とある飛空士の重巡航管制機《アイガイオン》 作:篠乃丸@綾香
(0) 感情表現
(7) 情景模写の丁寧さ
(4) 人物の行動
(9) テンポ
(17) 戦闘模写
……そんなに……僕たちの力が……見たいのか……?(@ー@。」;)
みんな戦闘大好きマンかよ(感激)
アンケートにお答えいただき、ありがとうございました。
戦闘模写を増やさせていただきますね(にっこり)
それから、今回初めて挿絵を用意しました。
戦況が分かりやすいように戦域マップをエクセルで作ってみました。
BGM《BRIEFING 1- Ace Combat 6 》
「これより、作戦ブリーフィングを開始する」
薄暗いブリーフィングルームに年の行った荘厳な声がこだまする。マカロフ大佐の声だった。
薄暗く、天井の蛍光灯も消されている室内、青い光を放つ液晶モニターだけが光だった。階段状に並べられた椅子にシュトリゴン隊の10人全員が集まって座っている。
みな先ほどまで二十代の若者らしく隣の戦友たちとの色々な会話をして時間を潰していたが、今では真剣な表情でマカロフ大佐の話を聞いている。
液晶モニターに灯が灯り、エストバキア海軍のマークとロゴの後に画面が切り替わる。
「先に空賊の戦闘機を追って飛び立ったラガルティア編隊が、イスラ方位50度、220海里にて空賊の飛空艦隊およそ12隻を発見した。
『すわ、敵艦隊襲来なり』だ」
画面にレーダーや空挺騎士団からの情報から作り出したと思われる戦域マップが表示された。
赤、青、オレンジでの色がつけられた大小の矢印と四角いの記号。それぞれが、敵、空中艦隊、そして空挺騎士団の戦力を表している。矢印が航空機、四角が飛空艦や空中艦隊を表す。
「我々の任務は、これを撃滅する空挺騎士団の戦爆攻連合隊に加わり、敵戦闘艦を撃破することにある。
主力艦隊は戦艦二隻、空母二隻、護衛の駆逐艦八隻の艦隊だ。その全てがこの世界の基準では『旧式』に当たるらしいが、大艦隊であることには変わりはない。油断は禁物だ」
マカロフ大佐は戦域マップの内、赤が集中している部分を拡大させてシュトリゴン隊の面々にそれを見せる。前から画面に向けてレーダーポインタを当ててそれぞれの目標を指示する。
「装備には長射程の空対空ミサイルを装備して出撃してもらう。相手は木造でできているらしいため、対艦ミサイルや航空爆弾では効果が薄いと予想されるためだ」
それもそうだろう、わざわざ木造艦に向けて対艦ミサイルはもったいない。我々はミサイルをそうやすやすと使い捨てにはできないのだから。
「それと、これは万が一のためなの保険なのだが、よく聞いてほしい。
レオポルド空挺騎士団団長は今回の作戦で電撃戦を意識している。そのためのイスラには直掩機のみを残して、残りの戦闘機や爆撃機、雷撃機などはすべて戦闘に加わることになっている」
それを聞いて、シュトリゴン隊のメンバーはざわめきだった。
全て、ということはその間イスラには直掩機だけが残り、あとは全て攻撃隊に加わることだろう。だが、それでは逆にイスラが無防備になってしまう。その判断に皆が困惑した。
「そのため、イスラはその間丸裸になる可能性がある。奇襲攻撃を食らえば苦戦は免れない。そこで、レオポルド団長と相談したところ、攻撃隊の編成までは変えられなかったがアイガイオンの位置をイスラと戦闘空域とのちょうど真ん中で待機することを承認してくれた。
これにより、万が一イスラに奇襲が起きた場合には即座にアイガイオンと君たちシュトリゴン隊が駆けつけられるようになる」
なるほど、とシュトリゴン隊は納得した。アイガイオンはこの世界では空母のような存在だ。わざわざ戦艦同士の砲撃戦に加わる必要はなく、後方で待機していれば有事の奇襲に備える事も可能だった。
「だが、それでも到着まで時間が掛かるため安心はできない。
戦闘行動時にはアイガイオンが空中管制機の代わりとなる。状況をよく把握し、臨機応変な対応をしてくれ。
諸君らの健闘を祈る」
健闘を祈る。その言葉を聞くと隊のメンバーは、だれが指示したわけでもないのに、一斉に席を立ち、背筋を伸ばし、ビシッとした応答を発した。
そこには規律とチームワーク、そして戦いへの覚悟があった。
「うわあ、すごい!」
