とある飛空士の重巡航管制機《アイガイオン》   作:篠乃丸@綾香

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今回は交渉回の前半です、長いです。

関係ないかもですけど、空母いぶきの実写予告編が公開されましたね。楽しみです。


第2章〜Alternating current〜
第15話〜歩み寄り〜


『天使とダンスしてな』

この言葉はアイガイオンがこの世界に来る前、まだエメリアと戦争をしていた時にエメリア軍からよく聞く言葉であった。発端は誰だかよく解ってはいない、戦死したエメリア空軍のとあるパイロットの口癖だった、占領された街の不良が描いたイタズラ書きから、はたまたエストバキアの占領により孤児となってしまった少女へのインタビューをラジオでたまたま聞いたからなど。

 

だが、共通点もある。それは占領されたグレースメリア周辺が発端と言われていることだ。エメリアでは反攻の合言葉、エストバキアでは敵を象徴する言葉としてそれぞれ受け取られていた。

 

 

 

 

 

 

 

2016年2月22日 06:30

 

晴天。雲ひとつない青空とはこのことか、朝日に照らされたまだ赤みが残る空、周りには雲ひとつない。正確にはこの空域から数十キロ先には青空をかき乱す巨大な入道雲が立ち上っている。それでも、遮るものがないこの空域は飛空機の離着陸にはもってこいだった。その入道雲をかき分け、青空を裂くようにひとつの物体が姿をあらわにした。物体は雲をかき分けると晴天の空域へと入っていく。平べったい島のような外観、島のような岸、島のような底。そう、物体はまぎれもない島だった。

 

浮島イスラ。浮遊岩という島を構成する鉱物の作用によって高度2000メートルの空中を飛翔、浮遊する浮島である。イスラは今、この雲ひとつない青空の下、その巨体を浮かせ高度2000メートルを保ったまま今日も空を飛空している。イスラに取り付けられた揚力装置は羽をたなびかせ、この浮島に推力をもたらす。東西9キロメートル、南北25キロメートル、外周70キロメートル、上層の表面積243平方キロメートル。この巨大な島の表面には山脈、森、商店街、学校、などが連なり、その自然と調和している。軍港や飛空場、要塞砲などもあることから、この島には軍隊も存在するのだ。

 

 

このイスラは沈むことはない要塞だ、これはまやかしなどではなく実際に実現不可能なのだ。イスラを構成する浮遊岩の総重量は計り知れない。船ではない島であるイスラを沈めるにはこれら全てを吹き飛ばすしかないが、それは実現不可能なのは目に見えている。そのためイスラは島を制圧されない限り沈むことはないのだ。さらにその沈まない島に多数の要塞砲と飛空場を兼ね備え、推力をもたらす揚力装置を取り付ければ、火力も兼ね備えることができる。まさに飛空要塞の名にふさわしい対空制圧能力を兼ね備えているのだ。

 

そのイスラに今日、新たなる戦力が加わることになった。正確にはそのための取り決めがまだ行われていない。むしろこれから始まるのだ。

 

イスラが雲を割いて晴天の空に現れてから数分も待たずにさらなる物体があらわになる。青い空に浮かぶ鯨のような巨体、取り付けられた無数の凶暴な主砲、力強い揚力装置、そしてきらびやかな装飾。イスラの守護神、戦艦ルナ・バルコであった。ルナは雲の裂け目を航行してその巨体に似合うような巨大な揚力装置を震わせながら空を謳歌している。

 

だが、そのあと雲の裂け目からまた新たな物体が飛び出してきた。平べったいエイのような見た目、翼に取り付けられているのはこの世界にはまだないはずのジェットエンジン。それは巨大な飛空機であった。コットス、キュゲスと役割に応じて名付けられたその大型航空機は多数の火器と電子妨害機器を搭載した戦闘支援機である。そしてさらに、随伴する超弩級戦艦ルナ・バルコが霞んでしまうほどのスケールの大きさの機体が現れる。ジンベエザメの巨大な口を開いたかのような穴が胴体にすっぽりと空いた超巨大飛空機であった。P-1112重巡航管制機アイガイオン、それがこの機体の名だ。この巨大な航空機はこの世界のものではない、彼らはこの世界に流れ着いた、いわば漂流者たちである。

 

