とある飛空士の重巡航管制機《アイガイオン》   作:篠乃丸@綾香

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不備があったので、また投稿し直しました。ご迷惑をおかけします。

原作改変のため、何か変更をした場合はあとがきに書いておきますので、よろしくお願いします。

それから、アンケートにご回答していただいた皆様。誠にありがとうございます。『作者の文は読みやすいか?』のアンケートについては終了とさせていただきます。『読みやすい』の結果があり、とても嬉しい限りです。
『作者の小説には何が必要ですか?』のアンケートについてはもうしばらく続けます。


第20話〜別れる仲間たち〜

 

動乱の始まりは一言の報告だった。

 

「司令!」

 

「?、どうした?」

 

「IFFに応答のない航空機が5機、こちらへ接近してきます。アンノウン(未確認機)です。方位イスラ北東、050。距離およそ200」

 

当然のレーダー士官からの通達に、マカロフ大佐は疑問符を浮かべる。

それはレーダー士官が、レーダーを再起動した時に起こった。

 

「IFFに応答なし……まだ装置を積んでいない機体じゃ無いのか?」

 

あまりに急な所属不明機の登場にレオナード少佐も最初はそれを疑った。

 

「いえ、IFFなしの機体はレーダーで追っています。別の方向から来た新たな目標群です」

 

この演習中でも、レオポルド団長は雷撃機による偵察をしていた。

燃料となる水が心配だが、レオポルドはマカロフ大佐の進言に耳を傾けたのか行われている。

 

その偵察機はアイガイオンのレーダーできちんと追っていた。今回の目標は新たな方向から来た別目標である。

そして、この方向に向かった機体はイスラにはいない。つまり、我々で無い第三勢力がわざわざやってきた可能性があったのだ。それこそ空母から……

 

「……通信で呼びかけてみろ、まずはそれからだ」

 

冷静なマカロフ大佐はその真偽を見極めるために、通信士官にそういった。

 

「こちら、イスラ・アイガイオン連合所属、空中艦隊旗艦アイガイオン。貴機は飛空要塞イスラの防空識別圏内を侵犯しようとしている!所属と目的を明らかにされたし!」

 

<<…………>>

 

応答が無い。無線機が積んであるなら聞こえているはずだが、全く音沙汰なしだ。

通信機にはただざあざあと砂嵐の音が聞こえているだけであった。

 

「司令……」

 

レオナード少佐はそれが意味するものを悟っていた。

 

ここで我々以外の第三勢力といえば、神話の中から飛び出してきた空賊。ロレンズ少佐が実際に見て交戦までした航空戦力を持つ立派な敵対武装組織だ。

 

「イスラ空挺騎士団のレオポルド団長にこの事を連絡しろ。それから、ルナとの通信回線を開いて対応を決める!

それから、その機体はただいまをもってボギー(敵性の可能性のある未確認機)に変更だ!」

 

「了解です!」

 

「いよいよ来ましたね……」

 

「ああ、我々がこの世界に来た真の意味を見出すことになるかもしれんな……」

 

マカロフ大佐はその時に嫌な汗をかいたのを、後になっても覚えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼らもなかなか奮闘したね」

 

こちらはアイガイオンからイスラを挟んで30キロ、戦艦ルナ・バルコの艦橋内でオズワルドはそう呟いた。

 

「ええ、初見にもかかわらず見事に防ぎ切りましたね。ですが、やはり急降下爆撃に対する対処はギリギリでした」

 

昨日の夜のアタフタ具合はどことなく消え、キリッとした自信に満ち溢れた顔つきのカシルダ少佐は、そう言って持っている書類に部下からの報告を書き入れる。

 

彼らはルナの艦橋で空中艦隊と空挺騎士団の模擬空戦の様子を観察していた。

このあとであろう始まる空中艦隊との艦隊演習に備え、艦内は今か今かとその演習を待ち構える雰囲気だ。

 

「ですが大佐、これは空中艦隊側にはかなりの制約を設けた上での結果です。制約のない状態での戦闘能力は分かりかねますが、彼らにとっては全力でないことは確かです」

 

