僕の名前は斉木楠雄。超能力者だったことを除けばただの男子高校生である。
テレパシー サイコキネシス 透視 予知 テレポート 千里眼 etc
大凡一般人が超能力と聞いた際に考えつくことの大半は出来る。そんな超能力者だった僕だが、先述の通り其れはあくまでも過去の話でしかない。
少なくとも今の僕にはテレパシーによる心の声は聞こえない。ジャンプをしても空中浮遊は出来ず、重力に従って地に足を着けてしまう。数秒壁を見つめても透視するようなことはない。壁を殴っても手が痛むだけで前方数キロが破壊されるようなことはない。
ここまでくれば流石に確信が持てる。即ち、僕は超能力を失った。
正直まだ実感は湧かないし、突然のことに不安にもなるが、これまでネタバレが嫌いで出来なかった録画やDVD鑑賞が行えることを考えれば不思議と嫌な気持ちではない。
——そういえば今日から新しいドラマが始まるんだったか?
正直タイトルや出演者から地雷臭しかしない作品だったから興味も湧かなかったが今の僕からすれば些細な事でしかない。早い話が録画できるのなら何だっていい。僕のお気に入りのドラマは昨日放送だったために次の放送まで1週間近くあるため却下だ。
そう考え早速階段を下りテレビをつける。始めての録画のため少々手間取ってしまうが放送時間まではまだまだ時間がある。
漸く録画画面を開き、早速ドラマを録画しようとした時突如として画面が切り代わり日本上空が映し出される。夜空の為日本かどうかの確証は持てないが、日本のニュース番組が海外の夜空を映すとも思えないので多分日本だ。
何か操作を間違えたのかと焦る僕を置いて何やらテンパったリポーターの叫び声がテレビから響き渡る。
曰く日本に向けて大量のミサイルが到来。それを謎の機械が迎撃しているとのこと。
カメラはその様子を映しているらしいが画像が荒い上に、ミサイルの余波でも浴びているのか画面がブレまくっている所為で全く状況が分からない。
肉眼で確認した方が早いと思い千里眼を使おうとするが、そういえば僕はもう超能力を使えないんだと思い出し、仕方なく窓の外を覗く。
するとどうだろうか、タイミングでも図っていたかのように僕の目の前をミサイルが墜落していく。
その墜落先には僕が通っているPK学園が存在し、ミサイルは何の狂いもなくまるで吸い込まれるかのように学校に衝突。
爆発による衝撃波が辺り一面を襲い——
目が覚めた。
もう何度目かも分からない経験に知らず溜息を吐いていた。何時もそうだ、夢の中の僕はそれが夢だと気づかずに超能力が使えないことに喜び、馬鹿みたいに舞い上がる。
いい加減気付けと言いたいところではあるが、それはもう諦めている。
それに、今するべき事は自身の馬鹿さ加減に呆れる事ではない。今見た夢、即ち予知夢に対して対策を講じる方が先だ。
予知とはこれから僕の周囲で起こるであろう出来事を断片的にだが見ることが出来る力のことだ。
ただこの能力には欠点が多い。例として意識的に見る事が出来ない事、情報が少なく、僕自身が現場に足を運ばない限り原因が分からないこと、等が挙げられる。
しかし、それほど悲観する程のことでもない。大抵の場合予知によって見た事故等々はほんの少しの労力で未然に防ぐことが出来ることが多いのだ。
っと言うのも事故とはある種の奇跡の連続によって引き起こされる出来事のため、要因の一つを取り除いてしまえばそれだけで防ぐことが出来てしまう。
もっとも其れはあくまで今までの場合だが。
今回僕の得た情報が確かなら、日本に大量のミサイルが飛んできていることになる。
一瞬北朝鮮辺りかと思ったが、だとしても1日でそう何発も打ち込んでくる理由もないだろうし、それら全てが日本に来ることも考え辛い。
何より一番引っかかるのは、それら全てを謎の機械とやらが撃ち落としていることだ。——まあ厳密には一発落としそこねてPK学園に墜落したが、其れは置いておこう——日本にそんな兵器は無いだろうし、仮にあったとしてもミサイルが飛んできて直ぐに迎撃態勢を取れるとも思えない。
だとすれば考えられるのは、誰かが意図的にそれらを引き起こした事。それはつまり、この世界の誰かがハッキングなり何なりして日本にミサイルを撃ち込み、尚且つそれを迎撃できる機械まで作ったという何とも中二病チックな妄想ではあるが、お生憎様僕はそれを出来る人間を一人知っている。っていうか(本当に不本意だが)僕の兄、斉木空助だ。
不幸にもあいつは人間のことをなんとも思っていないようだから、ただの暇つぶしに日本にミサイルを向けることもやり兼ねない。
全く、斉木家の恥だな。
