結果から言うとカレン・シュタットフェルトは一日所か二、三時間で見つかった。近所にすむ、そこそこ有名な貴族だったからだ。
ここまで簡単なら、あの母親でも何時かは見つけられただろうな。多少時間はかかると思うが。
まあ、見つかったのは良いのだが。
「まさか、探していた女の子がルルーシュと同じ学園どころか同じクラスだとは……何なの、この偶然?」
てか、何であいつは名前を聞いて気付かないんだよ。どんだけ、クラスに興味がないんだよ。どんだけ、興味が妹に振り切ってんだよ。
一応、この事をルルーシュに報告したら『そうか。なら、後は俺がやっておく。心配するな』と言っていたが、本当に大丈夫なのだろうか?
短い付き合いだが、あいつは合理的に命令をしたりすることは天才的だが、人の気持ちを酌むということは案外ポンコツだ(妹は例外)
なので、こんな簡単なことでも面白い、ごほん。大変な事態を引き起こしている可能性があるので一応確認に向かっている。
たまには、テロリストらしい活動をしろって?大丈夫、大丈夫、この間痛い目を見たばかりだから上の方も暫くは動かないから。俺は週休三日で活動してるから。
と、こんなことを言っている間に着いたな。
「おーい、ルルーシュ今どんな」
俺の思考はここで止まった。何故なら目の前で
「何であんたがお兄ちゃんのこと知ってるのよ!」
「……」
赤髪の可愛い女の子がルルーシュの首を両腕で持ち上げていたからである。
流石に予想外過ぎるだろ。何で、こんな状況になってんだよ。あいつは何をやったんだよ。
「ねぇ!何とか言いなさいよ!」
いや、無理だと思うよ。あんたが首を絞めてるから喋れないんだよ。口をパクパクさせるだけになってんだよ。
どうしたものかと思いながら、見ているとルルーシュと目が合う。ようやく俺の存在に気付いたらしい。
一応手を振ってみる。すると何か口を動かしている。えーと、何々?
『こいつを止めてくれ』
聞こえないなぁ笑
いやー、残念だ。残念ながら何を言っているのかさっぱりだ。口を読んだ所、助けを求めているように見えたが気のせいの可能性もあるしねぇ。いやー、残念だ。
別に普段スカしたイケメンが苦しむ様を見てるのが楽しいとか思ってないよ?本当だよ?
そんな訳で笑いながら、二人が遊んでいるのを黙って見ているとルルーシュが物凄い形相で俺を見てきたが、女の子に掴み上げられている状況では全然怖くない。むしろ、笑える。
そのうち、気絶する手前までいったのかルルーシュが口から泡を吹き始める。すげぇ、始めて見た。
しかし、ヒートアップしている女の子はそんなルルーシュの状況に気付いていないようだ。しょうがない、そろそろ助けてやるか。
「あのー、そこのお姉さん?もしもし?」
「何よあんた!今忙しいんだから邪魔しないで!」
「いやー、俺も邪魔したくはないんだけどね。ちょっと落ち着いて掴んでる男の状況見てみ?」
「え?」
俺の言葉で多少落ち着いたのか、少し冷静になって掴んでいるルルーシュを見る。すると、そこには
「…………」
青い顔を通り越して白い顔になって半分昇天しているルルーシュがいた。
「ええ!?ちょ、ちょっとあんた!しっかりしなさいよ!戻ってきて!」
そのルルーシュを見て慌てて手を離して介護をし始める女の子。何を見てるのか知らんが、ルルーシュは「ああ。母さんそんな所にいたんだね。待ってて今行くから」とか言ってる。ルルーシュの母さんが何処にいるのかは知らんが、そこには行っちゃいけない気がする。
そんなことを思いながら、死にかけているルルーシュと慌ててる女の子をボケッと見ていたのだった。
~30分後~
「……本当に死ぬかと思ったぞ」
「ご、ごめんなさい。つい、興奮しちゃって」
ようやく話が出来るようになったルルーシュから話を聞くと、クラスで一人になったカレンを中庭に連れ出して、「お前の兄のことを知っている。放課後、気付かれないように屋上に来い」と言って去ろうとしたら、いきなり首を絞められたらしい。
