とある飛空士の重巡航管制機《アイガイオン》 作:篠乃丸@綾香
今回は戦いまでの間の話なので、あまり物語は進みません……
第19話〜イスラで1番長い一日〜
8月24日:13時30分
この日、イスラで1番長い1日が始まろうとしていた。
「警戒!飛行目標接近中、数10、距離10キロ、なおも接近中!」
「近接対空戦闘用意!!」
マカロフ大佐の号令と共に、全員が持ち場に着く。レーダー員はレーダーに、火器管制は火器管制に、それぞれがそれぞれの役割を全力でこなすための戦闘準備を整える。その緊張感あふれる現場は、彼らの本気度を表していた。
ミサイルを装填し、対空火器をオンラインにして対空戦闘の準備を完了させた。ふと見ると、周りにはアイガイオンのほかにコットス、キュゲスの各機が戦闘態勢に入りアイガイオンを囲うかのような布陣を取り始めた。
「目標、距離1.2キロ……っ!目標から飛翔物発射を確認、熱源を探知!ロケット兵器です、数20!」
「話にあった空雷という兵器か……CIWSオート!同時に回避行動!」
空雷、彼らが言っていた無誘導のロケット兵器だ。空に魚雷を浮かべたような兵器で、弾速はミサイルよりは遅いことがレーダーをみればわかる。
すると、アイガイオン達の背中や腹の部分にある無数の対空砲が一斉に火を吹き始めた。機体下部のAK630、機体上部のコールチク。それらが弾幕射撃を展開して、空雷を迎撃する流れだ。どちらの対空砲の口径も30ミリの徹甲弾。当たればすぐに爆散して破片を撒き散らしていく。
そして、アイガイオンを含めた空中艦隊は一気に上昇軌道を取り始めた。回避行動だ。ここまで巨大な物体だが、空中にいる以上はある程度の機動性は保証できる。その保証できる機動性に身を任せ、アイガイオンは空雷を迎撃しながら同時に避ける軌道を取り始める。
「上昇、同時に左30度に旋回!」
上昇だけでは足りないかもしれないと悟ったアイガイオンはそのまま空雷の方向へと機首を合わせようとする。こうする事で被弾面積を減らして当たりにくくする。
そしてアイガイオンもゆっくりと、それを行おうと旋回していく。グオングオン、そんな音を立てながら全長400メートルを超える飛行機が旋回していく様は相手の雷撃機も思わず息を飲んだ。
「……っ!」
しばしの静寂が、アイガイオンのコックピットを貫いた。
ドカン!ドカン!
そんな音が響くと、空雷は空雷はアイガイオンに到達する前にAK630の30ミリに撃ち落とされ、その爆薬を爆ぜて消えていった。アイガイオン命中弾はない。
しかし、それにホッとしている暇は与えてくれなかった。
「さらなる目標接近!数10!目標直上、急降下!」
反射的にマカロフ大佐はコックピットの上を見た。窓はないが、人間は直上と言われると反射的に上を見てしまう。その天井には代わりにモニターが取り付けられている、我々空中艦隊の真上にいくつかの点が写っている。高性能な三次元レーダーは彼らの高度まで表示している。目標群は急速に降下していっていた。
「これは急降下爆撃だ……回避行動を!」
マカロフ大佐のとっさの指示で中断していた回避行動がまた再開された。だが、それでも相手機は迫ってくる。
1000……800……
まだ降りてくる。
600……500……
近づきすぎだ。
マカロフ大佐はアイガイオンと目標群が衝突するのを危惧したが機体は400まで接近すると回避行動をするアイガイオンと違い、そのまま進路を少し変えアイガイオンとの衝突を避けるコースへと変進した。
「目標群から分離体……これは無誘導爆弾です!」
「弾幕を張れ!」
回避行動を続けるため、旋回を大きくとるアイガイオン。しかし、全長400メートルを超える巨体はそう簡単には曲がれない。
そしてまたも、コルーチク対空機関砲は絶え間なく光り続けながら弾幕を張り始め、投下された爆弾に対処しようとしていた。
「くっ!」
爆弾が迫ってくる。
300……
200……
100……
カン!
