「おい、C.C.。新規の入団試験とかで急に呼び出したことも文句あるんだけどよぉ、それよりも…何でそいつがいるんだよ!」
「おいおい許してやろうぜ玉城さん。コイツだって色々事情はあるんだから許してやろうぜ?確かに歳は若いけど、それだけで実力は決まらんだろ?」
「誰の話をしてんだお前は!!俺が言ってんのはテメェだよ彰!」
「え、俺?何か問題あるのか?」
玉城の言葉に彰は自分を指差した。何故か敵意を感じるのだが心当たりは全く無い。不本意極まりなかった。
「たりめーだ!黒の騎士団の採用試験に日本解放戦線の人間が居て良い訳ねーだろ」
「まあまあ、細かいこと気にすんなよ玉城さんよ。お礼に良いこと教えてやるから」
「良いことだぁ?」
警戒感が自然と強まる。玉城の脳裏に以前の悪しき記憶が蘇る。コイツの言うことを聞いたがために、ビルの屋上から突き落とされそうになったのだ。あんな恐怖は二度とごめんだった。
「どうやら、あの少女は黒の騎士団に是が非でも入りたいらしくてな。そのためなら何でもするそうだ」
「…何でも?」
「そう。何でもだ」
玉城はチラリとマーヤを見る。自身の好みのドンピシャではないが、どう見ても美少女であり興味がそそられないはずがなかった。
「んん、そういやよー、黒の騎士団の試験って毎回同じじゃねぇんだよ」
「素晴らしいな。臨機応変に相手の特徴を踏まえて決めるのは良いことだ」
多様化のこの時代、様々な個性を尊重することが求められる。それには統一テストではなく、人に応じての試験が適切なのだ。
「だろ?それに性の知識の不足も社会問題になってる」
「許せないな。そんなだからちゃんと避妊もできないんだ」
絶対に許せないことだ。それを防ぐ義務が自分達にはあると彰は強く信じた。
「やっぱり実践が大事だよな?」
「当然だ!机の上の知識など何の役に立つ」
机上の勉強を否定はしないが直接の経験に勝るものはない。
「流石だぜ親友!んじゃ、一次試験は体育な!担当者は俺で!」
「二次試験は保健だな!担当者は俺かな〜。しょうがないよな〜」
C.C.はコソコソと話をするクズどもにマシンガンを向けた後、躊躇なく発砲した。後悔など微塵も無かった。
マシンガンの一斉掃射が終わるとクズ二人は地面へと倒れ伏していた。それを見たマーヤが隣で冷や汗を浮かべている中、C.C.は冷めた目でマシンガンを肩に担ぎ直して話しかけた。
「一次試験はこれだ。クズどもに対して躊躇なく処分を下すこと。これができなければ入団は認めん」
「いや、仲間なんですよね!?」
信じられない発言にマーヤは確認をする。至極当然の反応ではあるのだが、ここではその当然は通用しなかった。
「仲間?違うな唯の不良債権だ」
「お、落ち着けよC.C.さんよ…唯の冗談じゃないか」
「そ、そうだぜC.C.。正義の味方の黒の騎士団の幹部がそんな非人道的なことをする訳ねぇじゃねぇか」
血だらけの身体で何やら言葉を発しているクズ2匹を意図的に無視したC.C.はマーヤに言葉を続けた。
「これは対人訓練にも繋がる。実際に人を撃てと言われても撃てない人間が大多数だ。だからこそ、人を撃てるかどうかを見定める必要がある。これはそれを見極める試験でもある」
そう言う問題ではない。そう思ったがC.C.の真剣さに言葉を出せなかった。間違っているのは自分なのではないか?そう感じてしまった。大丈夫。間違ってるのは君じゃない。世界の方だ。
「何、気にするな。どうやら奴等は実践が好きらしいからな。躊躇するなよ。奴等をブリタニア軍人と思え。ブリタニア軍人にお前は手加減をするのか?」
そのC.C.の言葉でマーヤは俯いた。彰は恐怖を感じた。先程の躊躇いがちな表情は一瞬で消えて、無言で銃を構えた。
「私はお前達の…」
「おい、馬鹿話を」
「敵だ!!」
撃つと同時に顔を上げた。瞳は完全な漆黒だった。まるで近づくものを全て吸い込むダークホールのようだ。
「「ギャァアァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」」
〜10分後〜
「初めてだからしょうがないとは言え、クリーンヒットが3発か。奴等はゴキブリのような物だ。その程度では繁殖は防ぎきれん。以後、精進しろ」
「は、はい!」
「「はい!じゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」」
反省会を繰り広げている二人に対して廃墟と化した訓練場からゾンビのように彰と玉城は舞い上がった。身体中血だらけだが、何とか命は拾ったらしい。
「何だお前ら生きてたのか」
「たりめぇだ!!こんなシーンで死んでたまるか!」
「テメェC.C.!黒の騎士団では俺の方が先輩だってことを理解してねぇだろ!」
「まあ、一次試験は合格で良いだろう。続いて二次試験に移る」
「話聞けよ!と言うか何でお前が試験官なんだよ!担当は俺だろ!」
話を無視されたこともそうだが、本来自分が主導すべきところを勝手に進めていくC.C.に玉城は怒りの声を上げる。その声を聞き、ふむとC.C.は少々考えに耽る。
「じゃあ、二次試験は玉城の担当にするか?」
「当たり前だ!」
「よし、なら任せよう」
「おい…」
玉城は怒りで震えていた。何だこれは?担当のはずの自分が何故こんなことになっているのだ?