「これ、イスラの飛空機全部が飛んでるんじゃない?」
空を見上げ、アリエルとカルエルは感嘆の声をあげた。
爆音をあげ、日の光を反射する銀色の翼は、日の光が機体の翼で断ち切られているかのような美しさを感じた。
メリクリウス飛空場で補給を終えた空挺騎士団の200機近い戦空機、爆撃機、攻撃機の連合編隊は、威風堂々と進軍していく。
「わ、ルナも!」
興奮しっぱなしのアリエルがその様子のまま天界の一点を指差した。
戦爆攻連合からやや遅れて、彼らとはまた違う水素スタックの轟音をたなびかせながら白銀の巨影が進撃する。
銀鼠色の装甲板や装飾を輝かせ、山のような大きさの主砲塔をピンと前に向け、遠く離れたカルエル達をも吹き飛ばしそうな力強い揚力装置でエティカの方角へと勇敢に飛んでいく。
「いいなぁ……。ルナが主砲を撃つところ、見たいなぁ……」
カルエル達飛空科生たちはみなため息をついて過ごしていた。だが、そこには先ほどまでここにいた二人の生徒がいなかった。クレアとイグナシオだった。
彼らは途中で現れたウルシラ伯爵夫人たちによって中央庁舎へ避難してしまったのだ。いや、クレアに至っては半端連れ去られたような感じがした。伯爵夫人の姿を見るなりガクンと肩を落としてしょんぼりしていたからだ。
カルエルたちにはクレアが避難する理由は彼女がヴァン・ヴィール組であることから理由は予測できたが、何故だか不可解だった。同じヴァン・ヴィール組のアスカとシノンは連れ去られなかったし、エスコリアル飛空場ではファウストだって待機している。彼女だけが避難する理由がわからなかったし、何よりイグナシオも一緒なのは気がかりだった。
しかし、メリハリをつけて二人がいなくなった分カルエルとアリエルがペアを組み、そんな事もすぐに頭の脳裏にしまいこんでいていた。今はただイスラから飛び立つ飛空機たちの勇姿を目に焼き付けていた。
「ああ!見て見て反対側、アイガイオンまで!」
空に揚力装置とも違う別の轟音が響いたと思うと、アリエルが後ろを見渡す。
アリエルが指を指す先にはグオーンと空を震わせるような音を響かせながら空を行く5つの白鯨の群れがいた。
中央の全幅900メートルを超える巨幅の機体はもはや飛空機ではなくて空飛ぶ要塞にも見える。まさしく異形、カルエルは口を開けてその壮大さに見とれながらも、心の中ではそう感じていた。
「空母のアイガイオンまで前に出るとは……どうやら、敵は前から来るようでごわすな」
「一応、飛空科のみんなが前も後ろも見張ってるから、前に集中させても大丈夫なんだと思う。アイガイオンには電探もあるらしいし」
アリエルは自分なりの分析をする。偵察を務めている学生隊から連絡がないからこそ、こうして戦力を集中出来るのかもと。
だが、実際はアイガイオンはルナより後ろに待機して、有事に備える形となる。そのため用心はしている。
「しかし、イスラの空はガラ空きでごわすが……」
「直掩機くらいは残してくるでしょ。いくらなんでも、ここを留守にして出かけるわけないよ」
カルエルがそう答えるが、ウォルフはまたも不穏なことを言った。
「囮、と言うことはないですかのう」
「へ?前にいる空賊艦隊が?」
「おいどんの国では、戦の際に捨て駒を立てるのは、ない訳でもないでごわすが……」
カルエルがはそのことに対して少し考えた。たしかに理にかなった作戦だ。前方に捨て駒を立てておびき寄せて、後方なりなんなりの方向から奇襲攻撃をかけることだってできる。
今、イスラには直掩のわずかな戦空機しか残っていない。そこを突かれれば、痛手を負わすことだってできる。
「でも空賊って野蛮人なんでしょ?囮なんて考えつくかな?それに、仮に本体がいたとしても、隙をつくのだって簡単じゃないし……。
囮だったとしても問題ないから、全力で前を叩くんだと思う、うん」
しかしカルエルは空賊を見下す思想で、それはないと思っていた。
囮を立てて背後から奇襲攻撃……というだけなら簡単だが、実際は高度な艦隊運用技術が求められる。
遠く離れた囮と連携しながらイスラの主力が出払った後に目印もないイスラに向かって攻撃を仕掛けるのは、並大抵のことではない。
そもそも、そんな理由があるため奇襲攻撃ということ自体が容易ではないのだ。
