「C.C.〜。もうすぐ…もうすぐ行くからね」
先程サイコパスに巻き込まれたせいで、身体中をボロボロにしながらも何とかマオはその歩みを進めていく。これも全てはC.C.に会いたいという純粋な想いが為せる行為。どれだけ歪んで見えようとも、その想いだけは間違いなく本物である。
フラフラになりながらも歩いていると、マオの後ろから大きな声で言い争っている声が聞こえたので思わず反射的に振り向くとそこにはバイクに乗った眼鏡の男性とそれにダッシュで併走している青年の2人の姿が見えた。
「ロイドさん!貴方の部下何ですから貴方が責任を取ってくださいよ!」
「それを言うなら、君こそ上司じゃない!!上司の意見は聞かなきゃいけないよ〜。早く行ってきてよ」
「申し訳ありませんが断ります!!爆弾の雨の中に飛び込む方がマシです!」
そんなことを言い合いながら、あっという間に2人はマオの前を通り過ぎた。人知を超えた男の脚力に思うことがないわけではないが、自分には関係のない話なので気にするそぶりも見せずにマオはそのまま歩き続けた。
そのまま数分歩いた後のこと
(困ったわ…ロイドさんとスザク君は何処に行っちゃったのかしら)
そろそろ何かC.C.のことを知っている奴がいてもおかしくないのだがと思いながら周りの人間の思考を読み取り続けているがなかなか進展がないマオにそんな思考が飛び込んできた。別に気にすることもない思考だったのだが、その思考の主である女が何故か自分に話しかけてきた。
「ごめんなさい。少し聞きたいのだけど、この辺でこの写真の2人を見なかったかしら?」
そう言われて見た写真には先程全力で何かから逃げていた2人が写っていた。
「…数分前に見かけたね。凄い速さだったから、追いかけるなら急いだ方が良いよ」
「ありがとう。なら、お礼にさっき作った卵焼きとレーズンパンをあげるわ。ロイドさんとスザク君のために作ったんだけど、何故か2人ともいなくなっちゃったから」
面倒がりながらも先程の少年との会話を踏まえて、普通にマオが答えると女は笑顔になり持っていたバッグから卵焼きとレーズンパンをマオに差し出した。しかし、そんなことはマオにはどっちでも良かった。何故なら
(いや、どっちもダークマターだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!)
両方ともダークマターにしか見えなかったからだ。
しかも、何が凄いかってこの女が完全にガチなことである。何の曇りもなく、純粋にこの女は自らが生み出したこのダークマターズを与えたら自分が喜ぶと考えているのだ。
冗談じゃないとマオは腕を振って先に進もうと声を荒げるが
「そんな遠慮なさらないでください。私はブリタニア人ですが、どんな人でも差別とかはしないようにしているつもりですよ?」
セシルは振り上げられたマオの腕を掴むとそのまま後ろへと回して見事に関節を極め、そのまま身体ごと地面へと叩きつけた。素晴らしい反応速度だ。この才能が少しでも料理の方にあれば、犠牲者は格段に減っていたのだが今となっては仮定の話にしかならない。
「な、何だよお前!?一般人に本気を出しても良いと思ってるのか!?」
「あら?本気なら折ってますよ。クルーミー圓明流は極めたなら折ります」
「何処の千年不敗の一族!?もうお前、料理なんて作らないで軍人になれよ!?」
「貴方の骨は折ったらどんな音がするんでしょうかね〜」
「ギャァァァァァァァァァァ!!??失礼な発言をしてしまい大変申し訳ございませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!訂正いたしますから早く離してください!!」
「良かった。やはり、人間は話せば分かり合えますよね」
(今のお前の行動の何処に話し合いの要素があった!?)
マオとしてはツッコミどころが満載の発言であったが、言えば今度こそ何をされるか分からないので口に出したりはしなかった。
「じゃあ、はい。実は自信作なんです。こうして会えたのも何かの縁ね。美味しく食べてくれたら嬉しいわ」
(いや、無理に決まってんだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!)
