とある飛空士の重巡航管制機《アイガイオン》   作:篠乃丸@綾香

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ゴシゴシ(/ Д \)………∑(゚Д゚)……
7/17の日刊ランキング第9位に掲載……!
いやはや、ありがとうございます!
勢いで始めた本作が、まさか日刊ランキングにまで載れるとは……!
これも皆様のおかげです、本当にありがとうございます。
そして、これからもよろしくお願いしますm(_ _)m


第24話〜イスラで1番長い夜〜

時間を遡る。

ロレンズやミツオたちの活躍により、空賊爆撃機艦隊殲滅を見事殲滅してみせた二十時十分過ぎ。

イスラには帰還してきた空挺騎士団の戦空機たちが、イスラの上空警戒に当たっている頃だった。

 

イスラ後方沖、約20海里ーー

 

立ち込めた雲間から、切り分けられた月明かりが聖泉へと降り注いでいた。

 

だが、唐突に。

聖泉の薄衣が広範囲にわたって、ゆっくりと持ち上がり始めた。

静寂が引きちぎられる。吹き上がる大量の海水がさらにかき乱され、吹きあおられて、月光の光をみだらに乱反射させる。

今しがたまでの原始の幔幕は乱暴に引き下ろされ、代わりに推進装置の鳴動が聖泉の只中から浮上してきた。

 

まるで聖泉から生まれてきたかのごとき「それ」は、煌々とした満月を全身に浴びて正体を秘匿させることなく、中空を上昇して行く。

 

それは全長にして40キロ、全幅10キロほどに及ぶ空飛ぶ島だった。

 

島はイスラと違い、その地表面に農地や商店街らしきものはない。

あるのは島のほぼ中央に位置し、南北に伸びる巨大な湖。そして、その周りを埋め尽くすように散りばめられた軍港らしき湾岸施設、長大な滑走路を持つ飛空場が一つ、さらに軍事施設と思しきコンクリート製の無愛想な建物群、縁に敷設された砲台群、地表面のいたるところに配置された高射砲台のみ。

この浮遊島は居住用ではなく、完全なる飛空要塞である。

 

 

「このタイミングで攻撃を敢行すると?」

 

<<そうだ、我がスコルピウスもこれより浮上しあの浮島に航空攻撃を仕掛け、飛空挺で制圧する。貴様らアンタレスは艦隊を用いて砲撃支援をしろ>>

 

 

飛空要塞アンタレス司令、ファウロス・ガヴラスは、はるか自分より階級が上のバシレウス・アウディカス司令にそう質問した。

 

二人は()()()()()にて話し合っていた。今回の作戦について協議していたが、途中で問題が起こったからだ。

聖泉を侵した未知なる蛮族たちへ、空は我々のものだと知らしめるためにこれから総攻撃を仕掛けようと準備していたところであった。

 

が、ファウロスはその作戦を変更する必要性があると指摘しようとしていた。

 

 

「予定通りというわけですか?

ですが司令、今は浮上したばかりでこちらの艦隊の攻撃準備は整っておりません。これでは我々の足並みが揃いません、奴らを確実に殲滅するには各飛空要塞との連携は重要です。

奴らの戦力配置が我々の予想と異なる可能性もあります。その環境下に奇襲を行うのは連携が崩壊する可能性があり、危険極まりありません」

 

<<ふんっ、第二次囮部隊の奇襲が失敗したならば、尚更予定通りではないか。

まあ、連絡が途絶したのは想定外だったが所詮は囮。囮共が奴らの戦力を引きつけて戦闘に入った証拠だ。なら、手薄になった今こそあの浮島を総攻撃する>>

 

 

どうやら、バシレウスは頑固にもアンタレスの準備が整っていないうちに攻撃をしてしまおうとしているらしい。

 

この『飛空要塞アンタレス』は主に艦艇戦力の中核基地としての役割を担う飛空要塞だ。そのため、巨大な湖の上にはこれでもかというほどの戦艦、空母、巡空、駆逐たちが一挙に集まってその出撃準備を整えている。

そのかわり、飛空場は一つだけであるのは直掩機のみ。爆撃機や雷撃機は鼻から存在しない。

 

我々の目的はただ一つ、愚かにも聖泉を空飛ぶ島で侵してきたあの蛮族たちを完膚なきまでに討伐すること。ただ蹂躙、それだけだ。

そのために三つの飛空要塞が集められた。

 