「ま、あたしたちが作戦のこと心配してもどうしようもないし。とりあえず、命令が来るまではのんびりしてようよ」
アリエルは緊張気味の皆をほぐすため、あえて呑気なことを言って湖畔の草地に腰を下ろした。
8月24日、16時30分。
<<先に出る。ロレンズ少佐、幸運を祈る>>
「はい、ご武運を」
<<シュトリゴン2、出るぞ!>>
バシュッ!という音とともに、となりのフランカーが勢いよく射出された。ダリオ少佐、シュトリゴン2のフランカーは空中に打ち出されると、機体を制御して前方に見えるシュトリゴン隊の隊列へと加わる。
<<シュトリゴン0、ブーメラン。装備の取り付けが完了した、発艦を許可する>>
「了解!」
その声を聞き、待ってましたと言わんばかりにロレンズは応答する。
機体の情報をチェック、新たに装備された増槽と偵察ポットの状態を確認。
そして機体の状態を素早く確認する、全システムオールグリーン。それを目にしてロレンズはヘルメットのバイザーを下げ、酸素マスクを装着する。
酸素マスクはいかんせん息苦しい、ロレンズは出発ギリギリまでつけないように心がけていた。
そして、機体後方から
それを確認すれば、ロレンズはカタパルトに固定され機体のエンジン出力を上げてフランカーを撃ち出さんとする。
「シュトリゴン0、ブーメラン、行くぞ!!」
それを号令に、フランカーは勢いよく射出される。ロレンズは一瞬、操縦席に体を押し付けられそうになるが、長年慣れた感覚で踏ん張り続ける。
そして、機体がふわりと漂う感覚がすると思うと、すぐに上昇して機体は真っ直ぐに飛んでいる。
発艦完了、フランカーは甲板を離れて空を舞う。
<<ブーメラン、高度制限を解除。幸運を>>
アイガイオンからの管制を元に、ロレンズは進路を調整した。
すぐに先に飛んでいたダリオ少佐のシュトリゴン隊と合流。だが、隊列には加わらない。
ロレンズのフランカーは翼を左右に振ってダリオ少佐に挨拶をする。少佐も彼の合図に応えて翼を振るった。
それを確認すれば、ロレンズはシュトリゴン隊を追い抜かし、高度を上げながら加速し始めた。
さて、現在の状況はこうだ。
1515時に発見された敵艦隊は、アイガイオンのレーダーの範囲内に入り、追尾されている。先に上がったラガルティア戦隊は現在イスラ帰投している。
アイガイオンは敵艦隊の進路情報を随一に報告しており、それによると敵艦隊はイスラと逆方向に向かって全速力で逃げ惑っているらしい。
自分たちから宣戦布告してきたくせに、という空挺騎士団の呆れをよそに、彼らを葬るための戦爆攻連合は敵艦隊に向かって真っ直ぐ突き進んでいく。
そして、彼らと連携して敵艦隊を同時に挟み込むようにアイガイオンから発艦したシュトリゴン隊が攻撃を仕掛ける、という作戦だ。
ルナも同時に駆けつけようと向かっているが、オズワルド大佐はイスラがガラ空きになることを危惧してレオポルド団長とマカロフ大佐に進言。その結果、アイガイオンは戦闘空域とイスラの間で待機することになった。
有事の際の奇襲に備える形だ。
だが、ロレンズは戦線にはほとんど加わらないだろう。
ロレンズの機体には対空ミサイルが装備されているが、一部のハードポイントが増槽と偵察ポットになっている。それが明らか空戦を意識したものではないことは確かだった。
敵勢力の戦力調査。それがロレンズに与えられた任務だった。
アイガイオンはともかく、イスラも実際のところはこの世界の聖泉を守り続けてきた空賊の事を油断ならないと感じている。
空挺騎士団の隊員たちには慢心ムードが漂っているが、オズワルドやルイスやアメリヤなどの比較的先見性のある人物たちは、空賊が蛮族ではないことを感じ取っていた。
それが、アイガイオンが合流してからはより一層真剣に考えるようになった。
しかし、空賊とは交流もなく彼らがどのような兵器でどのような戦術を取るのか分からなかった。
そのため、今回の戦闘で情報を集めて今後の対策に役立てようと、威力偵察機を求めたのだ。
そして、その白羽の矢が立てられたのがロレンズだった。
作戦の内容を頭の中で確認すると、ロレンズは眼下に広がる聖泉に目を向ける。夕日に照らされ、光り輝き始めた聖泉はいつ見ても呆やしない。
