狂犬ちゃん出したいけど、今からじゃ設定改変しないとキツイ。次から次へと新しい公式設定出てきそうですからキャラブレブレになりそうですし…いや、この作品ならどの道キャラ崩壊しそうなので今更なのか?笑
これは一体どういうことなのだ…?
意味不明な展開にピエール・アノウは新聞を見たまま青褪めていた。意味が分からなかった。これは一体どういうことなのだ?
「こ…これは一体…」
「いやー、流石は我等が上司!立派ですねぇ…イレブンを利用した売春や違法な薬物などを扱っていた組織を一斉摘発。それに関わった政府や軍の人間も等しく告発するとは。素晴らしい志を持った人しかできませんよぉ?なあ、彰君」
「いやー、本当格好良い!よ!世界一!」
異様に自分を褒めてくる部下や客人扱いのイレブンの態度に何故かイラついたがそんなことを気にしている場合ではなかった。何だこれは。仕事を部下に任してサボっていたら何故か急に眠くなり、そのまま寝てしまったのだが起きてみると世界が変わっていた…等ということはないがそれに近いことが起こっていた。
「流石でも何でもないわぁぁぁぁぁ!!ナニコレ!?何時、私がこんなことやった!?私、昨日はずっと仕事してたが!?」
「え、部下に仕事任してたって聞いてますけど?まさかその時間を利用して告発するとは…恐れ入ります」
「ち、違う!!それはただサボっていただけだ!そうだレイラ・マルカル!お前は私が部屋にいたことを証明できるだろ!?」
「…私はそんなこと知りません…」
「レイラ・マルカル!?」
卜部に慰められていたレイラの言葉に驚愕の表情を浮かべるアノウ。何でレイラが慰められてるかって?許してあげて!レイラの罪悪感は既に上限を突破してるの!男どものようなイカれたメンタルをしてないの!本当は優しい娘なの!
「アノウ少尉。凄いですねぇ、まるで英雄のようです」
そんなアノウ少尉の元にツカツカと歩いてきた上官と思われる男は頬に青筋を浮かべながら、嫌味のような言葉を言う。
彰とクラウスは許さないと思った。弱い者のために戦ったアノウに対してこんな言い方はないだろう。彰とクラウスは自分の考える正義を信じて必死の擁護をすることにした。決して面白がってしているわけではない。
「そんな言い方はないでしょう。アノウ少尉は英雄のようじゃなくて本物の英雄なんです。ねぇ、アノウ少尉?」
「そうですよ、誰にもできないことをしたんですよ?これが英雄でなくて何なんですか。ねぇ、アノウ少尉?」
「もう黙ってろ貴様等ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「はっはっはっ、すいませんなぁ、英雄のアノウ少尉。英雄の貴方にはこんな都市は狭すぎるだろう。君にはもっと相応しい仕事場を与えよう」
そう言うと男は懐から取り出した紙をアノウに手渡した。
「異動だ。君には明日からそこで働いてもらう。ここよりもずっと空気が綺麗でのどかな所だ。英雄の君にはゆっくり過ごしてもらわないとな」
アノウは崩れ落ちた。だが、これは終わりではない始まりなのだ。アノウはマダオへの階段を一つ登った。
「何て酷いことをするんだ!アノウ少尉を左遷だなんて!誰がこんな酷いことを!」
「ここに居るお前です」
純粋な正義感から憤りを隠せない彰は声を荒げるがレイラはそんなクズを絶対零度の目線で射抜いていた。とは言え、自分も共犯である自覚のあるレイラは彰を責めることは出来なかった。何でこんな奴の言う作戦に従ってしまったのだろうという後悔があるだけだった。
今更そんなことを考えても仕方ない。自分はクズの作戦に加担してしまったし、アノウの左遷も決まったのだ。過ぎてしまったことを考えるのではなく、自分が守った者に目を向けようと考えたレイラはアヤノに会いに行くことにした。ただの現実逃避である。
