とある飛空士の重巡航管制機《アイガイオン》 作:篠乃丸@綾香
今回はストレンジリアルの歴史篇です、長くなりそうなのでここで一旦区切ります。
彼らは語り出した、自分たちの世界の歴史を、霹靂を。私たちの世界とはまるで違う、戦乱と戦争、悲劇にまみれた血みどろの歴史を。
心に不可視の剣が突き刺さるような感覚、えぐられるような映像、心の中でもう見たくないと泣き叫ぶ声が聞こえてきた。
彼らの世界の惨劇、戦乱の歴史が語られるたびに胸の中で何かどす黒いものが蠢いているのが分かった。
私はニナ・ヴィエントとして感情を押し込め、ただ座ってその映像を眺めていることしかできなかった。
「これから、我々の世界の歴史を紹介いたします。中にはかなりショッキングな映像も含まれていますが、貴方方の目でしっかりと確認していただきたいと思っています」
マカロフ大佐は話を切り出した。自分たちの世界の歴史を深く、悲しげに語り始めた。アメリヤには彼のその時の表情をこう語っている。「まるで嫌な記憶を探っているかのようだった」と。
突然何を言いだすのだとレオポルドは遮ろうとしたが、ルイスの「これで我々が納得するなら見てみようではないか」という一言で制止された。
彼は自分の部下に命令し、後ろの機械を操作させる。すると彼の後ろにあったテレビ画面がパッと光り、明るい光とともに文字が映し出された。アメリヤはこれが映像だと理解するのに時間がかかった。それほどまでに鮮明な色の絵だったからだ。
「我々の世界の混乱は、全てを辿るととある国にたどり着きます」
テレビの映像が切り替わった。それは先程渡された彼らの世界の世界地図と一致していた。そしてその中の中央の大陸に映像がフォーカスし、そのまま拡大される。大陸の大部分を支配する大国と、いくつかの小国とともにひときわ目立つ国が色と光で照らされる。その位置は「オーシア」と書かれた大国の隣であった。
「その国の名はベルカ公国と言いました。かつてこの国は同じ大陸にあったオーシア連邦という国と軍拡競争を繰り広げていました。しかし、大国オーシアと違い拡張する領土と軍事費に耐えられず、領土を手放すこととなってしまいました」
説明はベルカ公国の歴史から始まった。どうやらこの国は大国との競争に負け、自らの領土を手放さざる負えなかったらしい。それがどれだけ屈辱的なことか、かつて王政であったバレステロス出身のアメリヤは知っていた。
「しかし、手放したはずの領土内にて大量の資源が発見されると資源に飢えた彼らは世界に対して戦争をしかけました。我々の暦で1995年、のちにベルカ戦争と呼ばれる全面戦争の幕開けです」
「ぜ、全面戦争……?」
「ええ、文字どうりの全面戦争でした。国と国との命運をかけた全力の戦争です」
なんと……彼らの世界では国と国とが総力を挙げて戦う戦争を、昔に経験していたらしい。それだけでも、長い間の平和期間があったイスラ側の人間を驚かせるのには十分であった。
「初めは優勢だったベルカ軍でしたが、連合軍の圧倒的な物量に次第に追い詰められ、そして……」
切り替わった映像に我々イスラ側の人間は絶句した。
「自国領土内で
天高く昇る赤黒い煙、キノコ状のそれは高威力の爆発が起こった時に発生するキノコ雲と呼ばれる現象だった。それが雲の上まで天高く立ち上り、空を汚していた。それが7つ。アメリヤは思わず口を押さえた、その新型爆弾による爆発が一瞬にして一万人以上の人間の命を奪った事をアメリヤは悟ったからだった。
ふと、テレビ画面と対照的な位置に座っているニナ管区長をチラリと見た。彼女は表情こそ変えていないものの、体が小さく小刻みに震えているのが見て取れた。
「その後も戦争は続き、彼らは6月20日の停戦のその日まで抵抗を続けていました。後に、全て掃討されたと記録されています……」
自国を犠牲にして、勝てるはずもない戦いに身を投じて、ベルカ人が被った犠牲と犯した罪の数々。それらが語られるたび、ニナの体がビクリと震える。表情は変えていないものの、彼女の中でどんな思考がなされているのか想像に容易かった。「もう見たくない」そんな感情が見て取れる。
「しかし、これでも戦争は終わりませんでした。同年の12月25日、ベルカ軍上級将校を中心に、元連合軍を含む各国の将兵を含む大規模多国籍クーデター組織「国境なき世界」を蜂起しました」
「な⁉︎これほどまでに犠牲を出してもなお、まだ戦争を続けたのか⁉︎」
「はい、結果的には戦争は続きました。しかし、彼らの目的はそれとは真逆。世界の国境をなくし、二度と戦いが起きないようにと決起したのです」
「……理解できん、ベルカ人とやらはどれだけ無謀なのだ……」
「ええ、確かに無謀と言われれば確かにそうかもしれません。ですが、知っていましたか?貴方方と直接会って来た我々の使者であるロレンズ・リーデル大尉の事を。
「「「「「!?」」」」」
まさか……彼がこの大規模クーデターに参加していた?そんなまさか、彼は……と、そこでアメリヤは自分が初めてロレンズと出会った執務室での会話を思い出した。
(そして……その戦争で私の恩師はその愚かな戦争と下らない国境をなくすため部隊を率いて反乱を起こしました。私もそれに参加し……いえ、この話はまた今度にしましょう)
「(ではこれが……彼の言っていた「国境をなくす」という事……?)」
思えば、彼の故郷はベルカ公国だと言っていた。戦争の内容も多少簡略化されていたものの、ロレンズの話していた内容と一致する。初めはただの小規模な戦争だと思っていたが、この映像を見せられてはそれがどれだけ大規模な全面戦争であったか知ってしまった。ならば何故、彼はこの話を後回しにしたのだろうか?
