「ほう、なるほど……大分面倒なことになっているな」
桐島から事情を聞いたルルーシュがまず言ったことはそれだった。
「事情は分かった。だが、そんな面倒をお前がする必要があるのか?」
「まあ、普通に考えたらないんだよなぁ」
桐島とてそれくらいのことは理解している。というよりも、桐島もルルーシュと同じことを考えている。本当は、こんな面倒なことに関わりたくはなかったのだ。
「そんなに大事か?そいつらのことが」
「そんなんじゃねぇよ。まあ、簡単に言えば」
桐島は頭をかいてそっぽを見ながら続ける。
「お前にとってのナナリーみたいなもんだ」
「そうか……」
桐島の発言を聞いてルルーシュも優しい顔になる。
「つまり、お前にとって、リョウとかいう奴らは、かけがえのない自分の命よりも大切な宝であり、至高の存在ということか」
「あ、訂正します。俺にとってできの悪い家族みたいなものです」
ルルーシュの余りのシスコンぶりに思わず桐島も敬語になってしまう。簡単に言えば、ドン引きである。
「何だ、なら最初からそう言え」とルルーシュは舌打ちをしているが普通に考えたら、ルルーシュの発想にはならない。
今日も思いっきりシスコン全開である。
「まあ、そんなわけなんだよ。実際、どうだ?」
「どうもこうもない。お前、それをすることによって俺のリスクがどれだけ上がるか分かっているのか?」
もちろん分かっている。この話は、ルルーシュにとってデメリットしかない。そんな男を匿っているのがバレたらどんな目に合うか分からない。それが分かっているからこそ、桐島はお手上げというように手を挙げる。
「分かってるよ。聞いてみただけだ。そんなことをしてもお前には何の得も「まあ、構わんがな」マジで!?」
予想外のルルーシュの返事に思わず桐島も大声になる。そんな簡単に了承して良いのか?
「ただし、3つ条件がある。一つ目は、その男の治療費は全部お前持ちだ」
ルルーシュは指を一つ挙げて言う。それは桐島にとって当たり前のことであり、条件に挙げるつもりもなかった。
「二つ目は?」
「そいつを看護する人を寄越せ。小夜子さんに俺とお前の契約の仕事をさせるつもりはないからな」
「それも問題ない。三つ目は?」
「これが一番大切なことだ。もし、万が一そいつの存在がブリタニア側にバレたら俺はそいつを見捨てる。この三つが呑めるなら預かっても良い」
「……え?そんな条件で良いのか?」
桐島としても、そんな条件でこんな面倒なことを引き受けてくれるのならば有り難いこと、この上ない。
何故ならば、ルルーシュの言った条件は桐島にとって条件でも何でもなく最初から頼むつもりのことだったからだ。
しかし、だからこそ、腑に落ちない。完全にリスクとリターンが比例していない。
「ふん。言ったろう?お前には借りがあるから、大抵の願い事は聞いてやるとな。そいつはテロリストらしいが、別に有名でもないんだろ?」
「ああ。というよりも、無名だな」
「なら、簡単だ。ナナリーと咲夜子さんにはそれらのことは伏せて、テロに見舞われた可哀想な日本人を看護しているということにしておく。日本人だから、何処の病院も受け入れてくれないとな。少し強引だが、お前に頼まれたと言えば不審にも思わんだろう」
「にしたって、バレる可能性はあるぞ?」
「その時はその時だ。バレた時用のカバーストーリーは考えてある。まあ、必要ないだろうが」
いや、いつ考えたんだよと当たり前のことのように言うルルーシュに内心で思う桐島。
そんな桐島を無視してルルーシュは続ける。
「バレるとしたら、そいつをお前が屋敷に連れて来たのを見られる時くらいだ。まさか、それくらいのことが出来ないとは言わないな?」
挑戦的に笑って言うルルーシュに思わず笑みが浮かぶ。
(は、上等じゃねーか)
「なめんなよ?何年テロリストやってると思ってんだ?」
これにて契約は完了とでも言うように桐島はルルーシュから背を向けて歩き出す。
その背中を見ながらルルーシュは問いかける。
「何時来る気だ?」
「明日の深夜だ。安心しろ。時間には遅れねぇ」
バッと屋上から飛び降りる桐島にギョッとしてルルーシュは屋上の縁に近寄るがロープかなにかを利用としたらしく桐島は無事に着地していた。
しかし、変装をし直すのを忘れていたらしく日本人という以前に女装をしている変質者として警備員に追われている。当然である。
「さてと」
桐島のことだから運び出すのは、しっかりとやるだろう。ルルーシュも準備をすることはあるが、それほど手間がかかるものではない。問題は
「ルルーシュ!あんた、女の子と関係があったんだって!?何で私に報告しないのよ!誰、誰!?どんな子!?」
「ルル!何処に行ったのよ、あの子は!?」
「ルルーシュ!!お前あの状態のシャーリーを放っておくなよ!大変だったんだからな!」
「ダメだよ、ルルーシュ!ルルーシュの相手は彰君って決まってるんだから!受けか、攻めか!問題はそれだけだよ!」
完全に誤解したこいつらの誤解を解くには、どうしたら良いかということである。
余談だが、ルルーシュはこの誤解を解くことが一番大変だったらしい。
その後、桐島は何の問題もなく紅月ナオトをルルーシュの家へと運び込んだ。
介護をする人には、そのイケメンの母親という丁度良い人が見つかった。ルルーシュの家で介護だけさせては、目立つので家政婦としても仕事をすることも頼んだが、母親としては、死んだと思っていた息子が生きていただけで満足であり、何の迷いもなく受け入れてくれた。
行く宛のない息子を匿ってくれているルルーシュに、その母親は泣いてお礼を言っていたが、その反応にルルーシュが戸惑いまくっていた。その姿に爆笑していたら、ぶん殴られた。痛くなかったけど。
紅月ナオトの世話をする以上、住み込みで働くことは明白であり、ナナリーと咲夜子さんとの関係も不安だったのだが、この母親は要領は悪いが、性格は素直で物凄く良い人だったのであっという間に受け入れられた。嬉しい誤算だ。
ちなみに、給料は要らないと言っていたのだが変なところで真面目なルルーシュはしっかりと金を払っていた。何処にそんな金が?と聞いたら「色々とな」と言って笑っていた。本当に何なんだよ、こいつ。凄すぎだろ。
「娘を探して欲しい?」
紅月ナオトと、その母親がどんな感じかを聞くために久し振りにルルーシュの所に訪れた桐島にルルーシュはそう言った。
「ああ。何でも一ヶ月程前にブリタニア人の父親のブリタニア側の妻の所に強引に引き取られたらしい」
「あの母親がそんなことを頼むか?」
「いや、最初は言わなかった。だが、休みの日の度に何処かに行くから、心配したナナリーが聞いたらしい。ナナリーは優しいからな。どうにかできないかと俺に聞いてきたんだよ」
「なるほどな。まあ、そんなに面倒なことじゃなくて良かったわ」
兄貴の世話をする場所を確保することに比べたら圧倒的に簡単だ。名前さえ分かれば、一日で分かる。
まあ、アヤノに聞いても分かるとは思うが。友達らしいし。
「んで?その娘の名前は何て言うんだ?」
「本名は紅月だが、今は別名を名乗っているらしい。今の名前は
カレン。カレン・シュタットフェルトだ」
ようやく、次であの子を出せますわ。