とある飛空士の重巡航管制機《アイガイオン》 作:篠乃丸@綾香
レーベンのUAV、完全にファンネル感が出てロマンある……
「これで我々はお互いに平等な立場になりましたね」
そう言ってアメリヤは、マカロフ司令に笑顔で手を差し伸べる。
「はい、こちらこそ我々が孤独でないことを嬉しく思います」
マカロフ司令はアメリヤの手を快く受け入れ、お互いに握手をした。周りもその様子を安堵した様子で見守っていた。
あの衝撃的な映像が脳裏に残る中、交渉はマルクスが席に戻ってからまた再開された。交渉はお互いの誤解を解き時間がかかったものの段取りよく取り決めが進んだ。
結果から言えば、彼らとの協力を締結することは成功した。内容は以下の通りである。
1:イスラ側と空中艦隊は互いに同盟関係にあり、組織的には独立しているものとする。
2:同盟関係のため、どちらかがどちらかに一方的に従うことは認められない。指揮系統についても独立したものとする。
3:イスラ側は空中艦隊に可能な限りの補給、空中艦隊は有事の際の安全保障を約束する事。
4:空中艦隊側とイスラ側の一連の事件や騒動についてはお互いに置かれた状況下では致し方ないものとし、今後の安全保障で一切不問とする。
5:空中艦隊側の技術はイスラ側の世界のバランスを崩しかねないので技術の提供は一切しないものとする。ただし、武器や装備の貸し出しはコピーをしないことを約束として許可する。
空中艦隊とイスラはお互いに必要なものや支援を提供し、旅を終える為の『同盟』という形をとることになった。これなら、彼ら空中艦隊もエストバキア軍を名乗ったまま、『エストバキア連邦代表』としてこのイスラ計画に参加することができる。
このような形になったのは、空中艦隊は母国であるエストバキアとの連絡が完全に途絶えており、イスラに関してはそもそもイスラが"国"という単位ではなく同じように本国との連絡が途絶えている為、条約の取り決めは限定的にならざるおえなかったからだ。なぜなら突然異世界からやって来た高い技術力を有する組織との出会いは本来であれば歴史的大事件であり、本来ならば本国で慎重な条約の取り決めが行われるはずで合ったからだ。そのため、イスラが将来的に彼らを連れて本国に帰還する可能性を考えれば勝手な取り決めは出来ためである。
イスラ側は空中艦隊に対して食料弾薬、可能な限りの化石燃料の提供、空中艦隊側はイスラに対して有事の際の共同防衛を保証する事。これが条件となりお互いに合意した、これならお互いに利益になる。だが、先程マカロフ大佐が話した通り技術の提供は認められなかった。
指揮系統に関しては同盟という形のため目的は一つでもお互いの指揮は空挺騎士団と空中艦隊では独立させることにした。彼らはイスラの傘下に入った訳ではないのだから、指揮官の人事は変えていない。
ちなみに、空中艦隊側とイスラ側が正式に接触するまでに発生した無人機の領空侵犯や撃墜などの一連の事件や騒動については、お互いに置かれた状況下では致し方ないものとして一切の責任を問わない処置をした。レオパルドはその事に不満を漏らしたが、責任は今後の同盟の過程で帳消しにする事にして、なんとか納得してもらった。つまり、お互いに責任は不問とする事になっている。
握手を交わし、笑顔で受け答えをするアメリヤ。だが、脳裏には少しばかりの衝撃が残っていた。
「(彼らの世界は、戦争に明け暮れていたのだな……それも、我々から見て超常的な技術を持ってして)」
やはり先程の映像の衝撃が癒えていないようだ。
我々の水準をはるかに超える見たこともない技術、経験したことのないような規模の全面戦争。彼らの世界では幾度となくこのような惨事が繰り返されていた。彼らの技術が全て、これらの悲惨な戦争の数々から発展していったもの……そう考えると彼らが少し怖く見えてくる。