「二次試験はナイトメアの操縦技能だ。適性検査だけだと測れない部分もあるからな」
「確かにそうだな。決断力とかは実際に動かして初めて見えてくるものだ」
「二次試験はあそこに置いてあるピンの横にブレードを振り下ろせ。ピンから離れすぎた所に落としたら失格。ピンに当てたらやり直しだ」
「あ…あの…ルールは分かりましたが…」
マーヤは目の前の光景が信じられなかった。おかしい、黒の騎士団は自分の夢を叶えるために最高の場所ではなかったのか?
「何だ?何の疑問があるんだ?」
「い、いえ、その、ピンに当てたらどうなるんだろうなって疑問が…」
「代わりのピンを植え込むだけだ。気にすることはない。替えは幾らでも効く。とりあえず扇か、杉…何と言ったかな。まあ、その辺りの連中を呼ぶ予定だ」
「おい、呼んでんだろ!?何だよこれ!?」
「「何だピン」」
「誰がピンだ!」
「お前が担当をやりたいと言ったんだろう?」
「誰もピンの担当をやりたいなんて言ってねぇよ!?」
玉城の現在の姿は首から下が全て地中に埋まっている状態だ。まあ、側から見れば地中から頭を出ているピンに見えなくもない。頭がおかしい人限定の話にはなるが。
「うるさいんだよ、ボケしかしないゴミクズが。久し振りに出たと思ったら二酸化炭素とボケしか吐き出してないだろうが。お前のような存在がこの世界には溢れているんだ。それを間引くのが私の役目だ」
「間引くって言った!間引くって言ったよこの人!」
仲間に向けるとは思えない冷たい視線に玉城は全身に冷や汗を浮かべる。この女は本気で自分を間引く気だと言うことが視線だけで伝わってきた。恐ろしい関係性だった。
「いやいやいや、救いはあるよ玉城さん。安心して良い。アイツも絶対に殺すなんてそんな恐ろしいこと考えてないさ」
「本当かよ!?見ろよあの目!アレで殺す気無いのか!?」
「大丈夫、大丈夫。俺も良く色んな人からあんな目を向けられてるけど生きてるから」
「むしろ良く生きてるなお前!?」
「だから大丈夫さ。まあ、結果として死んでも別に構わないくらいは思ってるだろうけど大したことじゃない」
「どの辺が!?今の発言のどの辺が大したことないんだ!?」
恐怖のあまり勘違いしているようだ。生きる可能性がある段階で優しさに溢れていることに気付いていない。
「あ、あの流石にこれは不味いんじゃ…」
人として当然の感性を持つマーヤはナイトメアに乗ってはいたものの行動を躊躇している。初対面の人間、もといピンに容赦なく攻撃を加えるような異端者でなくて何よりである。
「不味いことはない。お前は戦場でも同じように躊躇うのか?」
「人をピン代わりにして試験をする戦場なんてねぇよ!」
「本当は俺だって止めたいのが本音だ」
「楽しんでるだろ!?今のこの惨状に楽しみを見出してるだろ!?」
「だが、しかし!これは試験だ!この試験を乗り越えた先にこそ見えてくるものがある!お前の夢は!その先にこそあるんじゃないのか!?」
マーヤの心に彰の口先だけの言葉が刺さった。確かにこの人の言う通りだ。自分の夢は普通にしているだけでは決して叶わないものだ。自分の叶えたい夢があるなら。成し遂げたい未来があるなら。どんな試験にも乗り越えるべきではないのか。
マーヤは決意を胸に告げた。
「私…やります!」
「やるんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!馬鹿なのお前!?この試験を乗り越えた先にあるのは俺の死体しかねぇよ!」
「良い覚悟だな。ふふ、私も嬉しくなってきたよ」
「お前が嬉しいのは覚悟じゃねぇよな!?俺の泣き叫ぶツラが見れるからだよな!?」
「おーい、マーヤ。あのピンはブリタニア軍人だぞ〜。ブリタニア軍人だからなぁ〜」
「テメェマジで何時かぶっ殺すからな!?」
マーヤは集中するために目を閉じた。あそこにあるピンはブリタニア軍人だ。両親や幼い子供たちの命を奪った憎い仇だ。今でも夢に見る。両親の姿やあの子達の笑顔を。ブリタニアは皆の笑顔や未来を奪ったのだ。
マーヤが操るナイトメアが空を舞った。
「馬鹿な、あのナイトメアでそんな挙動ができるなんて!」
「シュミレーターとはいえ最高クラスの結果を叩き出したのは伊達では無いな」
「そんなのに感動してる場合か、この人でなしどもがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「そうやって人を人と思わないから!」