基本的に関わりがなければ何事にも干渉しない僕ではあるが、今回はその限りでは無い。PK学園が潰れるかも知れない上にその犯人が身内とあっては流石の僕も重い腰を上げざるを得ないだろう。
千里眼でアイツの姿を見つけ、ついでに周囲を見渡す。見たこともない機械が散乱しているので、恐らくは研究室だろう。幸運にも周囲に人影はない。
本来であればこの状態でテレパシーによるお小言の一つでも送ればそれで終わりだろうが、テレパスキャンセラーを装着しているアイツにそれは出来ない。
全く、僕がいない時くらいは外しておけよ。お陰で態々テレポートをしなくちゃいけないだろう。
正直顔も合わせたくないが、もういい。さっさと飛んで何だったら一発顔に入れてやろう。
視界は一瞬にして変わり。先程まで周囲を取り囲んでいた本棚等々はよく分からない機械に早変わりする。実際には僕が移動したんだが。
早速だが目の前で口笛を吹きながらよく分からないものを作っているバカにさっさとお灸を添えて帰ろう。なんなら世界のために消してやりたいが、こんなでも僕の家族であり、何より両親の自慢の息子だ。消してしまえば二人が悲しむ。それは僕の望む事ではない。
『おい』
「——ッ‼︎く、楠雄、急に現れるなんてお兄ちゃんビックリするだろう。……それで、楠雄が僕に会いに来るなんて珍しいね、何か用かい?」
用がなければ態々会いに来るわけ無いだろう。
「ああちょっと待って!当てるから‼︎………うーん、ダメだ全く分からないや。もしかしたら予知夢で日本に迫る大量のミサイルと、それを迎撃する機械を見て、その犯人が僕じゃないかと思いここまでやって来たのかと思ったけど、やっぱ違うよね?」
君、予言者か何かか?
まあいい。正直そこまで言い当てられると気持ち悪いし、薄気味悪いし、生理的嫌悪感が半端じゃないが説明が省けたと思えば少しは気が楽……にはならないが、まあいい。
『お前が何かしたわけじゃないのか?』
「僕が?まさかそんなわけ無いじゃないか。ミサイル飛ばして日本を襲撃するくらいなら、蜘蛛の巣に引っかかった虫の悪足掻きを見てる方がまだ面白いよ」
お前の中の人間ってそこまで無価値なのか?
僕からすれば、犯罪者が身内から出なかった事は嬉しい限りだが、だとすればまだ疑問が残る。つまり
「だとしたら、誰がこんなことを引き起こすのかって事だよね」
ナチュラルに人の心を読むのやめろ。
いや、構っている暇はない。想像もしたくは無いがこの一連の事件が兄によるものでは無いとなるとそれはつまり、こいつに並ぶほどの
正直言ってめんどくさい。素性が分からなければいくら僕でも相手を突き止める事なんて出来ないし、仮に突き止めても実はミサイルは偶然の事故で、たまたま日本周辺を飛び回っていた宇宙人が迎撃したとかいうオチなら無駄足もいいところ。
実際はそんな確率は微小なんだろうが、何より兄だけで変態はいっぱいいっぱいなのに更に増えるのが嫌だ。
まったく、何故この世界にはこんな変態が多いんだ。
ん?変態?
だとすれば、まだ見つけられる可能性はあるかもしれないな。照橋兄にしてもそうだが、世の中の変態の行動は変態にしか分からない。ならば、発想を逆転させればいいだけのこと。変態の行動は変態に聞けばいい。
真面目な顔して、何僕は変態を連呼しているんだ。
『おい、お前なら日本に対して大量にミサイルを撃つならどうする?』
「僕?………成る程、つまり楠雄は僕の思想と、事件の首謀者の発想は酷似していると考えたんだね。正直只の人間と同列に扱われるのは気分が悪いけど、そうだね…」
僕の質問に真剣に考えてくれるところ申し訳ないが、お前には人間がどう見えているのか是非とも教えてくれないか。見下し方が尋常じゃない無い気がするんだが。
「……うん。僕ならアメリカあたりの基地をハッキングしてミサイルを飛ばすと思うよ。ミサイルくらいなら僕の手で作ってもいいけど、それならペットボトルロケットを作って的当てやってた方が面白いし」
もうこいつが犯人でいいだろ。
寧ろ僕にはこいつが犯人にしか見えないぞ。
いや、今は落ち着こう。こいつを刑務所に送り込むのは後でもいい。ハッキングなら僅かでも痕跡を発見できれば、サイコメトリーの応用で逆探知も出来る。あくまでハッキングは可能性でしか無いが、不思議と間違っているような気もしないから多分あってる。
「なら僕が痕跡を見つけようか?最初は興味なかったけど、どうやらそいつ僕と同レベルの天才のようだし、少し見てみたい気もするんだよね」
鏡でもみてろ。
だが、こいつの提案が魅力的なのも確かではある。こと機械の扱いに関していえばこいつは僕の上をいく。それにこいつ自身興味を示している以上僕へ貸しを作ろうという感じでも無い。
『なら頼む』
「OK!…………うん、見つけたよ?」
早すぎるだろ!