本題から入りすぎだろ。死んだと思ってる肉親のことについて話したこともない男が知ってるとか言われたら勘違いもするわ。まあ、カレンがこんなに力があるとは思わなかったってのもあるだろうけど。こんなに可愛くて華奢なのにルルーシュを簡単に持ち上げる筋力があるとは。
そのカレンは復活したルルーシュに散々嫌みを言われて今はシュンとしているけど。
まあ、突然手を出したのは悪いけど、デリカシーが無さすぎるルルーシュにも非はあるから、そこまで気にしなくても良いんじゃね?結局生きてるし。
「まあまあ。ルルーシュも大したことなかった訳だし、カレンもそんなに気にしなくても良いよ」
「俺の台詞だがな。そもそも、お前があそこで止めなかったから、気絶まですることになったんだ」
「さて、話を本題に移そう」
「お前後で覚えていろ」
ルルーシュが何か言ってるけど気にしない。さてと
「今さら放課後まで待ってって言っても多分気になって無理だろうし、もう、ルルーシュの家に連れて行った方が早いだろ。昼休みだが、抜けても大丈夫か?」
「おい、何を勝手に」
「いや、もう無理だろ。ここまで言って後三時間くらい待てと言われても我慢できないだろうし」
「そうかもしれんが、二人揃って抜けたら目立つだろ」
「お前ら二人に関係性があるなら別だが、ほとんど知らないんだろ?名前だって知らなかったくらいだし。なら、別にお前ら二人が居なくなったって誰も疑わねーよ」
「ふむ、まあ、一理あるな」
「あのー、ちょっと良い?」
「「ん?」」
俺たち二人が話し合っているとカレンが話しかけてくる。
「何だ、カレン?」
「いや、用って程のことはないけどさ、あんた日本人よね?」
「見ての通りな。ついでに、男だよ。今度デートしない?」
「嫌よ。それよりもさ」
一瞬でフラれた。泣きたくなる。
「何で日本人のあんたとブリタニア人のルルーシュが仲良く喋ってんの?そもそも、何でこんな所に普通にいるの?」
「仲良くはないがな」
「またまたー、お兄様ったらツンデレなんだから」
「むしろ、死ねと思っている」
どうやら、お兄様は思っていることと真逆のことを喋ってしまうらしい。今度病院を紹介しよう。
「まあ、ルルーシュとは色々あったんだよ。そして、何で日本人の俺がこんな所に堂々と来れるのかというと」
喋りながら顔に手を当てる。すると、まあ、不思議。
「こういうのが特技なんだよ」
一瞬でブリタニア人の顔に早変り。これが、俺の潜入調査をする上での最大の武器である。
「「な!?」」
それを見たカレンとルルーシュは流石に驚いている。てか、ルルーシュには一回見せたはずだが。
「目の前で見せられるのは違うだろ。成る程な……こんな特技があるからこそ、あの時も普通に俺の家に来れた訳だ」
「そゆこと」
日本人が行くと目立つ場所に行く時のために、藤堂さんから変装術を教わったのがきっかけなのだが、予想外に俺の筋が良かったらしく、教えた藤堂さんも驚愕していた。「変装の域を超えている」と藤堂さんは言っていた。
「まあ、こういうことさ。納得したか?」
変装を止めながら、未だに驚愕しているカレンに問う。
「あ、うん。てか、藤堂さんってもしかして……」
「そう。ご存じ『奇跡の藤堂』さ。一応俺は日本解放戦線に所属してるんでね」
この呼び方したら、藤堂さん怒るんだけどね。まあ、あんだけ藤堂さんが頑張って勝ったのに『奇跡』の一言で片付けられちゃたまらんわな。
「……お前、そんなに簡単に自分がテロ組織に所属していることを言っても良いのか?」
「いーんじゃない?カレンも所属してるんだろ?」
そもそも、日本人が無許可でこの学園にいることだけでも射殺されるだろうし。今更、罪の一つや二つ増えた所で問題はない。
「……私の所はあんたの所みたいに有名じゃないけどね。弱小のレジスタンスよ」
「まあな。俺も存在さえ知らなかったし」
「おい、否定してやれ。例え、事実だとしても傷つくだろ」
「あんたら二人揃って失礼よ」
青筋を浮かべながら喋るカレン。何か気に障ったのだろうか。カルシウムが足りないのかもしれない。胸に栄養が全て行ってる可能性がある。
俺としてはもう少しお互いを知るために雑談をしていたかったのだが、合理主義の鬼であるルルーシュは話をまとめて先に進めようとする。