アイガイオンたち空中艦隊はたちまち高度を下げ、イスラの地表へとその腹を晒す。しかし、彼らに対空砲火は一切咲くことはない。彼らは受け入れられているのだ。

 

「ルナ・バルコより発光信号!『イスラへの連絡手段は如何されたし?』」

 

「伝えろ、『我、艦載機にて着陸試みる。当機はイスラ上空にて待機する』」

 

アイガイオンのコックピット、正面の見通しのいい窓には美しい青空が広がっている。そして、下方には空飛ぶ島、イスラの街並みが広がっている。階段を挟んで二つの階に分けられた空間にマカロフ大佐は佇んでいた。手すりの向こうに隔てられた空間には緑色の光を出すレーダーなどの各計器を操作する士官達がいた。

 

アイガイオンのコックピットは二階層に分かれており、下がCIC、上がコックピットとなっている。マカロフ大佐は天井に斜めに向けられたモニターを見ながらそれぞれの部署に指示を出す。

 

独特の青白い照明、明るい日差しが差し込む窓の外にはアイガイオン達空中艦隊に随伴するように航行する一隻の船がいた。いや、船というにはいささか語弊があるかもしれない。ここは雲の漂う大空の上なのだから。

 

全長はアイガイオンには遠く及ばないものの、それでも200メートルクラスの大きさを誇る。取り付けられた大口径の火砲が物語る、これは戦艦であった。戦艦ルナ・バルコ、これがこの船の名前らしい。

 

ーよもや、生きてこの目で空を飛ぶ戦艦を見ることになるとは。

 

この世界に来て、空飛ぶ島を見て、空飛ぶ戦艦まで見せつけられ、マカロフ大佐はますますここが異世界なのだと実感するのであった。

 

ーいや、我々は一度死んでいるのだったな。それに、我々も人のことは言えない。

 

思えば、アイガイオンもあの空飛ぶ戦艦と同じようなものだ。「ありえない大きさものが空を飛んでいる」、そう言うことだ。マカロフ大佐は思考を振り払い、勤務に集中する。

 

「返信です、『了解、貴機はイスラ上空にて待機されたし』」

 

「よし我々は飛行甲板に向かおう、レオナード君は私と共にイスラに来てくれ」

 

「は!了解しました」

 

「整備班長に連絡、オスプレイの発艦準備を始めてくれたまえ」

 

そしてマカロフ大佐は副官のレオナードと共に飛行甲板へと向かった。

 

アイガイオンにぽっかりと空いた巨大な空間には飛行甲板が備え付けられている。周囲には整備を待つ赤く血塗られた戦闘機、Su-33が係留されている、その一つはロレンズの機体だった。整備士が忙しく動き回り、エンジンの内部まで点検している。昨夜、既存のジェット燃料ではない燃料を使って飛行をしたためエンジンの整備点検が行われているのだ。機体は常に万全の状態でなければならないのだ。

 

さらに甲板の後方には一台のティルトローターヘリコプター、V22オスプレイが二つのローターをバタバタと回転させ、出発の準備を整えていた。

 

「ロレンズ大尉」

 

「?貴方は……」

 

ロレンズは声をかけてきた彼に対して面識があった、キリッとした顔立ち、鍛えられた肉体ではあるが自己主張をし過ぎていない。高い背も合わさって相当な美形を持つ男性だった。服装は戦闘機パイロットが着る対Gスーツ、間違いない、彼の名はダリオ・コヴァチ少佐。又の名をシュトリゴン2、現在のシュトリゴン隊の隊長を務める人物であった。

 

「ロレンズ大尉、失礼ながら私は貴官の技量を疑っていました……」

 

彼はその厳格な性格からは想像できないくらいに物腰柔らかにロレンズに話し掛けてくる。どうやら話を聞く限りダリオ少佐はいきなり現れて若返ったと言っているロレンズ大尉のことを正直疑っていたのだと言う。それもそうだろう、コックピットの中で気絶していた謎の人物がいきなりロレンズ・リーデルの名を名乗っても信じてもらえない。マカロフ大佐ですら自分の気持ちを知ってからやっと信じてもらえたものだった。

 

「ですが、今は違います。アイガイオンを救い、空中艦隊とイスラの交渉場面を築き上げてくれた事に皆感謝しています」

 