一つ目は司令本部を兼ねる飛空要塞スコルピウス、三つの中で最大規模を誇る空軍施設を構えた、まさにウラノスの中での主力たる飛空要塞だった。今回は奴らへの攻撃のために航空戦力をほかの飛空要塞から集めている。

 

二つ目は我々飛空要塞アンタレスで、これは艦隊戦力を保持して整備補給、さらには修理まで出来る設備を備えた空飛ぶ軍港だ。

 

三つ目は航空戦力の運用に全てのリソースを割いた飛空要塞ネメシス。先ほどの爆撃機艦隊もこれから発進した。彼らにはアンタレスにいたキルキス級高速空母を護衛につけていた。

 

戦力はーー

 

『スコルピウス』

戦空機80

爆撃機120

雷撃機100

中小飛空艇60

大型爆撃機30

 

『アンタレス』

戦艦5

空母4

巡洋艦10

駆逐艦18

直掩戦空機連合40

 

『ネメシス』

戦空機100

爆撃機160

雷撃機140

中小飛空艇90

大型爆撃機48

 

という超大編成である。

しかも、そのどれもが『三式イドラ』や『アクタイオン』などの主力飛空機。

ウラノスの主力戦艦『サラミス級』や攻撃型空母『改キルキス級』などの強力な戦闘艦などが揃っている。

 

サラミス級戦艦。

ウラノスの主力戦艦であり、その高速性を生かして迎撃を行える使い勝手の良い戦艦だ。

もともとキルキス級空母が戦闘機しか積めなかった為、その護衛艦として建造されたのがサラミス級だ。しかし、その使い勝手の良い設計から、ただの護衛戦艦から主力戦艦にまで上り詰めた。

 

キルキス級空母。

艦隊の護衛として作られたキルキス級空母。そのドクトリンは空母であるにもかかわらず、戦空機のみを艦載機とし、艦隊の制空権を護衛するための戦闘艦としたのだ。

しかし、その高速性からサラミス級が生まれ、それが主力戦艦になったことからキルキス級のような高速空母は攻撃機も運用できるように求められた。その結果生まれたのが今回運用する『改キルキス級空母』だ。

 

戦力では事前の情報で分かっている戦力をはるかに超える。しかも、相手はドクトリンで劣っているそうではないか、もはや恐るるに足らない。

 

作戦はこうだ、まず奴らの戦力を2度にわたって(1回目は二等ウラノス人の艦隊、2回目はネメシスの主力と見せかけた爆撃機艦隊)をけしかけ、戦力を分散させる。

いわば、心理戦の要領だ。流石に二回も囮をつかまされるとは思えにくいことを利用し、ネメシスから飛び立った爆撃機艦隊を主力と見せかけて奴らにけしかける。

そして、本島が手薄にならざるおえなくなったところに本当の主力たるスコルピウスとアンタレスが総攻撃を仕掛ける。

 

これが成功すれば、聖泉を侵した未知なる蛮族たちは全て蹴散らされ、島は我々が掌握することになる。兵士は老若男女問わず皆殺しにし、残りの市民や子供は二等ウラノス人として()()()迎え入れる。

 

だが、この作戦は各囮部隊との連携が不可欠となる。囮部隊が敵と接触した時が奴らに攻撃を仕掛けるタイミングだがらだ。それを見過ごすわけにはいかない。

 

しかし今、ある問題が二つ浮上していた。

一つは飛空艦たちの準備が整っていないことだった。

 

今まで聖泉内に潜行していたためか、奴らの浮島との距離が離れてしまっている。これでは足の遅い艦艇では作戦開始までに時間がかかる。

だが、バシレウスはそれに見向きもせずに航空戦力だけで先手を打とうとしているのだ。それでは連携もあったものではない。

 

 

ーーこの石頭め……

 

 

ファウロスはそのポーカーフェイスの内側からバシレウスのことを罵った。

しかし、問題はこれだけではない。

 

「……それと、第二次囮部隊の接敵は予定よりも早いです。しかも、囮部隊は両者とも音信不通になる前に『曲がる空雷を見た』『血塗りの天使がいる』『空が燃えている』等の謎の報告が上がっています。

……それに、あの巨大飛空機械のこともあります。これは警戒すべき存在では!?」

 

 