「ああ、分かってるよ。けど、これで彼らも自身の兵器の弱点に対する対処法を編み出せることだろうね」

 

そう言って、双眼鏡を下ろし。平べったく広がった空中艦隊の機体から目を離した。

 

「さて……この団長さんはどう見るやら」

 

オズワルドは隣のカシルダ少佐にも聞こえない程度の小言でさらりと吐き出した。

そして、自分の上の階に堂々と腕を組んで居座るレオポルド団長を見る。

 

彼はあの接触未遂事件の時も環境にいて、指揮をとっていた。

彼がここの艦橋にいるという事は、ルナの全指揮権も彼に委ねられることになるっている。それがオズワルドにとってはあまり良い気分ではなかった。

 

それもそうである、飛空艦の事をよく知らない悪く言えば素人のような人物にこの戦艦の指揮権を委ねるというのは不安要素でしかなかった。

そして、あの接触未遂事件の時も実は先制攻撃をしようとしていたレオポルドをオズワルドは止めようとしていたが、帰ってきた答えは「黙っていう事を聞け」と言わんばかりの言葉一つであった。

 

だが、この男は最近はその石頭具合が柔らかくなっている気がしてきたのだ。彼の性格なら絶対に険悪するであろう空中艦隊との合同訓練を受け入れ。

さらに遡れば、それぞれの指揮権が独立していたあの安全保障条約にもサインをしている。彼の性格なら空中艦隊にも偉そうに命令しそうだと思っていたが。

 

もしかしたら、彼ら空中艦隊との出会いで変わってきたのかもしれない。とオズワルドは期待していた。

 

「団長、アイガイオンからの直接通信です」

 

「直接通信?どうしたんだ?」

 

「なんでも、未確認機を探知したとのことで対応を講じたいとのことです」

 

未確認機の発見、その報告にルナの艦橋はざわめき始め様々な憶測が出始める。

アイガイオンはイスラと同盟を結んでいる以上、未確認機などのイレギュラーに対しては独断で行動できない。

彼らはそれを分かっているからこそルナのレオポルド団長に連絡をしてきたのだ。

 

「フッ、律儀な奴らだ。通信を繋げ!私が直接話しをする」

 

レオポルドはそう言って通信士官に指示、士官はテキパキと通信機械を操作して無線をレオポルドにつなぐ。

 

<<マカロフ司令です。レオポルド団長、イスラ北東、050、距離およそ200にボギーを探知しました。機は5機、そのままイスラ方面へとまっすぐ進んでいます>>

 

「わかった……だが、我々の偵察機からはなんの連絡もなかったが?それは確かなのか?」

 

<<彼らはあなた方の偵察機の交代の合間を縫ってやって来ました。今、偵察機は帰投中で戦空機群からは遠ざかっています。発見がされていないのはそのためかと>>

 

そういえばと、レオポルドは時計を見る。時間はちょうど偵察機の交代時間を示している。

 

偵察の交代の合間を縫った奇襲、レオポルドは知らないことだがこれにはマカロフ大佐は危機感を覚えていた。

いや、前世界におけるトラウマというべきか。彼らは元の世界でシュトリゴン隊の交代の時間の隙を突かれて奇襲攻撃を受けた。

そのためマカロフ大佐は未確認機の所属するであろう空賊の巧妙さに衝撃を受けていた。

 

<<しかし、こちらのレーダーにはきちんと捉えられています。機群はあと数分で防空識別圏を侵犯します>>

 

「……わかった。5機なら偵察の可能性もある。相手の機体の後ろに我々の機をつけて後をつける」

 

<<と言うことは、攻撃はしないであえておびき寄せて相手の真意を探ると言うことでしょうか?>>

 

「そうだ、追尾をすれば敵の空母艦隊を見つけられるかも知れん」

 

レオポルドはマカロフにそう言って作戦の意図を説明した。

いつになく、対等な立場からの進言だった。

 

その様子を見ていたオズワルドとカシルダは少し驚いた。

 

