「久しぶりだな彰」
「お帰りいただこうか」
目の前のキョウトからの使者ーアキトの言葉にルルーシュはゼロの仮面の下で青筋を浮かべる。
とんでもない勘違いだった。決して許して良い間違いではない。
「その妙な時に気が短いのも似てるな…まさか、こっちが本物か?」
「おい、カレン。どうやら、殺されたいらしいぞこの使者殿は。快く手伝ってやれ」
「落ち着きなさい、ゼロ…まあ、気持ちはわかるけど」
隣に立っていたカレンにはルルーシュが本気で怒っていることとその気持ちも十分に理解できたが、今はそんなことをしている場合ではない。
「まあ、どちらにせよこんな所で正体を明かすようなヘマはしないか…本題に入ろう。ゼロ、これがかぐや様からの手土産だ」
アキトがそういうと、隣のトラックからナイトメアが取り出される。別にナイトメアなど珍しくもないが、見ただけでこれが特別性なのはわかった。
「これは紅蓮弐式。純日本製のナイトメアだ」
「それはそれは…これを何故私たちに?」
「お前たちが一番上手く使える。それだけだ。それにお前たちにとっては今1番欲しいものだと思うがな」
ルルーシュの中でかぐやの厄介さの評価が一段階上がった。会ってもいないのに、黒の騎士団の現状を相当なレベルで理解している。
「否定をしても無意味だな。それで?私に何を求める?」
「気にするな。確かに求めるものはあるが、大したことじゃない」
アキトはかぐやからの伝言を伝えた。
それを聞いたルルーシュは仮面の下で顔を顰めた。
「確かに伝えたぞ」
そう言うとアキトは2人に背を向けてトラックに乗り込み走り去った。
「カレン。今のやつはできるか?」
アキトの車が完全に視界から消えた後にルルーシュはカレンに感想を聞く。
「どうだろ?正直断言はできないけど…多分、相当強い。できるなら相手にしたくないわね」
「そうか…」
「というか何よその質問?」
「実際に見るのと聞くのとでは、やはり違うなと思ってな」
はあ?とカレンは言うが、ルルーシュは既に別のことを考えていた。
彰以外から話に聞いていた限りではかぐやは血筋だけの神輿だということであった。
しかし、蓋を開けていれば頭はキレる上に、思い切りもあるどころかアキトのような使える部下まで持っている。
彰から苦手な女だという評価を貰っている段階で曲者とは思っていたが、ここまでとは思っていなかった。
約束をしてしまった以上、その約束は果たさないといけないがここまでできるとなると付き合い方を考慮する必要がある。
ルルーシュがかぐやとの距離感を考えている中、カレンはキョウトから貰った紅蓮に視線を移す。
「でも、凄そうなナイトメアねぇ…紅蓮かぁ…ねぇ、これ私が乗って良いんでしょ?」
目をキラキラさせながら、カレンはルルーシュに詰め寄る。だが、ルルーシュはため息を吐きながら冷静に告げる。
「…まだ考慮中だ。どこまで使えるか分かってから判断する」
「あー、そっかぁ」
残念と言いながらカレンは貰った紅蓮のマニュアルを捲る。
ルルーシュはそう言ったが、キョウトがあそこまで言い切った以上、かなりのナイトメアなのは考慮せずともわかっていた。
なら、何故ルルーシュがまだ考慮中だと言ったのかと言えばそれはルルーシュの弱さ…いや、性格が原因である。
最早、自分でも認めざるを得ないほどにカレンはルルーシュにとって、大切な存在となっている。そして、恐らくというか間違いなくカレンにとってもルルーシュは大切な存在だろう。
紅蓮に乗るということは、向こうのエースパイロットと相対する確率が高まる。つまり、コーネリアやあの白兜と対決する可能性が飛躍的に高まるのだ。いや、戦略的に言えば相対するのは必然と言える。
カレンの化け物振りを知っているルルーシュから見れば大怪我をするような事態になることはないと思ってはいるが、万が一ということもあり得る。本人がルルーシュのためならば喜んで死地へと突っ込んでいく性格なのだから尚更だ。
カレンのそんな性格はゼロにとって非常に相性が良い。ゼロが最適な戦略を立て、カレンはそれを現実のものへとすべく文字通り全てを捧げて尽力する。結果、最大の戦果を発揮する。少なくとも、正史ではそうである。
だが、この世界線でそうであるかと言えば話は変わってくる。
最適な戦略とは言うが、それは黒の騎士団の犠牲を最小とし、敵の被害を最大にすることを主軸とするもの。極端な話、白兜とコーネリアを両方とも生捕り、もしくは潰せたのならカレンの犠牲があったとしても長期的に見れば良い結果になったと言える。
しかし、そんなことになればルルーシュは最早自分を保てないと断言できる。
分かってはいるのだ。自分にとってカレンがそうである以上、黒の騎士団の誰もが他の誰かにとって大切な存在であることを。
自分が修羅の道を歩むと決めた以上、自分だけが自分だけが安全圏にいることなど許されない。