だが、彼の疑念も昨夜の一件で晴れたようであった。自分としては気にしていなかった、しょうがないと割り切っていた問題だったが、それでも信用してもらえるとやはり嬉しい。

 

「ありがとうございます少佐、私はこれからイスラに向かい要人たちをアイガイオンへ招待いたします」

 

そう、ロレンズはこれからイスラと空中艦隊との交渉のためイスラの要人たちを招待する流れになっていた。ロレンズはそのためにオスプレイに乗り、イスラへと向かう事になっていた。

 

「ロレンズ君、オスプレイの準備が整った。そろそろ出発しよう」

 

そこに、マカロフ大佐が現れた。ロレンズにオスプレイの発艦準備が整った事を知らせると、ロレンズに付いてくるように促す。

 

「分かりましたマカロフ大佐。では、行ってまいります」

 

「ええ、ご武運を」

 

ロレンズはダリオ少佐と暫しの別れをすませるとそのままオスプレイの下へと向かっていった。

 

「ロレンズ・リーデルか……」

 

ダリオ少佐は新たな仲間が加わった事に期待して、一言そう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アイガイオンに随伴してイスラまで連れてきたルナが、ヴァン・ヴィール軍港に入港してから数十分後。ルナに搭乗していたレオポルドも空中艦隊要人との集合場所に到着し、彼らを迎える準備は整っていた。

 

「あれは……ローター回転式の飛空機か……」

 

「ええ、見た所武装がありません。輸送に特化した機体なのでしょう」

 

こちらはイスラ左岸、一面に広がった平面の草原はあの手の垂直離着陸機が着陸するのに最適であった。イスラ空挺騎士団の機体に護衛されながらやって来たその機体はラガルティアの様に、この機体の場合はローター部分のみを回転させ垂直飛行に入った。これが彼らの言っていた「へりこぷたー」と呼ばれる(オスプレイは正確にはヘリではないのだが)飛空機械だろう。ルイスとアメリヤは各々の感想を述べながらその飛空機が降りてくるのを見ていた。そしてヘリが機体下部に取り付けられたランディングギアを使って器用に着陸するとローターの回転をゆっくりと止めながら機体後部のドアが開いた。

 

内部は座席とセットになった貨物室になっており、中から数人の人物が出てきた。軽い戦闘服を着用した護衛兵数名ともう一人、これにはアメリヤやルイス達には見覚えのある人物だった。ロレンズ・リーデル、昨夜の騒動でお互いの勢力の武力衝突を食い止めた立役者だった。

 

さらにその内6人は皆軍服を着用しており、胸につけた勲章、帽子の色から彼らがかなりの高官にいる事を物語っていた。そしてその中で最もくらいの高そうな人物がイスラ側の5人に近づくと、ビシッとした敬礼をして挨拶をした。

 

「エストバキア連邦東部軍管区海軍、アイガイオン空中艦隊司令、マカロフ・イワノヴィッチ大佐です」

 

「イスラ外務長、アメリア・センバンテスです。遠いところからのご足労、恐縮です」

 

アメリヤは思った、彼は信用できる人物だと。だが彼女は知っていた、こういう人物こそ油断ならないと。交渉というのはゲームのようなものだ、相手の手の内を見据えて最も条件のいいカードを振りかざす。今回はイスラ側の要人と空中艦隊側の要人全員での会談である。よってチームワークも重要になってくる。彼女はなんとか自分たちに有利な条件で味方についてもらう事にした。それが当面のイスラ側の方針である。

 

「貴方方をアイガイオンにご招待いたします。どうぞ、機体にお乗りください」

 

そう言ってマカロフ大佐と名乗った人物は彼らを飛空機械の座席にと案内する。一人一人が内部に入っていく中、ルイスが傍にいたロレンズを引き止めた。

 

「ロレンズ君、昨夜は良くやってくれた。お陰で我々は交渉をスタートさせる事ができた。感謝するよ」

 

「いえ、当然のことをしたまでです。讃えられる事はしていません」

 

「どうやら君は人間もできているようだね、おまけにパイロットとしての素質もある。君のような逸材がイスラにもいたらと思うよ」

 

「ありがとうございます、ですがイスラには逸材の卵が沢山います」

 