「丸くなりましたね、少々ですが……」

 

「ああ、以前の彼からはあまり想像できない対応だね」

 

二人は、石頭とまで言われたレオポルドの性格が、人を見下さず相手の意見を多少なりとも聞くような丸い性格になっていっているのを感じていた。

 

空中艦隊と交渉をするときまでは想像できなかった彼の若干の成長にオズワルドは感心した。

 

(まあ、感心だなんて偉い立場ではないけれども……もしかしたらアイガイオンとの出会いと話し合いで何か性格が変わるきっかけがあったのかもしれないね)

 

オズワルドの予想の通り、レオポルドは空中艦隊との出会いをきっかけに変わり始めていた。理由は言わずともがな、あの交渉の時に見せられたあの戦争の映像であった。

 

彼は、あれほどまでの犠牲を出した戦争をしていた彼らと単なる戦争好きの自分とを比べて少し考え込んだことがある。

それ以来、彼らには多少なりとも敬意を払って接する事にしたのだ。まだ多少の段階なので、口調などは変わっていない部分があるが、それもこれから変わるかもしれない。

 

<<了解です、では我々は周囲を警戒しながら戦闘態勢に入ります>>

 

「ああ、頼んだ……」

 

そう言ってレオポルドは通信を切った。

 

「……、イスラ全軍に告ぐ!これより我々は未確認機との接触を試みる!対応は先ほどの通りだ!

全軍は訓練を中止して戦闘態勢に入れ!ただし未確認機には攻撃をするな!イスラに空襲警報を発令、万が一に備えて住民を避難させるのだ!」

 

「はっ!」

 

「それと、オズワルド大佐」

 

「はっ!我々はいかがいたしましょう?」

 

「ルナも後々必要になるかもしれない、いつでも戦闘できる態勢にしておけ。私はここで指示をし続ける」

 

「了解です」

 

オズワルドはその指示に従い、マイクをとって叫んだ。

 

「ルナ・バルコ全艦に通達!これより第1種戦闘配置につけ!繰り返す、戦闘態勢だ。総員第1種戦闘配置!」

 

アイガイオンとイスラによる、初めての共同戦闘となる嵐の火蓋が、今切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イスラが聖泉に踏み入れてから14日、8月24日14時ー。

 

イスラの静けさには聞きなれぬ異様なプロペラ音が響いた。

イスラ空挺騎士団とも、空中艦隊のジェット機でもないその異様なプロペラ音がイスラの空を侵犯する。

 

同時にイスラの地表面を耳を貫くようなサイレン音が響き渡った。敵襲を告げる警報だ。

 

前路警戒とアイガイオンのレーダーを掻い潜った敵複座戦空機とおぼしき機影が5つ、ヴァン・ヴィールのメリクリウス飛空場に向かってまっすぐ進んでいった。

 

以前の敵爆撃部隊奇襲の時と同じ機種であるが、その時よりもさらに数が少ない。

イスラは彼らには対空砲火も迎撃機も付かずに、あたかも誘い込むようにそれを静観していた。

 

彼らはメリクリウス飛空場上空に着くと、そこで驚くべき攻撃をした。

後席の飛空士が爆弾を手に抱えてそれを滑走路めがけて落としたのである。

現場の空挺騎士団もこのマヌケな攻撃の仕方には口をあんぐりと開けるしかなかった。

被害は滑走路に子供がつまずくくらいの穴をあける程度だった。

 

所属不明のアンノウン、もといボギーは今この瞬間からエネミー()に変わった。

 

訓練に際してすでに飛び上がっていたばかりであったイスラ空挺騎士団の飛空機隊は、この事に怒りも湧かずにただ安穏とした雰囲気が漂っていた。

だがレオポルドからの号令を聞けば、皆がやる気を出して我よ我よと追跡に志願した。

しかし、それはイスラを守ると言う大義からはかけ離れた、近場の狩場で舌なめずりをする感覚だった。

一昨日の襲撃よりもさらに素朴な相手に、イスラ空挺騎士団には相手に対する侮蔑と慢心があったのだ。

 

