次の日の教室で。
……原作もだけど終業式はいつやったんだろう?
カエデの暗殺宣言の後、すすき野原へ行く前にカエデ以外の面々で終業式に出たことにしときます。
今回原作沿いですが、一部オリジナリティも強いお話になってます。
よろしくお願いします!
渚side
今日は、冬休みに入ってすぐの日……冬休みだから当然学校も授業も何もないんだけど、僕等E組の生徒は全員、朝早くから山の上の教室へと集合していた。
理由はもちろん茅野が殺せんせーを本気で殺しにかかった理由の根幹である、お姉さんの……雪村先生の真実を知るために。殺せんせーとの約束通り、先生の過去を教えてもらうために。
「……オーケー繋いでみて、律」
『はい!』
『……おはよ、皆』
「おはようカエデちゃん!」
「調子は?体調悪化してない?」
『あはは、大丈夫だよ。むしろそこまで傷があるわけじゃないのに体力だけ戻らないから、どこにも行けないし暇で暇で……』
「何言ってるんだよ!神経焼き切れかけて内臓もやられかけてて傷がないとかありえないだろ!?」
「そうですよ、助かったとはいえ後遺症が残っていてもおかしくなかったんですよ!?」
『う、そう言われると何も返せないなぁ……先生が言うには全治2週間で済んだのが奇跡だって。……あはは、私も、アミサちゃんのこと言えないね』
「……本トだよ」
本当ならこの教室の中でも1番この話に関係があると言える茅野の目の前でやるべきなんだろうけど、触手を1度もメンテナンス無しで1年近くも植え付けたままいた事と、全開戦闘で触手と精神と肉体を融合させたことによる後遺症で入院が決まってしまったんだ。茅野も話を聞けないまま離れることを嫌がってたし、入院を1日遅らせるって案も出たんだけど、死ぬ寸前まで体力を消耗した上に身体を酷使したんだ……何があるか分からないと、殺せんせー必死の説得とE組全員からの反対で泣く泣く頷いていた。
代わりと言ってはなんだけど、茅野が入院している病室に律がリアルタイム中継をすることで話がついた。電波とかが周りの医療機器に影響しないかって問題も、1度アミサちゃんの入院の時に試していたから大丈夫だって確信をもてる方法だ。
「おはよー」
「おっす、渚」
「おはよ、みんな」
『……来てないね、アミサちゃん』
「カルマ君と一緒に来るんじゃないかな?」
「アミサにはカルマと烏間先生から知らせたんだよね?だったら連絡自体はいってると思うし……いざ来なかったとしても、私達が聞いた話を後から伝えれば大丈夫だよ」
「……うん」
冬休みに入る前……昨日の出来事は今までに経験したことがないくらい濃すぎる夜で、たった数時間のことなのに嫌でも鮮明に思い出せる。
まずは茅野の仕掛けた捨て身の暗殺……彼女曰く、触手の拒絶反応を耐える中でシロに接触されて道具倉庫に掘った落とし穴を作ることだけ手を借りたってことが分かってる。ただ、協力していたと言うより......自分の手で雪村先生の仇だと思っている殺せんせーを殺したいのに、茅野に対して一方的に言うことを聞かそうとしてきたのにムカついて、反発してたからよく分からない、という茅野の証言があるから、あれはほとんど彼女1人で行った暗殺なのだとは思うけど。
それと、なんとか茅野を触手の侵食から助けた後に現れたシロと、彼に連れられた顔まで隠した謎の『2代目』の存在。シロが連れてきたらしい、あの場へ唐突に呼び出された日本に居るはずのない魔獣との戦闘。そして今はまだこの場に来ていない、1人の女の子が人外の生き物と戦うところを初めて見た衝撃……
「そういえば、菅谷と速水は問題ないのか?」
「おー、へーきへーき。真尾が回復魔法使ってくれたおかげだな」
「お前の場合平気じゃなきゃ困るけどな……芸術家の命だろ、腕」
「私も……ギリギリで避けたと思ったのに、急に目の前が真っ暗になって……本気で焦った」
「……お前らって負傷者がでたから、真尾は戦ったんだろうな。だって最初は4班と一緒に逃げてただろ、あいつ……」
「最初こそすぐに戦ってくれてたら怪我人も出なかったのにって思っちゃったけどさ、……真尾のことだし、きっと、本トはあんな戦う姿とか見せたくなかったんだろ」
「アミサちゃん、飛び出す直前に言ってたもんね。『見せたくなかった、知られたくなかった』って」
