とある飛空士の重巡航管制機《アイガイオン》   作:篠乃丸@綾香

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ここで、飛空士サイドにオリキャラが出てきます。名前は次回に続く。


第11話〜天使の卵達〜

2016年2月21日22:30

 

暗闇の大空と雲の大海原が幻想的な空間を作り出し、辺りを支配していた。人工的な光も無く、遍く星々と月に照らされ夜空を照らしていた。

 

いや、その中に轟音を立てながら空を悠々と飛び続ける鋼鉄の塊が飛んでいた。雲の谷間をかき分け、人工の力で空を飛ぶ。人はそれらを飛行機、この世界では飛空機と呼んでいた。巨大なエイのような機体が4機、轟然と編隊を組みながら飛んでいる。そして、それに取り囲まれるようにエイよりも更に巨大でスケールの大きいジンベエザメの様な飛行機が、巨人の大将のようにどしんと空を飛んでいた。アイガイオン達空中艦隊だった。

 

翼灯を消しても、空中艦隊は編隊を乱すことなく一糸乱れぬ飛行を続けていた。アイガイオン達には電子的アビオニクスの機器が多数詰め込まれている。レーダーは勿論のこと、お互いの距離を把握するレーザー測定器などの最新鋭の機械がふんだんに詰め込まれている。その恩恵が探知灯無しでの編隊飛行を可能にしているのだ。

 

そのアイガイオン機内、マカロフ大佐は自身の決断を悔やみ始めていた。先程まで続いた機長同士の議論というなの徹底論戦、結果から言えばマカロフ大佐はアズレート中佐の意見具申を受け入れざるおえなかった。

 

しかし、全ての意見を受け入れた訳ではない。そこでアズレート中佐の意見を元に独自の作戦を考えた。内容はこうだ、まず上空2500メートル付近を雲海の合間を縫いながら低空飛行し、浮島まで数百キロまで接近する。そこでアイガイオン艦載機のV22オスプレイを離陸させ、島まで隠密飛行をして特殊部隊を浮島に直接上陸させる流れである。その特殊部隊を用いてロレンズ・リーデル大尉の安否を確かめる寸法となっていた。

 

「機長、まもなく作戦空域に入ります」

 

「よし、オスプレイの発艦準備を始めろ」

 

「了解です」

 

作戦が隠密である以上、我々の存在が露見してしまってはならない。そもそも、この作戦をする予定がなくとも彼らに存在がばれてしまえば、アイガイオンのスケールがそのまま彼らを刺激してしまうことになる。

 

しかし、あまりにもスケールの大きなアイガイオンはレーダーでは勿論のこと、目視でもすぐに確認されてしまうほど隠蔽率が悪いのは分かりきっていた。それも、さらに目立つキュゲスやコットスまで従えているのだから尚更のことである。機長はこれを危惧していたのだ。

 

「なんとか気づかれなければいいが……」

 

そして、現実は甘くはなかった。彼らは雷撃機らしき中型の機体を使って浮島付近を警戒しながら偵察飛行していたのだ。そのためレーダーで彼らの動きを探知し、避けて通る作戦であったのだが、1機だけ雲の間を縫って飛行していた。アイガイオンのレーダーは出力が高く、小さな目標でも必ず捉えることができる。その様子は天井のモニターにも映し出されていた、レーダー画面の前方にポツンと小型の目標が映し出されていた。

 

が、レーダー士官が気づく前に消えてしまった。どうやら今まで雲の合間に隠れて、レーダーに反応しなかったようだ。レーダーの電波を乱反射させる雲は航空機にとって草むらの茂みのような隠ぺいさを秘めている。空中艦隊はそれに気づくのが遅ぎた。いや、気づかなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ……あれは……?」

 

ジンベエザメ達を最初に発見した空挺騎士団員は度肝を抜かれてそれしか言葉が出なかった。イスラを離れて僅か200キロ、ジンベエザメ達5機編隊が上空2500メートル付近を雲の合間を縫いながらイスラへ向けて南から飛翔しているのを見つけた。驚いたことに翼灯を付けずにだ、あれほどの大きさなら翼灯を付けなければ衝突の危険があるが、それらを物ともせずに飛び続けていた。相手が巨大すぎて距離感がつかめないが、おそらくイスラまで250キロから300キロ付近にまで近づいている。

