ガラガラの設定が作者の妄想を駆り立ててできた小説 作:コガイ
日差しがテントの入り口にある僅かな隙間から通り抜け、少年の目に入る。それは一日の始まりを告げる合図。
「うーん……」
「カーラー。」
小さな体格を持ち親の形見である頭蓋骨と骨棍棒を身につけているポケモン、カラカラが、相棒でもある一人の少年、カケルを眠りから目覚めさせようと、彼の体を揺らす。
「んー、後五分ー……。」
だが、その行動を少年は無視してしまう。
「カラカーラー!」
「まだ、大丈夫だって……むにゃむにゃ。」
カラカラは再度、寝坊助を起こそうとした。しかし、彼は寝返りをして、カラカラに背を向ける。
カケルを起床させたい本人はその行動に少し苛立ちを覚えてしまう。
「カーラー!カーラー!」
「………。」
へんじがないただのしかばねのようだ。
どうやら、完全に二度寝したらしい。そのせいでカラカラの怒りは、完全に頂天へと達してしまう。
「カー……」
カラカラは掛け声と共に地を蹴り宙を舞う。そして、テントの天井まで到達すると、また足で蹴り、重力と自身の体重を使い…!
「ラー‼︎」
「いってぇぇぇぇーー‼︎‼︎」
カケルの頭に骨を叩きつける!
——————
「ここがヤマガミシティか。」
おっす!オラ、カケル!昨日旅を始めたばっかの駆け出しポケモントレーナーだ!
いやー。さっき、いつまでも寝ていたいという願望を剥き出しにしていたら、隣にいるカラカラに骨を使った『たたきつける』を頭に喰らってしまったよ。はっはっはっ!
……さて、キャラを戻そうか。知ってるかもしれないが俺の名前はカケル、ヒヨッコのトレーナーだ。出身はシラヌタウン、つまりは昨日旅立った場所だ。夢は……まあ、強くなる事かな?
今連れているポケモンはカラカラ一匹のみ。旅の目的としては色々あるけれど、強いて一つ挙げるならば、今ここにいるパニスラ地方で行われる大会に参加して優勝することだ。その大会は一年に一度開催していて、参加資格は特定のバッジを八個集める事。
今の目的地は、ポケモン図鑑とトレーナーカードを貰える研究所があるヤマシタタウンだ。ヤマガミシティは中継地として訪れた。ここにはバッジが手に入れる事ができるジムがあるけど、今はまだ挑戦するつもりはない。物事には順序があるのだよ。
「昨日は暗くてよく見えなかったけど、明るいと山の上にあるとは思えないほど多くの工場があるな。」
実のところ、ここには昨日の夜に着いていた。宿を取ろうかと思ったが、財布と相談したところ、街の外で野宿する結果となった。
俺が持っている財産は、全て村からの援助金だ。あの村は決して裕福とは言えない。別にケチをつけるつもりではない。むしろ、よく援助金なんて物を出してくれたと思う。だが、その金額は少ないと思わざるを得ない。食費は自然にあるものを取るからゼロとしても、その他の消耗品やら何やらで支出が必要になってくる。どこから収入を得るかも考えなくては。
「それじゃあ、まずは足りない物を買いに、フレンドリィショップでも行くか。」
「カーラー!」
相棒は元気よく答える。『キズぐすり』とか、『モンスターボール』とか、買う物は多くある。財布の中が寂しいので、全部は買えないが、必要な物だけは手に入れる事ができるだろう。
=====
「うん?あの人は……」
ここヤマガミシティは三つの区画がある。工業区と商業区、居住区がそれだ。キャンプは工場区の近くで行い、今は商業区にいる。そして、その一角にある喫茶店のオープンテラスで見たのは、書類とにらめっこしている……
「うーむ、やはりギリギリになるな。」
「また予算で悩んでるんですか?イービルさん。」
顔が少し厳つく、子供に会ったらすぐ泣かれそうなその人こそ、ヤマガミシティのジムリーダー兼ここら一帯にある工場を仕切っている工場長であるイービルさんだ。
「ん?……誰だ、お前。」
「覚えてないんかい‼︎」
「嘘だ。ちゃんと覚えてるから、店で叫ばないでくれ。」
アンタがボケをかましたせいだろ!