そう、これが彼が危惧していた二つ目の理由であった。

この危惧の発端は偵察に出ていた潜空艦(ウラノスが所有する聖泉内に潜ることのできる飛空艦。空雷攻撃や偵察などに使用され、アンタレスに4隻が配備されている)が発見した一枚の写真だった。

 

奴らの浮島に、明らか異形の、それもとてつもなく巨大な飛空機械五機が接触している場面であった。それは二等ウラノス人共が勝手に爆撃した後にやってきたらしく、旗機と思わしき1番巨大な飛空機は全長が1キロ近くあると聞いて驚いた。

 

これは我々ウラノスでも、ましてや奴らの戦力ではない。我々の知らない第三勢力のものだろうとファウロスは考え、いずれ脅威になるとバシレウスに報告した。

 

が、バシレウスから帰ってきたのは「嘘の報告はやめろ、まじめにやれ」という、全く信用していない返答だった。

そのため、この情報は握りつぶされてしまい、ウラノスの討伐艦隊に行き渡ることはなかった。

 

 

<<はっ、またその話か?まさか()()()()()()()()()が奴らの味方をしているとでも?曲がる空雷とはなんの冗談だ?()()()()()()()()()()の話じゃあるまいし>>

 

 

どうやら、今になっても信じていないらしい。

 

 

「信じていらっしゃらないようですが、その()()()()()()()()()()の中に曲がる空雷があってもおかしくはありません。

あれらの技術は我々の人知を超えています、来賓たちが奴らの味方についていたら、我々は対処できるかどうか……!」

 

<<そこまで心配ならば、今からでもその手土産の解析を研究者どもに精進させたらどうだ?あれの解析は貴様らの役目だろ?>>

 

「あれは一日二日でどうにか解析できる代物じゃないのです!!とにかく、せめて全軍の出撃準備が整うまで攻撃は……」

 

<<黙れ。そこまで嫌なら軍服を脱げ。でなければさっさと攻撃準備をしろ>>

 

 

ファウロスの必死な説得も虚しく、バシレウスはそれだけいって吐き捨てる。通信はブツリと切られ、後の画面は真っ黒になる。どうやら、説得は決裂したようだった。

 

 

「くっ……!来賓たちの戦力がどれほどのものかも分からないのに!こんなの愚策だ!」

 

 

ファウロスはそう言って机を叩く。事情を知ってはいながらも、周りの士官たちは彼の逆鱗にこれ以上触れぬように配慮する。

 

 

「聖アルディスタの来賓……」

 

 

アルディスタの来賓たち、それはウラノスにとっての超極秘事項となっていた現象のことである。

数年前から聖アルディスタによって直々に招待された彼らは、我々ウラノスの技術力を持ってしても理解に苦しむような精神的な技術を持っている。

 

我々も来賓によってもたらされた技術達を日夜解析しているが、使い方はわかっても複製できるまでには至っていない。

このテレビ通信だって本来ならば来賓達によってもたらされた遺産だ。ウラノスでは到底実現できないような代物、これの使い方が解析できた時から各飛空要塞に配置されて相互通信を容易にしている。

 

一方で、バシレウスは来賓達の技術の事をほとんど信じていない。下段の人間達を見下すだけでなく、自分以外の人間ですらあまりいい態度はとらない性格のため尚更だった。

彼には来賓達の脅威は伝わらないであろう。

 

 

「……仕方がない、解析途中だがあれは今すぐ使えるか?」

 

 

ファウロスは近くにいた士官にそう聞く。

 

 

銀狐ですか?ええ、少し準備に時間がかかりますが、今回の作戦には出撃可能です」

 

「ならば、全機出撃だ。制空編隊に加わってもらう。手土産とやらの力を見せてもらうぞ」

 

 

奴らは我々の脅威となる。

バシレウスはそんな事気にせずに今から攻撃を始めるであろう。ならばこちらは文字通りの秘密兵器を投入するしかない。

 

そうだ。彼らの技術を吸収し、複製をしたあの兵器なら奴らとて脅威ではない。

 

ファウロスは今後の不安を押しつぶしながら、そう命令した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イスラ地表面に敵襲を告げる警報がひときわ高く鳴り響いた。