もし、私が……いや我々イスラが彼らの世界に飛ばされた側だったとしたら……数多くの戦争と軍事技術の数々に我々は追いつけただろうか?水素電池の技術は、このイスラはどのように使われていたのか?自分たちに降り注ぐ隕石を目の前に、我々は正気を保てただろうか……
想像できない、しきれない。とても考えられたものではなかった。それはほかの3人も、はたまたニナ・ヴィエントも同じであろう。だからこそ、アメリヤは彼らが交渉の門を自ら開いてくれていた事に感謝と安堵を覚えた。
「皆様、これからアイガイオンの中を一通りご案内いたします。どうぞこちらへ」
「ありがとうございます、司令自らがご案内してくださるとは光栄です」
と、マカロフ大佐に促されアメリヤは思考を振り払って席を立ち、マカロフ大佐にお礼をする。
いつまでも考えにふけっていては仕方がない、技術提供ができなくても我々にとって有意義な経験は手に入れられるはずだ。アメリヤはネガティブな思考を振り払って目の前を前向きに考え始める。
その後、一行はアイガイオンのコックピットを除く士官室や食堂、エンジンルームなどを見学した。彼らは士官室の豪華さ、食堂のIHヒーターなどの見たことのない調理器具、エンジンルームの巨大なジェットエンジンに終始驚かされっぱなしであった。
最後に飛行甲板の格納庫を見学して、行きと同じくオスプレイに乗って帰っていった。ただしその帰りの便には今度は空中艦隊の要人たちが乗り合わせていた。
その日の朝、イスラの住民は初めて自らの目でアイガイオン達空中艦隊の全景を見た。もちろん、住民はかなり戸惑っていた。
戸惑いの原因は何も知らされていないことにあった。ルナ・バルコをも超える大きさのあの巨影は何か?あんな兵器はイスラ空挺騎士団が持っているはずがない。では誰が?そもそもなぜこのタイミングで急に現れたのか?もしや空賊ではないか?
住民の不安は絶えなかった、そもそも聖泉を見つけた直後は浮足立っていたが昨日の夕方には空賊と思わしき飛空機集団がイスラを爆撃しようとしてたではないか。もちろん、イスラ空挺騎士団員から「あれは敵ではない、安心しても良い」と紹介されても不安と疑問しかない。
実を言うとその襲撃時にはもうすでにロレンズのフランカーがその空賊と空戦をしていたのだ。だが大半の住民はシェルターにいた為、フランカーの存在は一部の住民しか知らない。さらに言えば前の無人機の件と同じく完全に機密事項扱いのため知らぬものは知る由も無かった。
だがここに数少ない例外がいた。
「あれがアイガイオンか、おっきいね〜」
「それもそうだろう、アイガイオン級の大きさは全幅960メートル超え、前長は400メートルを超えているからな」
「え!?そんなに大きいの!?」
「すっげえな……ルナが霞んで見えるくらいだぜ……」
「翼の大きさだけでも1キロ近くあるなんて……すごいよあの飛空機……」
ここはカドケス高校のエスコリアル飛空場、そこにはセンデジュアル組の生徒、シノン、アスカ、教官達そしてロレンズがいた。彼らはアイガイオンを見て各々の感想を述べながらロレンズと交流している。
ここにロレンズがいるのには訳があった。ロレンズは空中艦隊とイスラ四人委員会との交渉が終わるまでイスラに半ば人質としてイスラに残ることになっていた。しかし、監視官として任命されたソニアの監視下のもとならある程度の自由行動を許されていた。
そして、彼が訪問すると最初から決めていたのがこのカドケス高校であった。ここにいるのはセンデジュアル組の生徒と、シノン、アスカと教員の二人。彼らとも意気投合し、今ではこんな感じに交流し合っている。
因みにヴァン・ヴィール組の生徒達はシノンとアスカ以外にはいない。どうやら得体の知れない人物には近づきたくない様だった。
「にしても〜まさかロレンズさんが異世界からやってきた人だとは思いませんでしたよ〜」