「……分かりました。ってか、本当に覚えてるんですか?」
「あったりまえだ。カケルだったな、シラヌタウンに居た。」
「そうですよ。ちゃんと覚えてくれてたみたいですね。」
「まあな。お前もそこのカラカラも元気そうでなによりだ。」
イービルさんに名前を呼ばれたカラカラは、一瞬体をビクッとさせ、そのあと、俺の脚の後ろに回り込んでしまった。
「あー、嫌われたかな?」
「すみません、こいつ少し人見知りが激しい奴でして……」
「なあに、そんな事気にしてない。カラカラは元々他人を怖がる性格だからな。」
「そう言ってくれると助かります。」
この人とは二年前に起こった村の崩壊の後に会った事がある。村の建て直しを行う際に、資金を出してくれた人だ。その他にも、必要な物を貸し出したりしてくれた。
しかし、あの村だけを贔屓しているのではなく、この人は他にも支援を必要としている多くの場所に手助けをしている。性格ゆえか、そういう事は放っておけないそうだ。
だが、同時に金の悩みが尽きない人でもある。理由は前述で察してほしい。本人曰く『先行投資』らしい。
「二年前の支援はありがとうございます。」
「いや、いいってことよ。……そういえば、行方不明になったっていう子供がいたらしいが、まだ見つかってないのか?」
「ああ……あいつの事ですか。」
あいつとは俺と同い年の男で、イービルさんが言った通り、二年前の騒動と同時に、理由も分からず姿を消してしまった。……いや、俺は知ってる。あいつが復讐を目的に旅立って行ったことを。
そのあいつとは同い年だということで、一緒に村で住んでいた時は仲が良かった。あいつとはまた会ってみたいが、その時になんと言えばいいのだろうか。復讐なんて無意味だ、なんてそれを言うこと自体無意味だろう。
「見つかってませんよ。」
「そうか……。」
なんとも、重苦しい雰囲気になってしまった。
「あー、そういや、なんでお前さんはここにいるんだ?」
それを変えようとしたのか、イービルさんは口を開く。
「ポケモン図鑑とトレーナーカードを貰いにヤマシタタウンに行くところです。」
「ほう、と言うことは試験に合格したのか。」
「もちろんです。半月ほど前に知らせが、家へ送られてきました。」
試験というのはこの地方でトレーナーになる為のものだ。場所は今向かっている目的地と同じヤマシタタウン。内容は筆記と実地の二つで、筆記の内容はトレーナーとしての基本知識、実地は野生のポケモンを懐かせる、というものだった。
「なら、お前も一人前のトレーナーだな!」
「その前に、ひよっこが付きますけど。」
「確かにそうだな。……なあ、一つ訊いていいか?」
「いいですよ。」
「そこのカラカラ、戦えるのか?」
その質問は難しい。言葉通りの意味としてそれを捉えるのならば、答えるべきは肯定だ。しかし、この人がいるジムは新人が挑むようなところではない。普通ならば、八個目のバッジを得る為の場所だ。それに見合った強さをカラカラが持っているか、という意味ならば、否定しなくてはならない。
俺がそんな事を悩んでいると、イービルさんは見通したかのように声をかける。
「そんな悩むモンでもないだろ。要は戦う気概があるかどうかだ。」
なら、答えは簡単だ。と思い、返事をしようとしたが……
「カーラー!」
相棒に先を越されてしまった。
「はっはっはっ!さっきまでビクビクしてたのに、バトルとなると途端に目の色変えやがった!」
「全くですよ。」
このカラカラは強くなるという事に関しては、並ではない執念を持っている。バトルに関してもそうだ。理由を持ち出すと、また暗い話になるので、それはこの場で出すわけにもいかない。
「それじゃ、ちょっとついてこい。」
「一体何をするつもりですか?」
「なあに、大した事じゃねえさ。ヤマシタタウンに着くのはもう少し先でも良いんだろ?」
「確かにそうですが……」
イービルさんの言う通り、ヤマシタタウンに到着する日にちは、後でも構わない。最長でも一週間で良い。各地から人が研究所に押し寄せてくるので、それを考慮して研究所は期間を設けた。
そして、ヤマシタタウンとヤマガミシティ、その間に距離はあまりない。あると言えば、ヒラ山のみだ。けっして◯マラヤ山脈ではない。一日もあれば、その道のりを進む事に何の問題もないだろう。
「なら、いいだろ。さっさと行くぞ。」
と強引に話を進められてしまう。こっちははっきりと応じてはいないにも関わらず。だが、相棒がやけに張り切っているので、断るのも野暮だろう。
結果として、俺たちはイービルさんの後について行くことにした。
=====
「ここはジム……ですか?」
「ああ、そうだ。」
連れてこられた場所はジムだった。まさか、この人の目的は、俺をジムへ挑戦をさせる事だったのか?
「なんでジムなんかに連れきたんだって顔してるな。」
「誰でもしますよ、こんな状況じゃ。ちゃんとした説明をしてください。」
「まあまあ、そうカッカすんなよ。実はな、お前と……いや、そのカラカラと戦ってみてえなって思っただけだ。」
戦ってみたい?それもカラカラと?何か含みのある言い方だな……。
「なんでそんな事を?」
「単なる勘と興味だ。深い理由はない。」
「勘って……」
たったそれだけかよ。威張りながら言う事じゃないだろうに。
「……まさか、本気でやるなんて、大人気無い事はしませんよね?」
「するわけないだろう。お前のカラカラに見合った相手を選んでやるさ。」
見合った相手ねぇ。見ただけで相手の強さが分かるのか?
「さあ、中に入ろう。さっさと戦いたくてウズウズしてるんだ。」
「仕事は大丈夫なんですか?」
「……勝ったらジムバッジやるぜ?」
物で釣るなよ、ジムリーダー。
「……その言葉、忘れないでくださいよ。」
まあ、貰える物は貰っておこう。