マカロフ大佐はアメリヤの疑問には答えてくれなかった。彼はそのまま話を続け、映像を切り替える。
「国境なき世界はベルカ公国の秘密基地を押収し、そこで世界中の大国たちを一度に焼き払える秘密兵器を使用しようとしました。世界の国境をなくすためと称して……」
世界を一度に焼き払える秘密兵器……だと?アメリヤにはそれがどう言ったものか想像できなかった。だが、あの
「……それを知った連合軍は、阻止作戦を決行。多大な犠牲を払い、『鬼神』と呼ばれたエースパイロットの活躍によって作戦は成功しました」
画像は一機の戦空機の映像に切り替わった。車輪を出し、滑走路に着陸しようとしている映像だった。
もちろん、イスラ側の世界では見たこともない機体でプロペラなどが見当たらず、代わりに甲高いエンジン音らしき音が映像から響いていた。「フランカー」と呼んでいた空中艦隊の艦載機とも違う。灰色の塗装に翼端が青く塗られた主翼、二発のジェットエンジンを備えた力強いフォルムの戦空機であった。
「(彼らの世界の……エース……)」
エース、それも彼らの世界を危機から救ったレベルのエース飛空士である。我々の世界とは規模が違った。
「これが一連の戦争の経緯でした。その後ベルカ公国は南北に解体され、世界はその戦争の衝撃から軍縮に向かって路線を切り替えていきました」
唖然、それが我々の心の内を物語っていた。彼らの語っていることに対しての理解が追いつかなかった。全面戦争?新型爆弾?大量破壊兵器?アメリヤは思考をぐるぐると回転させた、だがそれでも出された映像がそれらが事実だと物語っていた。彼らの世界は……こんなにも殺伐としていたのか……
彼は、その後も映像を切り替えながら説明を続けた。
1999年、彼らの世界の惑星に直径1.6キロをこえる巨大な小惑星「1994XF04 ユリシーズ」がユージア大陸に落下。いわゆる隕石と呼ばれる自然災害が起こった。以前から予知されていた為対抗策の巨大な対隕石120cm対地対空両用磁気火薬複合加速方式半自動固定砲「ストーンヘンジ」と呼ばれる軌道衛星まで届く巨大砲を命中させて迎撃した。しかし、完全には破壊できず無数の破片がユージア大陸を襲い、最初の2週間だけで50万人が亡くなり、多数の難民の押し付け合いが始まった。この時の都市に数々のクレーターができ、都市ごと沈んで行く映像を見てマルクスは吐き気を訴え退室してしまった。
そして、押し付け合いの対象となってしまったエルジア共和国が力ずくで解決しようとし、ストーンヘンジのあるサンバルシオンに宣戦布告。ストーンヘンジを奪い、長射程の対空兵器として運用。これに対して大陸各国はISAFと呼ばれる連合組織を結成して対抗したが、ストーンヘンジの威力によりエルジア共和国が有利に戦局を運んだ。ストーンヘンジの破壊により戦局は後退、抵抗むなしくエルジア共和国は敗戦した、約2000万人の犠牲者を出した2003年から2005年の大陸戦争。
彼らの世界の超大国、オーシア連邦とユークトバニア連邦共和国がかつてのベルカ公国の強硬派「灰色の男たち」の誘導によって戦争状態に突入。数々の超兵器が投入され、総力的な戦争へと突入。両国は次第に戦争を泥沼化させていった。それを陰謀だと暴き、両国首脳による演説で両国に戦う理由がないことと、この戦争を仕組んだ者がいることを訴え、オーシア・ユークトバニア間における戦争が終結したと宣言した。同時にかつてのベルカ領での大量破壊兵器のコントロール施設を破壊。その大量破壊兵器がオーシアの首都に落下したがとある飛行隊の犠牲によって破壊され、危機を脱した環太平洋戦争。
そして最後に、ユリシーズの被害は他の大陸でも発生していた事を語り出した。それは、彼ら空中艦隊の故郷であるエストバキアであった。ユージア大陸と同じく迎撃手段を開発していたが、隣国との関係や技術的な問題で難航。結果間に合わずにエストバキアには多大な被害が発生してしまった。結果としてエストバキアは経済が破綻、政府関係者が国外に逃亡したことによりさらに混乱が広がってしまった。それによりエストバキアでは軍閥と呼ばれる各地域の軍人たちによる支配が確立。その後「東部軍閥」や「諸島連合」、「北部高地派」、「自主関税同盟」等の勢力が一斉蜂起し、本格的な内戦状況に陥る。
