とある飛空士の重巡航管制機《アイガイオン》 作:篠乃丸@綾香
エスコンの地上戦を舞台にしたCODみたいなFPSやってみたいですよね。特にバンカーショット作戦とか。
あと最近コトブキのアプリ始めました、いつかクロスも書けたらいいな〜
「奇襲隊が押し返されているだと?」
「ええ、原因は不明ですが奇襲隊の作戦が上手く行っていない模様です。空挺部隊も島の制圧は困難だとの連絡が」
飛空要塞アンタレス。その司令室は大きめの丘に面した場所に作られている。正面に大学の黒板のごとき巨大な戦域地図。右側に開けたまっさらな状態窓。中央を巨大なテーブルが占拠して、吹き抜けの上の階は通信室となっている。
その場所で、ファウロスは部下たちの異様な報告に目を見開く。彼にとっては想定外のことであった。
「多大な犠牲を払っての三度の奇襲だ。そうそう簡単に巻き返せるはずがない」
そう、ウラノス側は計3度の奇襲を行なっている。三度目に至っては、二つの飛空要塞の全ての戦力をぶつけて行った総力戦だった。あの浮島に残っていた戦力といえば、こちらの三式イドラより少し劣った単座の戦空機が二十機ほど。どう考えても数百機もの飛空機たちを退けられるとは思えない。
それでも押し返されているということは、何か作戦配置に間違いがあったとしか思えなかった。
多大な犠牲を払った三度の奇襲。1回目の奇襲は下級ウラノス人が務めるから問題はないとバシレウスは言っていたが、ファウロス個人では彼らが気の毒だった。
ウラノス人と登録されている人間には二種類いる。まず、ウラノスのプレアデスなどの飛空都市出身の一等ウラノス人。これがまずほとんどのウラノス人を占めている。彼らはちゃんとした人権を認められ、ウラノス社会で普通に生活している。正規兵は100パーセント彼らで占められている。
そして二等ウラノス人。彼らは聖泉の下、の島々、または大陸、ウラノス人が下段呼ぶ場所出身の人間である。彼らにはほとんど人権は認められていない。空中都市ではトイレや座る場所まで区別され、全く別の生き物として扱われている。
彼らが軍に入れば、軍の戦力に関する欺瞞情報を掴まれて放り出される。早い話が正規兵の囮である。
そんな反吐が出る扱いを受けている二等ウラノス人に、ファウロスは同情気味だ。同じ人間なのにそれを認めず、差別しておいて、それを「区別だ」と正当化する傲慢さには賛同できない。
そして、今回も彼らは囮となってしまっていた。二等ウラノス人なので護衛もつくことはなく、そのままお粗末な艦隊で玉砕していった。
そんな尊い犠牲を払っても、結局戦力を釣ることはできなかったといのだろうか?敵の戦力は我々討伐部隊とは比べ物にならないほど小規模だ。一つの敵に、戦力を一極集中させるしか方法はないであろう。
しかし、戦力が釣られなかったとしたら、誰かが援軍を送っていると考えるしか考えつかなかった。だれか、三度の奇襲に柔軟に対応できるほどの戦力を備えた何かがあの浮島に味方しているのかもしれない。
だとすれば、心当たりがあるのはたった一つだ。
「聖アルディスタの来賓……」
「司令!」
「どうした!?」
考えにふけっていたファウロスの思考を、部下の掛け声が制止する。焦ったようなその口ぶりは、何か緊急事態があることを言う前から教えている。
「今先ほど連絡が……銀狐の反応が、完全に途絶えたとの事です」
「な!?」
ファウロスの目が見開かれる。ファウロスはその鋭いことで有名だった目を限界までに見開いた。ファウロスにとってはそこまでの衝撃だった。
銀狐。
戦力の順次投入に不安を感じ、投入を決意したアンタレスの切り札の戦空機。それが墜とされるなんでありえなかったはずだ。
かの機体はそんじょそこらの戦空機とはちがう。プロペラに頼らない、いわゆるジェット機と言われるものだった。聖アルディスタの手土産として流れ着いたそれは、今回の作戦で多大なる戦果を上げるだろうと期待していた。ジェット機であることを生かし、圧倒的な性能差で敵戦空機軍を一撃離脱なりで葬り去れると。
しかし、かの機体は万全ではなかった。
その機体がどんな技術で作られているのか、全く見当もつかないのだ。搭載されたジェットエンジンは然り、圧倒的な連射力を誇る機銃の仕組みも、誘導する空雷の仕組みも、そして飛空士なしで空を飛ぶ原理も。
全てテスト済みだが、全く理解が追いついていない状態だったのだ。そのため、機銃はサンプルとして取り外されて、代わりにショボい7.7ミリ機関銃を2門取り付けるしかなかった。
ミサイル、とやらも装填されていないし、オツムとなる計算機の構造も不可解で修理が出来ていない。そのせいで、演習で本来なら後方から仕掛けるべきところに真正面から向かってしまうなど「遊んでいるのではないか?」と思われるくらいの致命的なバグを抱えていた。
そんな状態で飛ばしていても、この機体があった世界での頃の十分の一くらいの戦力価値しかない。まさか、その不安が裏目に出てしまったのか?
「……それは本当か?」
「ええ、研究者がデータを取っていたのですが、突然反応が消失しました。一機やられたと思ったらもう二機も立て続けにやられました」
「なん……だと……!」
あの銀狐を撃墜できるのは、レシプロ機では無理だろうと考えられていた。学者のお墨付きでだ。それでも、本当に銀狐はやられてしまった。万全ではないにしろ、これは誠に遺憾である。
「それと……銀狐から送られてきたレーダーのデータに、不可解なものが」
「不可解なもの?」
「ええ、銀狐と同じ速度で空戦を行う一機の大型の戦空機の存在です。科学者たちはジェット機だと思っているそうです」
「!?」
ジェット戦空機、それは銀狐を除いて我々ウラノスでも実戦配備にまではこぎつけていない。よもやあの聖泉を犯した浮島側がジェット機を持っているはずがない。あれらはこの世界へとつながれた「穴」の存在によってもたらされるものだ。奴らが穴に遭遇しても、その解析には時間がかかるはずだ。
いやらひとつだけ心当たりがある。
卓越した性能の戦空機を持ち合わせた異世界からの使者。巨大な翼を持った超巨大飛空機。奴らの浮島の上を攻撃の意思なく浮遊するかのように飛んで行く超大型飛空機。
「奴らが、味方をしている……!」
そうとしか考えられなかった。
その時。
要塞の北側が弾け飛んだ。
「!?」
何があったかと双眼鏡を手に取り、飛空要塞アンタレスの舳先を見据える。起伏の少ない地形を持ったアンタレスは司令部から全体を見渡せる。
「要塞砲が……」
舳先の要塞砲が三基、宙を舞うかのように飛散していた。業火に焼かれ、弾薬庫に引火して全てが無に還る。分厚いはずの砲塔がひしゃげ、そこから身を焦がすほどの業火が夜空を照りつけている。
「被害報告!」
「第一から第三要塞砲、全て沈黙!!死傷者多数!!」
事故か?と思ったが、その爆発は前方の要塞砲が三基全てに巻き起こっていた。明らかに事故ではない、完全なる敵の攻撃だった。
「敵の攻撃だ!どこから来るかわからん!総員対空見張りを原とな……」
その時、異形の轟音が指令所を包み込んだ。
ファウロスは慌ててその方角へ双眼鏡を送る。
夜空の先。
視界に広がる鋼鉄の大鳥。
野球、いやマラソンでも出来そうなくらいの幅の広さの翼を持つジンベイザメの中央胴体には巨人の大口の様な大穴がぽっかりと空き、その中は空洞になっておりいくつかの戦空機が見受けられた。
大きさはどれほどのものになるかわからない、ウラノスも幅が100メートル単位の超大型爆撃機を保有しているが、奴はその10倍の大きさはある。
そして、それを守るかのように巨大な飛空機がジンベエザメの周りを囲んでいる。それだけでも幅は軽く100メートルは超えているであろう。
「なんだ……あれは……」
ファウロスはハッとした、なぜあのような巨大な飛行物を今の今まで探知できなかったのだろうか?レーダーには必ず映るはず、しかしその報告はたったの今報告された。
「おい!あんなデカブツ、レーダーは何をしていた!!」
「そ、それが……スコルピウスの妨害機が放った電波妨害の紙吹雪が、風に流れてアンタレス上空に……レーダーが誤作動を起こしています……」
「な!?」
ファウロスはそう言って驚愕の声を上げた。
指揮所の三階の窓から外を見れば、アンタレスの上空にはキラキラと舞い上がるかのような紙吹雪が上空を支配していた。
スコルピウスの隊がばら撒いたチャフが、風に乗って敵飛空要塞(イスラ)の真後ろについていたアンタレスに降り注いでいたのだ。
これではレーダーはゴーストだらけで役に立たず、相互通信もできない。たとえ発見できたとしても伝えられなかっただろう。
なんて事だ、まさかこの作戦が裏目に出てしまうとは思わなかった。奴らの通信網を破壊するためのものだったが、何故だか全く効果がなく、それどころか自分で自分達の首を絞めてしまう結果に陥るとは。
そして、あの超巨大飛空機の正体。
あの時、潜空艦から送られてきた巨大な異形。その正体は……
──聖アルディスタの来賓!!