その警報を幾多のプロペラ駆動音がつんざく。明らかに空挺騎士団とは音調の異なる、異邦の発動機が奏でる破壊のメロディーだった。

夜間照明の金色の光のさなか、空賊の囮部隊を攻撃し、イスラに戻っていたラガルティアや直掩のマキナ・デオたちがプロペラを轟かせメルクリウス飛空場を次々に飛び立つ。

滑走路上を駆け回る誘導員、整備士、飛空士たち、いずれの顔にもやはり来たかと言う覚悟に染まった勇ましい表情が浮き上がっていた。

 

夜空を見上げたならば、イスラ上空を照らし出すサーチライト回廊の間隙に、空賊の制空部隊らしき単座戦空機の群れが舞い飛んでいる。

空賊の戦空機はマキナ・デオと同じタイプ、つまり両翼に固定銃を持つ低翼単葉機だった。格闘性能もマキナ・デオとほとんど遜色なく、飛空士達の技量も互角と見ていい。

やはり、当初に現れていた旧式の敵機は、イスラを騙すためのブラフだったらしい。

 

が、空賊の見立ては甘かった。

彼らが陽動に使っていた囮の空賊爆撃機艦隊はアイガイオン達空中艦隊が対処しており、本当のイスラ主力部隊はイスラ上空に舞い戻ってきていた。

 

水素スタックを満杯にまで充電し、装備を補給したラガルティアとマキナ・デオ達。そして万全の準備を整えていた対空陣地。歓迎は至れり尽くせりだった。

 

 

<<なんでこんなに敵がいるんだよ!!>>

 

<<ここはガラ空きじゃなかったのか!?>>

 

 

それが空戦に突入した空賊達の本音であった。

敵を陽動して意表を突いたと思ったら、熱烈な歓迎会に無理やりご招待である。彼らが混乱するのも無理はない。指揮系統は完全に乱れ、爆撃はできているものの目立った戦果は挙げられずに地上のハリネズミのような対空陣地に撃ち落とされていっている。

だが唯一、そんなこともお構いなしに突き進んでいっていた飛空艇たちはイスラへと空挺降下を開始していた。

 

イスラ空挺騎士団は奮戦しているが、空賊もイスラ空挺騎士団も、飛空機の性能も飛空士の技能も互角であった。それならば空賊相手には多勢に無勢、徐々に押され始めてその損害を増やしていった。

 

そして、空賊はどこまでも狡猾だった。

通信破壊用の飛空艇が6機が、先程からイスラ上空を旋回しつつ、電波阻害をし続けている。機体の中に銀色の紙吹雪を切り出す装置が内蔵され、空襲の間ずっとこれを散布し続けることで、イスラの無線電波連絡を不可能にしようとしていた。

 

地上から打ち上げられるサーチライトを浴びながら、幾千万の銀吹雪がイスラの空をひらひらと舞い飛んでいる。これに接触した電波無線は紙片の狭間にかき乱されて、通信できなくなるはずだと。

 

しかし、彼らには電波妨害対策が施された通信機を各部署や飛空機に設置していた。これは、あの空中艦隊達からもたらされたものだった。21世紀の科学的に計算されたチャフならまだしも、ただの金属片では彼らの高性能な通信機を遮断することはできなかった。

 

さらにイスラは電波妨害を受けているとわかると、すぐにイスラ本体を加速させ風の力で紙吹雪を後ろに追いやろうとした。これはあのルイスの決断だった。空賊の妨害機はそれを見過ごさずに紙吹雪を更に舞させる。

 

するとどうだろう?イスラ上空に残る紙吹雪の割合が減り、新型の通信機のおかげで相互通信が島の中で可能となった。もはや、電波妨害の意味がない。

そして残りの紙吹雪はイスラ後方へと流れて行くようにひらひらと舞いながら浮遊して空に漂って行く。それらは後方僅か25海里にいるアンタレスの上空へと降り注ぎ始めたのだ。

 

この空賊の狡猾さは、後々かえって裏目にでることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シルクラール湖畔ーー

 

待機しているカルエル・アリエルペア、ウォルフガング・マルコペア、アスカ・シノンペアもまた、鳴り止まない空襲警報を聞き、空を見上げていた。

 

 

「これ、何が始まったの!?」

 

 

目の上に手をかざして、アリエルはアリエルは、真っ赤に染まるイスラの夜空を見渡していた。飛び交う飛空機械達の飛行機雲も薄っすらと確認できる。

 

 

「ヴァン・ヴィールが攻撃されている……!」

 

 