そんな甲高い音が鳴ると、爆弾はピカリと光り、爆弾の防隔がビキビキとひび割れて炎が膨れ上がった。コールチクの30ミリ徹甲弾は250キロの爆弾を容易に貫いたのだ。
途端、その黒い爆薬が弾けた。
爆風と熱風がアイガイオンの甲板をさらりと吹き撫でる。爆弾の爆発程度で穴が空くほどアイガイオンはやわでは無い。
そして、爆弾だったものは黒煙となり、風に吹かれて消えていった。
「……やはり1番の脅威は急降下爆撃か」
マカロフ大佐は冷や汗を拭きながらそう言った。
「状況終了、空挺騎士団と我が艦隊の合同訓練はここまだ」
そう、彼らは実戦を行っていたなのではない。
イスラ空挺騎士団との連携を強化するための合同訓練を行っていたのだ。その一環として、空挺騎士団の雷撃機隊や爆撃機隊との模擬戦闘を行っていた。
今まで空挺団の飛空機が接近してきても直接CIWSやミサイルで飛空機を迎撃しなかったのもこれが訓練だったからである。そして先ほどの爆弾も弾頭のない模擬弾、爆薬が積んであるが信管は積んでいない。当たってもアイガイオンの飛行甲板を傷つけることは無い。
「やられるところでしたね」
今回は、彼らが今までしてきた訓練の中で一番危ないところであった。
「ああ、レーダーが使えないとなると、こうも制約が出るのか……」
「ええ、だから前の世界であのような全滅の仕方をしてしまったのでしょう……」
ただし、その訓練の内容にはわざとハンデを設けていた。アイガイオン側はミサイルはもちろん、レーダーによる表示も設定を変更して近距離でしか探知できないようにしていた。
そして、相手機には先制攻撃はせずわざと肉薄させた。これには、もし空中艦隊に敵機が肉薄した時の対処の仕方やアイガイオンの弱点を図るためのものであった。
前の世界で、アイガイオンはレーダーが使えない状態で奇襲攻撃を受け、そのままガルーダ隊によって撃墜された。レーダーなどの機器に頼りすぎた結果が招いた失敗だった。それを克服するため、アイガイオンが肉薄されても対処できるかどうかの模索が始まったのだ。
結果としては、検討せねばならない課題がたくさん見つかった。前の夜の夕食会でオズワルド大佐が言っていた通り、空飛ぶデカブツは急降下爆撃に非常に弱かった。なにせ、舵を切っても相手はギリギリまで投下の標準をつけてくる。
しかも、アイガイオンのCIWSは射角的に真上を狙うことが難しい。そんなところから爆弾を放たれたら迎撃も弾幕が薄くなり難しくなる。迎撃は可能だが、不安材料になる。
そのかわり、空雷に対しては通常のミサイルと同じく弾幕射撃の有効性を確認できた。空雷はロケット兵器とはいえ、アイガイオン達のいた世界のミサイルよりは速度が遅いため、迎撃はしやすかった。
ここまで制約の多い訓練を行ったのには訳がある。話は、昨晩の歓迎会での一幕に巻き戻ることになる。
「イスラ・アイガイオン合同演習……ですか?」
「え、ええそうです……!」
あの晩、縮こまった小動物……とまではいかなくともなかなかに緊張気味のカシルダ少佐はぎこちない喋り方でイスラとアイガイオンの合同訓練について説明してくれた。
合同訓練、つまりは違う組織同士が合同で訓練を行い、連携を高めるためのものだ。アイガイオンと行いたいようだった。
「お、オズワルド大佐が進言したもので、確か今後の同盟関係には安全保障も含まれていますよね……?」
「はい、確か有事の際はそれぞれが独自の命令系統のまま共同戦線を張るのでしたよね?」
「え、ええそうです……お互いの連携を高めてアイガイオン側がこの世界での戦術に対する対処法検討するためにも必要だとお考えになっているようでして……」