そう言いながらダークマターズをマオの口へと近付けるセシルは文句なしに綺麗だった。目の前にダークマターズが存在しなければの話だが。
顔どころか全身から汗が吹き出したマオは何とか逃れようとするが、思考が読めるギアスでは身体を拘束された現状ではなす術などない。笑顔のセシルはそのまま無言でマオの顔面へとダークマターズを持っていく。
マオの目の前は真っ暗になった。
「はっ!ここは!?」
マオが気がつくと周りにダークマター製造装置はおらず、太陽の位置から多少の時間が経っていることがわかった。
恐ろしさにマオは身震いする。味どころかあの後何があったのかすら覚えていない。あの料理は食事前後の記憶すら奪い去るらしい。
(な…何なんだよ一体ここは…頭のおかしい奴しかいないじゃないか!)
正直、あのダークマターを食べてこの程度で復活したことは幸運以外の何物でもないし、頭のおかしい奴ならまだ他にも存在するので早く逃げた方が賢明なのだがC.C.にどうしても会いたいマオにはその選択肢は取れない。取れれば、こんな災害に巻き込まれることもなかったのだが。
「ナナリー。他にも買いたいものある?」
「私は無いです。カレンさんは?」
「私にも無いわね。じゃあ、帰ろっか?」
(あれ?確かアレってC.C.が欲しがってたものだったような…まあ、良いか。頼まれた訳でもなし)
突如として聞こえた心の声にマオは全力で反応する。そこには、車椅子の少女とその車椅子を押している赤い髪の少女の姿があった。
その事実にマオは歓喜で震える。漸くだ。漸くC.C.と会えるきっかけを掴んだのだ。
迷うことなくマオはその赤髪の少女の肩を掴んだ。少女は鬱陶しそうにマオを睨むが、マオは気にせずに話しかけた。
「ちょっと待ってよ。聞きたいことがあるんだよ」
「私にはないわね。離してくれない?」
「そう言わずに…君さあ…C.C.って知ってるよねぇ?」
マオの言葉にピクっと震えた少女は何故か俯いた。その反応だけで知人だと推察できた。しかも、思考を読める己であれば、もはや隠し通すことは不可能。
「やっぱり知ってるんだねぇ。僕はね。どうしてもC.C.に会いたいんだ!だからね、C.C.の場所を「アンタもなのね…」は?」
マオが少女の言葉に反応した次の瞬間。マオの首筋をかする弾丸と発砲音が轟いた。まあ、つまるところ要するに
「あら、外したわね。まあ、いいか。次に当てれば良いし」
少女(カレン)が、マオに向かって突然拳銃を放ったのだ。
(いや、何でいきなり撃つんだこいつぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!??)
マオからしてみれば意味が分からない。何故、人を知っているか尋ねたらいきなり拳銃を発砲されなければならないのだ。
「何でいきなり発砲されなきゃいけないんだよおぉぉぉぉぉぉ!!!本当に何なんだよこの街の人間は!?まともな奴が誰もいないじゃないか!?」
「その数少ないまともな人間が私よ…ふふふ…良かったじゃない…最後にまともな人間に会うことができて」
「出会って5秒でブッパする人間をまともな人間とは定義しない!!」
「そうね…出会って1秒でブッパする人間にならないといけないわね…」
「反省点そこか!?というか、その前に何で僕がブッパされなきゃいけないの!?」
「あのピザ女の知り合いなんでしょ?なら、どうせボケキャラよ。殺す理由には十分ね」
「偏見が過ぎる!?完全な誤解だよ!?むしろ僕はボケの被害者!?」
「疑わしきは罰せよ。ボケ・即・斬が私の信条よ」
「むしろボケはそっちでしょ!?というか斬ってないし!」
「うるさいわね!じゃあ、良いわよ。証拠見せるから。ちょっとナナリー。アレ出して」
カレンがそう言うと、ナナリーは分かりましたと答えてバッグから銃を取り出した。あの銃で何が分かると言うのだ?とマオが思っているとナナリーは銃をマオに向けた。するとその銃から音声が発せられた。
『ボケ計数82。執行対象ではありません』
「カレンさん。ダメですよ。冤罪です」
「あれ?おかしいわね」
その数値に納得がいかないのかカレンは眉を潜めている。
というか、それ以前に
「いや、それドミネーターだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「違いますよ?ボケミネーターです」
「ボケミネーターって何だぁぁぁぁぁぁぁぁ!?どう考えてもドミネーターにしか見えないよ!!本当にお前らいい加減にしろよ!?勝手に他作品をパクって良いと思ってんの!?」
「もしかして免ボケ体質何でしょうか?」