「うーん。どうやら随分人を舐めてるみたいでね。ちょっと調べたらすぐ見つかったよ。まあ、まさか基地をハッキングするとは誰も思わないし、ハッキングされてるかをハッキングで調べるとも思ってなかったんじゃ無いかな?」
ハッキングハッキングうるさいな。ハッキングがゲシュタルト崩壊するだろ。
まあいい、情報が分かったのなら後は逆探知して僕自ら黙らせてくればそれで終わりだ。
はじめこそミサイルを止めればそれで終わりだと思っていたが、こういう奴は圧倒的な力でねじ伏せ無いと何度でも同じことを繰り返すのだというのは既に知っている。加えればねじ伏せても何度でも挑んでくる
「ん?………へぇ面白いね」
『なんだ?何かあったか?』
こいつにとっての面白いことは大抵が僕にとって良くないことなので、少し警戒を強めておく。
「いや〜、どうやら僕の存在に気づいたみたいでね。現在僕のパソコンにハッキングをかけてきてるんだよ」
ほらな。何も面白く無いだろ?
『大丈夫なのか?』
「問題無いよ。既にダミーは作ってる。それにこれは対楠雄用だし、
そこまで詳しくは聞いていない。それよりも対僕用って何だ、お前は何を想定している。「おっ、第1関門が突破された」嬉しそうに報告するんじゃ無い!
『本当に大丈夫なのか?』
「楠雄は心配性だな。大丈夫だよ、僕がお前以外に負けるわけないだろ?」
『ならいいが。それよりも早く情報を寄越せ、さっさと逆探知してテレポートして来る』
「え?楠雄が行くのかい?まあ別にいいけど。それなら僕も一緒に連れてってよ、なんか面白そうだし」
『チッ、邪魔はするなよ』
「なんなのこいつ。ねえなんなのこいつ!!ちーちゃんもそう思うよね?思うよね⁉︎」
怒りに身を任せてモノに当たる馴染みを、織斑千冬は何も言わずただ静かに眺めていた。
言ってしまえば、最初から千冬自身はこの計画に乗り気では無かった。ただ、目の前の少女——篠ノ之束がどれだけ努力をしてきたのかを知らない千冬でもない。束の夢である宇宙を目指すために、束が言うところの凡人でも分かるように必死になって噛み砕いた文章を作成していたのも知っている。これで漸く宇宙を目指せると笑顔を見せてくれた束を知っている。使える技術だけを奪われ、計画自体は鼻で笑われて絶望を浮かべた束を、千冬は知っている。
だから間違っていると分かっていながら協力してしまった。彼女も間違っているけど、世界もまた間違っていると自分に言い訳をして。
『残念ながら世界は間違えないぞ。まあ人間は間違っているがな』
「あはは、楠雄も言うね〜」
「「——ッ⁉︎」」
束と千冬以外に誰も居ないはず空間に響く声。その言葉の意味を認識するよりも早く千冬の体は動いていた。殆ど本能的なものによって放たれた拳は寸分違わずピンク髪の男の顔面へと吸い込まれ
『やれやれ、いきなり攻撃とは女の子のすることじゃないな』
当然のように受け止められる。
次に動いたのは束だった。実験用の試作機であるいくつかの兵器をすぐさま起動し、侵入者である二人を迎え撃つ。どうやって侵入したのか、どうやってここを突き止めたのか、疑問は尽きないがどうせ殺す以上関係無いと自身に言い聞かせて。
だが
『全く、話し合いくらいしてもいいんじゃ無いか?』
男が千冬の拳を塞いでいた手とは逆の左手で軽く宙を切る。ただそれだけの動作でまるで見えない力でも働いたかのように兵器はただのガラクタへと成り下がる。
「相変わらず凄いね〜。うん、それでこそ倒し甲斐があるってもんだよ」
『お前は黙っていろ。話がややこしくなる』
こんな状況でなお、日常会話を楽しむほどの余裕のある男二人を前に、千冬は自身の力が抜けていくの何処か他人事のように感じていた。
獣のような雰囲気を身に纏ってこちらに攻撃を仕掛けてきた女の子から力が抜けたのを確認したため、静かに手を離す。