イスラ空挺騎士団は5機に対して30機のラガルティアを追尾に回した。高度3000メートルにて編隊を組み、のろのろの敵機を追いかけているであろう母艦まで迫っていき、そのままの勢いで制空する流れである。

 

レオポルド団長は神速を尊ぶため、敵が出方を探っている間にこちらから全力の攻撃を仕掛けるこの戦法が取られた。

 

これが猛将レオポルドの常道だった。

 

一方で、アイガイオン達空中艦隊はこの敵機をレーダーで追跡しながらラガルティアの空中管制を行う。誘導しながら艦隊も敵機の方向に機首を向けてレーダーの範囲を広げる。

 

これが鬼と出るか吉と出るかは誰も知らなかった。運命の神はいつも気まぐれだからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「諸君らには本日、イスラの警戒任務についてもらう」

 

ソニア教官から正規軍の命令を聞くと、皆が顔を引き締めて緊張の趣きを出し始める。ここに来て怖気付くものなどおらず、皆これから起こる事に集中していた。

 

イスラ左岸、エスコリアル飛空場。先ほどまで聖泉の空の上で訓練を行っていたカドケス高校飛空科の生徒達は、補給と一時の休憩を兼ねて飛空場に降り立っていた。

エル・アルコンは整備科の生徒達が忙しく集まり、部品や計器の入念なチェックを短時間で行なっている。

 

「空賊の出現空域がはっきりとしないためイスラの周辺空域を警戒する必要がある。アイガイオンの電探は空賊の飛空機に集中させていて、その間イスラの周りのほとんどが目に映らなくなるそうだ。

我々の任務はその穴を埋める事だ。理解しているだろうが、索敵は非常に危険かつ重大な責任を伴う任務だ。これまで学んだ成果を十全に生かし、イスラの空を守ってくれ」

 

「はい!」

 

「では、各自命令があるまで飛空場に待機!いつでも偵察に出れる準備をしておけ!」

 

飛空科生徒の表情が引き締まり、全員が胸を張って応答を発した。地上に降りたため、地上任務かと思っていたら飛空機に乗れると聞いて、飛空科生達には十代の若者らしい気負いや昂りが見られている。

ソニアは浮き足立っている彼らに若干の不安を感じながらも、それを顔色の奥に隠して言葉を続けた。

 

「なお、一部ペアはセンデジュアル方面の対空支援任務についてもらう。索敵任務よりも危険が少ない、地上待機任務だ。選ばれた者は命令と同時にシルクラール湖へエル・アルコンを着水させ別命あるまで湖畔に待機だ。

不満もあるだろうが上からの指示でな、我慢してくれ」

 

お詫びとともにソニアが発表した地上待機ペアは4組。その中にはカルエルも入っているが、本当はそのペアであるクレア・クルスを安全な場所へ移動させるためにイスラが発したものである。

 

「いいなあ、みんな索敵に出れて……」

 

私たちのも大事な任務だから……うん。頑張ってこなそう」

 

「……うん。わかってる」

 

作戦指令書を手渡され、自分の索敵順を確認している他生徒たちの背中を羨ましそうに見やりながら、カルエルは不満を漏らす。

その傍ら、クレアが申し訳なさそうにペアを慰める。

 

「退屈でごわすのう。おいどんも敵艦隊を発見したかったでごわす!」

 

「おれもっスよ兄貴ぃ!なんでおれらが湖送りなんスかあ!」

 

あからさまに不満を述べるウォルフガングとその舎弟組。

 

「なんでカルと同じ役目なの?あたしそっちの方が不満なんだけど」

 

「…………」

 

嫌そうに顔をしかめるアリエルと、何も言わずに作戦指令書を見るイグナシオ組。

 

「私たちだけ待機ってのはあんまり気がすすまないわね……」

 

「うんうん!みんなが危険な任務に行っているのに自分たちだけ安全なところにいるのは男として嫌!」

 

一人性別が矛盾しかけたことを言いながらも、自分達の不満を漏らすエルダー組。

 