ルイスの嘆きにロレンズは決してイスラを侮辱したりせず、イスラにも逸材になりゆる人達がいることを比喩した。

 

「カドケス高校の生徒達の事だね?君が異世界から来たことは昨夜説明してある。そしたら皆君に会いたがっているよ」

 

「ありがとうございます、私はこのままイスラに残ります。またすぐに会う機会があるでしょう」

 

今回、ロレンズは今の便でイスラに残り、交渉が終わるまで待機する予定だった。なぜ彼が残る事になったのか、それには複雑な事情が絡んでいる。今回、イスラと空中艦隊の初会談の為の会場はアイガイオンにこだわっていた。なんでも、マカロフ大佐が見せたい映像があるとの事で、テレビがあるアイガイオンの会議室を強く志望していたのだ。一方で、イスラ側はイスラの施設の一つである来賓歓迎室を用いて会談を行いたいという思惑があった。こちらの方が安全であるという理由だろう。交渉には管区長を含めた要人たちが全員参加する。その為これから友好的な交渉をするとはいえ、見ず知らずの相手に要人を預けるのは不安が残っていたのだろう。

 

結果から言えばイスラは空中艦隊側の条件を承認した。ただし、条件付きである。空中艦隊側の人間を一人イスラ側に預ける事、それが条件であった。だが、空中艦隊側の要人たちは全員会談に参加しなければならない為、難しかった。そこで階級も高すぎず低すぎず、アイガイオン達空中艦隊にとって重要な役割を果たした立役者であるロレンズに白羽の矢が立ったのである。

 

「それでは私も君たちの言う『空中艦隊』をこの目で見てくるよ、島から眺めるだけでは交渉はできないからね」

 

そう言ってルイスとロレンズはお互いに敬礼を交わして暫しの別れの挨拶をした。その様子を疑いの眼差しでレオポルドがじっと睨んでいたが、彼は気にしなかった。だが、ロレンズの視線がある人物にフォーカスすると、何やら脳裏に重ね合わせられるような違和感を感じた。

 

「?」

 

その視線の先は、葡萄色の目と真っ白な銀髪を持った一人の少女だった。確か、名前はニナ・ヴィエントであったか。だがロレンズは彼女の姿が昨日見たある少女と照らし合わされるのを感じた。

 

「(彼女は……)」

 

そんな様子に気づくことなく、ルイスはオスプレイに乗り込む。そして操縦士の合図で扉が閉まっていった。その直前までロレンズはニナを見つめていた、何かの違和感が気になって仕方がなかった。扉が閉まると、二つのローターが再び稼働し始めオスプレイはイスラの地を飛び立っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼らが「おすぷれい」と呼ぶこの飛空機械の乗り心地は一般的な大型飛空機械とそこまで変わりはなかった。逆に言えば軍用機らしい乗り心地の悪さが目立つという事だろう。座席にはアメリヤを含め、なにやら子供のようなウキウキとした表情をしたルイス、怪訝そうな表情をしたレオポルド、そしてイスラ財務長官のマルクスが搭乗している。そしてもう一人、イスラの象徴として協議に出席することになったニナ・ヴィエントが座っている。こんな状況下でもその表情を変えない様は相当肝がお座りになっているようだ。だが、それでも見たことのない飛空機械に興味があるのか時折周りをキョロキョロと見回す事があるが、直ぐに真っ直ぐに視線を直してしまう。

 

イスラ側の要人と空中艦隊側の要人の会話は今のところ先ほどの挨拶のみであった。ルイスとロレンズの会話は半端プライベートの会話であったが、他の人物には話す事がないからであろう。協議の内容はこれからする予定である、場を和まず為のプライベートな会話もお互いの事をよく知らない為何も話せない。

 

だが、それぞれ頭の思考は常に考えているようだ。主にこれからの協議について。

 

「(異世界から来たと主張する謎の武装集団、我々の持っていない超技術の数々を有するエストバキアという国……)」

 

アメリヤは考えた。本当に異世界から来たのだとしたら、一体なぜここまでやってきたのか?聖アルディスタの気まぐれか、それとも……

 

「(彼らには分からないことが多すぎる……交渉は慎重に、かつイスラ側に有利な条件を提示しなければ……)」

 

アメリヤの中で交渉の作戦プランが少しずつ構築されていった。

 