なるほど、ならば訓練をしておいた方が有意義なのは確実だろう。こんなことを早期に考えつくとは、オズワルド大佐という人物はどうやら先見性のある逸材なのかもしれない。
「なるほど、詳しく教えてくれませんか?」
「は、はい!」
その後も話は進んだ。緊張気味の彼女をほぐして、話を進めるとなかなかに有意義な訓練になりそうであった。さらには他にも、ルナ・バルコとの砲撃演習やイスラ空挺騎士団などの隊員とそちらのシュトリゴン隊との飛行訓練なども決定した。特に、飛行訓練にはカドケス高校の飛空科の生徒たちも参加する事になった。彼らも参加するほどの大規模な演習、ならばシュトリゴン隊達の士気も上がるはずである。
「分かりました、マカロフ大佐に進言してみます。きっといい返事が来ることでしょう」
「あ、ありがとうございます……!」
「いやはや、にしてもお互い大変ですね。副官という役職は……」
「ええ、上司が有能であっても負担は減りませんから……」
「よろしければ、このまま上官の噂話でもいかがでしょう?あ、もちろんいい意味でですよ。私もオズワルド大佐がどのような軍人なのか気になりまして」
「あ、ありがとうございます……!で、ではこのままお食事を食べながら雑談を行いましょう……!」
そして、この合同訓練の件をマカロフ大佐は快く了承した。こうして、イスラとアイガイオン空中艦隊との大規模な合同訓練が始まったのだった。
条約では、空中艦隊側の装備の提供も検討された。
最初はアイガイオンに搭載された地上兵器を空挺降下させてイスラの地上に運ぶ事も検討されゲパルト自走対空砲が6台、整備車両とともに降ろされることが検討されていたが、戦車などの大型の兵器は砲弾の口径などの問題もあり現段階では見送られた。
代わりに空中艦隊は持っていた一部の個人携行武器を提供することになった。そしてそれらの武器は……
「しっかり狙え!特に新しい自動小銃を使っているものは、教えてもらった武器の特性を理解しろ!」
イスラの左岸、数キロの空。飛空科生たちのエル・アルコンの空冷エンジンのプロレラ音に紛れて、バンデラス教官の怒号が生徒たちを揺さぶった。
タンタン!ダダダ!
時折聞こえる数多くの銃声はいくつかに分かれて、それぞれが違う特徴的な銃声を響かせていた。
「大丈夫……?カルエルくん……ちゃんと使えてる?」
「う、うん……ちょっと銃の方が使いづらくってさ……」
カルエルは全席のクレアからの心配声に対して自身の持っている銃に責任転嫁すると、銃を持ち直して標準器を覗く。
(よく狙えばよく命中する……それは認める。
けれど当たっても威力が低いし連射すると全く標準が定まらない……)
それがこの銃、G36に対するカルエルの評価であった。カルエルは射的はかなり苦手だ。それも初めて後席に座った時は持ってきた弾丸全てを使い切っても、目標の風船には一発も当たらなかった程である。それでもこの銃ならば何発かの命中弾を得ることができた。それだけこの銃の命中精度が高いという事である。
しかし、5.56ミリの小口径の弾丸を使うこの銃は威力や射程距離にかなりの不満をカルエルは感じていた。
タタタン!カルエルは引き金を引くたびに大きくなり、制御が難しくなる反動に手間取っている。弾丸はマトを貫通したが、三発中一発のみだった。
そして、そのマトもいつもと違っていた。ブーンというエンジン音を立てて空を飛ぶ物体。だが、そこに人の影はない。それもそのはず、そもそも飛行している物体が小さすぎて人が乗るどころの話ではなかった。小さなプロペラが四枚上向きに並べられていて、胴体は丸い形の骨組みだけで構成されている。その姿はまるで蜂の巣のような見た目をしている。その下に、紐につられてぶら下がっているのが今回の的、競技用に使うような何重にも別れた円が描かれた、何を材料にしたのか分からない(プラスチックを知らない)板である。