……アミサちゃん。
烏間先生達戦闘のプロですら、E組のみんなに当てないよう射撃をしようにもあれだけE組全員を翻弄して動きも早い魔獣には撃ちあぐねていたのに、一切躊躇することなく飛び出していき、すぐさま倒してしまったあの戦闘力。ロイドさん達から彼女の実力について聞いてはいたけど、僕等を庇った状態であんなに強いなんて……目の前で直接見ても正直信じられなかった。普段の、1人では極力前に出ないでみんなの後ろから見ていることが多くて、特定の人と組むと予想外の行動力を発揮するあの子の姿とはまるで違う......なんというか、的確に殺りに行っていた、というか。
そして魔物を倒してからシロに単身挑んだ後、何を決意させてしまったのかいなくなってしまって……そのまま、連絡を入れても返事がないし、今日も会えてない。いや、昨日の今日だし、会えないってだけなら普通なのかもしれないけど……言いようのない不安が僕等の中に燻っていた。
……それはともかく、烏間先生やビッチ先生も遅れずに教室に来ていて、なにやら2人で話し出しているのに、アミサちゃん以外にもまだ来ていない
「……カルマ、まさか遅刻ってことは無いよな?」
「いや、でもあの遅刻魔&サボり魔だ。ありえるぞ」
「で、でも……帰り際に明日までには頭冷やしておくって言ってましたし、よっぽどでなければ来ると思いますけど……」
『私には朝早くからメッセージ来てたよ、これの開始時間の連絡。【律を通して教室に映像送るから、見られてもいい格好をしといた方がいいんじゃない?病院着がどーとか言ってる奴もいたし、寝癖ついてたら笑ってあげるねw】っていう余計なお世話付きで……!』
「カルマ君……;」
ベットの上に座りながら手を握りしめてプルプルと震えている茅野……女の子にそんなこと言ったらそりゃあ怒るよ。ていうかカルマ君、自分が間に合ってない中茅野にはそんなメッセージ送ってたの?
そんなことを話していると、前の扉を開けてゆっくりと殺せんせーも教室に入ってきた。「学校でもない日なのに皆さん早いですねー」って空気を変えるように言っているけど、僕等はあまり元気に返事をする気になれなくて、表情は変えないでも少し先生も肩を落としている。だって、これから聞くのは明るい話じゃきっと無いはずだから。それを分かっているから、殺せんせーも何も言わないんだろう。
──────バタバタバタバタバタッ
これで教室にいないのはアミサちゃんとカルマ君の2人だけ……いよいよカルマ君は寝坊なんじゃないか、そんな空気が流れ始めたところで廊下をバタバタと走る音が……そしてスパーンッと大きな音を立てて後ろの扉が開かれる。
「はァ、はァ、は、……ねぇ、アミーシャはッ!?」
「え、き、来てないけど……」
「はー、はー、……クソッ、ハズレか……」
「カルマ君、とりあえず座ってください。そんなに慌てていては大事なものほど取りこぼしてしまいますよ」
「……あーはいはい……あ゙ー、あっづい……疲れた」
「い゛ッ、すごい音したんだけど……」
「てか、今12月だよね、何その汗……」
「改札出てからここまで全速力で走って来た。フリーランニング無しの休憩無しはキッツいわー……」
黒いコートを肩からかけて、手にもう1つのロングコートを抱えたまま自分の席まで行くと、カバンを机の横に引っ掛けながらそのまま机にゴンッと音を立てて突っ伏したカルマ君は尋常じゃない量の汗をかいていた。無言で手を頭の上に挙げて『5分ちょうだい』と僕等にサインを出して手を下ろしてからピタリと動かなくなって……すぐさま無言でカバンの中からタオルを出した磯貝君がバケツリレーのように後ろへ回し、千葉君がカルマ君の頭の上にかける……さすがイケメン、行動が早い。
そして、奥田さんがハッと気付いたように自分の水筒を取り出して渡そうとしてるけど、それそのまま口を付けるタイプのだからやめた方がいいんじゃ……と思ってたらすぐ前に座っている速水さんが止めた。彼女の代わりに俺のだけど文句言うなよ、と言いながら岡島君が千葉君経由で水筒を回してる。