「そんなのがあっちこっちにいる訳ないでしょ?ああ、分かった。未来分を考慮してないのよ。ちょっと待って、未来分を考慮させてもう一回測ってみるから」
「話聞けよ!?何でこの街の連中は全員人の話聞かないの!?」
『対象の脅威判定が更新されました。ボケ計数オーバー421。執行対象です』
「しかも急に高くなった!?ちょ、ちょっと待って!?何で!?」
「やっぱり私の勘に狂いはなかったわね…ごめんねナナリーちょっと待ってて。すぐに…終わらせるから」
「何を終わらせるつもりだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!待てぇ!そのエリミネーターをこっちに向けるなぁぁぁぁぁ!!僕は無実だぁぁぁぁ!!」
「確かにそうね…アンタは今のところは無ボケ。だけど…」
カレンは目をかっと見開いた。
「疑わしきは罰せよなのよぉぉぉぉぉ!!将来の私の安息のために滅びろぉぉぉぉぉ!!!」
「ノオォォォォォォォォォォォォ!!」
そう言いながらボケミネーターを連射してきたカレンに対して泣きながら、全力でマオはその場を離脱する。
「おかしいアイツ、おかしいアイツ、おかしいアイツ、おかしいアイツ、おかしいアイツゥゥゥゥゥゥゥ!!!誰か本物のドミネーター持ってきなよぉぉぉぉぉぉ!!打ち放題だよ!だってこの街サイコパスしかいないんだもん!助けて狡噛さぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
「んな救いが来るほど甘い世界の訳ないでしょうがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
同時に着弾したボケミネーターの攻撃により、吹き飛ばされたマオは自身の甘さを悟った。これを知っていたからこそ、C.C.は自身を助けるために来るなと言ったのだ。
迷わずにマオは近くにあった電話ボックスに手をかける。あのイカレタ娘は直ぐ近くに迫っている。時間がないのは明らかだった。しかし、マオはC.C.に伝えねばならなかった。この街に居てはならないと。このままでは、C.C.もおかしくなってしまうと。
そして電話は繋がった。一刻も早く伝えたかったが、電話の相手の方が早く言葉を発した。
『はい。公安局です』
「な訳あるかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!何で話聞いてない奴がこっちのボケについていけてるの!?おかしいでしょ!?」
『それはこの世界だと普通のことですよ』
「普通って言葉を一回調べてきなよ!!というか、もう良いや!早くC.C.に代わって!!」
『申し訳ございませんが、常森は今、捕まっておりまして』
「誰が公安の主人公呼べって言ったぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!僕はC.C.を呼べって言ったんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
『確かに私も何故、常森が捕まっているのか全く分からない状況でして。続編の映画がTVで公開されれば直ぐに確認はしようと思っているのですが』
「誰も三期の続編の話何かしてないんだよぉぉぉぉぉ!!ていうか、そんなに好きなら何で映画館に行かないんだよ!?」
「コロナの影響よ。あのせいで何か行くタイミング逃したらしいわ」
「そんなことだけ正確に答えなくて良いよ!良いからお前は早く、!?」
普通に返答してしまったが、一瞬遅れてマオは気が付いた。今の声は電話越しに聞こえたものではない。今の声は背後から聞こえたものだ。
壊れかけのカラクリ人形のような音を立てながら、ゆっくりとマオが振り返るとそこには笑顔の赤毛の少女が立っていた。
その少女は笑顔のまま、ボケミネーターをマオへと向ける。
『セーフティを解除します。執行モード、リーサル・エリミネーター。慎重に照準を定め、対象を排除して下さい』
「悪いけど、この街にボケはこれ以上要らないのよ」
ボケミネーターが光を放つ。もう避けられないとは分かっていた。しかし、どうしても伝えなければいけないことがあったマオは心の底から叫んだ。
「どう考えてもボケはお前らだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
直後、マオの姿は街から消えた。
仁美「ボケミネーターはドミネーターとは一切関係ないです。なので、普通にマオさんは生きてますから安心してくださいね」
C.C.「仁美…お前、一体何を言っているんだ?」
仁美「気にしないでください」(ニコリ)
C.C.「…そうか」(色々諦めた顔)