 

「隊長!あれは一体⁉︎」

 

「分からん……大型爆撃機?いや、にしても大きすぎる……真ん中のはまるで空母だ‼︎」

 

隊長と呼ばれた後席の人物はすかさず双眼鏡を取り出す。レンズ一杯に広がる鋼鉄の大鳥、その概要は今まで見たことのない物だった。野球、いやマラソンでも出来そうなくらいの幅の広さの翼を持つジンベイザメの中央胴体には巨人の大口の様な大穴がぽっかりと空き、その中は空洞になっておりいくつかの戦空機が見受けられた。あんな飛空機は見たことがなかった。いや、もはや飛空挺の様な異様な機械達に隊長は迷うことなくイスラ空挺騎士団本部へと連絡を入れた。

 

「イスラ南方200キロ地点にて所属不明の超大型飛空機編隊5機を発見!まるで爆撃機、いや、空母の様だ!相手はイスラに300キロまで接近中、至急状況確認を求む!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてこちらはイスラ、ヴァンヴィール軍港。ここを含め、イスラ空挺騎士団の各基地では蜂の巣をつついたような大騒ぎとなっていた。正体不明の超大型飛空機の出現、あまりにもスケールの大きすぎるイレギュラーにイスラの住民や軍人は皆危機感を感じた。

 

メリクリウス飛空場では慌ただしく戦空機や雷撃機の準備が行われており、すでに何機か空に飛び立っている。ここヴァンヴィール軍港ではイスラ唯一の戦艦「飛空戦艦ルナ・バルコ」も出港の準備をしていた。

 

所属不明の超大型飛空機の襲来、これを聞いて空挺騎士団長レオポルド・メルセは真っ先に空賊達の奇襲攻撃を連想した。が、その飛空機の特徴は空賊のそれとは全く違う、意味不明なものだった。「巨大な鋼鉄製のエイの様な平べったい機体が4機に、守られる様にジンベエザの様な空母の様な異質な機体が編隊を組んで飛んでいる」とのこと。訳がわからなかった。空賊供は古い高翼型の飛空機しか使用しておらず、技術レベルもその程度のはず。

 

しかし、今回のは違った。一体全体どういうドクトリンの積み重ねをすれば、超大型飛空機を作ることになったのか、そして機体の胴体に穴を開け、他の機体とともに編隊を組ませて飛ばすことにどんな利点があるのか、検討もつかなかった。戦争好きな彼が一度も目にしたこともない、最も不可解な報告であった。

 

「まさか、見間違えではあるまいな……」

 

あまりの異質な報告に、思わずそう考えてしまう。もしそうなら、ここまでせっせと準備をして燃料問題を抱えてながら飛空機や戦艦まで飛ばし、結局誤報でしたとなれば大失態もいいところ。だが、他の何人もの偵察機がほぼ同じ内容の報告を行なっていることから信憑性は高いと判断せざる終えなかった。だとすれば、一体何処の組織からだろうか?おそらくこの聖泉に巣食らっているであろう空賊からの攻撃だと判断するのが一番妥当である。しかし、前述したとうり奴らには古めかしい高翼単葉の飛空機しか攻撃に使用しておらず技術もその程度のはず、ならば鋼鉄でできた超大型飛空機を作れるだけの技術が果たして彼らにあるのだろうか?ならば一体何処の組織のものなのか、疑問は募っていくばかりだった。

 

「団長、ルナの出港準備が整いました」

 

その思考を遮るようにしてルナの士官から報告が上がった。

 

「よし、出港だ。機関始動、錨上げ!」

 

号令と共に、ルナに備え付けられた錨がイスラからガラガラと巻き上げられる。そしてルナの水素機関がけたたましい音を立てて稼働し始め、その力強い響きはルナの艦橋まで伝わって来た。それもそのはず、この鑑の水素電池は六万トン越えの巨体を浮かべながら飛行させることができるほどの底力を持っている。そこらの飛空機に搭載されているものとは出力が違う。

 

「揚力装置始動」

 

「揚力装置、始動します」

 