ファウロスは思った。とっさの判断で紙吹雪に隠れてわざわざここにまでやってきた。そのことに遥かなる巧妙さを感じる。というか、そもそもあんな飛空機が本当に下段の奴らの味方をしているとは思いもしなかった。
事前の情報が、全て無に帰った瞬間であった。
「艦隊に旗艦を除く戦艦2隻にに迎撃を!直掩の戦空機隊も駆けつけさせるんだ!」
「了解!!」
ファウロスはそう言って艦隊に命令した。アンタレスの後方には、戦艦3隻の強力な戦闘艦たちが勢揃いしている。
さらには空母まで抱えている。艦載機は爆弾装備を積んだ直掩機達である。すでに飛び上がっていた彼らは勇敢にも異形に向かっていく。今回の空母はキルキス級とは違い、戦空機だけでなく爆撃機や雷撃機まで積んでいる改キルキス級という空母だ。
彼らの艦載機はアンタレスの滑走路から離陸した機体たちと合流し、完全なる戦爆連合を形作る。三式イドラの戦空機隊は機銃で猛勇にも敵を落とさんとし、アクタイオン急降下爆撃隊は腹に抱えた爆弾をデカブツに叩き落とす。
後方では、アンタレスの上空で戦艦部隊が回頭しその揚力装置を轟かせた。2隻の超弩級戦艦サラミス級。残りの一隻は艦隊の旗艦、その後方で待機させて弾着を見守り空母を守る。
サラミス級はその46センチにもなる巨大な主砲塔をアイガイオンへと向ける。三連装九問、それが2隻にもなる。これに耐えられない戦艦はおそらくいない。
ファウロスはこれで安堵した、いくらデカくても、急降下爆撃に対処できる空飛ぶデカブツなど存在しない。さらには戦艦部隊もいる。サラミス級戦艦の46センチ砲に耐え切れる飛空機はいない。
これであのデカブツだって簡単に仕留められる。そう、思っていた。
「?」
途端、超巨大飛空機の背面から一斉に何かが吹き出した。まるでそれは空を飛ぶ巨大な白鯨が、潮を吹いているかのような、そんな光景だった。
「あれは……?」
その潮が、なんと白い尾を引きながらこちらに向かって進路を変えた。いや、これは違う。途端にそれは進路を変え、上空の戦艦の方へ向かっていった。
あれは我々を狙っているのでなく、戦艦を狙ったものだ。何が起こるのかはわからない。白い尾を引いていることから、おそらくは空雷によるものなのかもしれない。
それを確認し、即座に戦艦たちに警告を出そうとするが……
刹那──
──空が燃えた。
「ぐわっ!!」
ファウロスはその燃えた空の光に思わず目を瞑った。司令部の大きな窓から見える空が、太陽のような光で夜空を切り裂いたからだ。
同時に何千もの高温の鉄球が空賊艦隊を襲いかかる。爆風と鉄球達が飛空要塞の地表面を粉々に穴だらけにする。
ファウロスが目を見開けば、その地獄の業火が垣間見えた。まさに地獄、空が燃え盛り、地に火球が降り注ぎ、空は爆ぜて燃え盛っていた。
「ば……馬鹿な……」
そして、虎の子の戦艦たちはただでは済まなかった。アンタレス上空の湖に陣取っていた戦艦は、巨大飛空機との距離が30キロも離れているのにもかかわらず、空雷が殺到していった。
戦艦は業火に焼かれた。
2隻のすぐ近くで破裂が起こる。さすれば巨大な熱が戦艦の装甲をえぐり、火球が殺到していった。熱で溶けた装甲に火球の鉄の玉が殺到していった。燃え盛る炎、その中では戦艦の鋼鉄の装甲は柔らかくなり意味をなさない。
被害はすぐさま弾薬庫にまで達した。一隻は前方の二門の砲塔のバイタルパートで火球が炸裂、弾薬庫に誘爆して巨大な爆発を起こした。そうして爆発は艦全体にまで行き渡り、バラバラになってアンタレスの地表面を墜落していく。
もう一隻は悲惨だった。分厚い胴体に命中したものの、火球が炸裂するのがほぼゼロ距離だった。艦橋は灼け爛れ、対空砲は蒸発、船体に大穴が開いてそこから構造が歪んでいった。揚力装置が唸りを上げる、船体が揚力を生み出せなくなったのだ。その戦艦は艦首から重力に逆らう事なく朽ちていった。しかも、落ちた先はアンタレスの居住区画。悲惨なことが起こるのは言うまでもない。
アンタレスの上空に陣取っていた2隻はほとんど壊滅、破片や船体を撒き散らしながらアンタレスへと墜ちていったのだ。
たったの数発の空雷ごときに。
「敵戦艦、撃沈を確認!!」
その言葉に歓喜が沸くような轟がアイガイオンのコックピットを支配した。敵の戦艦は2隻は赤く焼けただれ、燃え盛る炎に焼かれて沈んでいっている。これをみて歓喜を上げないものなどいないであろう。
この世界は航空戦力として多大な火力を誇る飛空戦艦。それを2隻も撃沈してみせたのだ。喜ばない方がおかしい。
「司令」
「うむ」
マカロフ司令は次の指示を出そうとマイクを取る。
「作戦中の全機に告ぐ、敵飛空要塞への攻撃を開始せよ」
マカロフ大佐は自ら戦端の火蓋を切って落とした。全機、と言うのは当然アイガイオン達も含まれている。今からイスラへ攻撃を加えているこの飛空要塞を叩き、占領するのだ。
作戦はこうだ。
まずイスラ上空を通りながら航空支援を行う。そして、そのままイスラ南側へと突き進み、イスラへ攻撃を加えようとしている敵飛空要塞に対して打撃を与え、注意をイスラからこの敵飛空要塞へと向けさせる。
攻撃はまず爆装をしたシュトリゴン隊が脅威となる要塞砲を排除。アイガイオンが妨害紙吹雪を抜けてレーダー探知ができるようになってからは、ニンバスを用いて一気に敵戦闘艦群を撃滅する流れだ。
そのあとは、要塞を追いかけながらいくらでも調理できる。
この作戦は、イスラ上空に妨害用の紙吹雪が舞っていた事を逆手に取った作戦だ。奴らはイスラが連絡がつかないようにと妨害機を送り込んでいたが、結果としてその紙吹雪は空を舞ったまま後方の敵飛空要塞へと降り注いでしまっている。
つまりこの紙吹雪の上を通っていけば、敵のレーダーサイトにも発見される事なく巨大なアイガイオンを向かわせることができるという事だ。敵の作戦を逆手に取った、実に巧妙な作戦だと自負している。
そして、まさかニンバスで戦艦を仕留められるとは。マカロフ大佐はニンバスのこの世界での攻撃力には不安があった。装甲の分厚い飛空戦艦にはニンバスは通用しないのではないかと。しかし、その不安は杞憂で終わったのはいい事だ。敵にとっては悪夢だが、ニンバスは無慈悲にも戦艦達を真っ二つに仕上げて墜とした。
「敵急降下爆撃機、接近!」
しかし、ニンバスはそうそう乱用はできない代物になってしまっていた。異世界に来ているため、技術的な問題でニンバスの補給は困難になっている。