高度1万メートルから見下ろすその様に、ロレンズはこの世界が異世界でも良かったのだと思えた。
戦争しか知らなかった我々が平和を思い出し、見知らぬ同胞と出会い、そして同盟まで組んだ。
ロレンズにとって、イスラやセンデジュアル組の生徒たちはかけがえのないものへとなりつつあった。
だが、そんな彼らも今回はイスラの偵察隊に任命され、単独で危険な偵察任務へとついているらしい。
初めそれを聞いた時、学生を戦場に出すことにロレンズは驚きを隠せず、レオポルド団長に直接抗議でもしようかと考えてしまったくらいだったが、冷静に考えて人手や偵察の目が足りない状況では致し方がないと思い、思い留った。
今回ロレンズは偵察しかできないだろう。センデジュアルの子達は頑張っているが、自分だけこんな安全な場所でのんびりしているのはあまり気が進まない。
だが、ロレンズは彼らのために。そして自分を受け入れてくれたイスラに対して、自分のできることを精一杯やるしかなかった。
レーダーにはアイガイオンとのデータリンクで敵艦隊の位置が事細かに表示されており、確認することができる。
レーダーには液晶画面に対して見えやすい白で描かれた、航空機にしては大きめの飛行物体が表示されている。
これが空賊の艦隊である、旧式らしいがここまで大きな飛行物体はストレンジリアル世界にはなかなかない。それこそ大型の輸送機くらいだ。
しかし、その正体は空飛ぶ船だというのだからますますここが異世界だと感じる。
そして、しばらく進めばその艦隊の全景を目視で見ることができた。
「あれか……」
ロレンズはまっさらな縁のないキャノピーから見えるその光景に身を凝らす。
空に浮かぶ吹き出物のような小さな影、その影は近づいて行くたびに目に映り、その正体を現す。
高度3500メートルを群れをなして浮遊しているのは、この世界で大型の航空戦力に数えられる飛空艦と呼ばれるものだった。
ふっくらと膨らんだ気球のような、飛行船のような船体の上部に砲や艦橋が乗っている。
装甲は木造なのか、茶色に濁った色をしていて、帆船じみた船体だ。
空挺騎士団が「お粗末」と言っていた理由がわかった。だが、その内訳は戦艦らしき艦艇が二隻、空母らしき艦艇が二隻、他八隻の大規模な艦隊だった。
艦艇がちゃんとしていたら、かなり脅威になる大艦隊である。油断はできない。
<<お、おい……なんだあれ……?>>
<<小さな黒い点がものすごい高さを飛行している!!>>
敵の無線が聞こえてくる。どうやら空賊たちに気づかれたようだった。こちらは高度一万メートルを飛行していて、奴らとの距離は10キロほど。目視でも確認できる距離だ。
<<違う、あれは戦空機だ……!>>
<<バカな!あんな高さを飛べる戦空機だなんてあるはずないだろう!>>
<<う、撃て!!奴にこの艦隊をやらせるな!!>>
その明らかに焦ったその声を皮切りに、対空砲火が咲き始めた。ロレンズは高度1万メートルを飛んでいるが、相手も3000メートルを飛んでいるため砲火の花火が届いた。が……
「これは……弾幕なのか……」
その弾幕は明らかお粗末なものであった。
弾が炸裂する高度も距離もまちまち、それどころか狙いですらロレンズに届いていない。回避行動を取るのがめんどくさくなるレベルだ。
先ほどの焦った無線を聞くに、どうやら砲手が各自勝手に信管の調整をして撃っているらしく、統制射撃をしていないらしい。
こんな弾幕にフランカーが撃ち落とされたらお笑いものだ。たとえ相手が規律のかけらがない敵でも、慢心せずに機体を回避行動へと移す。増槽は勿体無いので切り離さない。
<<撃て撃て!奴を落とせ!>>
<<くそっ!……なんで当たらないんだよ!>>
気づかれたなら今すぐ攻撃したいところだ、すでにロレンズのミサイルの射程距離に入っている。だが攻撃はしない。
まずは戦爆攻連合が攻撃を仕掛けて効果を見る採寸になっている。ロレンズの役目は敵の情報の収集、アイガイオンから課せられた任務のためロレンズは一旦は静観しておく作戦になっている。
その間にも、ロレンズは隙を見て腹に搭載された小さめの偵察ポットを起動。対空弾幕を掻い潜って敵艦隊の全景を映像、写真に収める。