……皆、分かってるんだ、カルマ君は遅刻したくてしたんじゃなくて、見つからないアミサちゃんを探して走り回ってきたんだってことを。誰よりも、もしかしたら本人以上に気にかけている彼だからしょうがない、だから何も聞かずに世話を焼いてる。……ていうか、慌てていても律儀に烏間先生との約束守ってフリーランニングを使わずにここまで来たんだ……茅野へのメッセージといい、こういうところといい、謎にマメだよね、カルマ君って。
そして本人の宣言通り5分後、顔を上げたカルマ君は岡島君の水筒の水を飲んで幾分かスッキリした顔をしていた。
「……落ち着いた、ごめん」
「いや、……分からんでもないしな」
「寝坊したんじゃないかって話になってたんだよ、連絡も無いし」
「あー……うん、スマホの存在忘れてた。岡島水筒サンキュ、ほとんど飲んじゃったし近い内にジュースでも奢る。磯貝〜、このタオルこのまま貸してー」
「おまッ、マジで空じゃん……持ってきて正解だったな」
「おー、洗って返せー」
この重たい雰囲気があったとしても、いつも通りのノリで話せるのがE組のいい所だと思う。だから焦っていたカルマ君も次第に落ち着きを取り戻せたんだと思うし、僕等も慌てなくて済んだ。
1人以外は全員揃った教室で、殺せんせーに向き合う……先生は長い長いため息を吐いて、僕等を見回した。
「……アミサさんだって私の大事な生徒なんですがねぇ……、彼女本人から皆さんとの約束を果たすようお願いされましたし、いないままですが話すしかありません」
「録音してもいいなら律に頼んでそれ送って貰うとか方法あるよ?」
「一応国家機密の話ですし、流出がコワいのでそれはナシで。責任問題になったら先生嫌です。……誰か、先生の話が終わった後に彼女へ会えたら直接話してあげてください」
相変わらずの小心者な殺せんせー……、……教室にしばらく無言の時間が流れた。殺せんせーが僕等へ話すのを躊躇うほどの過去話……一体どれだけ重い話なのか、そして、そこには茅野にとっての真実を覆せるだけの根拠があるのか。……緊張で心臓の音が聞こえてきそうだ……ようやく先生も覚悟を決めたのか口を開く。
「……カルマ君が血相を変えて教室へ入ってきた理由を聞いてませんでしたねぇ。コレは聞いてもいいことですか?」
「「「なんでだよッ!?」」」
……、……思わず気が抜けてしまった。教室にいるほぼ全員からの総ツッコミを受け、何事ですかってワタワタしながら触手を動かしているけど、先にこの空気壊したの殺せんせーだからね?
「せんせー……」
『だから皆に段取り悪いって言われるんだと思うよ?』
「だ、だって気になるじゃないですかッ!」
「……別に……今朝、こっち来る前にアミーシャの家に寄ったけど、いなかったんだよ」
「あー、そんなこと言ってたな。家にいなかったのはお前の態度で分かったけど……そんなに血相変えるほどのことか?」
「……いなかった
「「「?」」」
カルマ君も話さなきゃ殺せんせーは諦めないと察したんだろう……そっぽを向きながら話し始めた。教室にいないかって駆け込んできた時点でそうだろうとは思っていたけど、やっぱりアミサちゃんは家にいなかったらしい。でも、アミサちゃんは烏間先生に魔獣の流れてきた経路を探すって言ってからいなくなったし、それの調査でまだ家に帰ってないだけかもしれない。一応今日は冬休みだから、招集をかけたとはいえ絶対に学校に来なくちゃいけない理由はないし。
でも、それだけではカルマ君が慌てる理由にならない……僕でさえ思いつく可能性を、僕より頭の回転が早い彼が思い付いてないわけがないんだから。そして、そのまま続けたカルマ君の内容は誰も想像もしていないことだった。
「……もぬけの殻だったんだよ、家の中、家財道具全て……何一つ痕跡すら残ってなかった。だけど家が売りに出されたわけでもなくって……俺の預かってた合鍵が使えたってことがアミーシャのいた証拠になんのかなー……って。ここ1ヶ月家に入れてもらえなかったのはこれの準備のためだったとしか考えられない」
「「「!!?」」」
「そんな……」
1ヶ月って……確かに僕やイトナ君も一緒にカルマ君の家で集まることはあっても、アミサちゃんの家へ最後に行ったのはだいぶ前。リーシャさん達が学園祭を機会に来た時くらいだ。どこで集まるかを決める度にそれとなくアミサちゃんは自身の家を候補から外していて……そんなに前からいなくなる準備をしていたってこと?