アイガイオンに艦内工場などという便利なひみつ道具はない。補給ができない上は、節約するしか方法はない。
そのため目標は敵戦艦に絞って打ち込んでいた。急降下爆撃機などにはニンバスで対処していない。自分の力で迎撃をするしか方法はない。
「対空戦闘始め!」
「対空戦闘!全艦シースパロー発射!」
「シースパロー発射始め!サルボー!!」
海軍譲りの掛け声で始まる対空戦闘。海軍所属のアイガイオンに搭載されたシースパローおよび各種対空ミサイルたちが迎撃の火を吹き上げる。
キュゲス二機、そしてアイガイオンの三機の背中から噴火のごときほとばしるミサイル群。側から見れば、クジラが潮を吹いているかのように見えたであろう。
<<な、なんだ!>>
<<デカブツから空雷が……!、こっちに向かってくる!!>>
短距離の対空ミサイルは誘導アンテナの数の関係上、そう多くは打ち込めない。あくまで艦隊防空用の装備だ。数発、片手で数えるくらいの数の短距離ミサイルが空賊機へと向かっていく。
「インターセプト5秒前……」
<<回避行動!!>>
<<ダメだ、食らいついてくる!>>
<<しかも素早い!振り切れん!>>
空賊爆撃機は一心不乱に上昇し、ラダーを使って左右運動。なんとか光の矢を回避しようとてもがいている。
「4……3……2……1……マーク・インターセプト」
そんな空賊たちの頑張りを、無駄にするかのような無慈悲な鉄槌。炸裂したミサイルは敵の水素ガス発生機のわずかなガスに引火。無慈悲に全てが爆散し、粉々になって散ってゆく。
<<やられた!落ちる!!>>
<<なんなんだあれは!?空雷が追ってきているぞ!>>
戸惑いをあらわにする空賊たち。フレアも妨害装置も持っていないレシプロ戦闘機はミサイルを回避するすべなど全く持つっていない。あとは無慈悲に一方的にやられるだけである。無数のミサイル煙が夜空を彩り、散ってゆく戦闘機たちの手向けとなる。
<<怯むな!このまま突っ込んで敵に打撃を与えるぞ!>>
しかし、ミサイルの特性上そこまでの数を打ち減らすことはできなかった。四割割ほどの敵を殲滅することしかできず、敵はまだ撤退していない。
「敵爆撃機残り28、アイガイオンに向かって突入してきます」
「敵機上昇、急降下爆撃機の体制にあります」
急降下爆撃、それは空飛ぶデカブツにとっては一番の脅威となる。通常地表や洋上の敵などに対して命中率を上げるために行う急降下爆撃というのは、地面または海面ギリギリで引き起こす必要がある。そのため通常は800、うまい奴でも400メートルあたりからしたら投下できない。
しかし、目標物が空を飛んでいるなら爆撃機は爆弾を落とした後に引き起こす必要はない。そのまま飛んでいる鯨の脇をすり抜けて通り抜ければいいのだ。そのためかなり近い場所から投下することになる。
これは、オズワルド大佐から教えてもらった脅威だった。しかし、マカロフ大佐はその対策案を思いついていた。
「全機!フォーメーション・デルタを発動!!」
「了解!全機、フォーメーション・デルタに移行せよ!!」
その途端、アイガイオンの取り巻きであるコットスとキュゲス達が、一斉にアイガイオンの周りに集まり始めた。アイガイオンより高度を取り、三角の陣形をアイガイオンに重ね合わせるかのようにフォーメーションを変える。
その時、高度を限界まで上げた敵が一気に失速を利用してターンしてきた。スイングバイの要領で急降下爆撃を敢行してくる敵爆撃機達。速度を緩める必要がないためダイブブレーキも詰めずに、アイガイオンに対して上から反航するように急降下を仕掛けてくる。
「敵機、急降下!」
「全艦対空射撃始め!!」
ウィィィン!!
ドルルルルルルルル!!
途端、アイガイオン、コットス、キュゲス達全ての対空砲火が火を吹き始めた。火山の噴火もかくやと言わんばかりの集中弾幕。五機に搭載されている全ての対空機銃達が弾幕を張り続ける。コールチクも、AK630も全てが炎を吹き出す。
<<なんなんだ、これは!?>>
<<弾幕が激しすぎる!!>>
慌てる空賊達の悲鳴。あまりの弾幕の密度に次々と火を吹き上げる。コールチクもAK630も口径は30ミリ、そんな大口径の弾幕を喰らえばレシプロ戦闘機の防弾装備などひとたまりもなかった。
<<くそっ!食らいやがれジンベイザメめ!!>>
しかし、運良く弾幕をすり抜けてきた数機の急降下爆撃機が、そのまま爆弾を落としてきた。弾幕は瞬時に無誘導爆弾に向けて目標を切り替える。凄まじい、熾烈な火山の花火により、次々と落とされてゆく。同時に流れ弾が、すり抜けようとした空賊爆撃機に命中し全滅した。
しかし、爆弾の中の一つが弾幕をすり抜けてアイガイオン命中コースを辿って殺到してきた。
1発は命中する。
そう思った矢先だった。
甲板から一つの対空戦車が飛び出してきた。戦車と一目でわかる車体。しかしかの戦車には野太い砲塔が存在しない。代わりに、ずんぐりとした丸い砲塔の両側に飛び出すかの二つの棒。それらを宙へ向けると、最後の弾幕を解き放った。
ダダダダダダダダダダダ!!!
コールチクやAKよらは密度は小さい。しかし、それでもこの爆弾を撃ち落とすのは容易だった。
ドカン!と爆発する残りの爆弾。彩りのない花火は、アイガイオンの甲板上空百メートルで爆散し甲板をわずかに熱した。その中で、佇むような自走対空砲ゲパルトは勝ち誇ったかのように空を見据える。
「全ての脅威を排除!」
「よくやった。新戦術がうまくいったな」
アイガイオンが急降下爆撃対策として編み出した新戦術。フォーメーション・デルタ。
避けることのできない急降下爆撃に対抗するには、弾幕の密度を上げて対抗するしか方法はないと判断された。そのため、弾幕の密度を効率よく上げるためにコットス、キュゲスをアイガイオンと接触するギリギリにまで近づき、弾幕を密集させるのだ。
さらに、それでも足りない場合はアイガイオンの甲板にゲパルト対空戦車を配備する。最後の最後で通り抜けてきた敵爆撃機をミサイル、フォーメーション・デルタ、ゲパルト対空戦車の三段階で迎え撃つのだ。この効力は十分に発揮された。
あとは、この要塞をどういたぶるかだ。
「対空陣地、被害甚大!」
「散弾が次々と地表面に命中!各部署から甚大な被害が出ています!」
「バカな……」
ファウロスは困惑している。いや、混乱もしている。彼の頭の中では常識と現実がドックファイトを起こして散っていく。
(なんなんだ、今のあれは!?あの兵器は!?たかだか空雷数発で戦艦が真っ二つだなんて、ありえるはずはない!)