「で?彰君は行かないの?」
「行かないですよ。興味ないんでね」
「興味ない人を態々助けたんですか?」
突然、会話に加わってきた男の登場に多少は驚いたが気にした風でもなく言葉を返した。
「いやいや、何言ってんのハメル君?助けたのはアノウ少尉ですよ?英雄様ですよ?」
「本気で言ってるんですか?あの人がそんな器じゃないことくらい多少見てれば分かりますよ」
「目が曇ってるんだよ。アシタカみたいに曇りなき眼でアノウ少尉を見てみろって。そうすればアノウ少尉の英雄っぷりが分かるから」
「…じゃあ、もう、それで良いです」
ため息を吐きながら色々諦めたオスカー・ハメルはそれを受け入れる。間違いなく英断である。
「長いものには巻かれた方が良いですよと伝えたと思うのですが?」
「文化の違いだね。日本だとさー、アレって巻かれたことになるの。まあ、確かに多少巻かれ過ぎて持ち主を倒しちゃったりしてけど、まあ、そんなこともあるよねー」
「…私は今、卜部さんとレイラさんを尊敬しました」
とんでもねぇモンスターを制御しなければならない卜部とレイラにハメルは尊敬の念を抱いた。実際には殆ど制御しきれておらず、多大な負荷をかけられ続けているのだがそんなことはハメルには知る由もない。
「一つ聞かせてもらって良いですか?貴方がアノウ少尉だとして何故、態々彼女たちを助けたと思いますか?あの人にはそんな義理も義務も無いはずでしょう」
「さあなー。義理も義務も無いとしても興味の方は有ったんじゃねぇかな」
「どんな興味が?」
孤独の中にいる時に伸ばされた手に無理やり掴まされたり時のことなど覚えていない。思い出す気にもならない。だが、一つだけどうにも忘れられないこともある。
「手を伸ばす側の気分ってやつかな」
掴まれた手が本当に温かったということを。
「こんな所にいましたか」
アヤノから彰にちゃんとお礼を言いたいという言われたレイラはクラウスと卜部と別行動を取っていた彰を探していたが、ようやく見つけて息を吐いた。探してなくても出てくる癖に探すとなったら中々見つからないとは本当にタチが悪い人間だ。
「何かようか?疲れたから眠いんですけどねぇ」
「残念ながらそれは後回しです。アヤノが貴方にお礼を言いたいようですから、ちょっと着いてきてください」
「いらねーよ、感謝なんて」
「方法はともかく、珍しく誰かを助けたんです。その点だけは感謝されて当然だと思いますけど?」
「助けた…ねぇ」
むくりと起き上がった彰は大したことでもないかのように淡々と続ける。
「アヤノの姉貴の病気だけどな…もう手遅れだそうだ。今から治療したんじゃどんな医療でも無理だとよ」
結局は助けられなかったのだ。カオルは死ぬ。その事実だけは結局変わらなかった。人はいつか死ぬとは言え、少なくとも本人が望む死ではないだろう。本人が望む死とはどんなものなのかは不明である上、それが明確であったとしても望む死を迎えられる人など殆どいないとしても。
「助けたって言っても本当に少しの間だけだ。何がしたかったんだって話。結局、誰を守れたんだか」
一瞬本気で意味が分からなかったが、理解すると何故か冷たい怒りが湧いてきた。この感情を何と呼ぶべきかレイラ自身にも分からなかったが少なくとも不快な感情であることは確かだった。
「何様のつもりですか?」
「は?」
「助けただけの分際で偉そうに」
レイラは彰の胸ぐらを掴むと額同士が触れ合う寸前にまで顔を寄せる。突然の行動に彰が驚くのを無視してそのまま話し続ける。
「勘違いしないでください。貴方に誰かからのお礼を拒む権利なんてあると思ってるんですか?ぐだぐだ言ってないで助けただけの貴方は助けられた人達からの感謝を貰ってれば良いんですよ」