「人を人とも思ってないのは俺でもブリタニア軍人でもなくてお前の後ろにいる人でなしどもだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
玉城、もとい、ピンの叫びを無視してマーヤのブレードは振り下ろされた。そのブレードはピンの50センチ程横に振り下ろされていた。恐怖のあまり、ピンは身体中の穴という穴から水分を漏らしていた。
「た、助かった…?」
「50センチか〜、十分合格だろうけどあの挙動を見せられた後だとちょっとな〜」
「確かに物足りないな。おい、マーヤ。もう一度だ。今は当てても良いくらいの気持ちで行ったろ?今度は当てるつもりで行け」
「ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!当てるつもりって殺す気と同様じゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「わ、分かりました!次は当てるつもりでいきます!」
い、嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁとピンの叫びがその後も鳴り響いた。
「…結果発表だ。まあ、合格で良いだろう」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
嬉しさのあまり、頬が赤くなるマーヤを他所にC.C.は顔を顰めていた。
当初は黒の騎士団に入団させるつもりなどなく、テストだけ受けさせて適当な理由で断るつもりだったのだがほぼ文句のつけようのない結果を叩き出されて断る理由を失ってしまった。
ピン?あの後、同じことを数度繰り返されて白目を剥いて気絶してるよ。
「しかしスゲェ人材もいたもんだな。ハーフってのはどいつもコイツも戦闘能力が異常なのか?」
結果を見て流石の彰も感心の声を上げる。ここまでの成績を叩き出すとは予想外だった。
「流石にカレンには劣るがな」
「アレに勝ったら人間じゃないだろ」
本人が聞いたら激怒しそうだが否定材料が全く無かった。
(何故、こうも能力と内面のバランスが取れている連中が居ないのか…)
あんなのを契約者にしたことが間違いだったんじゃないだろうかと共犯者の姿を思い浮かべてC.C.はため息を吐いた。
「…ああ、分かった。よし、準備を進めろ」
片瀬は腹心の部下の言葉を聞いて電話を切った。
その表情は側から見ていても決して良いものとは言えず、思い悩んでいることは明らかだった。
そんな片瀬の自室にノックの音が響いた。
『片瀬少将。桐島です』
「桐島?何だ入って良いぞ」
普通であれば一等兵が入ってくるなどあり得ないことだが、藤堂からの評価が異常に高い桐島は例外的に認めていた。
「何のようだ?急ぎでなければ後にして欲しいが」
「忙しいでしょうからねぇ。だからこそ、先に忠告に来たんですよ」
「忠告?何の忠告だ?」
「今やろうとしていることを止めろっていう忠告ですよ」
「何の話だ」
「しらばっくれないでくださいよ、面倒なんで」
はぁ、とため息を吐く桐島の姿に片瀬は苛立ちを募らせる。自分に敬意のかけらも払わない部下に怒る気持ちは分からなくもない。
「口の利き方に気をつけろよ桐島。誰に話していると思っている?」
「敬意を払って欲しかったら、馬鹿な真似止めてくださいよ」
「馬鹿な真似だと?」
「ええ、自殺行為です。それを避けたかったら」
ポリポリと頭を掻くが目だけは真剣なまま呟く
「今やろうとしていることを全て止めて逃げてください。解放戦線じゃなく日本から。そうしなければアンタ死にますよ」
試験後
C.C.「…」試験結果を見て微妙な顔を浮かべる。
カレン「どしたの変な顔して?」
C.C.「今日、入団試験をしたんだがちょっとな」
カレン「ああ、例のハーフの?結果が文句なしなら良いじゃない」
C.C.「内面がアレでな…」
カレン「この結果なら多少の問題児でも良いんじゃない?」試験結果を見ての疑問
C.C.「彰がドン引きするレベルだとしてもか?」
カレン「論外よ!どんな怪物引き入れてんのよ!?今すぐ断りなさい!」未知への恐怖
C.C.「残念だが決定してしまってな…」
カレン「何とかして拒否するわ!貸して!」試験結果を持って走り出す
しかし、試験結果に文句が無さ過ぎて採用が決定した。
カレンは泣いた。
ルルーシュは必死で宥めた。