「こんな話はどうでも良い。どうする?放課後にするか?出来れば、そっちの方が良いんだが」
「今行くわよ。決まってるじゃない」
「そうか」
うんざりという感じでため息をはくルルーシュ。まあ、諦めろ。この子、絶対に止まらないから。
~ルルーシュ家にて~
「お兄ちゃん!!」
死んだと思っていた兄の姿を見て、最初は信じられないという顔をしていたが、現実だと気付いたのか涙腺が崩壊して、号泣しながら紅月ナオトに抱きついている。
途中で仁美さんも入ってきて、二人で感動を分かち合っている。
親子水入らずにした方が良いと判断したルルーシュと俺はそっと部屋を出ていった。詳しい事情は、仁美さんが話してくれるだろう。それにしても
「あの三人だけ見てると理想の家族なんだけどねぇ。父親は何をやっているのやら」
「……父親なんてそんなものだろう」
あり?何、この微妙な感じ。
「なあ、ルルーシュ?言いたくないなら言わなくても良いけどお前の両親は?」
「……母親は死んだ。父親は生きてはいる。父親だとは認めていないがな」
「今何やってんだ?」
「お前の両親はどうしたんだ?」
そこまでは答えられないか。デリケートな問題っぽいな。
「こんなことやってる段階で察しはつくだろ?死んだよ。もうずっと前にな」
「そうか……」
微妙な沈黙が続く。しかし、暫くすると部屋からカレンと仁美さんが出てきた。
「ありがとうございます。ルルーシュ様。彰様。本当に何とお礼を言ったら良いのか……」
「お母さんから話は聞いた。二人とも本当にありがとう。」
その言葉を俺は「いやいや、それほどでも」と受け取っておいたが、ルルーシュは、そっぽを向いていた。素直じゃないやつめ。そんなほのぼのとした空気の中でカレンが話始める。
「ね、ねえ、ルルーシュ?ちょっと頼みがあるんだけど」
「「駄目だ」」
「まだ何も言ってないんだけど!?」
言われたルルーシュだけじゃなくて、俺も答えてしまう。想像はつくわ。駄目に決まってるだろ、そんなの。
「ふん。最後まで聞かなくても想像はつく。この屋敷で生活したいと言うんだろ?無理だ」
「気持ちは分かるが、無理だな。急に新しい使用人を雇って更に新しい同居人が増えたら、紅月ナオトの件がバレる可能性が上がっちまう」
その言葉にギャーギャーとカレンは言うが、無理なものは無理だ。諦めて、学校が終わってから放課後の間までにしろ。
「それにしても、カバーストーリーが必要だ。いきなり接点がなかったカレンがいきなり俺の家に来るようになれば、流石に怪しまれる」
「そうなんだよなー。そこをどうするか」
俺とルルーシュと仁美さんの三人で何とかカレンを宥めた後に、そんな話をしながら四人で玄関の方に向かう。ん?誰かいるな。てか、あれ?あいつらって
「あ!ルルまた授業サボったでしょ!あれだけ駄目だって言ってって……彰君!?カレンも!?何でここにいるの?」
「おー、皆久し振り」
「軽いな、おい!!結構久し振りだぞ!?てか、本当にカレンさんがいる!?何で!?」
「あ!彰君!久し振り!ねぇ、ねぇ!彰君から貰った本を参考にして私も本を書いてきたの!もし、良かったら」
「あー、うん。ニーナ、それは後でね。久し振りね。彰君。それで、何でカレンはルルーシュの家にいるの?面識あったっけ?」
「え、えーと、それは」
しどろもどろになりながら答えようとするカレンだが、言葉が出てこない。ルルーシュも何かを考えているようだがまだ上手い言い訳が思いつかないらしい。まあ、まさか、いきなり見つかるとは思わんしなぁ。
助けてやりたいが、何と言うべきか。んー、どうするか……あ、簡単な口実があるじゃん。
「いや、俺はともかく、カレンとルルーシュが一緒にいるのは変じゃないだろ?この二人付き合ってるんだぜ?」
全員何を聞いたのか分からないという顔をして、一瞬の静寂が走る。しかし、その一瞬後
「「「「「「「「はあ!!!???」」」」」」」」
学園中に轟くのではないかというくらいの大絶叫がルルーシュの家に響いた。
ちょっと無理矢理過ぎましたかね?