(相変わらず気味の悪い的だ)
これは、アイガイオン空中艦隊の持っていたドローンであった。これにカルエルは最初、驚きを通り越して少しばかり気味の悪さを感じた。なぜなら人が乗らないで遠くで操作して飛び上がるのだ。気味が悪いったらありやしない。
カルエルたち飛空科生たちはもちろん、イスラ空挺騎士団もこれには驚いており、空挺騎士団は射的の的を遠くから動かせることが訓練に最適だと感心していた(もともとこれの用途は偵察用だということは知らない模様であったが問題はない)。
カルエルはそう思いながら引き金を引いた。カチン。銃声は鳴らず銃からはその音だけが鳴った。弾切れの合図である。
「使いづらい……こんな銃であんな小さい的を狙うなんて……」
カルエルは毒づきながら弾倉を交換した、やり方は地上で教えてもらったものだ。
だが、毒づくカルエルと違って周りの生徒達は新しく貰った武器達の性能にものすごい関心を示していた。
「なるほど、この自動小銃は反動が大きい代わりに高い威力を誇るのですか……素晴らしい威力です……!」
ベンジャミンはG3自動小銃を選んだ。理由は機関銃ほどの銃身を持たず、かつ同じ口径の弾が使えるような銃が自分には最適だと考えたからだ。
「ですが、この長い銃身では塹壕や飛空機の中でかさばりますね。使いどころを考えなければ……」
と、冷静に銃の弱点まで分析するベンジャミン。自分の武器に過信しすぎない、冷静な性格だった。
他の生徒達もすぐに武器に馴染み始めており、この場で不満があるのはもしかしたらカルエルだけなのかもしれない。
「次!“対空空雷”を構えろっ!」
バンデラス教官のそれを聞いたカルエルは、エル・アルコンの中から気だるそうに円筒状の物体を取り出した。他の飛空科生たちはカルエルと違い、テキパキと同じ物体を取り出す。
円筒にもう一つ、前にフラッシュのないカメラのようなものがついた機械を取り出す。これを先ほどの円筒の横に取り付ける。そして、円筒に付けたカメラを覗くようにして構え、後方に人や物が何もないことを確認する。
バンデラス教官が手に持った箱のような機械を操作すると、蜂の巣にぶら下がった的から煙が吹き出して照明を炊き始める。これは遠隔操作式の照明弾。これはすべての的にぶら下げるようにして取り付けてあり、これで熱を発すればこれから撃つ武器の性能を発揮することができる。
その新たな的に照準を向ければ、この機械から『ビー』というなんとも表し難いオルゴールのような機械音が出る。
「用意……撃てっ!」
カルエルは円筒の引き金を引く。すると空気が抜けるような音と煙が筒の後ろ側から飛び出してきた。そして、前からは目にも留まらぬ速さで何かが飛び出した。円筒のこの武器と同じく、丸い形をしていて、後尾から熱を吹き出して煙を吐き、物体は飛翔する。こちらの世界で『空雷』、かの世界で『ミサイル』と呼ばれる武器の一つだ。
カルエルは照準を的にしっかりと絞っていた。だが撃つ時に勢いよく引き金を引きすぎたのか、筒自体が大きく揺れ、的の向きから少しだけずれたのを感じていた。そのまま行けば、この小さな空雷はまっすぐ筒の向き通りに飛び、的から外れていたことだろう。しかし、不思議なことが起こった。
空雷が自ら進路を変え、まっすぐ的に向かって向きを変えたのだ。まるで獲物を追い求めるマグロのように空を泳ぎ、上へ下へと少しずつ向きを変えていっている。