なんだか妙な組み合わせである。

そんな彼らはふと周りを見渡してミツオとチハルの方を見る。

 

「みっちゃん、チハルちゃん、二人とも頑張ってね」

 

「無茶をしてはダメですよ」

 

「あ、ありがとう……」

 

ナナコとベンジャミンは二人を心配するように心配の言葉を送った。ミツオとチハルは今回、索敵任務の第一陣に選ばれていた。

周りの浮き足立つ雰囲気と違い、ミツオはなんだか不安そうな表情をしていた。それを放っておくほどセンデジュアル組は冷たくない。残りの皆が彼らを励まして

 

「大丈夫っスよ!みっちゃんは飛ぶのも上手いし、飛空機の色んなことを知っているから頼りになるッス!だから、ちゃんと帰ってこれるっスよ!」

 

チハルはミツオと目を合わせて満面の笑みで自分のペアを自慢した。その表情にミツオはすでにふくよかな全身を赤く染めてしまう。

 

「よっ!おしどり夫婦!」

 

「これなら、ひとまずは安心ね」

 

おしどり夫婦に合掌し頭を下げるアリエルと、そんな二人の絆に感化されて安心するシャロン。

周囲に戦場に赴く前とは思えないほどのほのぼのとした雰囲気が流れる。その理由はわかっていた。

 

もう二度とこんな感じで笑い合えないかもしれない。

 

それが理由だ。飛空機で飛べるのはとても嬉しいし、本音を言うと自分達も偵察に行きたかった。

だけれども、ソニアが言っていたとおり偵察は極めて危険な任務だ。単独で味方の護衛もない環境で敵と出くわすことを仕事にしている。

危険なはずがない。怖いはずがない。

だからこそ彼らなら、きっと大丈夫だろう。チハルはミツオやみんなをそう安心させたかった。

 

「う〜ん、なんか納得いかね〜ミツオとチハルって釣り合わなくね?」

 

と、ここてまノリアキが空気の読めないと思われても仕方がない台詞を無造作に投げつける。途端に寮生全員からブーイングが降り注がれるが、ノリアキは笑って過ごしていた。

 

「もう、どうしてそんなこと言うの〜?二人ともお似合いじゃん〜」

 

「だってよ、よく見ろよお前ら、デブとオシャレ女が仲良しペアだぜペア。おかしいよ、ありえねえよ。チハルってペア組んだら誰でもなつくんじゃね?」

 

途端、笑いに包まれていたクラスのメンバーはしんとした気まずい雰囲気に包まれた。

 

「の、ノリアキ……」

 

「さ、流石にそれは言い過ぎじゃないかな?」

 

「え?な、なんだよ……俺変なこと言ったかよ!?」

 

いくら通行人と呼ばれるほどの空気感漂うノリアキといえど、これにはクラスの皆が彼を宥める。

 

意外に思うかもしれないが、この発言にはノリアキ自身に悪意はなかった。今までのノリでみんなを笑わせて、少しでも重苦しい雰囲気をほぐしたかったのは他のみんなと同じだったのだ。

だが、その雰囲気が何を言っても大丈夫だろうと言うはた迷惑な勘違いを生んでしまったのだ。その結果がこれである。

 

「そんな……」

 

「え?」

 

「そんなことないっ!みっちゃんだから自慢するだっ!ノリピーがペアだったらこんなに自慢したりしないぞっ!」

 

突然、怒号が届いた。チハルはいつもの後輩言葉もかなぐり捨てて、正面からきっぱりと言い切る。

 

「い、いやいや!そんなつもりで言ったわけじゃなくてな、ほらミツオって運動神経悪いし、デブだし、面白いこと言わないし、それなのに意外だな〜って……」

 

「それがなんだっ!みっちゃんはすごいんだぞっ!飛空機のこと、誰にも負けないくらい詳しくって!エル・アルコンの操縦だって上手いんだぞっ!

