ガラガラの設定が作者の妄想を駆り立ててできた小説 作:コガイ
急遽行われる事になったイービルさんとのジム戦。しかし、審判を誰にやってもらうかが問題になった。曲がりなりにもジムバッジを賭けた公式試合なのだから、審判は必要だ。いつもならジムにいるイービルさんの弟子兼工場の従業員がやっているらしいが、今は全員工場に勤務中らしい。
どうしたものかと考えていたら、バトルフィールドに老人の清掃員がおり、イービルさんがその人に頼んで審判をやってもらった。
審判は誰でもいいのか。
「えぇ〜、今からジムリーダー・イービルさん対挑戦者・カオル……」
「カケルですよ!」
「おお、そうじゃった。挑戦者・カオルくんの試合を始める。」
また間違えてる。
それはどうでもいいとして。本来のジム戦ならば、周りに観客がいるはずだった。いつもではないが、ここのジムはトレーナーがバッジを獲得するための最後の場所であることがほとんどだ。色々と理由はあるが、今は置いておこう。
とにかく、一定の個数以上のバッジを持っているトレーナーとジムリーダーが戦う場合、資金のために観客を集める。少し汚い話だとは思うが、ジムリーダーも色々と大変なのだ。
というかそうしてもらわないと、転々と旅をする俺たちトレーナーは、お金が入ってこない。実は、試合をするときに勝っても負けても、その後にジムからお金が入ってくる。もちろん勝てば多く貰え、負ければ少ない。
短期バイト以外に旅の資金を稼ぐには、これしかないのだ。親が裕福であれば、話は別かもしれないけど。
「なお、交代は挑戦者だけに認められ……」
「出すポケモンは、互いに一匹ずつだから、そこは関係ないですよ。ユキオさん。」
「おお、そうじゃったな。」
イービルさんが訂正したからいいものの、この人本当に大丈夫か?
まあイービルさんにとっては、記念にバトルしようというぐらいの気持ちだろう。俺は本気で取る気だけどな。
「えぇ〜、先行は挑戦者からになります。両者、まずはポケモンを出してください。」
「よし。じゃあ、俺から先に出すぞ。お前は、ジムバッジをまだ持ってないからこいつだな。
出てこい、ポチエナ!」
イービルさんがモンスターボールを投げると、ぱかっと蓋が開き、中から光が飛び出す。
「ガウッ!」
光が消え、姿を表したのは小さな黒い犬だった。
確か、ポチエナが最初に発見されたのはホウエン地方の筈だ。ここパニスラ地方にも生息しており、割とよく見るポケモンの一匹でもある。そして、タイプは『あく』のみ。ここはあくタイプを使うジムだから、なんら不思議ではない。
隣にいるカラカラの様子を見ると準備万端のようで、肩をぐるぐると回している。さきほどの人見知りは何処へやら。
「勝つ気満々だな、カラカラ。」
「カーラッ!」
カラカラは元気よく頷いた後、前へ出る。バトルフィールドは、何のへんてつもない土のフィールド。最初はあの作戦を
「お二人とも、準備はよろしいですかな。」
「はい。」
「いいですよ、ユキオさん。」
「それでは、試合開始。」
ユキオさんの合図と同時に、カラカラはポチエナにたたきつける攻撃をする。
「カラッ!」
「後ろに跳べ!」
イービルさんの指示を受けたポチエナは、軽々と避ける。しかし、それは想定内の事。ただの攻撃が当たるとは、思っていない。
狙いは、目くらまし。たたきつけるは、地面に衝撃を与えており、その結果、土埃が舞っている。
「土埃を使った目くらましとは、なかなか良い作戦じゃないか。」
イービルさんは、もう気づいているようだ。流石ジムリーダーをやっている事はある。
「だが、甘い。ポチエナ、バークアウト!」
「バウッ!」
イービルさんの指示で、グラエナは吠える事により、音の波動を生み出し、そして土埃を吹き飛ばし、視界を晴れさせようとする。
「
何かが、土埃の中からポチエナへと一直線に、勢いよく飛び出る。もちろんそいつはカラカラだ。その勢いのままカラカラは、バークアウトを紙一重で避ける。そして、一瞬のうちにポチエナの目の前へと移動する。
「ポチエ……!」
「もう遅いですよ。」
余裕の笑みを浮かべながら、格好つける。
土埃で視界を塞げば、相手は対処しようと技を出す。その技を出した後にできる隙を突く。これが、俺たちの先手必取作戦だ。
「カーラッッ!!」
「キュー!」
カラカラは、先程と同じたたきつける攻撃をする。しかし、今度は相手にしっかりと当てられた。
「なっ……!」
しかし、驚いたのは俺の方だった。何故ならば、たたきつけるが当たったポケモンはポチエナなのに、吹っ飛ばされていたのは別のポケモンになっていたからだ。
その別のポケモンというのは、まるで黒い狐のような姿だった。
「いやー、まさか先に貰うとは思わなかった。おかげで、ゾロアのイリュージョンが解けちまった。」
ゾロア?……あの黒い狐の事か。見た事ないポケモンだ。新種か?イリュージョンというのは、メタモンのへんしんみたいな技なのか?