揚力装置を取り扱う士官が装置を始動、ルナの6基の揚力プロペラがぐわんぐわんと回転を始め、あたりの空気を震わせる。そしてフワリという浮遊感と共に床が傾いて、やがてルナはヴァンヴィール軍港から離れ、大空へと飛び立っていった。

 

全長約260m、総排水量約65000t、その巨体が僅か6基の揚力装置で持ち上がるのを見れば、ルナに搭載された主機関の出力がとてつもない物だとわかるだろう。これが飛空艦船の中で花形と呼ばれる飛空戦艦の力技である。だからこそ、戦艦は海戦で最も強力な主砲を用いて敵の艦船を叩き潰すほどの実力と火力を備えることができ、最強と呼ばれるまでに至ったのである。

 

「面舵でイスラ南方へ向かえ」

 

「了解、おーもかーじ、よーそろー!」

 

ぐわんぐわん、ルナはそんな轟音を立てながらイスラ南方へと向かっていった。目指すは不明の空の巨人たち、イスラの守護神は剣を携えゆっくりと彼らの元へと対峙していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方で、ルイス達も空挺騎士団員からの報告を聞いて弾き出される銃弾の如く、外へと駆け出した。もうすでに空襲警報が鳴り響き、辺りを制服姿の士官兵から銃を持った一般兵まで、慌ただしく駆け回っている。水素スタックの音が鳴り響き、イスラ南方のからどんどんと飛空機が飛び立って行く。

 

「まずいぞ……このままではアイガイオンと敵対してしまう」

 

「ロレンズ君、すぐにメリクリウス飛空場まで戻ろう。戦空機の通信機を使って両陣営に敵対の意思はないことを伝えるんだ!」

 

「ええ、行きましょう!」

 

その時、空に剛鉄の音が鳴り響き辺りを震わせた。バタバタバタ、と蜂の羽音のような音は雲の波間を引き裂き、差し込んだ月の光に照らされ正体を現す。月明かりだけでもその巨体のスケールが分かるほどだった。せり出した艦首、艦尾についた6つの揚力装置、ハリネズミの如くの対空砲、甲板にどっしりと構えた大口径の主砲。あの時、ロレンズが艦橋を横切った飛行戦艦であった。

 

「あれは……戦艦……」

 

「ルナ・バルコだ……ルナが駆り出されるということはレオポルド団長が指揮につくつもりだな」

 

実はルナが出撃するときは必ずレオポルド団長がルナの艦長を差し置いて指揮をとる手はずとなっている。そのため、ルナが出撃したということは団長自らこの緊急事態に対処するという事だ。それはつまり、全指揮権を彼に委ねる事になる。その為、好戦的な彼の性格からすると警告なしに攻撃してしまう可能性もある。急がなければ。

 

焦りは禁物だが、今回ばかりは違った。ソニアが用意されていた軍用車に運転席がソニア、助手席にルイス、後部座席にロレンズが飛び乗る。アメリアはあの蛮族ことレオポルド団長に掛け合って、攻撃を中止させてもらうよう説得してくれるようなので、この場に残ることになった。

 

ソニアがエンジンを掛けると、周りの兵士をものともしない猛スピードで兵舎を後にする。ロレンズは焦りる気持ちを抑え、上空で編隊を組み南方へと向かっていた飛空機や、巨大な船体を物ともせずに悠々と飛行しているルナを見つめていた。

 

「待ってろ……アイガイオンには絶対に攻撃させないからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

格納庫の天井や扉はありとあらゆる場所が飛空場の他の建物よりも広く作られ、場所を確保している。人や車よりも大きく、繊細な飛空機械を収容して保存、整備まで行う施設であるから当然の事であろう。内部の天井には大きめの白年電球がチカチカと、しかしながらも力強く辺りを照らし、深夜とは思えない明るさを確保して機体を照らしている。

 

その時突如と真夜中の静寂を貫く様に空襲警報が鳴り響いた。カルエル達はイスラ左岸メリクリウス飛空場、その格納庫の中にいた。そう、カルエル達はさっきまで血塗りの戦空機を見学にこの学校まで寮を抜け出してここまで残っていたのだった。周りの警備兵は少なく、ほぼ自由に内部を見学する事ができていた為にかなり長く居座っていた様である。