約15年間に及ぶ内戦の結果、2013年にこの空中艦隊をいち早く開発導入した東部軍閥が他勢力を駆逐、糾合したことにより内戦は終結する。統一後のエストバキアは、「将軍たち」と呼ばれる指導者らによる軍事政権が樹立することとなる。
その後、未だに貧窮しきった経済を立て直すため、ユリシーズの被害の少なかった隣国のエメリア共和国へ奇襲攻撃を仕掛け、領地を奪い取るという暴挙に出た。アイガイオン率いる空中艦隊の活躍で、一時はエメリア軍を壊滅寸前にまで追い詰めていったが、敵軍のエースパイロット「ガルーダ1」を筆頭としたエメリア軍の猛攻により戦局は後退。ジリジリとエメリアの首都、グレースメリアへと侵攻されていった。
そしてアイガイオンの弱点がエメリア軍に露見した結果、空中艦隊は完璧なまでの奇襲攻撃を受けた。マカロフ大佐は艦隊を率いて善戦したが、艦隊は全滅してしまった。その後の経緯は彼らが最初にイスラ側に話した通りだと言う。
「いかがでしたでしょうか?これが我々が知る限りの歴史です。その後、エストバキアとエメリアの戦争がどうなったかは分かりません。それを知る手段がありませんが切り札をなくしたエストバキアは敗戦を重ねていることでしょう……」
映像が終わり、マカロフ大佐は冷静に告げた。しかし、アメリヤたちイスラ側の人間たちはなにも言わなかった。下を俯いて、項垂れたり悲しげな表情をするだけであった。それほどまでに衝撃が強すぎてなにも言葉が出ないのだ。
「……失礼、カルチャーショックが強すぎて、正直言葉が出ません……これほどまでの技術を持った大国同士が国家の命運をかけて全面的な戦争を繰り広げていたなんて……」
アメリヤは勇気を振り絞って今の気持ちを込めてそう言った。
「ああ……バレステロスではクーデターが一度あったとはいえ、三ヶ国間は長い間平和だったからな……彼らの世界では平和期間はたったの数年でしか無いようだね……」
ルイスも辛うじて出せる声でそう言った。
「何年かに一回は世界のどこかで大規模な戦争が起こっているようなものか……殺伐だな……」
レオポルドもその戦争好きな性格からは考えられないセリフを言った。
「…………」
ニナはただ黙っていることしかできなかった。
「これらは全て事実です、我々の世界で確かに起こったことでした。だからこそ、恐れているのです。これらの戦争ではこのアイガイオンを含め、多数の超兵器が使用されました。全て優れすぎた技術に溺れた結果です。それにより、多くの犠牲者が出てしまいました。
もし、貴方方に我々の持つ技術を提供したとしましょう。確かに空賊と呼ばれる脅威を簡単に退けられるかもしれない、ですがその後優れすぎた技術の進歩によって貴方方の世界を戦乱に導いてしまうのではないか?貴方方の世界には水素電池などの我々の世界にはなかった技術もあるなら尚更のことです。我々にはそれが一番恐ろしいのです」
「「「「…………」」」」
彼らの意思は、我々の世界のことを見据えていた。本来ならば技術と共に倫理観も進化するもの、事実彼らの世界でもベルカ戦争の衝撃から各国が軍縮に切り替えたと言う。しかし、その過程を踏まずに技術だけが独り歩きをしたら……考えただけでも恐ろしかった。
と、ここで今までじっと話を聞いていたニナ・ヴィエントがそっと席を立ち上がった。彼女には先程までの震えはなく、元のキリッとした表情を見せて一礼をした。そして、空中艦隊の面々を見渡ししっかりとした声で言葉を発した。
「貴方方の世界の歴史、しかと記憶しました。数多くの犠牲者、戦死者に追悼の意を称します。そして、貴方方の思うところを知らず、不敬にも技術提供を求めた事について……私めが謝罪します。どうかお許しを……」
「……いいえ、我々も誤解を招くような発言をしてしまった責任があります。ここはお互いに反省し、歩み寄りましょう」
「心遣い、感謝いたします」
どうやら、双方の誤解は穏便に納得したようだった。お互いの世界を知るいい機会にもなった。その衝撃はまだ心を貫いているが、彼らのことは受け入れなければならない。
「(これは……今まで経験したことのない交渉になる……)」
アメリヤはそう予感した。