これが同時にできるのはロレンズなどのエースクラスのパイロットでなければ無理だろう。
空賊には、フランカーが空賊の艦隊を嘲笑うかのように見えただろう。そのままフランカーは艦隊の上空を舞いながら空挺騎士団とシュトリゴン隊の到着を待った。
「来た」
ロレンズは艦隊の進路の反対側、イスラの方向から遥か彼方にちらつく青と赤の群が見え始めた。
それは、イスラ空挺騎士団の翼端灯である。きっと腹に空雷やら爆弾やらを抱えてこの艦隊に打ち込むことだろう。
<<こちらシュトリゴン隊隊長、ダリオ少佐だ。ロレンズ少佐、あとは変わります>>
そして、彼らの後方さらに上空にはイスラ空挺騎士団とは違う色の赤と緑の翼端灯が見える。シュトリゴン隊をの機体たちだ。
<<おい!水平からも敵がくるぞ!>>
どうやら敵艦隊が彼らの存在に気づいたようだ。
<<こちらイスラ空挺騎士団!偵察ご苦労だ!手筈通り先に行かせてもらう!>>
「了解です、ご武運を」
戦爆攻連合の隊長らしき人物はそう言うと、攻撃隊の一部が艦隊の右舷へ回り込み、降下していく。高度差の運動エネルギーを利用した攻撃態勢に入った。
ロレンズは対空砲火が彼らに集中したのを見て、機体を水平に立て直し再び偵察体制に入る。
「まずは、雷撃隊か」
雷撃隊は5機1組の編隊を組み、空賊と違い一糸乱れぬ機動で艦隊へと襲いかかっていく。
艦隊と水平に機体を制御して、その腹に抱えた空雷を敵に撃ち込まんとする。
途端、また水で薄めた泥水のような間抜けな弾幕が彼らを襲う。
<<撃って撃って撃ちまくれ!敵を通すな!!>>
<<弾幕薄いぞ!何やってんの!?>>
が、やはりと言うべきか魚雷を抱えてかなり動きが遅くなっているはずのイスラの汎用爆撃機に、全く効果がない。
<<用意……>>
雷撃機たちはそのまま吸い込まれるように空賊艦隊に殺到して行く。
<<撃てっ!>>
雷撃機が投下レバーを引くと、空雷が投下される。一瞬空雷が重力に逆らわずにひらりと落ちていったが、すぐさま後尾の水素スタックに火がともり、一定の速度で空雷たちが殺到して行く。
<<空雷だ!>>
<<撃ち落とせ!早く!>>
戦艦クラスには、数十本の空雷が撃ち込まれた。これに耐えられる船はいないだろう。回避でもされなければ、そのやわな装甲ではすぐさま火の手が上がる……とロレンズも思っていた。
空雷は回避行動もしない戦艦に殺到して行く。空賊たちが慌てふためくがもう遅い。
途端、数十本の空雷が敵戦艦の腹を突き破った。
バリバリバリバリ!!!
装甲の壁を次々と突き破って行き、そして反対側から飛び出した。
そしてやっとこさで信管が作動、空雷は大爆発を起こした……が、敵戦艦にはほとんどダメージが無かった。
「あらら……」
ロレンズは思わずそんな声が出た。
まさか、あれだけの空雷が全て過貫通を起こしてしまうとは。
どうやら相手の装甲は我々が思っている以上に薄いようだった。
<<うわっ!!>>
空賊の呻きが聞こえるがら何も被害は確認できない。
<<全部撃ち込んで効果なしだと……不発か?>>
「こちらシュトリゴン0、どうやら空雷は過貫通を起こしたようです」
困惑する雷撃機隊指揮官機に無線で呼びかけて状況を伝える。
<<過貫通か……くそっ!そうならば装甲はかなり薄いようだな!>>
ロレンズの説明を聞いた指揮官は悔しそうに怒号を飛ばした。
<<仕方ない、我々はもう空雷を撃ち切った!あとは爆撃機隊に任せる!>>
「了解です、今のことを伝えます」
ロレンズは無線を切り替えて急降下爆撃機隊の隊長に今のことを簡潔に伝えて対策を進言した。
「1番装甲の厚い船体の真ん中を狙ってください。それから、危険ですが速度を緩めて運動エネルギーを下げましょう」
<<わかった、そのやり方で行こう。あの程度の弾幕にやられるような騎士団ではないからな>>
彼らは勇敢にもロレンズの案を聞き入れてくれた。
そして勇敢なる爆撃機隊は約60どの角度で敵艦隊に一気に降下して行き、腹に抱えた爆弾の狙いを定める。
<<おい!また来たぞ!!>>
ロレンズの進言通り、船体の真ん中を狙って速度をギリギリまで落として降下。
下手くそな弾幕を掻い潜って殺到していく。
そして、爆弾は切り離され船体の真ん中へと殺到していった。
バリバリ!!!