「ええ、ルイス提督から今朝聞かされた時はそんな馬鹿なと思いましたが、今思えばフランカーという機体のような高性能の機体は我々の世界では作ることができませんから、あながち納得しましたよ」
ナナコとベンジャミンがそれぞれの反応で意外の感想を囃し立てる。そう、前にルイスがロレンズに言った通りロレンズが異世界からやってきた人間だということはセンデジュアル組とシノン、アスカの皆に伝えられていたのだ。
そのためロレンズは彼らから質問責めにあっていた。子供と触れ合ったことのないロレンズにとってはなにぶん難しい任務だったが、慣れてしまえば案外楽しいものだ。今ではすっかり意気投合している。
唯一疑問だとすれば、昨晩見かけたクレアという少女が見当たらないことだった。
「あ、あの〜」
「?ああ、ミツオ君か。どうしたんだい?」
ロレンズはふくよかな少年として記憶に残っていたミツオに話しかけられた。彼はどうやらこの世界の飛空機についてかなり詳しいようで、所謂『飛空機オタク』と呼びたいほどの知識を備えていた。
普段は少しオドオドしているようで積極的に話しかけてくることはないらしいが、今回は勇気を振り絞ったのかロレンズに話しかけてくれた。
「あ、あのアイガイオンの事ついて聞きたいことがあって……実は僕、あの機体のことを知った時から何のために作られたのか気になっていて……所謂ドクトリン?が違うのかなって思っていたんですけど……」
ミツオは自分の中の疑問を話し始める。
「うーん、確かにドクトリンの違いはあるかもしれないな……あのアイガイオンは元々『広範囲に亘る航空優勢を継続して確立する新戦略及び戦術』というエストバキアの新戦術の一環として作られたんだ」
ロレンズは顎に手を当てて頭を巡らせて、少し考えながらミツオに説明した。そう、アイガイオンは元々アネア大陸の制空権を確保するための制空プラットフォームとして計画、建造されたのだ。
「新戦術……ですか……」
「ああ、簡単に言えば長距離から攻撃して敵の航空機を撃破、さらに艦載機も同時に運用して広範囲の制空権を確保するためのものといった感じだな」
「へぇ……だがらあのアイガイオンには空母としての役割が付与されているんだ……すごいよ……僕たちの世界の戦術よりもよっぽど進んでるよ!」
ミツオはロレンズの分かりやすいドクトリンの説明を聞いて納得し、いつになく興奮した状態で嬉しそうに語った。
「なるほど……広範囲の制空権の確保という点はイスラと似ていますね」
と今度はベンジャミンが共通点に気づいたのか、アイガイオンとイスラを比較する。メガネを揃える理系の典型的なポーズは彼の代名詞だ。
「似ているってどいういう事?」
と、シャロン。彼女は実はロレンズとの交流を深めるうちに自身の視野が広がっていることを嬉しく思っている。空中艦隊が味方になってくれるかどうかには不安が残るが、それでもロレンズはいい人だと考えている。
そのため、彼のいた空中艦隊とイスラの思わぬ共通点には関心を持ったのだ。
「はい、イスラは空飛ぶ島を要塞に改造して飛空場まで建てて航空戦力を運用できます。空襲に対する防衛もありますが、それらの戦空機を制空戦闘に回す事もできるのです。というより、それがイスラの様な飛空要塞の本来の用途です。
沈まない空飛ぶ島に飛空場を建て、沈むことのない空飛ぶ空母として運用すれば、空権の確保にだって大きなアドバンテージになります。つまり、このイスラもアイガイオンも制空権の確保というドクトリンに基づいているのですよ」
「なるほど、この世界における浮島の戦術的価値はかなり凄い様だな」
この解説には、ロレンズも思わず舌を巻いた。まだ子供でありながらここまで理解が早いベンジャミンの能力もそうだが、まさかこのイスラもアイガイオンと同じ思想のもと作られている兵器だということが一番の驚きだった。さながら兄弟だ、ロレンズはイスラに対してさらに近親感を覚えた。
「確か誘導する空雷、確かミサイル……でしたっけ?あれを遠くから撃って艦載機を援護しながら制空権を確保するのね」