あたし、あたし……なんにもできないから……すごいと思うんだっ!!」

 

いつのまにかチハルは涙目になっていた。その気迫に迫られ、ノリアキはようやく自分が何を言ったのかを理解した。そして、彼は何も言えなくなったのかその場でうなだれた。

 

「あ、あの、僕はその……デブとか言われるの慣れてるから……。泣かないで……」

 

「ノリピーの馬鹿っ!!謝れっ!!みっちゃんに謝れっ!!ぐずっ……。ぐずっ……」

 

チハルは泣きながら握りしめた拳をノリアキに振り下ろした。チハルの念入りなメイクは、涙と鼻水で崩れている。いつもの飄々とした雰囲気はなくなり、弱々しく泣いていた。こんなチハルはクラスのみんなも見たことがなかった。

 

そして、ちょうどその最悪のタイミングでミツオたちはエル・アルコンに乗るよう正規軍から指示された。彼らは仲直りすることもできずに離れてしまう。彼らは完全に別れてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エル・アルコンに乗ったチハルは機体の計器の点検を点検をする。高度計、速度計などが正常に動くことを確認する。

 

「あの……僕は平気だからさ。ノリピーもみんなに元気を出して欲しかったんだと思うから……悪気はなくて……」

 

「……」

 

飛空士にとって、飛空機の状態はそのまま命に直結する。整備科の整備点検の成果を自分の目で確かめる。

 

「メイク溶けたぁ……」

 

「うん、いっぱい泣いたからね……」

 

「顔、あげらんないっス。メイクしてないと自信ないから……」

 

「そんなことないよ、お化粧してない顔、見たことないけどきっと可愛いと思う。

それにどのみちこれから夜だし、気にならないよ」

 

ミツオは彼女と背中合わせながらも、懸命に励まして行く。

 

「……ミツオは優しいっスね。あたし、なんにもできないし、見た目もパッとしないし……」

 

「僕から見たら、チハルはとってもおしゃれで、みんなから好かれて……羨ましいと思う」

 

「そんなことないっスよ……パパもママも……兄弟はなんでもできるのに、チハルはなんにもできない、って……」

 

「兄弟、いるの……?」

 

「うん。二人とも人気者で、なんでもできて……それと比べられちゃって……」

 

「……」

 

「飛空士になったのだって、うちを出て、遠くに行きたかったからなんス。すごくカッコ悪くて……嫌なことから逃げてて……」

 

ミツオは傍のチハルを見やって、気の利いた言葉をかけて慰める。

 

「……チハルは頑張ってるよ、飛空機の操縦だって上手くなってるし、努力してる。みんなにも好かれてるよ」

 

女の子を励ますこと自体初めてだったが、頭が晴れているのか普段は絶対に出てこないような言葉が出てこれる。

 

「チハルって、空、好き?」

 

「うん、好きっス。なんにも縛られずに、自由に飛ぶのは大好きっス」

 

「うん、僕も同じ。青く澄んだ空に上がると、自分が天使になった気分になれるからさ……」

 

空挺騎士団の合図が飛空場に響く、離陸準備の開始の合図だ。

左にあるスロットルを回し、右にあるクランクを素早く回す。ミクスチャ・コントロール・スロットル、これで燃料の水と空気の濃度を濃くする。

 

「その空が、戦いになるんスね……」

 

「うん。でも、そのために訓練してきたんだから」

 

「この戦いで……死んじゃう人もいるのかな。嫌だよ……」

 

「それは覚悟しなきゃ……人が死なない戦いなんてないから……」

 

両翼の発動機のカウルフラップを全開。プロペラの後ろにあるファンが角度を変えて開く。

 

「嫌だよね、うん。でも絶対、挫けたらいけないと思う」

 

「どうして……?」

 

燃料系を確認、左が機体後方燃料タンク、右が機体前方燃料タンクだ。点火開閉器、イグニッションスイッチを閉めにセット。

 

「……僕、バレステロスとか斎ノ国の人が書いた戦記を読むのが好きでさ。戦死した人が家族に残した手紙を集めた本もあるんだけどね。

そういうのを読むと、ほとんど口を揃えたみたいに、自分が戦死したとしてもどうか挫けずに、元気にたくましく行きてってほしい、むて手紙に書いてあるんだ」

 