 

「ね、ねぇ……これって空襲警報じゃ……」

 

「まさか……また空賊の奇襲⁉︎」

 

その時、ブロロロとイスラ正式採用の軍用車の音が聞こえる。そして、車が止まってから数秒、タッタッタと人の駆け足の音が聞こえたかと思うと格納庫の裏側に設置されていた人一人入れるサイズの扉がガチャリと開く。この扉は学校側と繋がっており、整備科が出入りするのに使われているものだ。カルエル達はこの音を聞き逃す事は無かった、すぐさま近くのエル・アルコンの影に隠れ、じっと目をひそめる。

 

開いた扉からは三人ばかりの人間が入って来た。一人はぴっちりとした軍服に持ち映えのスタイルが映し出される美人の女性、ここの生徒達からソニア先生と呼ばれている飛空科の教官である。そして二人目は重要人物、整った顔立ちに凛とした青い眼、イスラ航海長のルイスだ。

 

生徒達にとっても見慣れた人物がそれもかなりの重要人物だったがもう一人は生徒達が知らない人物だった。いや、正確には何人かが顔立ちを確認しているので初対面では無いが、それでも見慣れない人物だった。ぴっちりとした黒い服とズボン、服にはパイプやのようなものが張り付くように付けられており、胸には膨らんだクッションとベストの様なものを羽織っており、ベストにはカチャカチャと金具や器具の様なものが取り付けられている。

 

「ねえ、隠れちゃったけどどうするの?(ゴニョゴニョ)」

 

と、アリエルは我慢できず皆ににそう伝える。学寮長の勧めで生徒達で決めたルールではもうとっくに消灯時間を過ぎているが、その学寮長はルール決めを生徒に丸投げするような、なんだかのんびりとした人物なのであまり問題では無いだろう(と思う)

 

「し、仕方ないだろ。見つかったら大目玉だぞ!なんとかタイミングを見計らって逃げるしか無いよ(ゴニョゴニョ)」

 

カルエルはヒソヒソ、ゴニョゴニョと曇るほどの小さな声でアリエルと周りの皆にそう伝える。そう、問題は目の前だった。カルエル達は寮を抜け出している身。それも学生でありながら、しかも立ち入り禁止の格納庫の血塗りの機体をわざわざ見に来たのである。ソニア教官に見つかれば大目玉は確実だろう。しかし、それ以上に生徒達はソニア教官はルイス提督を引き連れているのに微かな疑問を感じた。それだけでは無い、何やら見慣れない飛空士の様な謎の人物を引き連れている。彼は一体何者なのだろうか?

 

「ねえ、あれってこの血塗りの機体の飛空士じゃない?(ゴニョゴニョ)」

 

「え、あれが?(ゴニョゴニョ)」

 

「あの顔立ち、間違いないわ。私が飛空場ではっきりと見たもの(ゴニョゴニョ)」

 

と、シャロンとナナコはそう会話したのを聞いて他の生徒達もなるほどと納得した。たしかに、あの色男風の人物の顔立ちはベナレス人の特徴と一致する。飛空士の顔を見ていたシャロンも記憶をたどって想像上の飛空士と目の前の人物との外見を照らし合わせて確信した様だった。

 

「(あれが血塗りの機体の飛空士……)」

 

カルエルはそう考えながら飛空士の顔立ちをよく観察する。カルエルは血塗りの飛空機の着陸騒ぎからずっと、その飛空機乗りの事がずっと気になっていたからだ。好奇心は子供らしくカルエルの心の底から湧き出てくる。それは他の生徒達も一緒の様で、皆エル・アルコンから顔を出して謎の飛空士を見つめる。

 

「なるほど……だとしたらこの格納庫に何をしに来たんスかね?(ゴニョゴニョ)」

 

「おそらく、機体の状態を見に来たとかでしょうか(ゴニョゴニョ)」

 

「え、でも今空襲警報が鳴ってるよ!まさかこの混乱の中で逃げる気じゃ……(ゴニョゴニョ)」

 

考えられるシュチュエーションを思い思いの感想、それぞれの主観で考える飛空科の生徒達。それを聞こえてか聞こえてないかは不明だが、三人は血塗りの戦空機の方に振り向いた。