物静かなシノンがベンジャミンにも負けないくらいの頭の回転でそのドクトリンを読み取る。この子の頭の良さはベンジャミンとはまた違ったベクトルを感じる。
「?って事はロレンズさんの世界ではその『ミサイル?』を遠くから撃ち合うだけで決着が着いちゃうの?」
と、今度はアスカがこちらに質問してきた。彼女……彼も飛空士の卵、活発な少女の様な見た目だがやはり飛空士の男子。空戦の事については気になる事も多いのだろう。
「そんな例もないわけではないが、実際は私の世界では戦闘機の機動性が格段に上昇しているし、ミサイルに対する防御技術も進歩しているからそうもいかない。
最終的には『ドックファイト』……こっちの言葉だと『格闘戦』になる事が多い。ミサイルが発達していても機銃が装備されているのはそのためだ」
「音速戦空機同士の格闘戦……うーん、きっと目まぐるしくて目が回っちゃいそう……」
アリエルの想像はあながち間違ってはいない。そう、ロレンズの世界では対空ミサイルの技術よりも戦闘機の機動性の方が先走りしている傾向にある。一時期は『ミサイル万能論』がドクトリンを支配しようとしていたが、ミサイルの命中精度より戦闘機の機動性の方が高いことが多く、制空戦闘ではドックファイトになる事も珍しくない。さらに言えばミサイルはエンジンの排気をとらえる方式が多く、ドックファイトは昔のレシプロ機時代と同じくらい重要であった。
逆に言えば、その様なすばしっこい戦闘機を確実に落とすためにニンバスの様な特殊兵器は生まれたのかもしれない。
「なぁなぁ、ロレンズさん!ロレンズさんも軍人だったんだろ?何かカッコいい武勇伝とか教えてくれよ?」
今度に質問してきたのはノリアキである。斎ノ国出身の彼、本人には失礼だがあまり印象に残っていないのだ。だが、この濃いクラスの中だとそのモブ感が逆に目立っていて名前を覚えられた。
ロレンズは彼の質問に少し悩んでしまった。ロレンズの過去、個人的にはあまり彼らには話したくない様な内容ばかりである。もし、それを語ってしまい彼らにいらぬ誤解を受ければ、信頼を失う事も……
「……」
「?」
「……ロレンズ、彼らとの誤解を防ぐためにも正直に話した方がいいと俺は思うぞ」
「バンデラス教官殿……」
「どうせ隠し事をしたっていつかはバレるもんだ、なら早めに話した方が気が楽だしな……」
ここでロレンズの背中を押そうとしたのはバンデラス教官。ソニア教官と彼にはロレンズの世界がどの様な世界だったのかを語っていた。だからこそ、ロレンズに話すことを促している。
嫌われるかも知れないが、それでもお互いをわかり合うには語り合うしかない。ロレンズは拳を握りしめて覚悟を決めた。
「皆、私達の世界はあまり話しても気分がいい歴史ばかりではない……だが、私達は相互理解が必要だ。しっかりと聞いてほしい、これは俺たちの世界で実際に起こった事だ……」
ロレンズは話し始めた、自分の世界で起こった戦争のことを。自分がエストバキアではなくベルカの出身で、そのベルカは過去に戦争を起こし、大きな過ちまで犯したことを。
その後のユリシーズや大陸戦争、環太平洋戦争、そしてエストバキアに亡命した後に起こったE・E戦争の勃発まで……
「まさか……そんなにたくさんの戦争があったとは……」
「ああ、私の世界は殺伐としていた……今までの戦争で何人の人間が亡くなったのか私にはわからない……」
「天変地異に戦争って悲劇すぎるよ……」
ロレンズの世界の歴史を聞いた彼らの反応は皆暗い感情が出ていた。驚く者、悲しむ者、その誰もがロレンズの世界の歴史に衝撃を抱いていたのだ。
「そ、その……ロレンズさんごめんなさい!俺、ロレンズさんの世界のこと全っ然知らなくて!つい、興味本位で聞いちゃって……」