「皆さま、見えてきましたよ」

 

「⁉︎あれが……」

 

彼らが言う空中艦隊の全貌がイスラの要人たちの目に入った。アメリヤたちイスラ側の人間は皆目を見開き、その様子を見ている。巨大な、そして異形のエイたちが空を漂っていた。彼らも地上から見ていた時もそうだったが空から見るその光景に圧倒されているようである。それもそうだろう、アイガイオンの全幅は1000メートルクラス、この世界においてはあまりにも大きすぎる。この世界で飛空戦艦と呼ばれる戦艦達ですら200メートルクラスが最大である事を知ればアイガイオンのスケールの大きさがどれほどのものか分かるだろう。随伴するコットス、キュゲスですら全幅486メートルと飛空挺を凌駕する大きさを誇る航空機だ。

 

「あれは……」

 

「アイガイオンの周りを随伴しているのは護衛の支援プラットホーム、コットスとギュゲスです。コットスは電子情報支援を、ギュゲスは戦闘支援をそれぞれ専門に行う戦闘航空機です」

 

「フン、なるほど、旗艦には艦載機の運用能力があり護衛まで引き連れている。空中艦隊と呼ばれるだけはありそうだな」

 

実はアイガイオンとイスラは違うようで案外似たコンセプトで作られている。広範囲に及ぶ制空権の制圧、確保。これがこの二つの兵器の共通する目的だ。この難題にイスラは空飛ぶ島として、島内に飛空場を配置する空飛ぶ要塞として。アイガイオンは空中空母とそれを護衛する空中艦隊として、その答えを見出したのだ。一見すれば大きさも艦載機数も劣ってるアイガイオンが見劣りするように見えるが、アイガイオンには彼らのいた世界において最新鋭であるジェット戦闘機を搭載、さらに高出力のレーダーを積んでいるため技術的な差がある。

 

「大きさも桁違いだね。我々の飛空戦艦に匹敵する、いやそれ以上の大きさだ」

 

「ええ、ですが見たところ砲のようなものは見当たりません。どうやって戦闘を行うのでしょうか……?」

 

確かに見た目上は主砲などの火砲兵器を搭載していないコットスとギュゲスは貧弱に見えるが、多数のミサイル兵装、格納式の機銃などが搭載されているため対空能力に抜かりはない。さらにはアイガイオンの火器にもそれらを覆す特殊兵器も積まれているが、そのことをイスラの住民たちは知る由もなかった。

 

そんな会話をよそにオスプレイのパイロットは着艦許可を要請すると、アイガイオンの周りをぐるりと一周しその巨体の存在感をイスラ御一行に示した。そしてオスプレイはアイガイオン後方の乱気流をうまく避けながら侵入、ローターを回転させてそのまま飛行甲板に着艦した。アイガイオンの飛行甲板に到着したイスラ要人御一行はオスプレイから降りると、まずとても飛空空母とは思えないその異様な甲板の作りに度肝を抜いた。

 

「こ、これは……一体どう言う構造なんだ……」

 

「驚きました……まさかこれほどのジェット戦空機が搭載されていたとは……」

 

巨大な爆撃機の胴体をぽっかりと貫通させたかのような飛行甲板のその形状は、飛空機に飛空機が収まっているかのような異様さである。さらに周りにはかのロレンズ・リーデルが搭乗してきたフランカーと同じ機体がずらりと並び、そのほかの輸送ヘリや対空戦車なども彼らが見たこともない兵器ばかりであった。

 

「どうぞ、皆様を会議室にご案内いたします」

 

マカロフ大佐はイスラ側の要人を来賓としてアイガイオンを案内する事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

飛行甲板から御一行はアイガイオンの会議室にと案内された。シミひとつない真っ白な壁、長方形のテーブルに備え付けられた固定式の椅子が12、見たことのない形であったが質感は黒く肌触りが良く出来ており、決して安物ではない事がわかる。12席のうち10席は長方形のテーブルの長い辺に合わせて向かい合うように配置され、うち2席はその間の短い辺にこれまた向かい合うように並べられている。片方の短い辺の後ろにはベナレスで最近発明された「てれび」と呼ばれる映像機械が壁に埋め込む形で備え付けられていた。

 