「はー……アレがあるとしたらアミーシャの部屋だと思ってたんだけど……遅かった」
「アレ?」
「2年前の俺への誕プレ。俺と渚君に直ぐ渡せたってことは、手元にいくつか持ち合わせがあったってことでしょ……アレと同じのがあるって睨んでたんだけど」
「……それを探してどうするのさ?」
「どうってそりゃあ……、あれ、渚君は覚えてない?……覚えてないなら、俺の覚え間違いかもしれないけど……うーん」
2年前にアミサちゃんがカルマ君に誕生日プレゼントとして渡したものといえば……僕にはクリスマスプレゼントとしてくれたあの白い石のことだろう。僕も当然大事に飾ってある、ホワイトストーン……珍しいもののはずなのに僕等へ簡単にくれたってことは、確かにアミサちゃん用に余分に1つあったとしてもおかしくない。
だけど、あれを見つけたらアミサちゃんの居場所がわかる手がかりになったっていうの?……あの石に何か、意味とかあったっけ……?
「あ、ちょっと待って。みんな、もう少し時間ちょうだい、もう一個心当たりあたりたい。……律、リーシャさんに繋いで」
『リーシャさんですか?スマホで繋ぎます?それとも私本体で繋ぎます?』
「あー……茅野ちゃんとも繋いでて回線がパンクしないならどっちでもいいけど……」
『じゃあ本体で繋いでみますね!こっちの方が大きく見えますしっ』
アミサちゃんの居場所を探すなら、確かにリーシャさんは知っているかもしれないし、クロスベルも候補の1つだ。殺せんせーに待ってもらいながら律を経由して連絡をとってもらうと……映し出されたのはどこかの、……あれ、外?
『もしもーし、カルマー?あれ、どーしたのー?今通信かけてくるのって珍しいね?……あ、もしかして冬休みっていうお休みになったの?!おしゃべりする?!』
「……ん?」
「リーシャさんじゃなくね?画面に誰も映ってないし」
明らかにリーシャさんじゃない子ども特有のマシンガントークというか高い声が律から流れてきて、全員が一瞬訳が分からなくなった。いや、誰?ってなったんだけど、1番最初に復活したのはカルマ君だった。
「いやなんでリーシャさんの端末にかけたのにキーアが出てんの……?」
「へ、あのチビッコか?」
『キーアはチビじゃないもん!リョウマ達がでっかいだけ!ロイド達よりコドモなのにロイドよりおっきいんだもん、おかしいでしょっ!……今リーシャね、手が離せないからキーアが出てって端末渡されたの、……あ、今魔獣との戦闘が終わったみたいだから呼んであげる!……リーシャ、映してもいいー?……いいって!ほら』
「「「ッ!?」」」
ひょっこりと顔をのぞかせたのは茅野より薄くて鮮やかな黄緑色の髪を揺らしたキーアちゃんだった。思わず突っ込んだ寺坂くんに対して可愛らしく反論したあと、叫んで許可取りしたらしいリーシャさんが画面に映し出されると、彼女は特務支援課の人達と一緒にいたらしく、こちらに向かってくるところだった……って!?