そして、マグロの空雷は的の中央をぶち破り、そのまま虚空の空へをすすんでいくと自ら自爆していった。爆発はかなりの規模のもので、飛空機相手だと簡単に翼をへし折りそうなほどの威力がありそうだった。
「これが……誘導空雷、スティンガーね……」
この優れた武器はスティンガー、というらしい。元々は地上から、大きな対空砲を使わずとも空を飛ぶ飛空機を撃ち落とせるように作られたものだ。
「すごい武器だね……」
「うん……でもこれはあんまり使いたくないな……」
カルエルは率直、かつ自分の中では一番理にかなった感想を述べた。カルエルとしては、空戦は感覚や手持ちの武器などで正々堂々と戦いたい。だが、これは飛空機の排熱などを簡単に探知して誘導するズルい武器だと感じていた。少なくとも自分は使いたくない。
「あ、そろそろ操縦を交代するよ。次はクレアの番でしょ?」
「う、うん!ありがとう……」
そう言ってぎこちないながらも、前席に座っていたクレアと操縦を交代する。エンジンは付けっ放しで出力を固定、エル・アルコンに付けられた取っ手を伝って安全に席を交代する。
操縦席についたカルエルがふと周りを見ると、自分の機体の前隣にはファウストの機体があった。
「ふんっ!誘導弾など、卑怯な手品だ。使えるものか」
と、ファウストは空のスティンガーを無造作に投げ捨てると、元々持っていたらしい小銃を取り出した。元々これは使い捨てで使うらしく、使用したらああやって捨てるのが正解らしいのだが、いかせん扱いが雑であった。
それもそのはず、ファウストはヴァン・ヴィール組の頭のような存在。昔ながらの伝統に則った戦い方をしたいという気持ちは、他のヴァン・ヴィール組の生徒よりも大きいだろう。こんな野暮ったいものは使いたくない、という気持ちはカルエルと一緒のようだった。
実際のところ、彼を含めたヴァン・ヴィール組の生徒達は離陸前には自動小銃を使いたがらず、いつも使っている武器達を持ってきていた。スティンガーに関しては、ヴァン・ヴィール組の教官であるソニア教官から持っていくように指示されていたために、仕方なく持っていたのだ。
「やったやった!ねえ見てたシノン?私一発で的に当たったよ!!」
「はいはい、凄いわよアスカ。でも、それはあの空雷のおかげでしょう?」
「それもあるけど、狙いをつけたのは私だし☆」
「もう……調子に乗っちゃって……」
修正、ここに2名例外がいた。アスカとシノンであった。
「珍しがられてるわね、私たち。あとでファウストたちに馬鹿にされるかも」
「いいよいいよ、シノンが馬鹿にされたら私が守るから。まあ、それに!私って古臭い伝統なんかには縛られない性格だし☆」
シノンもアスカも貴族出身といえど、センデジュアル組と絡んだりとヴァン・ヴィール組貴族によくある横暴さはなく、古臭い伝統にも縛られない性格だ。
今回も彼はUMP9を進んで使っていた。理由はかっこいいから、らしい。そんな縛られない性格のため、規律を重んじるヴァン・ヴィール組では蔑まれている方だ。が、その代わりにセンデジュアル組の友達がいるので本人達は気にしていない。
その時、後ろにいたはずの機体の一つがこちらに向かってきた。その後部座席にはファウストが乗っている。
「やあやあ、君たちはその野暮ったい銃を好んで使っているようだね?もしやそんなものに頼らなければいけないほど、実力不足なのかい?なら、僕が直々に射的を教えてやってもいいぞ」
「噂をすれば……」
案の定、予想を裏切らずにからかってきたファウストにシノンはため息をつく。わざわざ今、機体を寄せてまで突っかかってくるとは考えていなかったが。
「あ、ファウスト君!君こそすごいよ、今日使った新しい空雷もろくに使えなかったなんてよほどの実力がなければ無理だよ!すごいすごい☆」