 

「ロレンズ君の機体はあそこだ、急ごう」

 

「ええ、ですがその前に……」

 

と、目の前の飛空士は肩にぶら下げていた荷物から素早く黒い物体を取り出した。変な形に曲がった輪郭線の先に一瞬何のものだか図らなくなるが、その先端に見慣れたものが付いていた。黒光りする筒状のパーツそれに気づいた他の皆の表情は一瞬にして青ざめる。

 

ギラリとしたそれは引き金とともに弾を放つもの、銃口だった。生徒達は一瞬にしてそれが銃の類だと知る。

 

「ここに誰か部外者がいるようですね」

 

「((((((((⁉︎))))))))」

 

「な、まさか侵入者が⁉︎」

 

まさか気づかれた⁉︎カルエル達は本日で何度目かの生唾を飲んだ。前の数回は先ほどの空戦にて、初めて実戦を体験した時に緊張から来た生唾。そして今、存在がバレたことに対する緊張からまた生唾が出た。

 

「そこにいるんでしょう、出てきたらどうです?」

 

ソニアも腰から拳銃を構えてロレンズの向いている方向へと向ける。じりじりと詰め寄ってくる彼らに、観念するしか方法はなかったようだ。

 

カルエルは両手を挙げ、身震いする足を奮い立たせながらエル・アルコンの陰から顔を出した。他の生徒達もそれに続き、次々と出てくる。

 

「あ、あの〜……」

 

「子供……?」

 

「な、お前たち⁉︎何故ここに⁉︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、何故お前達がこんなところにいる?」

 

「え、えーと……それは……」

 

ロレンズが気配を察知したのは意外な部外者達だった。格納されている航空機の裏、そこにいくつかの人影が見えたので部外者と思いサバイバルキットのP90を取り出してあたりを捜索した。そしたら出てきたのが彼らだった。

 

彼らはまだ子供だった。子供といってもぴったりの制服に身を包んだ中学生から高校生くらいの子供達であり、人数は8人の少年少女達だ。

 

ソニアに問い詰められ、口をゴニョゴニョさせる先頭にいる金髪の少年、どうやら他の子供達も同じようで言い訳を一生懸命に考えているのか、生徒達全員が苦笑いをしながらゴニョゴニョと口を曇らせた。

 

「彼らは?」

 

「ここカドケス高等学校飛空科所属の生徒達だよ、彼らは一年生さ」

 

なるほど、とここでロレンズは納得した。ロレンズがここに初めて着陸した時ソニアがここは高校だと言っていたのを思い出したからだ。見れば格納庫の中には沢山の航空機らしきものが固定され保管されているが、空戦で数多く見られた機体とは機体形状が異なる。おそらく練習機だろう、ここでは高等学校でありながらパイロットになるための訓練が受けられるらしい。

 

つまりは、飛空士の卵達と言うことか。

 

「お前達!危険だから機体には近づくなと言っただろ!それに今は何時だと思っているんだ、学生は寝る時間だぞ!」

 

ソニアの喝に生徒達全員がビクりと体を震わせる。その様子に、ロレンズも思わず同じ苦笑いを誘われる。思えばロレンズも子供の頃に先生に叱られる時、あのような反応を見せたものだ。

 

いや、子供の頃だけではなかったのだろう。大人に、それこそパイロットになってからもロレンズ・リーデルが一番『怒らせたら恐ろしい』と思った人物は元ゴルド隊、アントン・カプチェンコ中佐であろう。彼はソニアのように叱喝を入れるような人物では無かったが全く怒らない人物だったわけではない。彼の怒り方は激を下さず、要点を一つずつ洗いざらいにして問い詰めてくるのだ。言い訳も完膚なきまでに論破されてしまう。あれほど怒らせると恐ろしい人物はいなかったと、ロレンズはしんみり思い出す。

 

「全く……お前達は……」

 

「まあまあ、子供なんですから多少の好奇心は許してあげようではありませんか。それに私の機体には危害はないようですし、見るだけなら問題ありませんよ」

 

ロレンズがソニアをなだめると来訪者からの意見に口を曇らせたままうーん、と俯く。と、ここで左側のピンク髪の少女が私を指してソニアに質問する。

 