「はわわわわわ……」
「いやリーシャさん!?なんッて服着てるんですか!?!?」
「み、見えそう……」
『うーん、一応戦闘装束なだけなんですが……』
『はは……ワジくらいだよな、この服装に面と向かってツッコミ入れたのって』
『え、その後ダクトを通る時に』
『だーッッ!掘り起こさないでくれ!コホン、……ひさしぶり、E組のみんな』
なんていうか……アルカンシェルの衣装も相当だったけど、今着てる服装もかなりかっこいい反面際ど過ぎないですかね……?僕等の認識はそこまで間違ってないみたいで、普通に首を傾げてるリーシャさん以外の特務支援課の面々は苦笑いだ。
引っ掻き回すワジさんと振り回されてるロイドさんも相変わらずだ……というかそのまま気にせず話を続けようとするリーシャさんは本トにアミサちゃんのお姉さんだなって感じがする。……殺せんせーとか真っピンクだよ、置いておかないで欲しい切実に。
『どうしたんです?いきなり連絡を入れてくるなんて……今ってお休み期間に入った頃じゃ……』
「……あの、そっちにアミーシャがいたり、連絡入ってたりしませんか?……昨日、いろいろあって連絡が取れなくなってしまって……」
『……えっ!?私は何も聞いてませんが……連絡も入ってなかったはず……みなさんの方は?』
『俺達も聞いてないな、連絡も入ってなかったはずだ』
『はい、私の端末から特務支援課の端末にもアクセスしてみましたが、特にアミーシャのものと思われる履歴はありませんね……』
『ですよね……何があったか伺っても?』
「俺の方から説明させてもらおう」
僕達では分からない事情もあるだろうからと、烏間先生が代表して昨日あったシロさんが現れてからの一部始終を説明したり、一部僕達には伝えられないからと律のカメラを通してスマホの画面を見せたりしている。そういえばなんか契約がどうとかって言ってたっけ……アミサちゃんは殺せんせーの暗殺を依頼された時に防衛省と何か別の契約を結んでたんだろうか。烏間先生からの説明が終わり、口を閉じた時には画面の向こう側の皆さんの表情は完全に曇っていた。
『……魔獣、ですか。しかも手配魔獣相当、……1匹でよかったですね』
『君達は大丈夫だったのかい?怖い思いをしただろう』
「は、はい!数人状態異常を食らったやつはいますけど、真尾に回復してもらえてますし……」
「むしろ先生達も、アミサもすごくかっこよかったんです。そう、あの子にも伝えたんですけど……」
『……そうか。無事だったのならよかったよ』
『それにしてもシロって奴はどんなルートでこっちから持ってったんだァ?いやできないことはないと思うが……』
『それもだけど目的が……』
『アミーシャの暴走、ね。一応再封印は問題なかったみたいでよかったよ……まぁ魔獣との戦闘ごときでこじ開けるのは不可能だからさ』
『だと思いたいですよ……私は概要しか知りませんけど、アミーシャちゃんはE組の子達に戦闘そのものを見せたがってませんでしたし、いろいろパンクしかけてるんじゃ』
『それもそうよね、自分がいるからみんなを巻き込んでしまう、なら離れていればみんなから危険は遠ざかるって考えちゃうような子だもの』
「エリィさん、まんまその通りのことをアミーシャが言ってました……」
『あら……』
『アミーシャ、また1人で悩んじゃったんだ……』
ティオさんが、ロイドさんが僕達を心配し、ランディさんが魔獣に対して疑問を持ち、エリィさんが、ノエルさんが、ワジさんが、キーアちゃんがアミサちゃんのことを気にかけている。結局は、クロスベルのみなさんもアミサちゃんの行く先は検討がつかないみたいで、困った表情を浮かべている。この人達に連絡もないとなると……いやでも昨日の今日だしまだ連絡してないだけかもしれないし……振り出しに戻っちゃったな……
『こっちも警察の情報網で魔獣の流れを洗ってみます。ワジも可能なら……』
『うん、任せて』
『……さすがにあの子の中で整理が着いたら私の方へ連絡があると思います。もしかしたらこちらの機密に関わる内容かもしれないので、どこまでなら言えるか分かりませんが……話せそうなら私からまた連絡しますね』
「ご協力、感謝します」
「……よろしくお願いします」