冷静さを取り繕ってはいるが、正直攻撃の意思を感じさせず本能だけで攻撃してきた時は流石の僕も焦った。動体視力だけで対処出来たのは幸いだった。
まあ、仮に当たったとしても僕からすれば大したダメージでは無いため、焦る必要は無いが。
さて、どうやら目の前の彼女達も少しは冷静さを取り戻しただろうからそろそろ本題に入ろう。
見たところ中学生くらいだが、よくよく考えてみれば僕の兄も中学生の時に制御装置を作っているのだからツッコミは無しだ。二人のうちの一人が完全にアリスの世界から紛れ込んできたような格好をしているのも同様にスルーする。
『なぜハッキングなんかした?子供のイタズラでは済まされないことくらい分かるだろ?』
本来ならもう少し踏むべき手順があるのだろうが、僕からすれば早く解決してケーキを食べる方が重大であるため、早々に確信をついた質問をする。
一度質問してしまえば、テレパシーで勝手に答えてくれるため楽に解決出来る。
「答える義務は無いよね」
明らかに警戒した様子でこちらを見るうさ耳の少女。警戒なんて僕を前には無駄だと言いたいところではあるが、面倒なことにこの少女本気で僕の質問に答える気がない。
今だって彼女の頭を占めるのはこの場を脱出する方法や、僕たちを始末する方法だけ。それも並列思考が出来るのか、それらの思考を同時に行なっているため、テレパシーで全てを読み取ることは出来ない。もっとも逃がすつもりなど微塵もないが。
そして、先程僕に攻撃を仕掛けてきた少女は僕という存在の異常性を理解したのか、表情にこそ変化はないがその脳内はとてもじゃないが冷静ではないため、こちらも上手く読み取れない。
やれやれ、本当にめんどくさいなまったく。
「どうしたの楠雄?」
その辺に散らばっていた何やら色々と書かれた紙を眺めながら、何気なく質問してくる兄に殺意を覚える。いや待て、何やってるんだ?
「ん?なかなかに面白いことが書いてあるから見てたんだよ。どうやら彼女達は宇宙に行きたいらしいね」
「「——ッ⁉︎」」
ほう、コイツなんて連れてくるんじゃなかったと後悔していたが、なかなかにいい仕事をするじゃないか。今のコイツの一言で目の前の二人の少女は酷く動揺している。
お陰で先程まではまるで読み取れなかった思考も少しは聞き取りやすくなった。
因みに今現在二人から聞き取れる心の声は驚きと疑問。何故分かったのか、どうやって理解できたのか、そういった声だ。
「どうして分かったのかって顔しているね。なに、そんなに難しいことじゃ無いよ。資料を読んで理解するなんて普通のことだろう?まあそこいらの研究者じゃ、一万分の一も理解できないだろうけどね」
そして、コイツを前にポーカーフェイスを保たないのは失敗だ。僕の考えすらも読み取ることができるコイツが僕以外の思考を読み取れないわけがない。
「お前は、斉木空助⁉︎」
「おや?僕を知ってるのかい?まあ僕は君なんか知らないけど」
一言余計なんだよ。知らないだけでいいだろ。
そう言えば普段の変態な印象の方が強すぎて忘れていたが、コイツはコイツで滅茶苦茶優秀だったな。
だとすれば目の前の少女がコイツのことを知っていてもなんら不思議ではない。今更気づいたのかよとツッコミたい所でもあるが、まあ突然現れた男二人組をよく観察しろと言うのも無理な話だろう。
だが、気になるのは現在そのうさ耳少女の頭を占める感情の方だ。それは尊敬とか嫉妬ではなく、憎悪に近い。十中八九うちの兄が何かやらかしたんだろうが。
「凡人なんかに知恵を売る自称天才さんが、束さんに何か用かな?」
違った、言い掛かりだった。
大分テレパシーで心が読めるようになったから分かったが、うさ耳少女は兄に似て人を見下す傾向にあるらしい。つまり彼女の憎しみは天才である兄が取るに足らない
因みにこの場合知識を売るとは特許を取得することを言っている。