あまりの歴史に、質問してしまったノリアキが謝罪する。彼自身、自分のデリカシーの無い質問のせいでロレンズに思い出したく無いことを思い出させてしまったのかもしれないと罪悪感を感じていたのだ。
「いや、いいさ。隠し通すほうが気分が良くなかっただろう、皆に話せて肩の荷が降りたよ……」
ロレンズはそう言って自分を慰めた。ロレンズ自身、これは話したくないというより話すのが怖かった。数多くの戦争をしてきた話をしてしまえば、生徒達から恐れられるかもしれない……それがロレンズにとっては怖かったのだ。
「じゃあなんで……」
力強い、誰かの声がした。皆がその方向を見る。
「なんであなたはそこまでして戦ったんです?自分の国が滅んで、見ず知らずの他国に亡命してまで……なんでそこまでして戦ったんですか……?」
質問してきたのは先程までロレンズとの距離を置いていたあの少年、カルエルだった。金髪碧眼の蒼い目をこちらに向け、鋭い眼差しでこちらを問う。
その奥には色々な感情が入り混じっていて、ロレンズには理解が足りなかった。
「ちょっとカル!ロレンズさんにとっては繊細な話なのよ!ほんっとデリカシーないんだから!あんまり散策するのは……」
その質問の内容にデリカシーの無さを感じたのか、彼の妹分のアリエルがカルエルの質問を叱りつけだ。
「アリー……!そんな言い方ないじゃないか!」
「……怒らないでやってくれ。私は気にしていない」
ロレンズは怒りっぱなしのアリエルを宥めると、空を仰ぎ感情に耽る。目線の先の空にはアイガイオン達空中艦隊が悠々と飛んでいる。
「なぜ戦い続けたか?どうだろう……私は無我夢中だったからな。なぜ亡命してまで戦ったのか分からない」
「……」
皆は真剣な表情でロレンズの話を聞いていた。
ロレンズは再び拳を握りして、新たに覚悟を決める。
「これは……まだ誰にも話していないことだが。私はベルカ戦争の後に起きた軍のクーデターに参加していたんだ。いや、ベルカ軍だけじゃない。戦争に参加したすべての国から決起が巻き起こって大陸中を巻き込んだ」
「クーデター……何のために……」
「もう二度と、戦争をさせないためだ」
ロレンズは力強く、強い眼差しで生徒達を見つめそう言った。
「世界から国境をなくせば、もう二度と戦争なんて起きない。ベルカ戦争の様な悲劇も起きない。私と私の恩師はその理想に惹かれて決起に参加したんだ。その名は『国境なき世界』……」
「国境なき世界……」
「……」
「結果は無残なものだったよ。なぜなら国境をなくすと言いながらほんとはすべての国を滅ぼして実現するつもりだったのだから、阻止されて当然だった。
だが、それでも私は見たかったんだ。この空が誰のものでもなく平和に飛べる世界を……それが戦い続けた理由なのかも知れない」
ロレンズは空に手を伸ばし、掴み取る様な動作をした。あの空の、ダークブルーの空のあの向こうへと。
それに意味があるかどうかは分からない、だが彼にとってこの空はつかめそうで掴めない虚しいものだった。そこにあるのに、近いのになぜかそこで人間は争い合い、血を流す。ロレンズにとってはそれがいたたまれなかった。
「あ、すまないな。カルエル君、暗い話をさらに難しくしてしまって……」
「いえ、いいんです。元はと言えば質問したのは僕らですから……」
「そうか……すまないな……」
ロレンズは一呼吸置いた。
「皆、これが私の正体だ。それでも、こんな殺伐とした世界から来た私を……受け入れてくれるのか……?」
ロレンズはあまり彼らの顔を見たくはなかった。年端もいかない少年少女達が悲しみに染まるのを見たく無いのもあるが、やはり自分を受け入れてくれようとした相手にこの様な衝撃的なことを伝えるのは怖かったからだ。
「正直……信じられません、私達の世界はほとんど争いがなくて平和だったんで戦争なんて……」
でも、とアリエルは続ける。
「ロレンズさんは良い人だよ!だって昨日イスラが空襲を受けたとき、ロレンズさんは私たちを助けてくれたじゃん!