『カルマさん、ナギサさん、……そしてE組のみなさん。重いかもしれませんが……アミーシャが初めて執着したのがカルマさんであり、私以外に寄りかかろうとしたのがナギサさん……そして、貴方達お二人をきっかけに繋がったE組のみなさんが、あの子にとって暗闇の中でも道標となるような眩しい存在なんです。あの子の言った言葉も決断も取り消せませんが……どうか、あの子の覚悟は受け止めてあげてください』
「……はい!」
「信じてますから、私達は!」
『……ありがとうございます』
リーシャさんからの言葉を最後に通信が途絶えた。結果としては何にも進展しなかったけど……一応現状をあちらにも伝えられたことを考えれば、よかったのかもしれない。もしかしたら向こうに連絡が入れば僕達の方にも流してもらえるかもしれないし……
カルマ君はいい情報が入らなくて残念そうではあったけど、切り替えるように殺せんせーに向き直った。
「お待たせ、時間取っちゃってごめんねみんな。……ま、そーいうことだから。殺せんせー、気にせずはじめてよ」
「そうですか……では、そうですねぇ……、……夏休みの南の島で、烏間先生がイリーナ先生をこう評しました。『優れた殺し屋ほど
……なんで、殺せんせーの話なのにいきなりイリーナ先生が出てくるんだろう。……まあ、一応聞かれたことだし、整理して考えてみよう。
イリーナ先生が殺し屋なのも、普段の生活では見た事のないピアノ技術を魅せられたのも、僕等と同等か訓練を受けてない分下だと思ってた殺し技の応用に格の違いを見せつけられたのも、先生は普段はアレでも本業ではトップレベルのハニートラッパーなんだって再認識させられたのも間違いないこと。それは全部ビッチ先生が
……そんなイリーナ先生みたいに優秀な殺し屋ほど、どんな事でもできるってことだ。これが殺せんせーは的を得た言葉だって言った。優秀な殺し屋……万能……、……、……殺せんせーは、経験のなかった教師の仕事を、完璧にこなしてみせた。
………………まさか。
「そう、2年前まで先生は……『死神』と呼ばれた殺し屋でした。それからもう1つ……放っておいても来年3月に先生は死にます。1人で死ぬか、地球ごと死ぬか、暗殺によって変わる未来はそれだけです」
皆がみんな、驚愕に何も言えない中……超生物は語り始めた。秘められた……人間の記憶を。
◆
渚side
『死神』は劣悪な環境のスラムに生まれた。親も、友も、みんな平気で裏切って、何も信じられずに生きてきた中で、子どもの頃から唯一信じられた『殺せば人は死ぬ』という真実……それがあったからこそ、殺し屋になる道を選んだということ。
唯一育てていた殺し屋の弟子に裏切られ、シロこと柳沢による人体実験の被験者となったこと……そして、その監視役として茅野のお姉さんである僕等の前担任、雪村先生に出会ったこと。
自分の監視やバイタルチェックをする傍ら教師の仕事をしている雪村先生の課題制作を手伝う中で、自分を『見て』もらうことの嬉しさを知り、お互いの事をたくさん話したこと。
人間とは活かすものであり、弱者とは育てるものである……たくさん『死神』の知らない世界を雪村先生から教えられたこと。
出会って1年目に、誕生日を贈られ……直接ではないものの、触手を介して触れ合って感謝を告げ合い……その数時間後に自分の死の期限を知らされたこと。
手に入れた力を使わずに死ぬのは勿体ないと間違った悟りを開いてしまったこと。殺し屋として『殺すために壊すために』使おうと暴れていた所を、雪村先生が見を呈して庇い……結果的に命を奪うことに繋がったこと。
破壊生物と成り果てる前に、雪村先生のおかげで身につけた力を誰かのために使えるということに気が付けたことを。そして……雪村先生の最期の願いを、手に入れた力を教師として『救うために』使おうと……彼女が見続けてきた生徒を代わりに見続け、そして、どんな時でもこの
──30分かけて殺せんせーが『先生』になった本当の理由を話し終わって、先生の話を疑う生徒は誰もいなかった……それこそ、先生をお姉さんの仇だと信じて捨て身の暗殺に臨んだ茅野だって。だって、全ての理由が繋がったんだ。殺せんせーが万能だったのも、僕等がどんな常識外れでありえないような暗殺を仕掛けても
「先生の教師としての師は誰であろう雪村先生です。目の前の人をちゃんと見て、対等な人間として尊敬し、一部分の弱さだけで人を判断しない。彼女から……そういう教師の基礎を学びました」
雪村先生から学んだ基礎だけでは足りない部分を殺せんせー自身の知識を足すことで補い、雪村先生が見ることのできなかったE組全員が自信を取り戻して最高の成長をした姿を