他の大切な存在…ナナリーやシャーリー、仁美といった人たちであるならば部外者ということで安全圏に置いても言い分は立つ。しかし、カレンは違う。カレンは既に一線を越えている。それを理由に特別扱いもできない。
それに加えて、カレンの破格の才能が邪魔をする。カレンのナイトメアの操縦に関する才能は世界のトップの座に届き得る。現時点ではそうではないであろうが、これは確信だ。カレンは世界最高のナイトメアパイロットに成れる。
そんな人材をエース機に乗せないなどあり得ない。しかし、乗せてしまえば最前線で戦うことは避けられない。
ゼロとしての冷静な判断とルルーシュとしての情が攻めぎあう。この世界のルルーシュはルルーシュとしてカレンと付き合う時間が長すぎた。情の鎖がゼロとしての判断に邪魔をする。
しかも、良くも悪くもこの世界のルルーシュはクロヴィスを殺しておらず直接手を汚した経験がない。つまりは正史に比べて覚悟が足りない。その覚悟がルルーシュを幸せにするかどうかはともかくとしてだ。加えて、自分の正体もギアスのことも全て知っているカレンや彰のような存在が側にいることで精神的に非常に安定している。こんな状態で自分にとって危険な選択肢など取れるわけがない。
(マーヤを紅蓮に乗せるのがベターな選択肢ではある。マーヤでもパイロットとしての技量は十分過ぎる。コーネリアや白兜と相対してもやり合うことは可能だろう)
マーヤではカレンにナイトメアの腕では勝てないが、咄嗟の気転などの判断能力はカレンより上だと思っている。この選択肢も決して悪いものではない。…悪いものではないが、最善の選択肢かと問われれば話は変わってくるのだが。
とりあえず、そう判断したルルーシュは思考を切り替える。誰が乗るかの前に、このナイトメアの特性を理解し、どのような戦略を取るのが最善か判断するのが先であることは間違いないからだ。
「おい、カレン。行くぞ」
「あ、うん、わかった」
カレンは紅蓮のマニュアルを置くと、ルルーシュの後に鼻歌を歌いながら付き添う。
「嬉しそうだな?」
「もちろん♪」
何故か非常に上機嫌のカレンを見てルルーシュは疑問を浮かべるが、そんなルルーシュの顔を見てカレンの機嫌は更に上昇する。
最終的にルルーシュの判断待ちであるが、カレンは紅蓮に乗るのが自分であることに疑いの余地など全く持っていなかった。キョウトが用意した段階で少なくとも、現在黒の騎士団が所有しているナイトメアよりも上であるのであろうし、黒の騎士団で最強のナイトメアパイロットが自分であることは自負している。であれば、このナイトメアを自分が乗らないなどあり得ない。
紅蓮で戦えば、今まで以上の戦果を出すことができる。それこそ、あの白兜だって倒すことができるかもしれない。そうすれば、ルルーシュの悩みの種の一つを消すことができるだろう。
今までルルーシュに守られてばかりであった自分が漸くルルーシュを守ることができるのだ。こんなに嬉しいことはない。
正史でもそうであるのだが、カレンのゼロに対する忠誠心は完全にカンストしている。それに加えて、こちらではルルーシュに対する忠誠心というか好意というかは微妙だがそれも完全にカンストしている。
迷いなくカレンはルルーシュのためであれば命を平然と賭けるだろう。
悲しいかな、カレンのその忠誠心のためルルーシュはカレンを危険に晒せない。そのカレンのためを思うルルーシュの行動がカレンの忠誠心や好意に拍車をかける。
厄介なことに、この2人はどちらも間違っていない。ただ、この2人が相手を思いやっているだけだ。
正史では、この2人のこの性格が災いして最後には袂を分つことになるのであるがこの世界ではどうなるのであろうか。未来は誰にもわからない。
ただ、分かることが一つだけある。
「あ、ルルーシュ。さっきちょっとだけ見たけど、やっぱり紅蓮の性能ってすごいわよ!あれに私が乗ればどんな奴にだって負けないわ!」
「…そうか」
たとえ、ルルーシュが紅蓮にカレンを乗せたくないとしても、カレンを説得させられるかどうかは別問題であるということである。
ルルーシュはカレンに弱い。これも、正史と異なる違いである。
アニメ版コードギアスのルルーシュとカレンの結末は正直、納得いってないんですけどあの2人の性格考えるとああなるしかないんだろうなとも思っちゃうんですよねぇ。
カレン…ルルーシュがついてこいと言えば何処までもついていく(なお、本人としてはそれが幸せと思われる)
ルルーシュ…大切な人には幸せになってほしい(なお、自分の幸せは考慮しない)
ゼロレクイエムか成功すれば、ルルーシュは死ぬ。最悪、カレンはそれに付き合って心中する。もしくは、ルルーシュの騎士として一生、表舞台には出てこない嫌われ者として生き続ける。そんな選択を取るだろうと思われる大切な人をルルーシュが側に置いておくはずもなく…必然的に距離を取るしかないでしょうね、あの男。
ゼロレクイエムを止めるように行動するとかもしそうにないですしねぇ…心では号泣してそうだけど…忠犬…