何か反論は?とでも言いたげにジロリと睨むレイラに彰の頬が吊り上がる。美人が凄むととても怖い。
「お前、キャラ変わってね…?」
「貴方の影響でしょう」
そう言うとレイラは彰から目を逸らし、少し離れた所を見遣る。何かあるのかと思って見てみるとそこには満面の笑顔で手を振るアヤノの姿があった。
「少なくともアヤノは貴方に感謝しているみたいですよ」
「…単純な奴だからな」
「その方が幸せじゃないですか。意外と世の中ってシンプルなんですよ?さ、こんなとこにいないでサッサとアヤノの所に行きますよ」
「おい、待て!行くなんて言ってねぇぞ」
「アレ?デートのエスコートをしてくださるって約束忘れたんですか?」
何か勢いに任せてそんなこと言った気もする。守る気どころか覚えている気すらない約束だったのですっかり忘れていたのだが…レイラの笑顔を見ていると何となくそんなことは言えない空気になる。そんな彰を引き摺ってレイラはそのまま歩き出す。全力で抵抗しても良かったのだが彰はため息を吐きながらなすがままに引き摺られていった。
抵抗しなかったのは抵抗しても無駄なのを悟っていたからなのか、レイラの手に触れて昔のことを思い出したからなのかそれは彰にしか分からない。
そのままアヤノと卜部とクラウスの場所に合流し結局全員で祝うことになったのは余談である。
そして、話は現代に戻る。
「へえ、そんなことがねぇ」
すっかり空になったコーヒーのストローを弄びながら驚きと納得の顔を浮かべながらカレンはアヤノの話を聞いていた。
アヤノは昔の話だと言いながらも照れていることから恥ずかしい気持ちは隠せていない。
「ま、別に驚きはしないけどね。アイツらしいと言えばアイツらしいし」
「だから言ったろ?変わらないんだよアイツは」
ふふっと楽しそうに言うアヤノを見てその話を聞いた時から思っていた疑問がカレンの頭をよぎる。
「ヒーローねぇ…」
「本人には絶対言うなよ!!」
「言わないわよ。いや、そうじゃなくてさぁ」
「ん?あ、ゴメン、そろそろ帰らないと」
「え?何かあるの?」
「久しぶりに彰とご飯を食べに行く約束してるんだ。良ければ一緒に来ないか?」
「…止めとくわ。そうでなくても良く会ってるんだし」
「では、私は行くが何の話だったんだ?」
「いや、大した話じゃないから良いわよ。いってらっしゃい。私はもうちょっと座ってるわ」
「そうか?では、また今度だな。じゃーなー」
お金を置いてそのまま走り去るアヤノの背中を見送りながら、何となく先ほどのアヤノの話を思い出す。確かに英雄譚と言えば英雄譚かもしれない。しかし、カレンには少し引っかかりがあった。
「ヒーローか…」
果たしてそれはそういう感情なのだろうか?確かに感謝はしただろうし、当時のアヤノの状況からすればそれを全てひっくり返してくれた彰はアヤノにとって英雄であったかもしれない。しかし、もしアヤノの状況がそこまで追い詰められたものではなかったら?もし今のアヤノが今の年齢で同じことが起こっていたのなら?どうしてもそんなifを想像してしまう。
「ま、無粋よね」
一人で勝手に加速していた思考に苦笑したカレンは思考を切り替えるべく会計を済ませて店を出る。
自分がどんな想像をしようと意味などない。本人がヒーローだと言うのであれば間違いなく彰はアヤノにとってヒーローだったのだ。
カレンから見ればそれが
『初恋』と言える物だったとしても。
カレンの考えは飽くまでカレンの考えであり、実際にそうという訳ではありません。
まあ、感情って明確に区別つかないものだと思いますし別につける必要もないのでは?という考えなのでこんな感じにしました。