そしてそれは、目論見通りに僕等の心の闇を晴らすことに繋がった……だけど、暗殺がなければ、
「だからこの授業は、先生を殺すことでのみ修了できます。無関係の殺し屋が先生を殺す。先生が出頭することで殺処分される。先生が自殺する……期限を迎えて地球と共に爆発する。もしも、それらの結末で先生の命が終わったなら、暗殺で繋がった我々の『絆』は、卒業の前に途切れてしまうでしょう。もし仮に殺されるなら……他の誰でもない、君達に殺して欲しいものです」
殺せんせーが来てたったの2週間の頃に、僕等は圧倒的な力の差を見せつけられて……それまで軽く考えていた暗殺が、いかに恐ろしくて難題なのかということを突き付けられたんだと初めて気付かされたんだ。『この先生を殺さなくちゃならないのか』……と。
今だってそう思っていることに違いはない……だけど、その意味は全く違う。殺せんせーの過去を聞いて、雪村先生との関係を聞いて、僕等に殺されたいという先生の
本気で怒られて、怖かった事。
自分の甘さを見透かされて、腹が立った事。
念願の目標を達成して、嬉しかった事。
皆で一緒にリゾートで遊んで、楽しかった事。
皆で一緒に修学旅行へ行って
球技大会で戦って勝って、
バーベキューをして、
夏祭りに行って、
花火を見て、
遊んで、
立ち向かって、
学園祭をして、
他にもたくさん、たくさん……楽しかった事。
殺せんせーが
──僕等は、恐ろしい難題を突きつけられたと……ここにきて初めて気付いたんだ。
『この先生を……殺さなくちゃならないのか!!』……と。
「……烏間先生、先生はこの事知ってたんですか?」
「……断片的にはな。だが、真実を話してしまえば、俺達国の人間が君達に押し付けた『殺す』という事実を君達が自覚し、暗殺に向き合えなくなるのは目に見えていた。なにより……学生らしく生きる君達の生活を奪うわけにはいかなかった」
「…………そんな……、 」
殺せんせーを殺すために国から依頼されてE組にやってきたビッチ先生はともかく、殺せんせーが先生をするために交渉した国で働いている烏間先生が……姿かたちや中身の性格までは知らなくても、これらの事情を全く知らないはずがなかったんだ。それでも烏間先生なりに、僕等へここまで重いものを背負わせないために、殺せんせーの教育に便乗する形で隠してくれていたんだ。
僕等は、いつかは知らなくちゃいかなかったんだ……クラス皆が全力で背を向け続けてきた、殺せんせーという思い出を共有してきた恩師を殺すという意味を。少しでも長く、罪悪感を感じなくて済むために、楽しく暗殺を続けるために目を背け続けてきたことを。
「……すまない。君達を暗殺に平気で向き合わせようとする俺の態度を懸念して、あの夏休みの時点で既にイリーナは言っていたんだ。『殺すって……』」
「……『殺すってどういう事か、本当にわかってる?』……でしょ」
「「「!!?」」」
僕等を気にしながら淡々と話し続けていた烏間先生の言葉を引き継ぐようにその言葉を言ったのは、烏間先生に直接言ったらしいビッチ先生じゃなくて……カルマ君だった。
先生達も驚いている中、話を聞いている間も終わってからも何のアクションも起こしてなかった彼は、ここにきて立ち上がった。
「殺せんせー」
「……カルマ君ですか、どうし……にゅやっ!?」
教卓のところで僕等を見つめていた殺せんせーに向かって、1学期の期末テストの時のように前へと向かいながら対先生ナイフを投げたカルマ君。僕等はすぐには受け入れられなくて、今は暗殺なんて向き合えそうもなくて……どうにも動けないのに、彼は。
「──俺はみんなが立ち止まったとしても、たった1人でだろうと暗殺を続けさせてもらう。……知ってたよ、ビッチ先生が烏間先生に言った言葉……あの時アミーシャが聞いてたんだ。だから夏休みの沖縄で、俺はアミーシャから『恩師を殺すこと』の意味をとっくに学んでるんだよ。虫けらを殺すこととはわけが違うんだってことは、もうとっくに知ってるし覚悟だってして暗殺をしてきた」
「カルマ君……」
あの時のように答案用紙の代わりに彼が握りしめているのは……僕等3人の繋がりでもあるカバンに付けられたキーホルダー、そして抱えていたコート。ここからでも見えるコートに着いた破れ跡……あれは、カルマ君のコートじゃない。ブレードクーガーに囮として被せた結果破られ、アミサちゃんがどこかへ消えた後、すすき野原に残されていた彼女のコートだ。