今度の貫通音は途中で止まった。
見れば、反対側から飛び出した爆弾もあるが残りの爆弾はほとんど飛び出していない。
成功だ、これで刹那もしないうちに爆弾が破裂して敵艦隊は全て空の藻屑へと帰ると皆がそう思っていた。
が……
「!?、爆発しない!?」
なにも、起こらなかった。
敵艦隊は煙こそ出ているものの、依然としてその巨体を空に浮かべていた。
命中はしたはずだ、ならばなぜ?ロレンズはそこで1つの結論にたどり着いた。
「不発か……」
ロレンズはそう確信した。どうやら走行は貫いたものの、薄い装甲のために爆弾の信管が作動しなかったようだ。
<<お、おい!被害は!?>>
<<こちら機関室!中に爆弾が入ってきやがった!!不発弾だ、助けてくれ!>>
空賊達の慌てふためいた様子を見て確信した。しかし、それがまさか全ての爆弾に起こるとは思いもしなかった。
<<おいおい、不発かよ……>>
<<どうする……空雷も爆弾も撃ち切ったぞ……>>
依然として、敵艦隊は健在だ。
このままでは何の戦果も挙げられていない。代わりに、こちらの被害も全くないのだが目の前の脅威を排除しないわけにもいかない。
<<シュトリゴンリーダーより各機へ>>
ダリオ少佐の声が聞こえてきた。
<<状況は見ての通りだ、敵艦隊はいまだ健在。このままではイスラの脅威は排除されていない>>
いつになく、彼のやる気が満ちてくる声であった。なんだか、久方ぶりの空戦に心を躍らせているかのような、そんな感じであった。
<<よって作戦は継続、これよりシュトリゴン各機は敵艦隊への攻撃を開始する>>
そうだ、我々はまだ攻撃をしていないではないか。なら、同盟に基づいて攻撃をすればいい。
このままルナ・バルコを待って砲撃戦で片をつけてもいいが、それでは示しがつかないだろう。
<<全機フォーメーションを組み、敵艦隊へ突入。一気に畳み掛けるぞ。シュトリゴン0も続け>>
「了解!!」
こんな時でもダリオ少佐の冷静な性格は褒め称えるに等しい。相手が誰であろうも慢心をせずに部隊をまとめ上げるその力量は規律正しいシュトリゴン隊をまとめるにふさわしい。
全部で9機のシュトリゴンのフランカーが綺麗に隊列を組み、高度を下げ始めた。
観戦していたロレンズもシュトリゴン隊のフォーメーションに加わり、全部で10機のフランカーがその一糸乱れぬ機動を見せつける。
<<9全機、兵装から6AAMを選択!データリンク開始!>>
HUDから送られてくる敵の熱源をデータリンクで選択、それぞれが振り分けられ最小限の目標だけをロックする。
全10機のフランカーのAAMが全て均一に敵艦隊に照準を合わせる。
その数全部で60発。
その全てが哀れな空賊達に向けられた。
<<おい!また戦空機が来たぞ!>>
<<なんだあの機体は?プロペラがない!?そんな馬鹿な!>>
<<まずい、攻撃する気だ!対空砲火、急ぎ撃て!!>>
何度目か分からないお粗末な弾幕がまた飛んでくる。
<<全機、加速だ!>>
ロレンズはフランカーのスロットルを押し込み、エンジンの出力をぐんぐんと上げていく。
アフターバーナーは炊かないが、それでも音速に近い速度が出始める。
<<早い……!>>
「当然だ、フランカーは早いぞ!」
あまりの速さに空賊の砲手は計算が間に合わない。それ故に、弾幕達の炸裂はどんどん後方へと追いやられていく。
<<なんなんだあの機体は!?>>
<<弾幕が追いつかない!>>
そして、シュトリゴン隊のフランカーは抱えたAAMを……
<<シュトリゴン2……>>
<<シュトリゴン……>>
「シュトリゴン0……」
空賊達への業火となるべく。
<<FOX2‼︎>>
野へと放った。
瞬間AAM達は、先ほどの空雷とは比べ物にならない速度で空賊艦隊へと迫っていった。
それはまるで獲物を求めて鯨へと殺到して行く鮫であった。
<<なんだあれは!?>>
<<空雷?いや、早すぎる!!>>
初めてミサイルを見た空賊達は、その速さに悲鳴のような驚き様を晒す。
<<撃て!撃て!>>
空賊艦隊の左舷から殺到していくAAM。
<<いや、あれは外れ……!?>>
空賊の艦隊の位置に合わせて。
<<空雷が……曲がった!?>>
自らその軌道を変えていった。
そのあとは悲惨であった。
AAM達の赤外線センサーが目標との距離を計り続け、一定の距離になると爆散していった。
炎が照りつけ、火花を照らして煙を吐く、空に何輪もの破裂の花が咲いた。
AAMの火薬は空賊艦隊の木造装甲を燃やし、瞬時に炎が広がっていった。戦艦も、空母も、駆逐艦も。左側にいた艦隊の半分の船達が一斉に燃え広がった。
刹那、空賊達の艦隊が一斉に膨れ出す。そして耳を塞ぎたくなるような轟音とともに、全てが空へ爆発していった。
AAMの爆発だけで、装甲の薄い空賊艦隊達の飛空艦の被害が一瞬で弾薬庫にまで達し、その中の無数の弾薬達を燃やし尽くした。空母は炎上し、駆逐艦は船体をそのままに墜落して行き、戦艦は真っ二つだ。
その割れ目から炎に包まれた空賊の水兵達がポロリポロリとこぼれ落ちるように滑落していく。
<<嘘……だろ……>>
そう呟いたのは誰だろうか?