今話してても、気さくで、優しくって、すっごく良い人だってわかる!」
アリエルは皆に振り返り、こう言った。
「みんな、ロレンズさんの事、信じてあげよう?せっかく異世界から来たんだから友達がいないと!」
アリエルのまっすぐなその言葉に、皆は納得し始めた。
「うん、そうだね。ロレンズさんは僕たちの知らない飛空機の事だって知っている……すごい人だよ……」
「うんうん!ロレンズさんは尊敬できるっス!」
「ええ、私達にも優しいし礼儀正しい……良い人ね」
「そうでごわすな!ここはひとつ、兄貴として慕わせてもらうでごわす!」
「私も私も〜ロレンズさんの秘密、まだ聴けてない事たくさんあるからね〜」
「私も異論はないわ……」
「私もロレンズさんの事信じてみるよ!面白そうだしね☆」
「僕も……ひとまずは信じてみるよ……!」
「カルははぐらかすんじゃなくて、もっと素直な言い方をしなさいよ。ひねくれてるんだから……」
「なっ、アリー!それくらいで怒るなよ!」
そう言って周りは笑顔に包まれる、いつも通りの痴話喧嘩を見ながら。
全員異論はない。生徒達はロレンズのことを快く受け入れてくれた。ロレンズがソニアとバンデラスの方を向いても、彼らは笑顔で頷いた。それが意味するのはただひとつだ。ロレンズはここに来て肩の荷どころか、心まで現れたような気持ちになった。そして、息を吸って新しい仲間達に振り向いた。
「ああ、皆……ありがとう!」
ロレンズの笑みに、生徒達はロレンズに負けないくらいの笑みを浮かべて返した。
「そうだ、俺たちの世界のこんな暗い話じゃなくて楽しい面を話そう。俺たちの世界ではどんな便利な生活ができてるか、知りたくないか?」
それを聞いた生徒たちは一気に質問してきた。やれやれ、また質問責めに合いそうだとロレンズは苦笑い。だが、その表情はどこかしら優しげだった。
そしてしばらくたち、時間はほぼ正午を迎えた。その時間、イスラの住民達は4人委員会の命令でセンデジュアルの広場へ集められていた。ざわざわと相談していることから、住民はなぜ集められたのか状況が飲み込めてないようだった。なぜならそこにはセンデジュアルの住民だけでなく、イスラ空挺騎士団員や4人委員会の面々までビシッと整列し、さらには上空にはルナ・バルコや戦空機などが整列しているのである。
聖泉に入ってからと言うもの、水の補給ができないためイスラ空挺騎士団はあまり飛空機を飛ばさずに水を節約している。そのため空挺騎士団は訓練ですら満足にしていないのは住民もわかっていた。それがなんだ、まるでこれからパレードでも行うかのように編隊を組んで集結しているのだ。
そしてきわめつきはあの
住民達の疑問は時折不安となってそれぞれが不穏な妄想を話し合っている。しかし、その答えはそのすぐあとに出てきた。
イスラ空挺騎士団の隊員の一人が壇上の前に出て、こう言った。
「これより、4人委員会およびニナ管区長から今後のイスラについて説明がある。これからの方針、そして新しい同盟についてだ。皆の者は聞き漏らしのないようしっかりと聞くように」
それを聞いた瞬間、住民達は一気に静まり返った。4人委員会とニナ管区長が直接住民に対して説明をする?これはあまりにも前代未聞である。4人委員会が何か決め事をした時は、大体イスラのラジオ局や新聞などで知らされる。直接住民に説明をするなんてことはあり得ないからだ。
「初めに、聖アルディスタへ感謝を……旅が始まってからはや半年ほど、これまで様々な苦難がありました。特に、先日、いや三ヶ月前にまで遡る一連の空賊の奇襲攻撃に関してはイスラ最大の暗唱になることでしょう。そのため、その対策についてそして新たな同盟についてご説明させていただきたい。