「……その様子だと、何の事かさっぱりみたいだな。」
あ……。まずい、考えが顔に出ていたか。相手に心を読まれる事は、かなりきつい。
「けど、そのポケモンがゾロアだって事は、分かりましたよ。」
「ゾロアっていうポケモンが何なのかも分かってないのに、偉そーな口を利くな。」
「うっ……。」
そこを突かれると痛い。
「まあ、その事についてはバトルが終わった後に話してやる。」
「今話してくださいよ。」
「バカか、お前は。」
ふざけてたら、怒られた。はんせーはんせー。ま、相手にホイホイ情報を渡すわけがないか。
「そろそろ、バトルを再開するぞ……。ゾロア、たいあたりだ!」
「キューン!」
ゾロアはカラカラに向かって真っ直ぐたいあたりをしてくる。それに対して、カラカラはみきりを使い、相手の攻撃を流す。そして、カウンターのたたきつけるをゾロアに当てようとする!
「耐えて、骨を掴め!」
イービルさんが指示を出し、ゾロアは四本の足を広げて、たたきつけるを受け止める。
カラカラが骨を振り切った時、ゾロアはどこにもいなかった。カラカラは見失ったようで辺りを見回す。しかし、
「後ろだ、カラカラ!」
「遅い!ゾロア、そのままひっかく攻撃!」
カラカラは俺の言葉にから後ろ、つまりは骨の先端に掴んでいたゾロアの存在に気づいたが、時すでに遅し。ゾロアのひっかくをまともに受けてしまった。
ゾロアもダメージを受けたものの、不意を突かれたカラカラの方が、ダメージが多い。正に肉を切らせて骨を断つ作戦だ。
「そのままダブルアタック!」
カラカラが体制を整えた瞬間を狙い、ゾロアは攻撃を当てようとする。カラカラは骨を使って身を守ろうとするも、ゾロアはまるで幽霊のようにすり抜けていった。
そのせいで、カラカラは驚きのあまり一瞬硬直してしまう。
「馬鹿ッ!二回目が来るぞ!」
俺の言葉通り、いつの間にかゾロアはカラカラの背中に回り込んでおり、二度目の攻撃をしかける。
「カラッ⁉︎」
そしてまたもや、相手の攻撃をモロに食らってしまうカラカラ。
体制を立て直し、骨を構えるのだが、
「カラカラ、ストップだ。」
俺が止めの声をかける。
「ちょいこっち来い。」
カラカラは不満そうな顔をしながらも、相手に背中を向けないように、後ろ歩きで俺の所まで下がって来る。
「最初の作戦通りにした所とか、かわしてカウンターまでは良かったけど、反撃食らってからは一方的じゃねえか。
イービルさんはゾロアに掴めって言ってたんだから、相手がお前の骨を掴んでることぐらいわかるだろ。あと、フェイントに引っかかりすぎ。一直線の攻撃には、何かあるってちゃんと頭の中に入れとけ。ダブルアタックって技名言ってんだから、二回目あんの分かってんだろ。驚いてる暇があるなら、次にどんな攻撃が来るか予測しろ。」
「……ぷっ、あーっはっはっはっ!」
びっくりした。俺がカラカラに説教してたら、あの人急に笑い出した。
「何かおかしな事、言いました?」
「くっくっくっ……いや、お前は何も間違った事は言っちゃいない。ただ、そんな事をやってるトレーナーは見たことないから、初めてだからよ。」
「そんな事……?」
「だから、試合中にはほとんど指示を出さずに、途中でアドバイスだけを言う事だ。」
「ああ、それの事ですか。」
本来、トレーナーというのは練習中も試合中もちゃんとポケモンに指示を出す。出す技や、タイミング、そのほかにも色々と。それが普通だ。
しかし、俺の場合は、練習中に相手がどういう行動を取ったらどう対処するかとか、フィールドの地形をどう利用できかとかをポケモンの頭に叩き込み、試合中はポケモンに練習でやった事を活かして戦ってもらい、その間にトレーナーである俺は、試合の状況を読み取り、途中でアドバイスをする。それは普通ではない事だ。
「人間がやるスポーツなら、その方法は有効かもしれんが、ポケモンにあれこれ考えろっていうのは無理じゃねえか?」
ポケモンというのは賢いようでそうでもなかったりする。トレーナーの指示無しでは行動が単調になったり、搦め手を使われればすぐに混乱する。それが今の事実だ。