手動ポンプ作動、燃料タンクの水の水圧を一定値にまで上げる。手動でスロットルを前へ後ろへとあおり、発動機に燃料を送入する。

 

「戦死した人にとって一番辛いのは、自分が死んだことで大切な人が傷ついて、生きていけなくなることなんだと思う……」

 

整備士が指導準備を開始、イナーシャ、慣性始動機を回して発動準備を整える。聴き慣れた回転数が上がっていく心地よい音をバックにミツオは続ける。

 

「想像できないけど、すごくすごく、苦しい気持ちなんだって……」

 

整備士がイナーシャのクランクを掲げてそれを確認すると、チハルは点火開閉器を一気に開にセット。間髪入れずに操縦席の手動発電機を回して初期電力を入力。さらに足元のペダルを踏んで回した慣性始動機を接続する。

 

「うん、私にも分かるかも。大事な人がそんなことになったら耐えられない……」

 

「うん。だから、誰かが死んじゃったとしても……いつまでも引きずったりしちゃいけないんだと思う。

残った人には、戦死した人を弔って、それからその人の分まで生きて行く責任があるんだと思う。それが死んでしまった人への1番の餞じゃないか、って」

 

水素電池スタックの鼓動が搭乗席内を満たす。生命を得たように、発動機の水素に火がともり発動機が指導を開始する。プロペラがカラカラ、そしてブオンブオンと回転数を上げる。

 

「死なせないよ」

 

垂直尾翼、ラダーの動作を点検する。右に踏めばラダーは右向きに、左を踏めば左に、問題はない。

 

「誰も死なせない……」

 

さらに水平尾翼を確認、操縦把柄を前に倒し手前に引く。同じく動作は問題なし。そしてそのまま操縦把柄を左右に揺らし、補助翼、エルロンの動作を点検する。

全て問題はない、整備科はよくこんな短時間で完全な点検ができるものだと彼らの仕事ぶりには頭が上がらない。

感謝の意を込めて最後に、問題はないであろう各種フラップを点検。機体はオールグリーン。

 

「うん、誰も死なせない。そうすれば、またみんなに会える。そのための偵察だもの……」

 

ピッチ角を調節、さらにエル・アルコンの翼を操作するレバーを引いて翼を90度の垂直にまっすぐ立てる。砂塵が立ち、機体へ揚力がたまり始める。

 

「だから……僕たちも生きて帰ろう……!」

 

「うん、また二人で帰って、またみんなで楽しくイスラで過ごそう!」

 

水素電池スタックの回転数が上昇してみるみるプロペラが視界から透過されて行く。機体の振動がまるで鼓動のように身体に染み渡っていく。

 

「行こう、チハル!」

 

「うん!」

 

彼らのエル・アルコンは水素スタックの回転数に身を任せ、ふわりと地面を離れた。一瞬前かがみになってから、足が地面から離れる。

ゆっくりと揚力に身を任せて上昇して行く、イスラ地表面が視界から推し広がって行く。

 

エル・アルコンは飛ぶ、飛んで行く。このイスラを守りたいと願う二人の少年少女を乗せて。

 

 

 

 




ノリアキの失言シーンと、チハルを慰めるシーンは本来の原作ならば聖泉にたどり着いた日の夜に起こってしまってました。が、今作では聖泉の時は何事もなく、代わりに今回のシーンの時に起こったと改変しています。彼らには死亡フラグを付けないと、ノリアキの成長に繋がりませんから。

そして、エル・アルコンの始動シーンはコトブキ飛行隊の隼の始動シーンを参考にしました。なのであの指導手順は隼と被っています。
ほんとは多分、世界が違うから全然違う手順なんだろうけど……

用語解説
《アンノウン、ボギー》
アンノウンは空軍における敵・味方、所属国や所属組織等、不明の状態を表す隠語。ボギーは敵機の可能性のある不明機の意味をなす隠語である。
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