空賊か?それともそれを見ていたイスラの方か?それも確かめる気も起きないほど、その光景はあまりにも一方的だった。
一方のシュトリゴンはこの光景に見向きもせずに一気に上昇、呆気にとられている空賊達を尻目に機体を散開させて、同時にぐんぐん上昇して行く。機体を翻して艦隊の後方に回り込み、対空砲火を避ける。
そして、高度が再び1万メートルに達したあたりで反転、空賊艦隊に対して一気に降下して行く。
<<く、来るぞ!>>
<<もうだめだ!俺たちはおしまいだ!!>>
哀れな空賊達。彼らの悲鳴はまた必死なものになっていく。
<<本隊に救援要請をしろ!!>>
<<無理ですよ!私たち二等ウラノス人に助けに来るわけが……それに救援が来たってあいつらには……!>>
<<いいから早くしろ!早く呼べ!!>>
艦隊の進行方向の後ろへ機体を翻して回り込み、AAMをロック。四角い熱源を表すコンテナが一斉に真っ赤に光る。ほぼ真上から残りの艦艇達を残りのAAMでロックオン。
「FOX2」
ほぼ呟くようにそういい、ロレンズはミサイルの発射ボタンを押した。
機体下部から空気が抜けるような音がしたと思うと、一直線に伸びるミサイル達がそれぞれの目標に向けて飛翔して行く。
そして、またあの爆発が轟いた。
残りの哀れな空賊達に向けて放たれた槍達は獲物の前で近接信管が作動。爆発し、過貫通した空雷や不発に終わった爆弾達とは違い、それらを的確に破壊して行く。
空が燃え、煙が爆ぜ、全てが灼熱の炎に包まれそうであった。
そして、悲劇が終わるとそこには戦艦とわずかな駆逐艦しか残っていなかった。先ほどの一撃で殆どのAAMを使ってしまったために、効果的な制圧はできない。
特に、ロレンズの機体は偵察仕様に改造されており、搭載してあるAAMも残り二本だけであった。
ならば最後のトドメだ、残りのAAMだけで奴らを仕留める。
ロレンズは機体をそのまま進ませて戦艦のすぐそばを通り抜けて降下する。そこからアフターバーナーを炊いて距離を置く。
距離が遠くなったところで一気に急上昇、戦艦の真ん前からAAMをロック。
<<つ、繋がりました!>>
<<貸せ!!こちら
<<正統なる
通信から彼らの悲鳴が聞こえてくる。
<<潔く死ねだと!ふざけるな!こっちはもう全滅だ!!>>
<<……貴様らの奮闘は聖アルディスタに祝福されるだろう>>
<<お、おい待て!勝手に切る……>>
<<敵機、直上!>>
<<な!?>>
ロレンズは彼らに憐れみを込めて、それを撃った。
「FOX2」
最後の一撃は敵の艦橋を貫き、もう1つは粗末な戦艦の腹を突いた。近接信管の作動で野ざらし同然の艦橋は吹き飛び、腹に乗った砲門を焼き尽くし、炎と爆風が船を貫通していった。そして中にあったイスラ空挺騎士団が投下した不発の爆弾にやっとのこさ火がついた。
刹那、今までの爆発とは比べ物にならないほどの大爆発が轟いた。
やわな木造の戦艦はそれで全てが跡形もなく吹き飛んだ。
空賊艦隊はたったの10機の戦空機によって全滅した。
<<シュトリゴン隊、敵目標を殲滅。艦隊は全滅状態>>
ロレンズは再び隊列を組んだシュトリゴン隊に加わり、フランカーをその空を飛んでいた。
イスラ空挺騎士団は何も言わないが、被害は皆無。そして、当然だがシュトリゴン隊も被害どころか損傷もない。
完全なる大勝利であった。
が、イスラ空挺騎士団の面々は何も口に出さない。それどころか何も言えないでいた。
ロレンズにはその理由が分かっていた。あれほどの殲滅速度を見れば、彼らから見たらシュトリゴン隊はとんでもないことをしたように見える。そのため、きっと口をポカンと開けて頭の整理をつけている最中であろう。
それから、先ほどの空賊達の通信。救援要請のようだったが何かが色々引っかかっていた。
悲鳴のような救援要請、ロレンズはそこから聞いたことのない単語を聞いた。
ウラノス?二等?一体なんのことだろうか?空賊の自称のことだろうか?では二等とは?疑問は尽きない。
「これは、情報を集めなければな……」
ロレンズはそう呟いてさっきまで空賊達のいた空を見下ろした。
眼下にはキラキラと光り輝く聖泉のみが、広がっていた。