そう呟いてから、カルエル達は待機しているエスコリアル飛空場方面へ目を送った。そして、サーチライトに照らされる11機のエル・アルコンの群れが垂直方向に登っていくのを確認した。

 

 

「飛空科のみんなが飛び立った!戦う気だ、空賊と戦うんだ!」

 

 

彼方を指差してカルエルは叫んだ。ウォルフガングやアリエル達も同じものを確認する。エル・アルコン編隊は燃え盛るヴァン・ヴィールを背に向けて、ローター面を垂直に倒してまっしぐらにカルエル達の方へ向かってくる。

 

その意図を測りかねていると、その向かっている方面から新たなプロペラの轟音が響き始め、途端に第1要塞砲台『ゴリオン』なら轟音が鳴り響いた。

 

砲撃だ、ゴリオンから二、三キロしか離れていないシルクラール湖畔は、その轟で足元が震える。

 

 

「敵だ……第2波が来たんだ!」

 

 

カルエルは呻くように言って、音のする方向へさらに目を凝らした。

ゴリオンの三基の50センチ主砲弾が、時限信管の働きにより、敵飛空機群の只中で爆発して空中に炸裂していった。爆炎の花が次々に咲く。

 

 

「新手の戦爆連合……!

 

「狙いはおそらくエスコリアル飛空場ね……」

 

 

空襲でまず狙われるのは飛空場だ、第一波ででまずメリクリウス飛空場を襲い、第2波でエスコリアル飛空場を狙う作戦ではないか。

 

 

「飛空科のみんなが狙われる!」

 

 

叫ぶようにカルエルはアリエルに真剣な顔を向けた。

 

 

「……無理。あたし達じゃ、数でも腕でも相手にならない」

 

「そんなの……!空挺騎士団はメリクリウス飛空場の防衛に必死で、とてもじゃないけど対応できないじゃないか!

あんなのに襲われたら町も飛空場も全部めちゃくちゃになっちゃう!イスラのみんなが死んじゃうよ!?」

 

「だからってあたし達に何ができるの!?対空砲撃つくらいしかできないでしょ!?未熟な腕前で、しかも練習機に乗って戦場の空を飛べるわけない!」

 

「そんなのやってみなきゃわかんないよ!アリーどうしたの?全然君らしくないよ。君、イスラを守りたくないの!?」

 

「はあ!?あんた何様のつもり!?誰が何を守るって!?バカじゃないの!?やらなくても、あんなのに勝てるわけないでしょ!?」

 

「な、なんだよその冷めきった態度……!このままじゃないイスラが危ないんだよ、もう少し真剣に考え……!」

 

 

文句を言い返そうとしたカルエルの耳に、電話のベルのような着信音が鳴り響いた。アイガイオンからもたらされた新しいタイプの通信機で、エル・アルコンの後席に設置されている。

イスラのものと比べると、片手で抱えられるほどにまで小型化され、綺麗な光を放つ液晶画面がその側面についている。この電波妨害の中でも、その出力と性能で相互通信を可能としていた。

 

カルエルはエル・アルコンに駆け寄り、その通信機の受話器を取る。こちらは片手で持てるほどの携帯端末サイズに小型化されている。

 

 

<<イスラ空挺騎士団司令部より伝言!イスラ北東、15海里より新たに敵戦爆連合100機接近!>>

 

 

通信取ると、上級騎士団員の焦った声が響いていた。どうやら、新たな敵機がやってきたことは間違いないようだ。その証拠はカルエル達の目に写っている。

 

 

<<防空任務についている飛空科生はこれより出撃、エスコリアル飛空場上空を死守せよ!>>

 

 

やっときた、カルエルはそう思った。

 

そう言ってカルエルは唇を噛み締めた。握りしめた拳を腰の横でぶるぶると震わせると、おもむろに自分のエル・アルコンの前席に乗り移った。

 

 

「ちょっとあんた、何してんのっ!?」

 

 

アリエルが慌てて義兄の背を追う。カルエルは湖畔に浮かべたエル・アルコンの全席に飛び乗ると、水素スタックに火を入れた。

 

 

「命令が来た!エスコリアルを……イスラを守れって!」

 

「そ、そんな……無理だよ!私たちで勝てるわけないよ!冷静になって!」

 

「ここで怯えているなんて嫌だ!それに、どのみち命令なんだ!」

 