「なっ!?」
だが、ただでやられっぱなしのアスカではない。相手が一番キレやすい図星をついた、盛大な皮肉で言い返してこの貴族様を黙らせた。
それをカルエルも遠目から見ていた、これは面白いと思ったカルエルは操縦を変わったのをいいことに、ファウストの後ろにエル・アルコンを近づけて罵声合戦に加わった。
「そうだぞ、お前の構え方ぎごちなさすぎだ。標準器をつけるのにだって手間取っていたじゃないか」
「うるさい!そういうお前こそ、射的ではほとんど命中弾を得ていなかったではないか!」
「そ、それでも何発かは命中したよ」
「ふんっ、それはあの銃の性能のお陰だろうに」
「違うさ、僕はだんだんと成長してる!」
「あはははっ!!いいぞカルエル〜!もっと言っちゃえ☆」
「はぁ……また始まった……」
「あ、あははは……」
そっちこそ、そっちこそと、とても低レベルな罵倒の応酬をし合うカルエルとファウスト。その様子にアスカは大笑い。シノンはため息。クレアは苦笑いをそれぞれついた。
その後、この場の応酬は何分か続いたそうな。
近くを見るとバンデラス教官の操縦するエル・アルコンの後席にイスラ空挺騎士団員とも違うデザインの軍服を着た若い士官が乗っていた。戦術士官のヴィクトル中尉、という人らしい。アイガイオン空中艦隊のなかでは特段えらいというわけではないらしいが、それなりに高い士官らしい。
彼はこの合同訓練においては戦術士官として他の士官とともに訓練に使う銃の現地説明に来ていた。バンデラス教官ともすぐに打ち解け、センデジュアル組の様子を見ながら、その様子を話をしている。
もちろん、カルエルとファウストの低レベルな喧嘩の様子はヴィクトル中尉も見えていた。
「あちらは大変みたいですが……」
「はははっ!放っておけ!
ヴァン・ヴィール組はエルダーの二人組以外は皆頭が硬いやつばかりだからな。あれくらいの喧嘩は可愛いものだ。たが、あれでは流石のソニアでも胃が痛くなるだろうな」
またガハハと軽快に笑うバンデラス教官の対応に、ヴィクトル中尉は思わず苦笑いをする。
「にしてもここの生徒さん、なかなか飲み込みが早いですね」
「そうだろう?なにせ、うちの組の生徒達は優秀なやつらが集まっているからな。自慢の生徒達だ」
「ええ、これなら我々の武器もすぐに使いこなしてくれるでしょう」
そう、彼らが使っていた武器はイスラ側の武器ではない。自動小銃やスティンガーは彼ら空中艦隊の武器であった。空中艦隊から条約で提供された武器たちは、空挺騎士団や飛空科の生徒達などが空戦で使用することになっていたのだ。
イスラ空挺騎士団などを含め、エル・アルコンやラガルティアの空戦の仕方は、大昔の騎乗兵に則り、騎士風の戦い方をするドクトリンだ。戦空機の後席に乗り、その後部座席で手持ちの小銃や機関銃を撃ち合う。それが彼らの戦い方。もちろん最新式の戦空機であるマキナ・デオはその戦い方が古いと悟った単座単発の格闘戦仕様の機体もあるが、未だに空挺騎士団ではこの式の戦い方が主流だ。
そのドクトリンと、これらの武器は相性がいいと判断された。
なぜならG3やG36などの高精度の自動小銃は、後部座席から射撃をすれば銃の性能で優位に立てる。スティンガーなどの個人携帯のミサイルは、ミサイルが使えないイスラ側の機体不利をカバーできる。
これらの空中艦隊の持つ優れた武器が入ってくるだけでも、今までライフル銃やサブマシンガンだけで空戦をしていた空挺騎士団にとっては大きな進歩だった。
「にしてもこの機械は本当に必要なのか?電波で敵と味方を識別とは、そんなことができるのか?」
「ええ、電子戦では敵味方を機械的に判別する必要があります。機体が少々重くなるかもしれませんが、連携の際には必要ですので」