あの2つの品は、どういう理由でいなくなってしまったのかも、いつ戻ってくるのかも、戻ってこないのかも分からない彼女との、今持っている確実な繋がり……カルマ君は、それと一緒に彼女に立てた誓いを守ろうとしてるんだ。
「アミーシャは、誰も……俺すらも気付いてなかった頃から先生を殺す覚悟をもっていた。そのアミーシャがこのクラスにいない今、誰も暗殺に向き合わないってなら……俺だけでも向き合わせてもらうから」
「……ええ、受けて立ちましょう」
そう言って殺せんせーは、カルマ君から投げられた対先生ナイフをハンカチに包んで彼へと返却した。受け取った彼は僕等の方へ1度振り返って数秒、黙ってクラス中を見渡して……そのまま1人、教室を出ていった。……多分、殺せんせーがこれ以上何か言うつもりもないみたいだし、って帰ったんだろう。
その姿を機に、E組の生徒達は1人、また1人と無言のまま教室をあとにしていった。誰1人として、カルマ君のように覚悟をもてず、かといって何か言うこともできないまま。
「…………」
僕は、この暗殺教室と向き合う上で、考えていた事が少しあった。殺せんせーを殺さないで……このまま僕等の恩師としてずっとお世話になる方法はないのかって。今までは地球爆破の原因でしかなかったからそんなことは不可能だって思ってたけど、こんな過去を聞いてしまったら……もう今までと同じ
──僕は殺せんせーを
無意識に僕は、カルマ君のようにカバンに揺れていた青いウサギのキーホルダーを握りしめていた。
カルマが思い出しかけていた、ホワイトストーンが出てくるお話はこちら
https://syosetu.org/novel/138458/2.html
「……」
「イリーナ」
「……本当のことは、ガキ共には伝えなくていいわけ?」
「……アイツが話したことで全てだろう?」
「違うわ、あの子よ。あの子は──」
「……言わないさ、ここの生徒以上に背負わせすぎた分の願いくらい、叶えるよう努力する」
「…………」
「…………」
「…………はぁ、分かったわよ。というか私だって言う気はないわ……あの子にカルマとの恋愛を諦めさせちゃったのは、私のせいなんだから」
「……?」
「…………」
〝俺等と殺人鬼とか殺し屋の生きてる世界は違うんだし、難しく考えなくていいんじゃね?〟
〝どう頑張っても本職と学生じゃあ、同じ位置には立てるわけないんだからさ〟
「……、アミーシャが昨日言ってたことで、心当たりがあるのはこのあたりなんだけどな……、……あー……やっぱり俺、間違えたかなー……」
◆
「……お姉ちゃん」
『……!アミーシャ!E組のみなさんから連絡をもらってるわ……みなさんに、別れを告げたって……』
「……うん、私があそこにいることで、私を知る殺せんせーを狙う敵対勢力にみんなが狙われちゃうかもしれない……その可能性が、無くならないの。……そんなの、耐えられるわけないよ……っ!私、みんなが大切なの、守りたいの……、私、みんなに出会わなければ、よかったのかな」
『!』
「……私、3月の刻限までみんなのことを守るのはやめない。でも、その後は……」
『……アミーシャが決めたなら、私は尊重してあげたい。でも、全部終わったら……まずは一緒に悩みましょう。全てを諦める必要は無いんだから、私だって私の側面を受けいれて私らしい道を歩むことを決めた……アミーシャにだって、まだ時間はあるの。選び取れる道を、探してみよう?』
「……、ありがとう。アミサも、一緒に悩んでくれるなら……あと少し、頑張ってみる」
『うん。……諦めないでね』
「……、ごめんね、リーシャお姉ちゃん。……私はとっくに、いざとなったら捨てる覚悟はできてるんだよ」
++++++++++++++++++++
エンド1がもう目の前に迫ってきましたね。
2025年の3月にリメイクすることを決意して、約3ヶ月でここまでしっかり追いつきました……これも以前のリニューアル前から待っていてくださった読者さんがいることと、新規で好きになってくださった方がいることと、暗殺教室、軌跡シリーズへの愛が爆発した結果かなと思います。
残り3話のストックも、愛を込めて書かせていただきます。
オリジナル要素や設定も、むちゃくちゃになりすぎない程度に、でもありそうだなと(公式が出す前にやるならセーフだろう精神で)好きに書き散らそうと思います。
一緒に追いかけてくださると幸いです。