ファウロスは、その光景が信じられずに苛立ちをあらわにする。たかが空雷が空を焦がすほど燃え盛り、それで戦艦や戦空機隊たちが全滅するなどあり得ない。
しかし、現にそれができてしまっている。そのことが飲み込めない。これは夢なのか?いや、これは少なくとも悪夢だ、そうに違いないと現実逃避をしたかった。
もはや、戦空機隊も全滅、戦艦も全滅。奴を撃ち落とすには直接対空砲を撃つしかない。
「くそっ!対空砲、奴らを撃ち落とせ!!」
ファウロスの号令とともに、島に取り付けられた対空砲達が一斉に火を吹き始めた。37ミリ、88ミリの対空砲達はアイガイオン目掛けて殺到していく。空に、花火達が散る。散りばめられた破片がアイガイオンの装甲を突く。
だが、それでもこの悪夢のような現実から逃れることはできない。彼らはなんともしていない。いや、なんとも傷すら付いていない。
「た、対空砲!効果なし!」
それもそのはず。アイガイオンの胴体から翼に至るまでには、対空砲対策として厚さ100ミリ〜200ミリを超えるバイタルパートが設けられていた。これは彼らの世界の巡洋戦艦に匹敵する。37ミリや88ミリ程度では貫くこともできない。
「バカな……」
「あ、あれは戦艦並みの装甲を有しているのか……!」
彼らの目には絶望が写っていた。対空砲すら物ともせず、一斉に五機が突き進んでいく。島の要塞砲はもうすでに射角外、奴らを撃滅する手段はもうすでに失われ始めていた。
「司令!観測所より伝令です!敵の戦空機が巨大飛空機より発艦!上空を制圧しています!」
「なに!?」
相互通信が使えないため、わざわざ伝令がバイクで走ってきた。バカな、あれほど巨大だとはいえ、飛空機から戦空機が飛び立つだと?ファウロスはその信じられない報告に思わず目を見開いた。
それらはアイガイオンから飛び立ったシュトリゴン隊であった。イスラに6機を制空戦闘に残し、その間に残りのシュトリゴン隊で飛空要塞に攻撃を仕掛けていた。最初に要塞砲を潰したのも彼らである。
そして、ファウロスへの更に凶報は続く。
「さらに敵の浮島から飛び立ったと思われる爆撃機隊150機がアンタレスに殺到中です!!」
「な……」
それらはイスラから飛び立った弾薬と電池を満杯にまで積んだイスラ空挺騎士団爆撃機隊であった。ラガルティアたちが空賊の奇襲部隊たちを迎撃している間に強行突破に近い形でアンタレスに向かってきたのだ。護衛はシュトリゴン隊に任せている。
完全な奇襲だった、奴らの飛空機は紙吹雪に紛れ込み、もうすでにアンタレスの上空に殺到していた。そのままこの基地を爆撃せんとその腹に抱えた爆弾どもをこのアンタレスに落とそうとしている。
「くっ、せめてあの巨大飛空機から逃れるぞ!島を取舵に、すれ違いざまに攻撃を避けるぞ!」
「了解です!全区画、取舵準備!」
ファウロスは取舵を指示し、すれ違いざまに攻撃を避け、一旦逃げる姿勢を取り始めた。しかし、全長40キロの巨大な飛行物はそう簡単には曲がれない。
戦艦が速度は出でも小回りがきかないように、重く重鈍な飛空要塞は90度曲がるだけで数分かかる。
しかも、要塞の地表面には湖をはじめとした軍事施設などが密集している。中の乗員ごと急には曲がることができず、曲がる角度も5度にまで制限されていた。
「急げ!要塞が10度傾いてもいい!全速で方向転換しろ!」
ガタガタと要塞が傾き、あっという間に10度も傾く。普通なら考えられていない、想定されている機動の2倍の傾きのため、各部署から悲鳴が上がる。
司令所の机が傾き、湖の水が傾いて防波堤を乗り越えて施設に覆いかぶさり始める。だが、それでも奴らは進路をほぼ変えずに直進してくる。
「敵爆撃機隊!降下中!……!?5機速いのがいるそうです!」
対空陣地めがけて突撃してくる敵爆撃機隊、その中にひときわ早く突撃してくる機体があった。そう、爆撃機隊の中にシュトリゴン隊がいたのだ。
すぐさま対空砲達がそれ目掛けて対空砲の弾幕を張り始める。だが、それはあまりに速かった。それも、上空8000メートルからマッハを超える速度で突っ込んできたのだ。目測でもマッハは超えている。対空砲の要員達が身を見開く中、驚愕の表情はそのまま死に顔となる。
ドッカーン!!!
最初に爆散したのは彼らの進路上から少し離れていたはずの対空陣地だった。その後も暴力は降り注ぎ、対空砲の努力むなしく次々と対空砲達が爆散していく。
その速い機体はすぐさま機首を上げてアンタレスとの衝突を避けた。機体が司令部の真上を通過し、窓ガラスを揺らした。
ファウロスはその後の様子を、ただ見ているしかできなかった。奴らの爆撃機隊が飛空要塞の上を通過すれば、その下にある対空砲達が沈黙して行く。
山などの起伏の激しい地形の少ないアンタレス。その中で司令部は小さな丘に面していて、その光景が一望できてしまうのだ。その様子に、司令部の人間達は息を飲んだ。
「奴ら、対空陣地を潰すつもりだぞ!」
士官の一人が思わず叫んだ。
奴らはこのアンタレスに痛手を負わせるため、まず手始めに対空陣地を破壊し尽くすつもりだった。正確かつ、精密な爆撃だ。
「くそっ!舵を取り続けろ!速度を上げて振り切るぞ!」
そう言っている間にも、敵超巨大飛空機はずんずんと我が物顔でアンタレスの上空を通過して行った。
奴らが通れば耳を切り裂くような轟音が鳴り響き、視界いっぱいに巨大な翼が目を支配する。それはまるで、空飛ぶ白鯨のような威圧感を覚える。
「要塞が90度回頭しました!」
「よし、このまま逃げ切るぞ!!」
要塞はイスラからみて90度曲がりきり、そのまま逃げの体制に入った。
逃げる。空賊には撤退の二文字は存在しない、これは立派な敵前逃亡も同然だ。バシレウスにバレたらどうなるものやら。
しかし、ファウロスは直感でわかっていた。飛空機編隊を壊滅させ、戦艦まで一撃で撃沈するあの巨大飛空機には絶対に勝てない。ファウロスの判断はそれにばっかり注目していた。
しかし、運命の女神は彼らを見放していた。
奴らの巨大飛空機がなんとそのままアンタレスめがけて左に回頭し始めたではないか。しかも、その進路にはアンタレスが捉えられている。
つまり、反復攻撃を仕掛けるつもりだった。
「観測所より連絡!敵超巨大飛空機が回頭し終わりました!こっちに向かってきます!」
「なんだと!早すぎる!」
敵の巨大飛空機は1キロもの翼を持つのに、アンタレスよりも早く曲がれると言うのか!?ありえないとファウロスは思った。まさか、そんなに機動性が良いのかと。
「敵超巨大飛空機が接近してきます!」
ファウロスは司令部の窓から奴を垣間見た。巨大な異形、飛空機とはもはや思えないほどの白鯨は、このアンタレスの上空を悠々と通過しようとしていた。まるで、懸命に奮闘をする我々をあざ笑っているかのように。
ファウロスは歯ぎしりをした。自分たちが手も足も出ずにただただ蹂躙されていくしかないこの光景に、歯ぎしりが止まらない。やはり奴らには、来賓達には我々では叶わないのか。
そして、悩むファウロスに極め付けの凶報が流れ後できた。
「!?、敵の新手です!巨大飛空機から飛空艇サイズの艦載機が20機、上がっていきます!」
それは敵の強襲降下部隊であった。
機種の違う大型の機体がこちらへ向かって降下していっている。飛空要塞は沈むことのない空軍戦力だ。そのため奴らはこの飛空要塞を無力化するために、地上戦を仕掛けて占領するつもりであったのだ。
「なんだと……迎撃急がせろ!」
「そ、それが……敵の爆撃と謎の空雷攻撃により対空火器に深刻な被害が出てしまっています……要塞砲もほとんどが沈黙……対処できません……」
ファウロスは部下に命じるが、帰ってきたのはこのアンタレスの防空設備が最早機能していないという現実であった。
「な!?……く……くそっ!」
