やはり俺の魔法はどこまでもチートである。   作:高槻克樹

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入学編#1  -Interlude……

「どう思った?」

 

 自らの執務室――生徒会室へと足を向けながら、七草真由美は隣を歩く友人に話題を投げた。

 水を向けられた渡辺摩利も、何がと主語がなくとも話題の主については察したらしい。すぐに応答が返ってきた。

 生徒会と風紀委員会。生徒主動で活動する委員会のトップ二人を前にして、まったく気負うことなく相手して見せた新一年生、それも二科生の男子のことだ。

 

「喰えない男、だとは思ったよ」

「それだけ?」

「面白そうでもあるな、彼の言う、魔法の起動式が読み取れるというのが本当ならばだ」

「嘘だと思う?」

「いや、信じがたいけれど本当だろうね」

 

 嘘を言うメリットもなければ、そんな場面でもないという意見は一致しているらしい。普通ならば、あり得ないと断じるだけの技能だ。三万文字相当のデータを瞬時に解読して式に込められた意味を理解する。

 少なくとも真由美も摩利も無理だ。また周辺の友人たちにも真似出来る者はいない。

 だからそれをハッタリとして使うには弱い。

 しかし何の疑問もなく呑み込むことが出来るほど容易な技能でもない。

 彼にその技能があり得るかもしれないと思わせたのは、第一高校歴代でもトップクラスの成績を弾き出した妹の存在と、彼自身が弾き出した入試成績によるところが大きい。

 

「司波深雪さん、だったかな。生徒会に入れるんだろ?」

「ええ。彼女が受けてくれたら、だけど。早速明日にでも打診するつもりよ」

「服部がやきもきしていたがな」

 

 本当は入学式の当日に話をしに行く予定だったと聞いている。だが式後の家族との時間を優先した司波兄妹に真由美が遠慮した結果として、まだ司波深雪に生徒会への参加を依頼出来ていない状況だった。

 副会長である服部刑部がそのことに苛立っていたことは真由美も感じ取っていた。だからと言って自分の行動が間違っていたとは思っていないのだが。

 

「本当は達也くんも生徒会に入れたかったのだけれど」

 

 ただ面白そうというだけでない、彼は何かを持ち合わせている気がする。勘と呼ぶには曖昧で、だが根拠を示せるほどには明確でない感覚だった。

 

「二科生では厳しいか」

 

 摩利の言葉は、生徒会は一科生しか入れないという校則を指している。ずっと変えたいと思っている規則だが、校則を変えるには相応に障害が多いのだ。深雪に負けず劣らず優秀な部類の真由美でもまだ辿り着けていないくらいには。

 

「でも繋がりは持っておきたいのよね、達也くんとは」

「なんだ惚れたか? 確かに見栄えはいいな。妹さんを初めて見たときほどの衝撃ではなかったが」

「もう、そんなんじゃないわよ」

 

 摩利の軽口は、自分には愛しい彼氏がいることの余裕から来るものだ。彼氏を前にした彼女は、普段の凛々しい「摩利お姉さま」と下級生の女子から慕われる姿とは一転して乙女になる。それをからかうと怒るくせに、普段はこうして恋人のいないこちらをいじってくるのだから手におえない。

 

「見栄えと言えば、比企谷って言ったかな。達也くんが無関係って言っていた一科の男子のほうだが」

「あー、あの子ねぇ……」

 

 記憶にある男子の容姿を引っ張り出す。

 達也に比べたら言っては悪いが平凡だ。中肉中背で、猫背。そして何より、

 

「なんであんなに目が濁っていたのかしら?」

「ああ。あれにはびっくりした。本当に新入生なのかと思うくらい目が淀んでいたからな」

 

 腐っている、という言葉は使わなかった。本人がいないところで聞いているわけもないのだが、言葉がすぎると思ったからだ。

 

「なんだか随分びくびくしていたわね。摩利、怖がられてたでしょ、間違いなく」

「そんなに怖い顔してたかなぁ?」

 

 だが釈然としない摩利の顔が、不意に真面目に戻った。

 

「その比企谷だが、魔法を遣ったように見えたのは、あたしだけか?」

「いいえ。私にもそう見えたわ。なんの魔法かはわからなかったけれど」

 

 もちろん、起動式を読み取れるわけでもない真由美と摩利では、その詳しい魔法の種類まではわからない。そもそも魔法を遣ったというのも状況予測でしかない。

 だから、摩利は彼の名を聞いたのだ。

 

「暴走しかけた一科の一年たちを鎮めたように見えた。何の魔法を遣ったのはわからなかったが、魔法でしかありえない。とすれば、系統外魔法だと思うのだが」

「CADも持たずに事象に干渉したのなら、BS魔法かもしれないね」

「CAD持ってきてないとか、なにしに学校に来てるんだか」

 

 呆れを多分に含ませて、摩利は嘆息する。それについては真由美も同感だった。

 

「ともあれ、一度彼にも落ち着いた場所できちんと話を聞きたいわね」

「同感だ」

 

 摩利はおそらく、彼の使った魔法に興味があるのだと思う。これから部活勧誘期間だ。魔法の校内使用が解禁されるが故に、風紀委員会としてはもっとも多忙を極める時期が来る。一年のうちで、最も逮捕者が多発する時期でもある。暴走するのはさっきのようなプライドばかりの一年生だけではない。上級生たちも新入生確保ために躍起になるからだ。

 その暴走しがちな生徒たちを鎮められる可能性が、あの比企谷という生徒の魔法にあるなら、風紀に引き込めないか――そう思っていても不思議ではない。

 一方の真由美の目的は少し違っていた。

 提出された個人情報を読んでみた限りでは、その内容に特出したものは何もなかった。一般家庭の出自。過去に有名な魔法師がいた記録もない。家族親族にも、彼以外に魔法を遣える者はいない。本当に突発的な魔法師としての才能の発露だ。

 それが比企谷八幡という少年の背景だった。

 一方の司波兄妹も魔法師の家系というわけではないらしいが、こちらはどこか嘘くささを感じている――というのも、真由美の勘でしかないのだが。何より当人達と接した印象としても魔法師としての立ち振る舞いに違和感がない。だから魔法師の家系、もしくは魔法が日常的に傍にある環境なのだろうということは想像出来る。

 日本の魔法師たちのトップに位置する十師族の一つ。七草家の長女である真由美は、魔法師としてのエリート教育を受けてきたという思いがある。

 だからこそ魔法が日常にないような環境で司波深雪に次いで入試総合成績二位を修めた比企谷八幡の成績は、ある意味、司波兄妹よりも異常に思えた。

 だが決して悲観はしていない。忌避もしていない。むしろウェルカムなのだ。あの腐った目はどうかと思うが、そういう意味では摩利と同じで興味に尽きない。

 筆記一位の司波達也。

 筆記二位、実技一位、総合成績一位の司波深雪。

 そして次いで総合二位の比企谷八幡。

 彼らの成績を思い出して思わず頬が緩む。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()は、第一高校に新しい風が来たことを予感させるに、十分な存在だった。

 

 




今日のところの投稿はここまでになります。
ただ月曜のこの時間に投稿して読んでもらえるのかちょっと不安ですが。。。。

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