皆さん!我々は今までこの旅が始まってからずっと孤独に耐え抜いてきました。聖泉にたどり着いたものの、我々はどこに向かうのか?どこまで旅を続ければいいのか?未開の地への旅においてこのような不安が出ることは、四人議会を含めみな予測していた事です」
ここでも、住民はまた驚いた。初めはなにかの『説明』と聞いていたがルイスはまるで演説でもするかの様な流れで話し始めたのだ。そんな住民の驚きを知ってか知らずかルイス提督は演説を続ける。
「ですが、そんな孤独にはもう耐える必要などないのです。我々は母国達と別れを告げてからはや半年、我々は新しい味方を見つけることが出来たのです!」
新しい味方?いや馬鹿な、この聖泉には神話では空賊しかいないではないか。彼らが味方にでもなったとでも言うのか?と、住民はルイスの隣に一人の威厳ある男性が立っていることに気が付いた。まさか……
「ご紹介します、かの地から我々の元へとやって来たエストバキア連邦の皆様です!彼らは、この我々の世界とは違う世界の住民。異世界からやってきた遠い遠い盟友なのです!」
住民の予想は当たった、この威厳がその盟主だったと。だが彼は一体誰だ?遠い遠い異世界からやってきた?何がどうなっているのか?
住民はあまりの出来事に全く口が閉じれず、会話もすることもない。
「皆さん、はじめまして。エストバキア連邦東部軍管区海軍、アイガイオン空中艦隊司令、マカロフ・イワノヴィッチ大佐です。初めに、この世界の創造主である聖アルディスタに感謝の意を表します。異なる世界の我々をこの世界に導いてくれたことを……
ルイス提督の言う通り、我々はあなた方の世界とは違う別の世界からやってきました。我々の世界は大瀑布も聖泉もない、球体惑星です。
その我々の世界は天変地異による戦乱と混乱によって荒廃し、我々の母国エストバキアもまた戦争に頼らなければ自国を維持できなくなるような状態に追い詰められました」
住民はマカロフ大佐の話にのめり込む様に集中していた。
「そして我々は隣国との戦争中に死に絶え、我々の命運は尽きました。ですが、天は我らを見捨てなかった。気づけば我々はこの素晴らしく美しい聖泉の泉を垣間見ました。その瞬間悟ったのです、我々は異なる世界、異世界へとやって来たのだと。
私はこれをチャンスだったと思っております。戦争しかすることのできなかった我々をこの空にて蘇らせ再び人と協力し、平和を築くチャンスを与えてくれたと!」
マカロフ大佐は力強く、力強くその経緯を演説した。
「そして、我々は彼らと、あなた方イスラと出会った。運命か、風のいざないか、我々の使者はこの島を見つけることができたのです。
このイスラは素晴らしい島です、世界の果てこの世界の真の姿を突き止めるための果てしない旅。我々はそのロマンに魅せられた瞬間、このイスラと行動を共にする決断を致しました!」
住民の中からどよめきの声が上がった、初めは疑問でしかなかったがこうして見るとまるで彼らが本当に異世界からやってきたかの様ではないか。
次にかのイスラ管区長、ニナ・ヴィエントが壇上に上がった。普段ならここで歓声が上がるところだが、あまりの出来事に住民は全く付いてこれていない。
「私はイスラ管区長、ニナ・ヴィエントです。彼らの言葉は本当です。聖アルディスタの御名のもとに、彼らと私たちは風の運命に惹かれて今ここに集いました。
彼らはさながら天使です、危機が刻一刻と迫っていく我々イスラに協力して立ち向かう勇気と力を与えてくれた想像神話の中の天使です!」