「こんな命令めちゃくちゃだよ!学生に勝てるわけないじゃん!これ実戦だよ!?訓練じゃなくて、本当に人が死んじゃう空戦が始まるんだよ!?」

 

 

蛮勇をあらわに宣言するカルエルの傍で彼を説得するアリエル。この場合はアリエルが正しいかもしれないが、命令が来てしまった以上、これはもはや誰にも止められない。

そしてもう2機のエル・アルコンに、ウォルフガングとマルコ、そしてアスカとシノンも飛び乗った。

 

「ウォルフ!シノンさん達まで!お願い、冷静になろうよ!」

 

二人は支給品のMG4とUMP9を持って掲げると、アリエルへ顔を向けた。

 

「やれることはやるでごわす。今エスコリアル飛空場を防衛できるのは、といどんらしかおりもさん」

 

「でも……こんな命令……」

 

「アリエルさん」

 

 

アリエルに凛とした強い声が聞こえてくる。

振り返れば、シノンが自動小銃を片手に掲げてアリエルに語りかけていた。その目は、力強く、男勝りで頼もしかった。

 

 

「私たちの目的は時間稼ぎよ、アイガイオンとルナが戻ってくるまでの時間稼ぎ。司令部は何も私たちに死ねって言っているわけじゃないと思う。だから、私たちは行くよ」

 

「で、でも……」

 

「それに、私はイスラが火の海になるのを見過ごせない……せめて、彼らが帰還するまでの時間稼ぎを全うするわ」

 

「……!」

 

 

シノンの表情は、決意に満ちているような凛としていて清々しい。イスラを火の海にしたくない、そんな気持ちをシノンは抱いていることが分かった。

 

 

「アリー、こうなったらシノンはもう止められないよ。シノンも私も、イスラが燃えるのを黙って見ていられないしね」

 

「………」

 

 

ローターの轟音が、彼女らの言葉をかき消し始めた。湖面がざわめく。エル・アルコンはもうすぐ飛び立とうとしている。

 

確かにそうだ、あたしだってイスラが火の海になるのは嫌だ……5ヶ月もみんなで暮らしたこの……この大好きな場所が壊されていくのはたまったものじゃない。けど……けど……

 

アリエルは湖畔に佇んで、全身を震わせていた。怖いからではない。目の前で勇みたつ少年少女たち、特にカルエルに対しての怒りだった。

 

本当にバカだと思う。

こんなむちゃくちゃな命令に背くどころか、むしろ望んで挑もうとしている。飛空科を卒業してもいない訓練中の生徒が練習機に乗って向かって行ったらどうなるか、考えなくてもわかるはずだ。

 

本当にバカだと思う。

どうしてカルエルはこんなにもバカなんだろう。なんでこんなバカな奴があたしの義兄なんだろう。

 

本当にバカだと思う。

バカばっかりして、周りに迷惑かけて心配かけてそれを屁とも思っていない、こんな大馬鹿野郎は、のこのこ戦場に出かけて行って撃ち落とされて死んじゃえばいいんだ。

 

本当にバカだと思う。

本当に本当にバカだ。どこまでもどこまでも果てしなくバカだ。あまりにバカすぎて、ヘタレでマザコンでナルシストすぎて、不安で不安で心配で心配で居ても立っても居られない!!

 

 

「うう……!バカバカバカバカバカっ!!!」

 

 

ほとんど泣きそうな顔でそう叫んでから、アリエルは湖に向かって跳躍し、義兄の機体の後席に着地した。

 

 

「アリー……」

 

 

アリエルはアサルトライフルG3のストラップを肩に回すと、これでもかというほど肩を怒らせ、伝音管も使わずに間近から怒鳴る。

 

 

「バカ!ヘタレ!ナルシスト!」

 

「ありがと、アリー」

 

 

いつもは怒るカルエルも、今は笑顔で義妹の怒りを受け止めた。

 

 

「死んじゃえ!お墓作ってあげない!お花もあげない!」

 

「死なないよ、生きて帰るんだ。君も、ぼくも」

 

 

カルエルは決意を胸にそういい、スロットルを開いた。アリエルが後方を振り向いてウォルフガングとシノン、アスカに怒鳴りつける。

 

 

「約束してみんな!!絶対、生きて戻るって!!絶対無茶しないって!!」

 

 

ウォルフガング、アスカ、シノン達はにっこりと笑ってアリエルに手を振りながら

 

 

「無茶はするでごわす!しかし、生きて戻ります!!約束でごわす!!」

 

「生きて帰るわ!最初からそのつもりよ!!」

 

「うんうん!みんな死ぬ気は無いよ!無茶はするけどね☆」

 

「絶対だよっ!破ったら承知しないから!!