ファウロスは思わず近くの机を叩いた、普段は冷静な彼が絶対に見せない光景であった。
「小銃でもなんでもいいから上に向けろ!敵を押さえつけるんだ!」
敵飛空要塞上空4千メートル。空に散りばめられた星屑は、雲の合間を縫って光り輝き、地表面へと降り注ぐ。
シュトリゴン2ことダリオ少佐のフランカーにとっては造作もない高度だ。フランカーの後続には、イスラ空挺騎士団の爆攻連合が張り付いている。ここまで来るのに何機か被弾を食らってしまっているが、シュトリゴン隊の活躍で敵機を追い払った。
幸いにも、アイガイオンと同じく敵の撹乱の紙吹雪によって途中の艦隊に発見されることはなかった。そのおかげでこうして堂々と敵の飛行要塞の上を飛行している。
「相変わらず壮観だな……」
イスラで見慣れていた光景だったはずだが、こうしてみると要塞は手に余るほど巨大だ。イスラと比べると細長い地形をしているが、湖があるので陸地の面積はイスラより小さいだろう。
と、その湖のほとり。港のような湾岸施設らしきものをダリオ少佐は見つけた。空のドックに湖に隣接した桟橋、巨大なクレーン。おそらく敵の飛空艦を整備補給するための場所になるのだろう。
その湾岸施設に隣接して飛空場のようなものも見えた。滑走路はかなり長めだ、コンクリートで補強されていてフランカーどころかジャンボジェット機でも着地できそうである。
その隣接した二つの施設の間に、いくつかポツンポツンと膨れ上がった建物が見えた。モグラが掘った穴の入り口のように膨れ上がっている。
「あれは……燃料タンクか?」
飛行機乗りの直感からそう判断した。よく大きめの飛行場などに隣接している燃料貯蔵庫だろう。膨れ上がったタンクの中に、山盛りの燃料を貯蔵できる仕組みだ。
<<こちらでも確認した、おそらく貯水タンクだろう>>
マカロフ大佐の答えがそっと通信越しに聞こえる。
「ちょうどいいですね、イスラは今喉が渇いている。占拠したのちに手土産にしましょう」
この世界では飛行機は海水から水素電池を通して電気を作り、その電力で空を飛ぶという。流石に水と電気ではジェットエンジンは動かせないが、イスラにとってあの量の水は水不足からくる電力不足の解消となる。
<<その意見に肯定だ。全機、タンクへの攻撃は禁止とする>>
<<了解>>
そんな言葉とともに、シュトリゴン隊は戦闘準備に突入する。ここまでは順調、敵の裏の裏をかいて強行突入。アイガイオンの作戦勝ちだった。
途端、後部の甲板を埋め尽くさんばかりの羽虫が格納庫から挙げられて行く。中に乗っているのはアイガイオンの空挺部隊。上空から見れば小さな戦士だが、地上に降りれば勇敢な勇者となるであろう。そして、輸送ヘリはアイガイオンから次々とヘリコプターが発艦して行く。
<<お前達はなんだ!飛ばなければ価値のない連中だ!>>
空挺部隊を乗せたヘリコプターたち。その羽音すらも遮るような空挺隊司令官の怒号が通信に響き渡る。
<<勇気のない奴は置いていく!>>
勇気のないやつは置いていく。どうやらこれは、彼らの士気を高めるための彼らなりの伝統号令らしい。彼らにとってはこの世界での初の任務、気合が入るのはわかる。
<<悔しかったら食らいつけ!しがみつけ!わかったな!よし、行け!>>
そう言って彼らは次々と、群れをなして飛ぶオスプレイやMI-26から飛び降りて行く。オスプレイなどは対空砲を警戒して彼らを下ろしたのちにアイガイオンに戻る。そのため彼らはヘリから空挺降下で一気に降下していく。
オスプレイは25人乗りで、一部の機体には車が吊るされて戦地に運ばれ行く。彼らは着地をして拠点を確保するつもりだった。一方で、MI-26というユークトバニア製の100人乗り輸送ヘリからは、缶からこぼれ落ちるキャンディーのように彼ら空挺部隊が次々と降下していった。
<<行け!行け!行け!>>
<<俺たちはナンバーワン!>>
<<続け!どんどん行け!迷うな!止まるな!!>>
「……勇気だけが奴らの取り柄だな」
空を飛んで地上兵を支援することになっているダリオ少佐は、勇気だけが取り柄の彼らに呆れるしかなかった。
パラシュートを背負って飛空要塞から千メートル上からの空挺降下、すぐさまパラシュートを開いて着地して行く。その勇気は空を飛ぶパイロットの彼にはわかりづらい。
後部ハッチが開く。こぼれ落ちたキャンディー、空を舞うクラゲのようなその一団は、飛空要塞を占拠せんと殺到していく。
<<落下傘部隊だ!!>>
空賊の誰が、そう叫んだ。悲鳴のようなその叫びは周りの兵士たちへと広がり、動揺を運ぶ。
彼らは地上に降り立つと、すぐさま自動小銃を手に取りパラシュートを切り離し、遮蔽物に隠れて戦闘に入る。空賊の兵士が、彼らに銃撃を浴びせる。ダダダ、というアサルトライフルの銃撃音だった。
<<コンタクト!>>
着地したてで地表の様子がわからないのにもかかわらず、彼らは落ち着いた様子でお互いをカバーし始めた。
<<撃てっ!>>
空挺部隊が地面に伏せ、G36を構えて射撃を開始する。彼らは暗い暗い夜闇の中でも敵が見えているかのような正確無慈悲な射撃をしてきた。
ダダダ、ダダダダ。その数発のバースト射撃により空賊の兵士達は次々と倒れ、自動小銃の前にひれ伏していった。
彼は空挺部隊には、ストレンジリアル世界にて最新式に近い暗視装置が支給されていた。それを装備した彼らは互いに連携しあって、最小限の攻撃で空賊兵たちを蹴散らしていった。エストバキアの中でもアイガイオンに搭乗できる乗組員だ。エストバキア空挺部隊の中でも選りすぐりのエリートが集められている。
G36の5.56mm弾は容赦なく空賊兵たちの体を貫き、一気に致命傷を与える。対して、奴らの7.92mm弾は威力はあるものの、夜の暗闇ではなかなか当てることができない。
加えてここは林の中、奴らの軽機関銃や突撃銃より銃身が短いG36の方が取り回しが良い。
イスラの時とは逆に、空賊たちは装備でも練度でも空中艦隊に劣っていた。
<<撃て撃て!奴らにアンタレスの土を踏んだことを後悔させてやれ!!>>
だがそれでも、空賊たちは応戦しながら彼らにアンタレスを占拠されぬように必死で抵抗する。
<<喰らえ!手榴弾!>>
空賊兵が空挺部隊めがけて手榴弾を投げ込んだ。
<<グレネード!避けろ!>>
空挺部隊はグレネードの音が転がるのを見ると、地面を転がりながら逃げ込んだ。グレネードが爆発し、煙と爆発が立つ。
<<大丈夫か!?>>
<<負傷者なし!いけます!!>>
練度が高い彼らは見事にグレネードの爆風を避けており、空挺部隊には被害が存在がなかった。
彼ら空賊たちもなかなかしぶとい。銃撃を浴びせながら、まるで死ぬのが怖くないと言わんばかりに無理やり木などの遮蔽物を使って前進して降下部隊を囲もうとしている。
と、そこへ彼らの奮闘を崩す者が現れた。
ドシン……
飛空要塞の地表面に、無理やり着地したそれらは彼らを絶望させるには十分だった。
<<!?、せ、戦車だ!!>>
ずんぐりとした車体、最早車とは思えないくらいの暴力的なキャタピラ、砲塔から突き出た長すぎる主砲。鉄の像のごときそれは紛れもなくアイガイオンに積んであったエストバキアの主力戦車であった。
<<デカすぎる……なんなんだあれは!?>>
<<重戦車が空挺降下だと!?>>
ベルカから輸入された主力戦車レオパルド2が、パラシュートとともにゆっくりと降下して着地していったのだ。
<<砲手!!茂みの機関銃陣地に隠れた空賊どもを狙え!!>>
レオパルド2戦車の主砲が回転。電動式の砲塔が彼らに牙を剥こうとする。こちらの世界の重戦車よりもさらに巨大なその主砲は驚くべき速さで回り込み、大口径の主砲は空賊たちを捉える。
<<てぇっ!!>>
照準を合わせるなり、砲手がそのトリガーを引いた。
ドーン!!!