「確かに無理かもしれません。ですが、俺は憧れてるんです。」
「……何に、だ?」
「とある野生ポケモンに、です。正確には元々とあるトレーナーのポケモンだったんですけど。そのポケモンは野生であるにも関わらず、トレーナーの指示を貰っているポケモンに勝つんです。しかも、全くの無傷で。
そのポケモンは、トレーナーの教えをしっかりと受け継ぎ、覚えていた。その姿から俺は、絆というものが見けました。だから、憧れているんです。そのポケモンも、そして持ち主のトレーナーにも。」
こうして口に出すと少し恥ずかしい気持ちになってしまう。誰かに憧れを話すなんてした事なかったし。けれど、嘘を言ったつもりはない。これは、俺が本当に思っている事だ。
「……なるほど。かなり深い訳がありそうだが、その話は後でな。まずは、この試合を終わらせようじゃねえか。」
「そうですね。ならば……カラカラ、ちょっと耳を貸せ。」
俺はカラカラを呼び寄せて、耳打ちで作戦を伝える。
「カラッ⁉︎カラカーラ!」
すると、俺の相棒は驚いた後、反対だと言わんばかりに怒り出す。
「しかたがないだろ!相手へ確実にダメージを与えるにはこれしかないんだ!逆に訊くけど、お前は何か良い案あるのか。」
俺が提案を求めると、カラカラはこちらを睨みつけたまま黙ってしまった。つまり、良い案は無いという事だ。
「無いなら、行ってくれ。悪いけど俺も完璧じゃないんだ。」
「カーラ……」
カラカラは、渋々といった感じでバトルに戻る。あいつにはすまないと思っているが、策はこれ以外に思いつかなかったんだ。
「そんじゃあ、続きをやるぞ。ゾロ……っ!」
自分のポケモンに指示を出そうとしたイービルさんは、カラカラの姿に驚く。
当然だろう。カラカラは堂々と仁王立ちをし、隙だらけの構えをしているからだ。
「何を考えてんのか分からねーが……やる事は変わらねえ!ゾロア、たいあたり!」
ゾロアは、助走で加速をつけて、体をカラカラにぶつけようとして、
しかし、ただやられているわけでもない。体を回し、攻撃の威力を逸らし、骨での反撃を行う。いわゆる、捨て身のカウンターだ。
ゾロアは吹っ飛ばされ隙を見せるが、カラカラはあえて追撃はしない。どこからどこまでが幻なのかが、判断できないからだ。
そして、それが二度三度と続いた時、
「ゾロア!一旦引け!」
イービルさんが止めの指示を出す。
ゾロアとカラカラは互いにボロボロで、そのまま続けていれば引き分けになる可能性が高かった。
おそらく、次に行われるイービルさん指示は、最後になる。
「まさかここまでやるとはな。」
「褒めるのは後にしてください。こっちは本気なんですから。」
「とか言いながら、苦肉の索しか出せてないだろ?」
イービルさんはドヤりながら上から目線で言う。
勝ったも同然ってか。五分の状況なのによくそんな顔ができるな。
「ま、挑発はこれぐらいにして、ゾロア、たいあたり!」
来る、これで勝負が決まる!
ゾロアの全身全霊たいあたりが、カラカラに襲いかかる。それに対して、カラカラはカウンターの構えを取る。
「待て!合図と同時に攻撃しろ!」
しかし、俺は我慢するように指示をする。読みが当たったのか、ゾロアの幻は構えたままのカラカラをすり抜ける。
「今だ!」
その瞬間を見計らい、ゴーサインを出す。カラカラは俺が出したタイミング通りに骨棍棒を振り抜き、姿を隠していたゾロアに攻撃を当て、吹っ飛ばす。
ガッツポーズ……をしかけたその時、とてつもない違和感を覚えた。カラカラの顔をよく見ると、目を見開いていた。まるで、空振りをしたかのような……
「まさか!」
「もう遅い!」
イービルさんが言った通り、今更俺が何を指示したって遅かった。すでに、攻撃を受けたゾロアの
「カーラー……」
カラカラは大きく飛ばされて、仰向けに倒れる。立ち上がろうとする気配もない。これはつまり。
「カラカラ、戦闘不能。よって勝者、ジムリーダー・イービル。」
審判による宣言がジム内に響き渡る。
こうして俺の初めてのバトル、そして、始めてのジム戦は敗北という結果で終わった。