとしたこの世界を、貴方は…変えられると思いますか?」
そのジャンの質問に彰は振り向きもしないで答えた。
「さあな。そんなもんやってみなくちゃわかんねぇよ」
「で?これはどういう状況だ?」
「見ての通りだ」
「見てわかんねぇから聞いてんだよC.C.」
用事を済ませてルルーシュ達の所に彰が戻ると、仁美がルルーシュに向かって全力の土下座をして、心の底から謝っていた。
されているルルーシュはもちろん戸惑っていたが、カレンは我関せずと言わんばかりに携帯を弄っている。
何時の間にか来ていたC.C.はいつも通りの無表情ではなく、心なしか楽しそうにその騒ぎを見ていた。このエターナルババアは性格が捻くれまくっていると思う。
「何かとてつもなく不愉快なことを考えていないか?」
「…気のせいだろ」
「おい、その間は何だ」
しつこいC.C.の追求を無視した彰は、まだまともそうなカレンに話を聞くことにした。
「おい、カレン。どうしたんだよ」
「あー…実は」
あまり大声で言えない話らしく、カレンはそっと彰の耳に顔を寄せて小声で話をし出した。相変わらず男との距離感が近いので何か良い匂いがしてきたが、言ったら最後、命が取られるのは分かっていたので何も言わなかった。
まあ、とにかくカレン曰く
C.C.も近くに来ていたらしく、ルルーシュとカレンは黒の騎士団と別れた直後に遭遇した。そこにはC.C.だけでなく、仁美も一緒にいた。ルルーシュは仁美の無事を確かめようとしたが、確かめる前に仁美が全力で泣きながら土下座を敢行した。
ルルーシュ達は驚き止めさせようとしたが、記憶にないとはいえルルーシュ様を置いて逃げた自分を許せないらしく止めるなとのこと。何のこっちゃカレンには全く分からなかったが、隣のルルーシュが滝のように汗を流してる姿を見て、ギアスを使ったのだとすぐに分かった。
カレンは盛大にため息を吐き、「アンタの問題なんだからアンタが何とかしなさい」とルルーシュに告げて、この問題に関わることを放棄した。
ルルーシュは「それでも彼女か」と散々文句を言ったのだが、何を言ったところでカレンが協力しないであろうことは伝わったのか、諦めて必死に仁美の説得に取り掛かったということらしい。本当にアイツは馬鹿なんじゃないだろうか。
「相変わらずの残念イケメンだな。無駄にギアスなんか使うからそうなるんだよ」
「そうなのよねぇ…しかも変に口が上手くて器用だから、毎回何とかなっちゃって反省しないもんだから余計なのよねぇ…」
「普通の人間であれば普通に解決するところを、無駄に問題を大きくして無駄に優秀な自分にしか解決できない問題に仕立てあげているからな。完全にマッチポンプだ。完全に能力の無駄遣いだ」
「実はドMなんじゃない?」
「あれだけのレベルの童貞坊やなんだぞ?ドMに決まっている。ドSに責められるのを待っているんだ」
「うわ、彼女として引くわ…」
「完全に偽りだらけの話をまるで真実かのように話すのは止めてもらおうか!俺はドMでもなければ、ドSに責められるのを待ってもいない!むしろ責める側だ!」
「何、でかい声でアンタの性癖暴露してんのよ…」
((というか、童貞坊やに関しては否定しないんだな))
彰とカレンと、面白そうだから話題に加わったC.C.の3人がこそこそ話していると、仁美の説得に区切りが付いたのか、額に青筋を浮かべたルルーシュが会話に割り込んできたが、微妙に的外れなツッコミにカレンが頭を押さえながら修正のツッコミを入れる。
「あら、彰様。何時の間にいらっしゃったのですか?」
「さっきっすよ。仁美さんも無事みたいで何よりっす」
詐欺師(ルルーシュ)に騙され終わったなどとカケラも思っていない仁美の顔を見て、真実を教えてやろうかと思ったが、ルルーシュがうるさそうな上にギアスのことを上手く説明できる自信もなかったので、特にその話題には触れないことに決めた。
「まあ、色々大変だったとは思うがとにかく病院に行くか。コイツもボロボロだしな」
そう言うと彰はくいっと指をルルーシュに向ける。足を負傷したとはいえ、そこまでの負傷具合ではないのだが、カレンと仁美さんは病院に行くことを勧めていた。しかし、基本的に強がりのルルーシュはその意見を真っ向から否定した。
「ふん。そんなことは必要ない。応急手当で十分だ」
あら、そうと言うとカレンはそのままバシッとルルーシュの傷口を叩いた。予想もしていなかったルルーシュはギャァと普段は聞けない声を発すると、涙目でカレンを怒鳴りつけた。
「何の真似だカレンーーーーー!!??」
「はい、病院直行ね。無理しても良いことないわよ。アンタが意地っ張りのことなんて十分知ってるけど時には甘えなさいよ。私なら受け止めてあげるから」
「流石は彼女だな」
「茶化さないで!そんなこと言えばすぐにこの馬鹿無理しちゃって「…そうだな、お前に任せる」…は?」
予想外過ぎるルルーシュの発言に、カレンどころか彰の思考まで停止した。今、この童貞は何と言った?
「あの…ルルーシュ君?もしかしてだけど、任せるとか言いました?他人を信じずに全て自分でやろうとする君が?」
「何で丁寧語なんだ気持ち悪い。ふん、別に大したことではない…ただ」
ルルーシュはふんと鼻を鳴らすと空を見上げながら呟いた。
「お前らのことを疑うくらいなら、明日の朝飯を考えた方が有益だと気付いただけだ」
そんなルルーシュにあるまじき発言を聞いたカレンと彰は思った。
気持ち悪!と。
事態の深刻さに気付いた彰とカレンは、冷や汗を流しながら行動に移った。
「ヤバイなカレン。実はこいつ脳にまでダメージがいっているみたいだ。救急車を待ってる暇はねぇ!病院に直行だ!」
「ええ、そうね。これは深刻な事態よ!一刻を争うわ!急ぐわよ彰!」
「…貴様ら良い度胸だな」
自分らしくない発言を言ったことは自覚しているが、あまりにもな扱いの悪さに少し赤くなっていたルルーシュの顔は一瞬で青筋に染まり、何時も通りの喧嘩が始まった。
その喧嘩を少し離れた所で見ていたC.C.はため息を吐いていたが、側にいた仁美は笑っていた。
「相変わらずだな、この三馬鹿は。全く成長がない。困った奴らだ」
「離れた所で見ていないでC.C.様も混ざればよろしいのでは?」
「冗談でも止めろ。私はあそこまで馬鹿にはなれん」
「良く言うじゃありませんか。踊る阿呆に見る阿呆。同じ阿呆なら踊らにゃ損と」
ニコニコと邪気がない顔で言う仁美は何処までも本気だった。口論する無駄を悟ったC.C.は肩を竦めて小声で呟いた。
「残念だがな。私には踊る資格がないんだよ」
とりあえずの一区切りです