ウォルフ!アリーメン、あんたじゃないと打てないんだよ!?

アスカにシノンも!ヴァン・ヴィール組で尊敬できるの、あんた達しかいないんだから!!絶対死んじゃダメだからね!!」

 

 

言葉が水飛沫の中へ消えていく。飛沫達が月光を跳ね返す。その細かな光の粒子の中、三機のエル・アルコンがまっすぐ上昇していく。

高度が上がる。眼下のシルクラール湖が縮んでいき、その全容を俯瞰できるところまで登っていた。

 

高度三千メートル。

 

カルエルは目を前方に向けた。カルエル機達の目の前を、11機のエル・アルコンが飛んでいた。

 

カルエルは飛空眼鏡をおろし、彼方から迫ってくる敵戦爆連合を見据えた。イスラ前方では空挺騎士団の迎撃が間に合わず、彼らの侵入を許してしまっている。

 

ヴァン・ヴィール組の11機はゴリオンの手前で浮揚し、待ち構えて洗車を浴びせるつもりであった。エル・アルコンの腹下をいくつものサーチライトが応援するかのように撫ででいた。

 

カルエル機体を操り、先頭の機体の真後ろに入る。先頭を行く編隊長機の後席が、こちらをちらりと見ると、見覚えのある顔が月明かりに照らされ出した。

 

 

「ファウスト……」

 

 

燃え盛るヴァン・ヴィールを背景に、吹き上げてくる熱風と銀色の紙吹雪の只中、狙撃ライフルを右手に抱いたファウストはカルエルににやりと笑いかけた

 

(びびるなよ)

 

その微笑みに、カルエルは無言で返す。

 

(君の方こそ)

 

学校ではまともに会話したことがない。それどころか顔を合わせればケンカばかりしていた。今初めて彼とまともに会話した気がする。

 

いつも偉そうだし、センデジュアル組をいつもバカにしているけど、イスラが好きという気持ちは一緒だと言うことがわかった。根っ子のところはそんなに悪いやつじゃないのかもしれない。

 

この戦いが終わったら普通に話しかけてもいいかも。そんな風に思いながら、カルエルは彼の後に続く。

 

カルエルは目をつぶって息を整え、腹の底へ気合を込めた。

 

怯えるな、と自分に言い聞かせる。

イスラが好きだろうと自分へ問いかける。

大好きだ、と自分が応える。

だから戦う。それでいい。

 

そして、カルエル達はゴリオン砲台の真上に来て、北東からやってくる敵編隊を待ち構える。備えられた2基のサーチライトが一斉に右手前方を指差した。

 

野太い二筋の光の線がいきなり倒れこみ、迫り来る空賊戦爆連合を指し示す。百を超える機影は高度二千、二千五百、三千と三段に分かれ、雲霞のごとく直進してくる。

 

 

「単横陣!全機広がれ!」

 

 

ファウストが命令を下すと、全14機のエル・アルコンが一斉に横一列に整列する。

 

カルエルは横陣の右端にエル・アルコンを導いてローター面を水平に寝かせ、その場に浮揚した。その右にウォルフ機、さらにその右にアスカ機が並ぶ。

 

直進してくる空賊編隊に対してエル・アルコンは真正面に構える形だ。後席ではアリエルがG3の銃口を真正面に構えて迎撃態勢を取る。

 

迎え撃つエル・アルコン編隊14機は空間の一点に浮揚したまま動かない。相手機とは最大速度などあらゆる性能に劣るエル・アルコンは『空間に静止できる』という特性を生かしきって迎撃するしかない。

 

 

<<隊長、あそこにも直掩機が!>>

<<くそっ!制空戦闘だ、全機我に続け!!>>

 

 

敵制空隊がエル・アルコン編隊に気づいたようだ。勇躍、速度を上げて編隊を抜け出し、こちらめがけてやってくる。

 

敵戦空機群との間合いが詰まる。敵機が一旦機首を下げ、機速を獲得してから高度を上げる。飛空科単横陣は敵機をみあげる格好となる。

 

高度3500まで上昇すると、敵40機が一斉単横陣めがけて機首を下げた。ドップラー効果により甲高いプロペラの音が鳴り響く。

 

 

「引き付けろっ!!ギリギリまで引きつけるんだっ!!」

 

 

ファウストの号令が飛ぶ。エル・アルコン14機はまだ一人も発砲しない。敵機が夜空を斜めに切り裂く。プロペラの唸りが頭上を圧し、腹の底まで震わせる。その轟音に、決して負けるな!!