この世界の重戦車の手法を遥かに超す口径の44口径120mm滑腔砲が、その鼻から轟く炎を吹き出した。120mmの榴弾は、まっすぐ機関銃の陣地に突き刺さり、その炸薬を轟かせた。
<<よし、このまま歩兵部隊とともに前進!!>>
<<GO!GO!GO!>>
レオパルド2が20両。それぞれ小隊を組み、随伴歩兵とともに前進して行く。
実はレオパルド2は空挺降下を想定して作られてはいない。そのため作戦地域への空挺輸送には輸送機が本来ならば必要であった。
ところが、アイガイオンにはこれを覆す装備が存在した。
多目的車両空挺降下システム
戦車などの車体の下に分厚い座敷のような金属製の板を挟み、間に衝撃緩和用のクッションを挟んで車両を固定。そこに四つのパラシュートをつけて降下する仕組みだ。
装置は車体サイズに限らずに装着でき、戦車の重さにも耐えられる。これを使えば主力戦車であろうと空挺降下で降りることができる。
もともとベルカで発明され、現在ではストレンジリアル世界各国で使われている。もちろん、ベルカの恩恵が大きい空中艦隊でもだ。
さらに後方に空挺戦闘車BMD-4が8両降下してきて、その強力な機関砲を容赦なく放つ。
その素早い動きに、対空砲をほぼ潰されてしまっていた地上の兵士たちは対応が遅れ、島の先端にある陣地は全て瞬く間に占領されてしまっていた。
<<第一区画、通信途絶!占領された模様!!>>
<<第二区画から第三区画は迎撃中!敵の戦車に追い込まれています!>>
<<第ニ、第三区画に全戦力を集めろ!残りの区画は陣地の防衛態勢を整えるんだ!>>
アンタレスの主戦場は、空から要塞の陸上へと変わっていた。あの巨大飛空機は何処へと消えた。が、代わりに奴らが残していった地上部隊と、それを支援する戦空機達に翻弄されている。
アンタレスにはかなりの数の地上兵士も揃えてある。しかも、敵の飛空要塞に対する強襲も考えられているため相当数の兵士がいる。
しかし、それらの陸戦部隊でも奴らの空挺部隊に全く歯が立たない。それどころか、拠点まで作られて本気で制圧しようとしている。
アイガイオン空挺部隊は圧倒的だった。
<<地上部隊より支援要請だ。目標、ポイント○○の敵トーチカ>>
<<我々がやる!全員、イスラ空挺騎士団の意地を見せてやれ!!>>
途端、敵飛空要塞を取り囲むように飛んでいたイスラ汎用爆撃機たちが一斉に降下していった。編隊を乱すことなく、緩い降下。腹に抱えた爆弾たちを投下する。
<<彼らもなかなかやりますね>>
「ああ、空賊に一矢報いることができて士気も上がっている」
上空で騎士団の護衛を行なっているダリオ少佐たちは、彼らの奮闘に敬意を表するしかなかった。シュトリゴン隊も対地装備を固めているものの、空戦を重視してそこまで多くは積んでいない。
代わりに対地攻撃を行うのはイスラ空挺騎士団だった。今まで、特に先ほどの空賊の囮艦隊の時はシュトリゴン隊に戦果を全て取られてしまっていた鬱憤を晴らすように、猛禽類のような突撃を敵飛空要塞に敢行する。
<<シュトリゴン隊、要塞南側にて敵戦闘機群が固まっている。制空権確保のため、ゴミ掃除を頼んだ>>
「了解、掃除夫シュトリゴン隊。現場に向かいます」
軽口を叩き、士気を保つシュトリゴン隊。
敵な戦闘機隊は、アイガイオンに急降下爆撃きを落とされた事によって完全にアイガイオンたちを警戒している。こちらへの機会をうかがっているのか、それともチャンスを見計らっているのか突撃してこなかった。
そんな哀れな敵機隊に向かってシュトリゴン隊は突撃して行く。
<<来たぞ!敵が突風みたく突っ込んでくる!!>>
<<迎撃しろ!我らが制空権の最後の希望だ!>>
シュトリゴン隊よりも上から突入してくる敵戦闘機隊、空の支配者の座を奪われぬように奮闘する30機の戦闘機たち。
しかし、シュトリゴン隊はそんな勇敢な彼らに全く容赦をしない。武装からサイドワインダーを選択。コンテナが敵戦闘機とぴったりと重なる。後の結果は丸わかりだ。
「シュトリゴン2、FOX2」
バシュ!とともに両翼から発射されるサイドワインダー。絶対に獲物は逃がさない。魔術師の槍は、ミサイルがなんたるかを知らない空賊飛空士たちへと襲いかかる。
<<な!?またあの空雷だ!避けろ!!>>
敵の恐怖や願いなど聞きもしないミサイルたちが殺到して行く。戸惑いながら、回避行動に移る飛空士たち。あの空雷がどんなものかはさっき嫌という程知ったからだ。
破裂するサイドワインダー。
近接信管によって適切な距離で発破したミサイルは、空賊単座戦空機の機体を無に帰す。
<<隊長機がやられた!!>>
<<なんなんだよこいつら!!>>
混乱が空賊部隊を支配して行く。シュトリゴン隊は爆弾を積んだままでも、ある程度の戦闘機動をこなせる。それも、こちらが高速を出せば、旋回率でレシプロ機相手と互角。
悲惨なヘッドオンの後、シュトリゴンと敵編隊はともに上昇する。こちらはインメルマンターンの要領で上昇のエネルギーを失わせない。相手は効果の勢いそのまま、急上昇をして腹を見せている。
敵はこの機動の方が、運動エネルギーを失わないと思っているのだろう。しかし、その代償としてその機体の背を見せており、被弾面積が上がっている。
「FOX3」
容赦なく機銃の引き金を引いた。30ミリの機関砲が唸りを上げ、毎分1200発の大口径が殺到する。左翼に被弾したかの機体は、ハチの巣になって粉微塵に粉砕された。敵機は肩翼を失い、錐揉みをしながら回転して墜ちて行く。
<<第二区画との連絡途絶!敵が第三区画に流れ込んできます!>>
アイガイオン空挺部隊が敵の右岸にある区画を占拠、いい作戦だ。指揮官はまったく地形のわからない場所でも柔軟に対応することのできる優秀な指揮官のようだ。これにより、その左岸にある第三区画は第一区画と第二区画に挟み撃ちに合わせられる。
<<第三区画は順次撤退!残りの区画防衛に勤めろ!>>
片側の区画を占拠して、もう一方の区画とすでに占拠した先端側の区画と挟み撃ちにして効果的に殲滅する。装備に勝る奴らだからこそできる殲滅戦だった。
<<だ……第三区画通信途絶……>>
<<くそっ!>>
どんどんアイガイオン側に有利となる戦況。もはや、勝利の女神は空賊には見向きもしていなかった。
「戦空機隊全滅!!」
戦況は最悪。もはや、アンタレスは基地としてどころか施設としても機能していない。このアンタレスが占拠されるのも時間の問題だろう。
そうなれば、ウラノス史上初めて飛空要塞を奪われた愚かなる無能として裁かれることになるだろう。
「司令、このままでは要塞は占拠されてしまいます!司令は脱出を!」
「な!?脱出だと!?」
ファウロスはその提案に目を見開く。それは無理だ。なぜならたとえ脱出しても飛空要塞を失うという大失態を犯した司令官をウラノス上層部たち、特にバシレウスが許すはずがない。まんまと逃げ延びても文字通り終わりだ。
「正当なるウラノス人が敵を目の前にしておめおめと脱出するなどなるものか!私に売国奴になれとでもいうのか!?」
「しかし司令!このままではアンタレスは全滅します!司令さえ生きてさえいれば、汚名を拭うチャンスはいくらでも訪れます!