そのテレビの事にイスラ側の人間はたいそう驚いていた。彼らにとってテレビはまだ普及どころか発明されたばかりであり、それを軍が使う事は考えられなかったからであろう。この会議室だけを見ても、とても空飛ぶ飛空機の内部とは思えない精密な作りだった。

 

ー彼らにも先進的な文化がある。

 

アメリヤはそう思った。これまで彼ら空中艦隊のことは主に軍事面でしか見る事ができなかった。かの使者として派遣されたロレンズ・リーデルという男の乗っていたジェット戦空機、そしてまだ彼らの物だと確証はないがあの無人の飛空機の件、それのみだった。だが、判断するにはまだ材料が足りないが彼らは技術以外にも我々と同レベルの先進的文化を持っているとみてよい。

 

「皆さま、どうぞおかけください」

 

マカロフ大佐の声とともに、御一行が順に席に座る。まずテレビに近い席にアメリヤ、その隣になにやら楽しそうな笑みを浮かべるルイス、その隣にまだ怪訝そうな顔をしてどしんと座ったレオポルド、最後にマルクスだ。

 

そしてニナ・ヴィエントはテレビの反対側、会議の様子が一番よく見える席に案内された。その向かい側にマカロフ大佐が対峙する。彼女は今回、会議に参加することはほとんどないだろう。意見する内容もない、する必要のない、要人として話を聞いているだけの役割だった。

 

「改めまして、私はこの空中艦隊の司令を務めていますマカロフ・イワノヴィッチ大佐と申します。こちらは副官のレオナード・セムショフ少佐です」

 

「レオナード少佐です、よろしくお願いします」

 

「私はアズレート中佐だ、ギュゲス一番機機長を務めてる」

 

「ニコライ少佐です、ギュゲス二番機機長を務めております」

 

「タイーシャ中佐と申します、コットス一番機の機長です」

 

「せ、セルゲイ少佐です……コットス二番機機長を務めさせていただいています」

 

挨拶は交渉、コミニュケーションの基本である。まず、自分達から自己紹介をするのが礼儀であるためアイガイオン空中艦隊側の要人が初めに軽い自己紹介をする。

 

彼らと言葉が通じることは知っていたので予め彼らが通訳係の士官を用意していた。通訳が自己紹介をイスラ側に通訳する。少しばかりのベナレス訛りのバレステロス語を流暢に喋り、内容を伝える。

 

「はじめまして、イスラ外務長、アメリヤ・セルバンテスです」

 

「私はルイス・デ・アラルコンです。イスラ航海長を務めています」

 

「……レオポルド・メルセだ。空挺騎士団団長を務めている」

 

「マルコス・サンチェスです。イスラ財務長を務めさせていただいています」

 

「我々イスラの政治は我々四人会議で決められております」

 

イスラ側も自己紹介を済ませるとイスラの政治について軽い紹介をした。この言葉に嘘はない、アメリヤは「そして……」言葉を続けると……

 

「こちらがイスラの管区長を務めていらっしゃる、ニナ・ヴィエント様です」

 

丁寧に、かつ簡潔にニナ・ヴィエントの事について紹介した。慎ましいニナはゆっくりと席を立ち、透き通る美しい声で自己紹介をした。

 

「イスラ管区長、ニナ・ヴィエントです。今回はお招きいただきありがとうございます。前向きな交渉が進む事を願うばかりです」

 

ニナが少しばかり礼をすると空中艦隊の士官たちは口には出さないものの、おお、とばかりに目を見開いた。ニナが席に座ってもなお呆気にとられている。

 

「はっ、失礼、壮大で凛々しいお方だと見惚れていました。同じ女性として尚更……」

 

タイーシャ中佐は少しばかりの照れながら謝罪した。

 

「いやはや我々もです。これほどまでにお若いのに管区長という重大なお役とは、恐れ入りました」

 

ー今のは世辞でも嘘でもないな。

 

アメリヤは悟った。少なくともこの場面で嘘をつくメリットはないだろう、素直にニナの事を好意的に受け入れられることは安心感があった。

 

今後もその調子でなるべく嘘はつかないで欲しいものだ、すでに交渉のゲームは始まっている。だからこそ包み隠さず言って欲しい、彼らとその世界のことについて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど……隣国との戦争中に……」

 