「あの……そこの飛空士さんは一体……?」

 

「それに私の機体と仰っておりましたよね?……その血塗りの戦空機はやっぱり貴方のなのでしょうか?」

 

今度は眼鏡をかけたいかにも理系、という感じがする少年がロレンズに問いかけた。

 

「そうだな……ロレンズ君、一応簡単な自己紹介をしておきたい、彼らと一緒に名前を言ってくれるかな?」

 

「はい。わかりました」

 

「じゃあまずは私から、アリエル・アルバス。飛空科一年生です」

 

「……僕はカルエル・アルバス、飛空科一年生でアリエルの兄です」

 

「ちょ!わたしが姉よ!あーね!」

 

「違うよ!僕が兄だ!」

 

と、カルエルとアリエルの二人はあーだこーだと軽い言い争いを始めた。聞いたところによると彼らは義兄と義妹の関係のようで、よくどちらが年上か言い争っているらしい。しかし、普段は幾分仲が良いらしい。喧嘩するほど仲が良いというのはこの事だろうか?

 

その後も自己紹介は続いた。おどおどとして気の弱そうな印象の黒髪の少女はクレア、やや膨よかな身体の少年はミツオという名前らしい。派手な化粧をした子はチハル、大柄かつガッチリとした体型の少年はウォルフガング、大人びた印象の少女はシャロン、眼鏡をかけた少年はベンジャミン、黒髪のツインテールの少女はナナコ、最後にノリアキ。それぞれ個性のある生徒たちだ。そして、最後にロレンズが自己紹介をすることになった。

 

「私はエストバキア連邦東部軍管区所属、ロレンズ・リーデル大尉です。先ほどの空戦では勝手にここに着陸をしてご迷惑をかけました」

 

ロレンズは先ほどの交渉から着ていたカチャカチャとした対Gスーツのまま、ぴしっとした見事な敬礼をする。学生相手でも礼儀は大事だ。正式な自己紹介では長くなりそうなので色々と省略する。私は臨時ではあるものの、もう東部軍管区のアイガイオン所属なのだ。

 

「やっぱりあの時の……ジェット機の飛空士だ」

 

「エストバキア?そんな国聞いたことないけど……」

 

「それについてはまた詳しく話そう」

 

皆の注目はロレンズに集まっているようだ。このままでは質問責めに合い、ただでさえ少ない時間が浪費されそうなのでここで切り上げる。

 

「今は緊急事態だが、比較的安全なここにいよう。大丈夫だ、あの彼は安全な人物だよ。安心してくれ」

 

とその隙に、ルイスはクレアにそっと近づき耳打ちをしてそう伝えた。クレアの正体を知っているのはロレンズを含め、このではルイスだけだった。

 

「それよりロレンズ君、空中艦隊とルナの衝突を止めなければ」

 

「ええ、わかっております」

 

「?」

 

と突然何のことやらと生徒達の顔がきょとんと傾く、どうやら状況がわからないらしい。今後の混乱を避けるためにも彼らに今の状況を話すことにするべきだろう。その趣旨をルイスとソニアに伝えるとソニアは彼らが関わるのは危険だと言った。が、どちらにせよ我々の存在は彼らにも知ってもらわなければならないのは事実だ。ルイスは納得した様子で「頼んだよ」と一言だけ言った。それを了承と捉えたロレンズは、今までの経緯を説明する。

 

ロレンズは自分が異世界から来たことは省き、まず空中艦隊の存在と今彼らがイスラと対峙してしまっている現状をくまなく説明した。そして、空中艦隊とイスラを衝突させてはならないことも同時に伝えた。

 

「え⁉︎ここに超大型の飛空機編隊が接近している⁉︎」

 

「まさか……そんな事態になっているなんて……」

 

「しかも、その飛空機はロレンズさんの所属先で衝突を避けなければならない……ですか」

 

「えーと、何が何だかよくわからねー」

 

「く、空中艦隊って飛空挺の艦隊じゃなくて巨大飛空機編隊の事なんだ……気になるなぁ」

 