ここは今一度脱出を……」
ファウロスは言葉が詰まる。副司令の説得に、彼はうなだれてしまった。たしかに、このままでは奴らにこの飛空要塞を占拠されてしまうことは確実だろう。そうなれば、司令官である自分だけでなく、手土産の研究をしている研究者達も奪われることになり、大きな損失だ。
せめて、彼らや自分たちだけでも脱出できれば、汚名を挽回することだってできるはずだ。そう、考え直した。
「くっ……わかった……遺憾だが、このアンタレスを現時点をもって放棄する」
「わかりました。地下ドックに潜空艦が2隻あります、それをお使いください」
「わかった、ありがとう。それから潜空艦には手土産を研究していた研究者も載せろ、手土産の研究成果だけは逃せん」
「はっ!了解です!」
ファウロスはそう言って数人の部下とともに司令部を後にしようとする。が、振り返れば副司令がその中に入っていないのに気がついた。見れば、彼が指揮を引き継いで各部署に命令を出している。
ファウロスはドアの前で立ち往生し、副司令を呼び止める。
「どうした!?貴様らも早く脱出するんだ!」
しかし、ファウロスのその言葉に副司令を含めた部下達が皆笑顔で笑いかけた。
「司令は早く脱出を、敵は我々が食い止めます」
「な、なんだと!?ダメだ脱出しろ!これは命令……」
「主要区画まで掌握されたら脱出も不可能になります。それを防ぐためには我々が残るほかありません」
「だが!」
「司令」
さらなる言葉を投げ掛けようとしていたファウロスの言葉を、部下は止めた。
「司令、これは我々の意志です。今回ばかりはどんな命令を重ねても我々は動きません」
「下段の奴らがもうすぐ土足で上がってきます。奴らに空の支配者が誰だか教えてやらねば」
「司令のもとで戦えて光栄でした!どうかお気をつけて!」
「くっ……」
彼らの決意は、本気であった。司令であるファウロスを脱出させるために、自らが殿になろうとは、ファウロスはそこまで部下に慕われていた。
彼は今まで気づかなかったが、ファウロスはウラノス軍の司令官の中ではかなり部下からの信頼が厚かったのだ。残忍かつ自らの犠牲をも問わないウラノス軍人の中では、比較的常識的で良心的な面も多く、部下にもよくしていた。
それがこの結果を生んだのだ、彼らは自らを犠牲にしてでも任務を遂行するウラノス軍人の誇りを、ファウロスのために自らを犠牲にする事で成し遂げようとしていた。
ファウロスはそんな部下たちの熱い視線に喉元まで出ていた言葉を飲み込み、苦渋の決断を下すのだった。
「わかった……行くぞ。後は頼んだ!」
「はっ!了解であります!」
ファウロスは数名の護衛とともに司令部を後にした。副司令官はそれを確認すると、安心しきったような笑みを浮かべる。
その表情もすぐに険しくなり、彼はすぐさま部下たちに命令する。
「防衛陣地、バリケード構築急げ!敵はすぐに来るぞ!司令が脱出するまでの時間稼ぎだ、奴らに空の支配者がなんたるか思い知らせてやれ!」
「了解!!」
指示を受け取ったウラノス軍人たちはすぐさま各部署に連絡を入れる。その報告を聞いたアンタレスの守備隊たちは歓喜に沸き、司令部、基地、そして正門に至るまでの間にバリケードを築き始めた。
上も、下も、士官も非戦闘員も関係ない。全ての者が武器を取り、戦闘態勢を整える様はある種の狂気が渦巻いている。
<<対戦車地雷設置急げ!ダイナマイトで罠を作るんだ!>>
<<対戦車砲は茂みや斜面に隠せ!トーチカの中に入れるんだ!>>
命令しながら対戦車地雷を周りの地面に撒いていく空賊兵たち。もうすでに基地の手前まで占拠されており、それどころか飛空場の滑走路まで占拠されている始末だ。
空から見れば、彼らの様子がよくわかる。地表からはあちこちから炎が出ており、空賊たちの抵抗具合が凄まじいものであることがよくわかる。
と、湖周辺の港から火の手が上がり始めた。施設の間の道を戦車部隊が前進して行く。どうやら残すは島の後ろ側にある小高い丘に面した司令部だけのようだ。
だが、彼らの戦意はまだ健在。いまだに闘志を燃やして空挺部隊を迎え撃とうとしている。
<<墜ちた戦艦からは主砲が撃てるか!?>>
<<ダメだ!この船の主砲はひん曲がってる!弾薬庫だって爆発したんだ砲弾がない!>>
<<だが戦艦はバリケードになる、盾にするんだ!>>
彼らはちょうどよくゲートの前に墜ちていた戦艦の残骸に登り、そこから生き残った僅かな乗組員を救助すると戦艦の残骸を盾にバリケードを構築し始めた。もうすでに弾薬庫は爆発しているため、わざわざ消火する必要はない。
戦艦の窓や破裂した破口から対戦車砲をのぞかせ、一基だけ残っていた127ミリの副砲を動かして迎え撃つらしい。たったのこれだけの戦力だが、工夫次第では相手を迎え撃つことができる。
「……粘るものだな」
その様子を、雲の上からアンタレスを見下ろすようにしてダリオ少佐は呟いた。
<<アイガイオンからシュトリゴン隊へ>>
マカロフ大佐の声が轟く。
<<作戦は順調、こちらは滑走路まで占拠が完了した。残りは司令部にいるわずかな守備隊のみだ。
敵はバリゲートを作っていることから徹底抗戦に入ることを覚悟しているらしい。対戦車地雷陣地は戦車隊にとって脅威になる、速やかに爆発処理せよ>>
「了解です。シュトリゴン2、攻撃に入る!」
ダリオ少佐はフランカーを操作して、要塞の地表面へと降下して行く。狙いは対戦車地雷陣地、ロケット弾で一気に爆破処理をする。
空賊たちがそれぞれが創意工夫をこの僅かな間にこなして、迎撃体制を整えていたその時。
<<敵機襲来!!>>
空賊兵の誰が悲鳴のように叫んだ。
兵たちがそれを聞くと、一斉に空を見上げる。空の上を空気を切り裂くような音が鳴り響き、だんだんと大きくなっていっていた。
その音に、耳を塞ぐ者、小銃を構えて撃ち落そうとするもの、様々な反応見せた。そして、それは月夜に照らされて現れその身を晒した。
<<あ、あれは……>>
空賊兵の一人が、目を見開いて呟いた。戦空機とは思えない、戦闘爆撃機かと見間違えるほどの巨大な翼。風防は機首へと前に前に突き出してまるで前に突き出る槍のような印象だ。
そして、奴にはプロペラが見当たらない。代わりに背後のノズルから陽炎を吹き出しながら猛スピードでこちらに降下してくる。
<<ジ、ジェット機!?>>
<<!?、まずい!全員離れろ!!>>
奴はジェット機。そんな最新鋭の機体がなぜここに?そうとでも思っているのだろう。
彼らの疑問ををよそに、ダリオ少佐ははずんずん高度を下げるとその翼下に担架された丸い筒状の武装の狙いを定め始めていた。
そして──
パシュパシュパシュパシュ!!!
そんな軽快な空気の抜けるような音とともに、筒から子弾が放たれた。地面に向かって、まるで流星群のように降り注ぐそれは一つ一つが破壊の一撃を持つ。
ボカン!ドカン!ボカン!!
子弾が次々と地面の地雷原に着弾する。着弾すれば衝撃で信管が破裂し、中に詰まった決して少なくない量の炸薬を爆発させる。
さすれば地雷原に誘爆し、戦車を破裂させるほどの炸薬たちが牙を剥く。敵戦車ではなく、逃げ遅れた空賊兵たちに向けてその破裂が襲いかかってくる。
吹き飛ばされ、頭を打ち、転ぶ者、様々だ。巻き込まれた空賊兵たち全員が無傷では済まされず、ほとんどが地雷の誘爆に巻き込まれて即死した。
フランカーのあまりの風圧に、吹き飛ばされる者、帽子が飛ぶ者、耳が聞こえなくなる者。その中で、多くのウラノス兵がそのフランカーの正体を見た。
<<魔術師……>>
ウラノス兵の誰かが、ひとりでに呟いた。奴の背後の尾翼には、魔術師の紋章が描かれそれがらサーチライトや月夜に照らされて光り輝いていた。
<<くそっ!被害報告!>>
<<対戦車地雷ほとんど全滅しました!>>
それがダリオ少佐の狙いだった。今まで丁寧に設置していた地雷が全て無に帰り、むしろ自分たちに牙を向いてしまい、敵戦車を迎え撃つ手段が減った。
創意工夫をする空賊兵たちをあざ笑うかのように、ダリオ少佐は悠々と陣地の上を飛行していく。
<<構わん!残りの地雷に誘い込むようにして戦車を引き付けろ!>>
<<連絡です!港の防衛ラインを突破されました!>>
<<来るぞ!構え!!>>
現場の指揮官がそう叫ぶと、ウラノス兵たちが一斉に身構える。この暗闇でも夜目で敵の姿がよく見える。重戦車かと見間違えるほど巨大な戦車、暗視装置が不気味な光を奏でてその位置を分からせる歩兵。全てが異形であった。
戦車や敵歩兵はもうすでに戦車砲や小銃の射程内だが、まだ射撃はしない。構えているだけで、まだ撃たない。
<<まだだ、まだだぞ……>>
まだ撃たない……
兵たちの苛立ちをよそに、戦車の陰に隠れながら歩兵たちが前進してくる。周りを警戒しながら、周囲を見渡しながら随伴して行く。
そして、地面に惹かれた目印の糸を超えた!
<<総員、撃てっ!!>>
<<射撃開始!!>>
その火蓋、切って落とされた。
指揮官が叫べば、戦車砲が、艦載砲が、小銃がアサルトライフルが、一斉に火を吹いた。
<<コンタクト!>>
<<ここが空賊共の最終防衛ラインだ!応戦しろ!>>
最後の抵抗が、今始まる。
<<砲手!1番先頭のデカイ戦車を狙え!>>
戦艦の生き残りである副砲が、その砲身を上下に動かし敵の重戦車を捉える。この砲の口径は127ミリ、どんな戦車であろうと一撃で粉砕できるはずだ。
<<撃てっ!!>>
砲弾が放たれる。放物線を描いて質量が戦車砲とは比べ物にならないほどの徹甲弾が、戦車を貫かんとする。
ドカン!!