 

敵機との距離、500、300、200……

 

先頭を降下してくる敵戦空機の両翼が光った。曳光弾の筋がこちらへ向かってくる。

距離、100。敵飛空士の頭が見えたその瞬間。

 

 

「撃てっ!!」

 

 

号令の下、エル・アルコンの後席から一斉射撃が空賊の鼻面で炸裂した。アリエルも間髪入れずにG3を撃ちまくり、シノンはUMPを、ウォルフはMG4を景気良く放ち弾幕を張る。

アリエルの放った7.62ミリ弾の弾幕は、イスラで最も評価されている弾丸の一つだ。安定した火力と貫通力と射程を備え、焼夷弾だって装填できる仕様だ。

他の機体から単横陣からの一斉射撃は単発式ライフルの炸裂弾である。他の機が落とした機体から、巻き上がった爆発が起こり敵機群を内側から食い破る。

 

敵40機は数を減らして千々になりながらもエル・アルコンを通り過ぎて一斉に降下していく。砕けた翼が宙を舞い落ちる。

計6機ほどが煙を吹き上げ、機首を起こすこともできずに聖泉めがけて錐揉みしながら落ちていく。

 

 

<<エンジンに被弾!墜ちる!!>>

 

<<うわっ!やられた!!>>

 

 

しかし、エル・アルコン編隊も無事ではない。ファウストの傍の一機が機体後方から火の手を上げていた。

 

 

「うわぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

後席でライフルを握っていた生徒の体が機外へと投げ出され、機体に逆さづりになっていた。両腕を力なく揺らしながら、足首に巻かれたベルトがかろうじて落下を免れている。

全席搭乗者は操縦把柄にもたれかかるようにして絶命していた。

被弾したエル・アルコンはローターを回転させたまま徐々にきりもみを始め、重心を失って単横陣から脱落し、黒煙を渦のように巻き上げながら聖泉に呑まれていく。

 

 

「…………」

 

 

カルエルは言葉もなく、落ちていく生徒を見ていた。闘えば人が死ぬことなどわかっていたし覚悟もしていた。しかし、初めて実現したそれは、あまりに無慈悲で残酷な光景だった。

 

 

ーーびびるなっ!

 

 

自らを奮い立たせながら、カルエルは隣の機体おの間隔を狭めた。感傷に浸る暇を敵機は与えてくれない。

敵戦空機群は今度は降下して行った勢いをそのままに機種を持ち上げて、こちらめがけて上昇してくる。

 

 

「撃てっ!!」

 

ファウストの号令が響く、エル・アルコン13機の機体側面から一斉に真っ赤な弾丸の雨が敵機に向かって撃ち下ろされた。

 

敵戦空機群はその雨を浴びながらも上昇してくる。が、機体から火が吹き始めると機体は重力に逆らいきれずに錐揉みをし始めた。

 

二つの編隊がまたしても凄絶な花火を散らしながらすれ違った。

 

 

<<うわぁぁぁぁぁ!>>

 

<<やられた!脱出……>>

 

 

爆発が起こる。翼が砕け散り、噴煙と焼夷が夜を照らしてあぶり出される。機体の翼内に溜め込まれていた焼夷弾、炸裂弾が燃え上がり、花火のようにパチパチと爆ぜる。

 

そしてまた、エル・アルコンが一機、火を吹き上げた。乗っていた2名の生徒が絶叫しながら落ちていく。

 

 

「……………」

 

カルエルはじっとそれを見つめた。今、二人の生徒が命を削られようとしていた。廊下ですれ違ったことのある顔が遠ざかっていく。

 

 

ーー戦えば、人が死ぬ。

 

 

それは分かっていたつもりだった。

たが、カルエルにとってその光景はあまりにも無慈悲で容赦のない、命と魂の塊だった。

 

イスラで1番長い夜が、幕を開けた。




珍しく絶望的でごめんなさい、今回は伏線回です。
空中艦隊無双は次話までお待ちくださいね。
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