「ええ、我々は奇襲攻撃を受け全滅しました。そのあと気がつけば、この海域の上空を飛行していたのです」

 

交渉は進み、自己紹介を交わしてから十分が経った。その間にまずマカロフ大佐は自分達がここに来た経緯をイスラ側に説明する。

 

それによると彼らはエメリヤ共和国という彼らの国の隣国と戦争をしていたという。そして、その最中に敵の奇襲攻撃を受け空中艦隊は全滅した。だが気付けば、聖泉の近くの空域を飛行していたのだという。

 

あまりにも突拍子も無い話だ、とても信じられなかった。特に、アメリヤは現実主義的な面がある。ロマンチストのルイスはすでに信じて疑っていないが、アメリヤはどうしても信じられなかった。もちろん、蛮族石頭のレオポルドも声には出さないが表情を険しくし、信じられない様子だった。

 

「(だが彼らが嘘をついているようには見えない、それに……)」

 

イスラ側の面々は、手渡された世界地図をじっと見つめる。見たこともない四つの大陸と多数の国々が記された未知の地図だった。

 

「(これが……彼らの世界……)」

 

見たこともない大陸、そして見たこともない国々。どの国名も聞いたことのないものだった。もし、偽物だとしてもここまで精密な世界地図は自分達の世界では作成できない。とてもではないが架空の大陸と国々の地図をこの短期間で作成するのは無理があると考えた。

 

それに、この地図には我々の世界と決定的に違う点があった。地図は平面の紙に描かれた卓上のものだった。しかし、その北側と南側になにやら大陸があるのだ。しかも()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「失礼ですが改めてお聞きしたい、貴方方の世界は()()()()()()()()()()()()()()()()

 

アメリヤが質問したかったことをルイスが聞いてくれた。

 

「はい、科学的な観測でもそう証明されています。我々の世界は球体惑星の上にあります」

 

それにはニコライ少佐がメガネを揃えながら説明してくれた。

 

「なるほど……地図を見たときに思いましたよ。これは我々の世界とはまるで地理が違うと。この世界に来て疑問に思った事でしょう、なんてったって地平線が見えないのですから」

 

「ええ、我々もこの艦隊の観測機器を使用して初めてこの世界が平面惑星だと知りました」

 

ルイスは語り始めた。初めて聞く彼らでも分かりやすい説明であった。まず、聖アルディスタとその創造神話について。アルディスタが我々を導くために不動星エテュカの導きで世界の謎を解き明かそうとしていること。そのために空飛ぶ島イスラにまたがってバレステロスを旅立ち、旅を続けている事を。

 

「なるほど……世界の謎を解き明かすために……壮大な探検ですね」

 

「ええ、しかも今まで神話の中だけだと思われていた聖泉に住まう空賊という武装勢力も確認され、現在イスラは脅威にさらされている状態です」

 

「なるほど……」

 

マカロフは 大佐は状況を理解したようで、考え込む。

 

「失礼ですがその前に、我々には一つ確認したい事があります」

 

アメリヤは鞄から数枚の写真を取り出した。それを、空中艦隊の面々に見えるように差し出す。色の付いていない白黒写真だった。

 

「こちらは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とある飛空機械です。確認したところ、この機体には飛空士は乗っておらず、無人でした」

 

アメリヤは告げる、ありのままの事実を追求する。

 

「この機体は貴方方の偵察機で間違いありませんか?」

 

「……ええ、間違いありません。アイガイオンに搭載されていた無人機と同じ機体です」

 

「やはりそうでしたか……」

 

「我々が貴方方のイスラという浮島を初めて発見したのもこの機体でした」

 

「なるほど、では次の質問です。貴方方の機体はイスラ上空を領空侵犯し、安全を脅かしました。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

告げる、イスラに有利なように導くために。ぴしゃりと聞かれたその質問に、空中艦隊の面々はうなだれ始めた。

 

「当時我々はこの世界に転移していきたばかりであり、情報収集を第一としていました。そのため貴方達のイスラに必要以上に接近してしまったのです。それに、警告なしに撃墜したのは貴方方です。そちらにも責任はあるのではないでしょうか?」

 

そんな状況を見据えてか、すかさずニコライ少佐が反論に入る。だが、アメリヤは冷ややかな笑みを浮かべる。そんな反論は想定済みだった。

 

