ガラガラの設定が作者の妄想を駆り立ててできた小説 作:コガイ
ここは、森の奥深くにある村。人口はそれほど多くはなく、活気もあるわけではなかった。大きな祭りを定年行っているわけでもなく、騒がしいという言葉とは、ほぼ無縁であった。
しかしこの日は、村の雰囲気はいつもとは少し違っていた。村の入り口に村人全員が集まっている。ある者は喜び、ある者は寂しい気持ちになり、またある者は自身の気持ちが理解できなくなっていた。
その原因、あるいは中心に立つ人物は一人の少年と一匹のポケモンであった。
「ついに君らまで旅立ってしまうのか。」
声の主は村の中で最年長の村長。白髪と太陽を反射する頭頂部が特徴である人だ。言葉を掛けた相手は先ほども話した少年とポケモンだ。
「すいません、村長。人手が足りないっていうのに……。」
人手が足りない。それは村の建て直しから来る言葉だった。
この村は二年前に全ての家が焼かれ、多くの重傷者が出てしまい、住む場所を失くしてしまった。それから村を復興する為に、人手が必要だったが、元々人が少なく、手伝うポケモンもそうであった。人を雇う金も無い苦しい状況であり、救いは人が誰も出て行かなかった事か。厳密に言えば一人いるが、今はその話をする時ではない。
「いや、そんな事はいいんじゃよ。この村はほとんど元通りになってきておる。」
村長の言う通り、かつてあった傷は消え、悲惨な事があった村とは思えないほどの再生を果たした。
「むしろ、謝らなければいけない方はワシらの方じゃ。本来の旅立ちの日である十歳の誕生日にお主を旅立たせられなかったのじゃから。」
「いえ、あれはここにいる誰の責任でもありません。」
悪いのは奴らです。とまで、少年は言えなかった。それを口にすると感情が抑えきれないような気がしたからだ。
「そう言ってくれると、ワシらの気持ちも楽になる。
じゃが、それとは別に……少し寂しくなるとは思っておる。」
「何言ってるんですか、村長!子供が夢を追うんですから、大人はそれをサポートしないと!」
「お前はこの子の父親なのに名残惜しいという感情はないのか?」
少年の父親と呼ばれる男性はかなり大柄な体型で、顎髭が印象的な見た目だ。
「無い!むしろ、こいつらがどんな成長をするか楽しみで仕方ないですよ!」
その男性は村長に対してはっきりと返答をする。
「やれやれと言ったところか。まあ、メソメソと泣くよりはマシかのう。」
村長はまた別の人を、横目で見る。その人物は少年の母親だ。目から溢れ出る物を何度も手で拭っているが、それはすぐに止まらないだろう。
「うぅ、……ひっく。」
「泣きすぎだ、マヤコ。」
「ヒ、ヒサオさん……、でも……」
男は、泣いている女の言葉を遮り、涙を指で優しく拭き取る。
「親がそんな悲しい顔してたら、息子が安心して旅立てないだろ?ここは笑顔で見送ってやろうじゃないか。」
「……ええ、そう…….よね。」
女性は一旦涙を全て拭き、それがもう出ないように堪えながら少年とポケモンに向き合う。
「……カケル、言いたいことは色々あるけど、母さんから言えることはこれだけよ。
強く生きなさい。」
「母さん……。」
少年にとってその言葉はかつて受けたことのない重みがあった。ただ単純に、どんな事にも負けないで、という意味ではなく、これまでの少年の人生を知っているからこその一言だった。
女性は少年に言いたい事を終えると、今度は少年の肩に乗っているポケモン、カラカラに話しかける。
「カラカラ、貴方も色々あるけど、カケルを支えてあげてね。」
「カラー!」
このカラカラ、頭には皆が見慣れている頭蓋骨を被っている。それが元々誰の物かを考えると……つまりはそういう事だ。
「それじゃあ、俺からもお前達に一言言わせてもらおうかな。」
今度は少年の父親であるヒサオが旅立ちの言葉を手向けとして送る。
「楽しめ!」
先ほどの母親とは打って変わり、非常に軽い一言であった。
「……それだけ?」
「ああ。むしろそれしかないな。
人生なんてのは一度きりだ。楽しまなきゃ損だぞ?」
「はあ……。」
少年は呆れていた。だが、いつもの父親らしいとも思った。この人は本気で言っている。楽しめという言葉は楽観的であれという意味ではなく『苦しいだけの人生は人生なんかじゃない、どうせ生きるのなら楽しんだ者勝ちだ。』彼が少年によく言っていた言葉だ。
「さて、そろそろじゃ。」
村長が旅立ちの時を告げる。
「カケルや。ここはお前の故郷。たま〜にでいいから戻ってくるんじゃぞ。」
「はい、村長。」
少年は返事をした後、自身の両親に向き直す。
「父さん、母さん。行ってきます。」
「カラカーラ!」
「ええ、行ってらっしゃい。」
「おう!」
両親へ挨拶した後、次は村人への挨拶だ。
「みんなー!行ってきます!」
「カラカーラ‼︎」
「行ってらっしゃーい!」
「元気でやれよー!」
「大きくなった姿、見せてねー!」
少年とポケモンが言葉を送った途端、一気に騒がしくなる。それほど、少年が皆に愛されている証拠だ。
一人と一匹は村人全員に見送られながら、旅立つ。姿が互いに見えなくなるまで、手を振り続ける。
この瞬間、新たなトレーナーの旅が始まった。