ここまで聞いて、住民はいよいよ彼らが異世界からやって来たことを知った。なにせ、あのニナ管区長様が直接演説をしているのだから、信用できないはずがない。それを悟った住民らのどよめきの声はだんだんと歓喜の声に変わっていった。
「皆さん、我々は力を得ました!困難に立ち向かう勇気と力を!見るのです、彼らの世界の戦空機を!」
ニナが声に力を込め、演説が盛り上りはじめたその瞬間。その真上を鏃が駆け抜けた。鮮やかな煙を撒きながら空挺騎士団の飛空機など屁でもないようなほどの速さで駆け抜け、会場の空気を鋭く切り裂いた。
正体はシュトリゴン隊のフランカーであった。彼らはこの演説をさらに引き立て、彼らが異世界からやってきたことを民衆に信用させるためにアイガイオンからここまで飛んできたのだ。
民衆はそれが戦空機であると気付くまで一瞬遅れた。なぜならプロペラがなく空気を切り裂くような爆音で驚くべき速さで空を飛び上がる飛空機は見たことがなかった。いや、それどころかこれを見るまで想像することすらできなかった。そんな性能の飛空機は存在しないと。
だが、そんな想像すらもしなかったものがが今目の前を飛んでいる。
フランカーは色とりどりのスモークを撒きながら上昇、そのまま散開して空に煙のアーチを作り出した。全部で7機それぞれ違う色のスモークを撒くその軌跡は、さながら虹のような美しさを感じた。
ロレンズの時と同じく、フランカーの存在が神話の序章のような出来事を彼らに信じさせたのだった。その瞬間、先ほどのフランカーのジェットエンジンにも負けないくらいの大音量で民衆から大歓声が上がった。「天使だ!天使がやって来たぞ!!」「これで百人力だ!」「私たちは一人じゃなかったんだ!」と。
「みなさん、私たちはもう恐れる必要などないのです。不動星エティカの方角の、その先にあるであろう空の果てまで!彼らと共に歩みましょう!!」
聖泉を見つけられ、ここに来て異世界からの援軍である。民衆も軍も皆士気が高まるのは必然であろう。
この演説の内容には途中にあったいざこざは省かれ、あたかも運命的な出会いを果たしたかのように祭り上げられている。『風の運命』『天使』というロマンス溢れる単語を使ったニナとマカロフ大佐の演説に踊らされているだけかもしれないが、実際はニナや四人委員会を含めイスラ全体がアイガイオン達空中艦隊を受け入れたことにより、彼ら四人委員会もまた嬉しく思っていた。
先がどこまで続くのかわからないこの旅に、異世界からの味方が加わったのだ。嬉しくないはずがないだろう。これで戦力もしばらくは保つことができると。
マカロフ大佐の演説が終わると、民衆は出発式典の時と同じくらい、いやそれ以上の盛り上がりを見せた。
戦闘機とミサイルの機動性のもろとものシーン。あれはエスコン世界でドックファイトが多発することに対しての理由づけでオリジナル設定になります。現実世界のミサイルよりも、ストレンジリアルの戦闘機の方が機動性が高い設定です。
そうでもしないとドックファイトが発生しないから仕方がない……
すごく久しぶりの用語解説
《ドクトリン》
政治、外交、軍事における基本事項のこと。軍事の場合は基本戦術とも戦闘教義ともいう。原理原則のなかでも部隊編制や装備体系、仮想敵の特性、予想される戦場の環境などを考慮しながら何を重視するかを定めるものである。そのため、国や組織のあらゆる事情や思想、技術、時代によって柔軟に変化する。
分かりやすい例で言えば大日本帝国海軍、あの魚雷大好き装備、夜戦大好き戦術だって立派なドクトリンのようなもの。日本軍では〜主義と呼んでいたらしい。