「無人機に言葉が通ずると、そう仰るつもりですか?」

 

すかさず言い返す。アメリヤらしい盛大な皮肉であった。

 

「……貴方方の要求は?」

 

「我々の要求はただ一つです。無条件で我々と共闘し、空賊を退ける事。そして我々に貴方方の持つ技術を提供する事。以上です」

 

アメリヤは自分達の要求を包み隠さず冷静に告げた。話を聞く限り、突然この世界に連れてこられた彼らは今孤立している。国からの支援を受けることも補給することもままならない、ならばイスラの援助を受けるしかないだろう。アメリヤの考えは鋭い、断れない状況でなるべく有利な条件を突きつけるのだ。

 

「これらは全て2度にわたってイスラの領空を侵犯した事に対する責任として受け取っていただきたいです。我々に協力することで、無人機と空中艦隊進行の件については帳消しとしましょう」

 

決まった、アメリヤはそう思った。

 

だが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「要求はお断りいたします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一瞬、不可視の衝撃波を浴びせられた気がした。ここにいるイスラ側の全員がだ。アメリヤは仰け反り返りそうになるのをなんとか抑え、冷静さを保ちつつ聞き返す。

 

「……?今なんと?」

 

「お断りしますと言いました。貴方方の条件は我々の事を全く配慮していない、自分たちの保身ばかり考えている。そういうことです」

 

「なんだと⁉︎偉そうに言いおって!イスラを2度も脅かしたのだから我々の言うことを聞け!」

 

「貴様らこそ我々の無人機を無警告で撃ち落としたのだぞ!責任を取るべきなのはお前たちだ!」

 

マカロフ大佐は冷静にそう述べたつもりだったが、レオポルドの短気の怒りに触れてしまったようだ。それに対しアズレート中佐という士官も叱責する。頭に血が上りやすい体質の二人は交渉の場を怒号飛び交う戦場にしてしまった。

 

「まあまあ、落ち着いてくださいよ団長……」

 

「……アズレート君もだよ、座りたまえ」

 

アメリヤは無能な味方に舌打ちをしたい気持ちを精一杯抑えて、ルイスがレオポルドを宥めるのを待っていた。アズレート中佐も冷静さを取り戻し、席に座る。似た者同士がいるとトラブルが起きやすい。アメリヤは場が静まり返るのを待つと、すかさず彼らに質問をする。

 

「というと?我々には味方はできないと?」

 

「……失礼、少し語弊がありました。味方はできないという意味でのお断りではありません。ですが、我々にも立場というものがあります。奴隷兵のように無条件下で従うような安い誇りと名誉ではありません」

 

「ならば貴方方の条件を提示してください、そうでなければ納得いきません」

 

「……我々の掲げる条件は一つです、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

技術の提供は断じてしない。以上です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「……⁉︎」」」」

 

これは予想外だった。いや、言われてはまずいと思い願っていた事だったが為に、「言われてしまった」という予想外の焦りが一瞬で出来た。この条件はイスラにとって一番言われて欲しくなかった条件である。

 

ー落ち着け、ここは冷静に言い返すだけだ。

 

アメリヤはそう自分に言い聞かすと、

 

「なぜでしょう?我々は対等な立場のはずです、ならば技術提供も妥当でしょう。貴方方と同等の技術を用いれば空賊達をも簡単に退けられます。お互いの為にもするべきでありましょう」

 

「では、そのあとは?」

 

「?」

 

「空賊を退けたあとです。そのあと貴方方はその技術をどうお使いになられるのですか?」

 

場が静まり返る。イスラ側の面々は顔を見合わせ、返答に困っている様子だ。アメリヤは思う、これは予想外だったと。彼らは孤立しているが故に我々の要求を素直に受け入れると思っていた。が、肝心の技術提供を断られてしまった。彼らは予想以上に強気だった、これは迂闊だったと後悔する。

 

マカロフ大佐は一呼吸置くと席を立ち上がり、あの大きなテレビ画面の前に立つ。その表情はどこか悲しげで、まるで振り返りたくない思い出を振り返るかのような顔をしている。そしてこう告げた。

 

 

 

 

 

 

「ここは論より証拠です。お見せ致しましょう、優れすぎた技術に溺れた我々の世界がどうなっていったのかをー」

 

 

 

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