「うむ……なら仕方がないな……空挺騎士団には不満かもしれないが」
「これでもうちの整備班長が夜通しで作っているものなので……なにぶん察してやってください……」
そう言ってヴィクトル中尉とバンデラス教官はエル・アルコンの後尾に後付けされた円筒型の機械を指差した。エル・アルコンの機体後部に埋め込むように取り付けられたこの機械には、電波を発信するアンテナのような装置が取り付けられている。目には見えないが、ここからある電波を常に放っている。
これは、アイガイオンのダニエル軍曹をはじめとした整備班や技術班の協力のもと作られた新しい装備である。
アイガイオン空中艦隊やシュトリゴン隊は高度にデジタル化された機械を使って戦闘を行う。味方の発見した目標を味方で共有するデータリンクや電子戦におけるジャミングなどがこれに入る。
その中に、IFF。敵味方識別装置というものがデジタル装備の一つに存在する。これは読んで字のごとく敵と味方をデジタル機器で区別し合い、誤射を防いでくれる装備だ。彼らの世界では民間機にも搭載されており、これが無ければ熱誘導のミサイルなどは誤射が起きてしまう。
しかし、御察しの通りイスラ空挺騎士団にはそんな大層なデジタル装備を作る技術など存在しない。これでは、連携を取る以前の問題が発生してしまう。そのため、本来ならば技術流出に当たりそうだが特例として取り付けることになった。
ダニエル軍曹らが、アイガイオンにあった部品などを流用して即席の敵味方識別装置を製作。それをイスラ空挺騎士団の戦空機や雷撃機達200機分を現在進行形で作っている。
そう、現在進行形でだ。
なにぶん、簡単な作りになっていたので製作にはさほどの時間がかからない。材料にも今のところ余裕があるため数は揃えられる。がいかせん時間が足りず、現在もダニエル軍曹たち整備班や技術班、さらには合いている部署の人間まで巻き込んで今アイガイオンの格納庫で必死に作業しているところだろう。
出来上がったものは、戦空機に最優先で取り付けられた。この練習機のエル・アルコンにも取り付けられたばかりである。
しかし、これはあまり好評ではなかった。一応高Gにも耐えられる設計となっているが、イスラの住民からは、機体に重りをつけてしまうのはデッドウェイトになる為あまり受けは良くない。それもそのはず、その恩恵がわかるのは現状ではアイガイオン空中艦隊側だけであるからだ。
ダニエル軍曹たち整備班の血の滲むような努力が報われるのはもう少し先になる。
ビビッ!ビビッ!
「?」
その時、ヴィクトル中尉の胸に付けている小さな機械が音を鳴らした。空中艦隊との通信をするための通信機器だった。どうやら、アイガイオン艦隊から何か通達があるらしい。
「どうしたんだ?」
「アイガイオンから連絡です、今から確認を」
ヴィクトル中尉はエル・アルコンの後席に座ったまま、通信機を操作して会話ができるようにした。
「こちらイスラ顧問のヴィクトル中尉です。どうしましたか?」
<<ヴィクトル中尉、こちらはマカロフだ。ただいまをもって演習は一時中止とする事になった>>
「?、何故ですか?」
<<所属不明の戦闘機が5機、イスラに接近してきている……
……もしや、例の『空賊』かもしれん。戦闘になるぞ>>
用語解説
《FIM-92 スティンガー》
オーシアで開発された携帯式防空ミサイルシステム。特徴はヘリコプターだけでなく、低空飛行中の戦闘機や航空機まで狙えるよう誘導方式には高性能な赤外線・紫外線シーカーが採用されている。これによって発射後の操作が不要になり、弾頭が自動的に目標を追尾できる。