そして、そんなある種的外れな憎しみを向けられてるアイツはというと、笑っている。憐れむように、見下すように嘲笑っている。ホント性格が悪いな。
「お金は大事だようさ耳ちゃん。それに特許を取ればそれだけ僕の名前も売れてくる。そうなれば例えただのガラクタ作りにだって嬉々として支援金を払ってくれるお間抜けさんも出てくるからなかなか便利だよ。まあ、君のように自己完結してしまっている上に、コミュニケーション能力皆無で他人に自分の意見一つ伝えられない寂しがり屋じゃ無理だろうけどね」
コイツは、よくもまあこれだけ上からものを言えるものだ。まあ僕という超えられないが常に側にあって尚、腐らず(人間としては腐っているが)越えようと足掻き続けたコイツは、確かに能力的には人を超えている。努力する天才という奴だ。言ってしまえば微塵も隙はない。
超能力者である僕に勝とうともがくコイツと他の人間では、目指すものからして大きく違うというのは分かりきっている事だ。
だからこそ、コイツは目の前のうさ耳少女を憐れむのだろう。
現在の科学も常識も定説さえも覆す
チッ、シリアスは僕のキャラじゃないんだがな。
取り敢えず、兄に馬鹿にされて先ほどよりも負の念が強くなっているうさ耳少女をサイコキネシスで動きを縛っておく。ついでにもう一人の少女も。
「—ッ‼︎これは……⁉︎」
「—ッ⁉︎……束さんを縛るなんて、これもお前の発明か?斉木空助」
「楠雄、女の子を縛るなんて感心しないね。お兄ちゃんとして注意しておいた方がいいかな?」
三者三様のリアクションどうも。それとお前にだけは注意を受けたく無いな変態。
『話が進まない。さっきの僕の質問に答えろ』
今度はさっきとは違い直接脳内にテレパシーを送る。これ以上ココにいれば嫌でもシリアスな雰囲気になってしまう。僕は騒がしいのは嫌いだが、暗いのも好きではないんだ。
「え?何今の、頭に直接声が響くような(気のせいだよね?)」
「なんだ……これは?(幻聴か?)」
『残念ながら幻聴じゃない。テレパシーだ』
「「……へ?」」
僕には透視能力がある為、3秒も見れなかったが常人なら或いは可愛らしいと思うだろう少女らしい表情を浮かべる二人。
それは彼女たちが初めて見せた、年相応のものだった。
「な、何を言っているのかな?ピンク髪の君は頭がおかしいのかな?(テレパシー?そんな非科学的なことがあるわけないよね?だってもし本当だとしたら、そんなの超能力者としか言いようが……)」
『別に、ただの超能力者だが?それが何か?』
「「………」」
『別に驚く事でもないだろう。事実僕はテレポートでここまで来た。疑うのなら、監視カメラでも見て見ればいい。僕とコイツがこの部屋に突然現れ映像が観れる筈だ』
「楠雄、流石に驚く事でもないは無理があるよ」
『お前は黙ってろ』
結局、彼女たちがフリーズ状態から元に戻ったのは、そんな会話から数十分が経過した後だった。
「それで、束さんの折角のレポートを鼻で笑ったくせに、使える技術だけは奪って言った馬鹿どもが許せなくて、じゃあもう束さんの考えは机上の空論なんかじゃ無いんだって思い知らせてやろうと思って、試作機を作って、それで派手な演出をしてやろうって」
「私はそのパイロットとして束に協力していました。今回のことは止められなかった私にも責任は有ります」
会話が出来るくらいまで冷静さを取り戻した少女達——名前はうさ耳少女が篠ノ之束、強気な少女が織斑千冬というらしい——は僕に対する抵抗は無意味と悟ったのか、最初とは打って変わって素直に事の経緯を白状してくれた。
因みに
『まあ、僕からすれば全て未遂だし、これから先二度とやらないと言うのであれば、何も言うことは無いんだが』
「………(今は話を合わせておいた方が……)」
『僕に嘘は通じないぞ』
「くっ」
このうさ耳、まるで反省していないな。やはりシメといた方がいいか?