それぞれの反応は違った、空中艦隊が接近している事に驚いた赤髪の少女と対照的に落ち着いた雰囲気の少女、空中艦隊の状況を理解したメガネの少年、何が何だか分からないと嘆く印象の薄い少年(失礼だが)、空中艦隊の事が気になっている様子の膨よかな少年。他は呆気にとられて口をパクパクさせていた。しかしそれらが驚きに満ちていたのは共通だった。

 

いや、その中に一人だけロレンズに違う目線を送っている生徒がいた。流れるような短い金髪の髪にキリッとした美顔、引き込まれるような碧眼。確か、最初に自己紹介をしたカルエルという子だった。彼はロレンズに対し、なんとも言えない表情を向けていた。異形のものを見つめる蔑むような目、だが同時にそれがなんなのかを知りたい、好奇心にあふれたとても不思議な表情と眼だった。

 

「ですが、ロレンズ大尉」

 

と、ロレンズの思考はソニアの質問にて遮られ現実へと戻される。

 

「一体どうやってルナとレオポルド団長を止めるおつもりですか?団長は頭の固い好戦的な人物です、そう簡単には止められませんよ」

 

「ええ、ですから空へ上がって直接止めるんです。こうなってしまったらそれしか方法はありません」

 

「だが、君の機体は燃料が足りないのだろう。しかも、使う燃料は化石燃料。どうやって補給するつもりなんだね?」

 

「問題はありませんよ、ジェット機の燃料は灯油に似た成分です。多少質は落ちますが、飛ぶだけならそれで十分です」

 

「なるほど、それならイスラからかき集めれば代用できるな。よし、探そうではないか」

 

ルイスはロレンズの説明に納得した様子であった。彼にも燃料の疑問があったからだろう。

 

「それなら私達も探すの手伝うよ!学校に備品の燃料がいくつかあるし、場所なら知ってるから!」

 

「ああ、イスラのためなら俺達も手伝うぜ!」

 

皆は勢いよくそう返事をした、やる気で満ちているような感情が伝わってくる。カドケス高校の生徒達もこの作戦に協力してくれるようだ。皆の意見がまとまったところでロレンズは皆に作戦の趣旨を説明する。

 

「まずはここエスコリアル飛空場から私の機体を飛び立たせる。高度4000メートルまで登って最高時速でルナに追いつく、そこから通信機を使って直接停戦を申し込む流れだ」

 

「この機体で追いつけるの?」

 

「ああ、問題ない。私の機体はフランカーと言って最高時速は音速の二倍近くある。余裕さ」

 

ロレンズは機体の性能をわざと露見させ、決まったとばかりに軽くニヤリと笑みを浮かべる。

 

「お、音速の二倍⁉︎」

 

「そんなに早く飛べるんだ……すごい機体だ……」

 

「よし、作戦の手筈は整った。あとは燃料となる灯油を探すだけだな」

 

「でも、灯油の位置なんて僕たち分からないから手探りで探すしかないよ……」

 

そう、そこが問題であった。彼ら飛空科一年生でも、備品の位置を全て知っているわけではない。それらは整備科の仕事であって、乗る側である飛空科生の仕事ではないらしい。ならば、手探りで一から探すしかないだろう。その為のこの人数だ、それに探し当てた後も人手が必要なのは変わらない。

 

「仕方ない、手探りで一から校内の灯油を探すだけだ。時間が短縮できたら良いのだが……」

 

「「その話、聞かせてもらいましわ(貰ったよ)」」

 

「?」

 

突然格納庫内に響き渡る二人の人間の声、ロレンズを含めた皆がその方向へと振り向いた。そこには、何かが入ったドラム缶やポリタンクを積んだ台車を引いた二人の少女であった。




ノリアキの説明がどんどん雑になっている気がする……

用語解説コーナー
《ルナ・バルコ》
バレステロス共和国所属の超弩級飛空戦艦、6基の揚力装置で飛行する。全長約260m、総排水量約65000t。武装は46センチ3連主砲塔8基、15センチ3連副砲塔2基、対空砲塔12基24門、対空機銃58基174門、艦底部に対空砲塔4基8門、対空機銃5基15門。この小説ではアニメ版のデザインとなっています。60000トンの巨体を浮かせるとか水素電池ってスゲー、エスコン世界にこの技術があったらベルカの超技術とかでもっととんでもないもの飛ばしそう。
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