シュトリゴン隊による空賊殺戮ショーの様子は、ギリギリで到着したルナ・バルコの艦橋でも確認された。砲撃戦用に取り付けられた高度な光学機器や双眼鏡が、彼らシュトリゴン隊による滅びの舞をまじまじと見えた。
「て、敵飛空艦隊……シュトリゴン隊によって全滅しました……」
「…………」
イスラ空挺騎士団団長レオポルドは双眼鏡から目を離す。もはや言葉が出なかった。
彼らが戦闘に入ってからわずか数分、たった数分であれほどの大艦隊が殲滅させられたのだ。
空挺騎士団の攻撃隊も全力を尽くしたが、不発や過貫通で倒しきれなかった艦隊。それほどまでにやわだったとはいえ、あれほどの大艦隊をたったの10機で、それも不発も過貫通も起こさないあの誘導空雷で全ての敵を殲滅してしまった。
言葉が出る方がおかしい。
「た、大佐……」
「……カシルダ君、我々はとんでもない人たちを味方につけちゃったみたいだね」
一方のオズワルド達も、これには苦笑いしかなかった。
「あの……艦長。彼らの空雷は一度も不発や過貫通を起こしたようには見えませんでした。何が起こっていたのでしょう?」
カシルダは1番疑問に思っていたことを質問した。
「うーん……おそらくだけどあれは近接信管ってやつじゃないかな?」
「近接信管……ですか?」
「うん。前方に向かって電波を放って距離を計って、適切な距離で自爆させる……理にかなった空雷だよ、あれなら対空目標も効率よく破壊できる」
オズワルドの分析は大正解であった。
シュトリゴン隊のAAMには彼の言う通り近接信管が備えられており、過貫通も不発も起きたりはしない。対空兵器としてはこれほどまで有効なものはない。一度これを戦空機にでも放てば回避されでもしない限り、一瞬で相手を殲滅することができるからだ。
「団長。彼らについてどう思いますでしょうか?」
「……正直言って言葉が出ん。近接信管など我々の世界では実用化されてなどいない。それを実用化して、あまつさえあんな小さな空雷に詰め込むなど……
理解はしていたが、これほどまでの技術を持っていたとはな……」
「ええ、彼らが味方で良かったですね」
それがイスラ空挺騎士団全隊員の気持ちであった。彼らはとてつもなく心強い、だからこそ彼らがこのイスラに友好的であったことを感謝し、中には聖アルディスタにまで感謝をする者までいた。
「団長!」
しかし、彼らの思考は突如として遮られた。
「?、なんだ!?」
「司令部より連絡です!」
その報告に誰もが驚く。
「イスラ北西に空賊の主力部隊出現!至急帰還されたし!!」
空賊主力部隊出現。
敵大型爆撃機24機、空母1。
その一報は、なんと偵察に出ていた学生隊からもたらされた情報であった。現場の指揮官は慌てて主力部隊全員にその一報を伝えた。
ここに来て、イスラ司令部は囮に釣られてしまった事に初めて気がついた。
イスラの主力が出払った隙に、爆撃機達でイスラを焼け野原にする。あまりに理にかなった作戦だった。
「まずい事になってるね……」
「ええ、イスラに残っているのはマキナ・デオ20機のみ。これでは爆撃機隊は防ぎようがありません」
その場で戦況を見ていたルイスとアメリヤは空賊達の見事なまでの奇襲作戦にそう呟いた。
今までイスラは空賊を蛮族と見下し、慢心していたあまりに彼らを見くびっていた。そのため、完全に油断をしていた。
イスラ主力部隊は全て前方の空賊艦隊に差し向けられており、彼らはまんまと釣り出されてしまっていた。
ここからは時間との勝負だ。イスラ主力部隊が帰ってくるのが先か、空賊がイスラを焼け野原にするのが先か。
そう考えてさらなる情報を現場の指揮官が送ろうとしたその時。突然、司令部に設置された大型の通信機械から呼び出しがかかった。
それは、アイガイオン空中艦隊達からもたらされた高精度の通信機械だった。
現場にいたルイスは受話器を取ると、そこから聞き覚えのある優しげな声が響いた。
<<こちら、アイガイオン空中艦隊司令官のマカロフです。空賊主力部隊の出現と聞きました……
後は、我々に任せてください>>
13000字!!今まで書いた小説の中では1番長い!