副砲は戦車に炸裂することはなかった。その近くに着弾し、地面を深くえぐって随伴歩兵たちを驚かせた。
<<次弾装填!射角修正!!>>
<<くそっ!奴ら戦艦を盾にしていやがる!120ミリが効かない!!>>
「まずいな……」
ダリオ少佐は想定外の抵抗の激しさに、そう呟いた。戦艦を盾にされて、しかもあちらには一方的に攻撃できる布陣だ。いくらレオパルド2とはいえ、副砲の127ミリを喰らえばひとたまりもないであろう。制圧部隊はここで完全に足止めを食らっている。
<<地上部隊より航空支援要請、目標は敵戦艦の残骸、副砲付近だ>>
「了解です、目標を確認」
ダリオ少佐はフランカーの残りの武装を確認する。残りの武装は500キロ爆弾2発。戦艦とはいえ、500キロなら戦艦の防隔だって貫けるはずだ。
幸いにも相手の注意は空ではなく地上の兵士たちに向いている。なら、今のうちに破壊するしかない。
ダリオ少佐はフランカーを駆り、戦艦の斜め上方向から一気に駆け下りる。そしてディスプレイの武装から無誘導爆弾を選択。HUDに丸い円のような模様が浮かび上がる。爆弾の予想投下地点、ペイパーだ。
機体を操作し機首を上げながら戦艦の副砲あたりに照準を定める。ぐんぐんとペイパーが絞られて戦艦の残骸へと向けられる。
副砲は現在装填中、そしてこちらに気づいていない。
「シュトリゴン2、ボムズアウェイ!」
ガシャン!という音とともに、機体がふわりと浮かび上がる。投下された無誘導爆弾達は2発、ペイパーに捉えていたところと同じ、ほぼ真っ直ぐにその副砲めがけて空気を切り裂いて落ちて行く。
<<!?、敵の爆弾だ!伏せろ!!>>
やっと気付いたのか、だがそれでももう遅い。ペイパーに捉えていた500キロの暴力が、死に損ないの戦艦の胴体に突き刺さる。
ドッカーン!!!
残骸は、粉々に砕け散って爆散して行く。副砲の127ミリの砲弾を蓄えた弾薬庫に直接突き刺さり、その派手な爆発を見せてくれた。
中の戦艦で対戦車砲を構えていた他の兵士たちも、一斉に巻き添えを食らって破裂していった。
「シュトリゴン2、障害を排除!」
<<感謝するシュトリゴン2!このまま前進、突き進め!!>>
ダリオ少佐はフランカーで地上部隊を支援しながら、空を徘徊する。もうすでに要塞の八割近くが無力化されている。現在残すのは要塞の最後尾、丘に面した司令部らしき建物だけだった。
制圧は、時間の問題であろう。
「メインゲート!突破されました!」
「敵が基地の内部に侵入!戦闘状態に入りました!」
司令を脱出させて居残る覚悟をしたファウロスの部下たち。オペレーターが伝える状況は完全に劣勢であった。
基地司令部内からは、もうすでに銃撃戦の音がパラパラと聞こえてくる。我々と遜色ない仕組みの火薬の火花の音だった。
異世界から来たアルディスタの来賓と言うからには、もっと首都プレアデスで観れる検閲済のSF映画に出てくるような光線銃を想像していたが、そこは同じなようだった。
「司令は脱出出来たか?」
「潜空艦ドックより連絡です、司令は無事乗艦された模様。これより脱出するそうです!」
その報告は、彼らを安堵させるには十分すぎた。潜空艦さえ発進してしまえば、奴らは司令に手出しができなくなる。敵の注意は要塞表面に向いているからだ。本来の目的が遂行されて、安堵しないものはこの場にはいなかった。
「そうか……皆、私の勝手な死に際に立ち会わせてしまってすまない。たが、どうか司令のためにも後に続いて欲しい」
副司令はそう言って頭を下げ、部下達に詫びを示す。彼の最後の一行は命令ではなく頼みであろう。しかし、それは暗に「一緒に死のう」と言っているようなものだ。
軍人でないものからすれば、それは狂気と愚かさに満ちているように聞こえる。しかし、この言葉を『狂気』『愚か』と称すのは酷であろう。
なぜなら……
「喜んで!」
「ウラノス人の意地と誇りを見せてやりましょう!」
「元はと言えば我々から仕掛けてきた空戦です!殺し殺されるのは当たり前のことです、覚悟はできています!」
「空で死ねるのなら本望です!ご一緒させてください!」
彼らが皆、自らの意思でこの玉砕に乗っているからだ。彼らの意思で、自らを犠牲にする勇気を持ち合わせていた。それは脱出した司令のためか、それともある種の『狂気』が渦巻いているのか。それはわからない。
「皆……ありがとう……」
副司令はその言葉を聞くと涙が出そうになった。誇りあるウラノス軍人として、空手の戦いで死ねるのなら悔いはなかった。
副司令は何かにコードで繋げられたスイッチを机の上から取り上げる。コードの先にあるのは、司令部中に張り巡らされた大量のダイナマイト爆弾だった。
ほかのオペレーターや部下たちが、副司令を見て敬礼する。覚悟はできていた。
「ウラノスに栄光あれ!!」
爆弾のスイッチを押す。
瞬間、白い光に包まれる。
爆発音を聞いた突入部隊は、彼らが自爆を図ったことを悟った。多少の混乱と計画の狂いができたが、もうすでにアンタレスは完全制圧寸前であった。
制圧部隊が焼け焦げた司令室に入ったのはその十分後。バラバラになった軍人数十名の無残な即死遺体が見つかった。
空挺部隊司令官は彼らの奮闘に敬意を評して司令室に花を手向けた。
「アンタレスとの通信……途絶しました……」
「……」
狭い狭い潜空艦の中。その内部はストレンジリアル世界のUボートに似ているが、艦影は上に向けて揚力装置が取り付けられ、海水の噴水である聖泉内での航行も可能となっている。
ファウロス以下、40名のアンタレスの生き残り達は二つの潜空艦に分けて乗せられ、聖泉に潜っている。揚力電池を取り付けた潜空艦は、長い時間の潜空が可能となっている。
その中で一人、ファウストはうなだれていた。脱出したのはファウロスなどを含めた一部の高官と研究者のみ。アルディスタの手土産や、一部の研究成果はアンタレスに置いていったが、研究成果をまとめた書類はこちらの手の中にあるだけマシだった。
ファウロスは彼らが身を粉にするかのように、呈するように戦ってくれている中一人で逃げ帰るのが不本意だった。
「覚えておれよ……アルディスタの来賓……」
ファウロスに闘志がみなぎる。部下を殺され、手も足も出ずに破れっぱなしであった。おそらく、敵飛空要塞(イスラ)への奇襲も撤退へと追い込まれている事だろう。
「貴様らに空は似合わない。地獄の底へ案内してやる」
ファウロスは復讐心を抱いていた。我々の邪魔をする巨影へ向けて敵対心をあらわにした。
アイガイオン空挺部隊
死者 0
重傷者 298名
軽傷者 146名
アンタレス
死者 7948名
脱出した人員 40名
守備隊生存者 12名
ひっさしぶりの用語解説のコーナー
《潜空艦》
聖泉の中も潜航可能な飛空艦、いわゆる潜空艦である。通常の潜水艦としての機能だけでなく、聖泉の中をも航行できる強力な揚力装置を備え。潜空、潜水時にはシュノーケルを出すことによって長く潜る時間を確保できる。潜空時には聖泉の水面がレーダーの電波や光を反射しており、アイガイオンでも発見は困難であった。
イスラ討伐隊では、主に偵察任務で重宝されており、実はアイガイオンが仲間になる前からずっと後をつけられていた。途中他の艦とも交代があったが、聖泉ではそれくらい長い間潜ることができる。
浮上時排水量: 769トン
潜水時排水量: 871トン
全長:70.1 m
耐圧殻の長さ:50.0 m
全幅:6.8 m
耐圧殻の幅:4.7 m
高さ:9.60 m
吃水:4.74 m
飛翔時速力: 17.7ノット
潜航時速力: 10.6ノット
潜空、潜水時間:不明