だが、正直同情しないわけでは無い。いや、彼女達の行動を肯定する気は無いが、大人も大人だ。
子供の夢を笑っておきながら奪えるものは奪うなど、恥を知れ恥を。うちの父も大抵ロクでも無いが、父は父で通すべき筋は通す。石化した燃堂を破壊した際も真っ先に僕の超能力に頼るのではなく出頭しようとした程だからな。
話は逸れたが、彼女達の話を聞く限り一概に彼女達だけを責めることは出来ない。
言ってしまえば、どうも他人事には思えないのだ。
いや、きっと彼女達、特に篠ノ之束は僕たち兄弟の有り得たかも知れない未来だ。
もし仮に空助に
いや、憎むだけならいい。だが、篠ノ之と違い織斑千冬というストッパーのいない僕なら、或いは空助なら、きっと世界を滅ぼした。
なんせ僕達にはその力がある。今ですら僕も空助も人間に対してさして興味が無いのだ、実際にその立場になってしまえばどうなるか、想像に難く無い。
ふと、一枚のレポートが目に入る。何となく、本当に何となく触れてみる。普段サイコメトリーを封じるために装着している極薄の手袋が破れていたのは、きっと偶々だ。
触れた瞬間に頭を巡る映像。それは寝る間も惜しんでレポート作成に勤しむ篠ノ之の姿だった。その表情はどこか生き生きとしていて楽しそうで、そして嬉しそうだった。
次に見えたのは絶望の表情。ぶつけようの無い怒りを無理矢理モノにぶつけている。その表情は泣きそうで、悔しそうで、悲しそうだった。
見えたのはそこまで、それ以上は何も見えなかった。
やれやれ、ほんとめんどくさいなまったく。
『お前達は、もう二度とこんな事はやらないんだな?』
「やるよ!例え何度邪魔されようと、そんなことで諦める束さんじゃ無い‼︎」
「私も、一度手を貸した以上途中で降りる気は無い。束がやると言う限り最後まで協力する気だ!」
心が読まれるからと開き直りやがって。ここまで言い切られると何も言えないじゃ無いか。
「楠雄。僕は別に何も言わないよ」
僕がこれから何をするのかを理解したのか、妙に優しげな目でそう言う。正直気持ち悪い。お前はいつも通り濁った目で馬鹿の一つ覚えみたいに僕に挑んでいればいいんだ。兄らしい言動をされても、対応に困る。
それに僕がこれからする事は決して同情なんかじゃ無い。
確かに僕には人の心は読めるが、それはつまりその人物の悲しみや苦しみや喜びが理解できると言うわけでは無い。あくまで情報として入ってくるだけで、それ以外は何も分からない。理解できるとも思えない。
なんせ僕は正義のヒーローじゃない。極度のお人好しでも、心優しい紳士でも有りはしない。
僕はただの超能力者だ。
また一つ世界を作り変えてしまった。
後悔は無いが、妙な居た堪れなさはある。
世の中にはISと呼ばれる新たな宇宙服が流通している。なんでもISにはコアと呼ばれるものが必要でその生産量があまり多くはない為か数自体はそれほど膨大というわけでは無いが、まあ技術は目覚しいほどに進化したと言って良いだろう。
中にはISを軍事利用しようとする国もあったらしいが相次ぐ事故によりその計画は破綻しているらしい。現場に居合わせた研究員は皆が皆口を揃えて超能力だなんだと言っているらしいが、やれやれそんな非科学的なことがあるわけないじゃ無いか。小説の読みすぎだまったく。
そうだ、変わったことといえば我が家に地下室ができた。
制作自体は僕も手伝ったために半日も掛からなかったが、両親がたいそう驚いていたのをよく覚えている。まあ、二、三分で受け入れた辺りやはり僕の両親は何処か抜けていると思うが。
それと、家族が増えた。立場的には僕の妹。本人はまた別の関係をご所望なようだが、面倒なのでスルーしておいた。斉木楠雄の♀難は勘弁願いたい。ただでさえ完璧美少女に目をつけられて疲れているのにそこにウサギが加わってしまえばその面倒さは燃堂、海堂、窪谷須、灰呂の煩わしいオールスターすらも軽く凌駕する。
僕は平穏に生きたいだけなんだ。
だがまあこんなΨ難な日々を本当に僅かだが楽しいと感じてしまう辺り、僕も大分毒されてしまっているんだろうな。
「くーちゃん‼︎束さんお手製のコーヒーゼリーが出来たよ‼︎」
『すぐ行く。スプーンを用意して待ってろ』
完
斉木空助の方が年の功や、これまで競って来た相手が異次元なため篠ノ之束より優秀です。あくまでこれは作者の勝手な妄想ですけど。