とある飛空士の重巡航管制機《アイガイオン》 作:篠乃丸@綾香
とりあえずはここまで書き終えました……ストックがなくなったのでしばらく投稿頻度が遅くなるかも……
ヴァン・ヴィール地区中央庁舎、執務室。
イスラ航海長、ルイス・デ・アラルコンは腰の後ろに両手を回し、ヴァン・ヴィールの姿を望遠していた。
イスラ左岸から黒い煙の筋がいくつも夕暮れ空へ立ち上っている。昨夜の爆撃の残り煙だ。
我々は空賊を退け、被害を最小限に抑えられた。それどころか、新しい空飛ぶ島まで占拠できた。奇襲は受けたが完全なる大勝利だった。これも空中艦隊の迅速な対応と、レオポルド団長の指揮能力のおかげなのかもしれない。
しかし、『空の一族』はイスラと遜色ないほど発達した飛空機械を保有して、異常なほど戦闘意欲にあふれて、かつ大規模な存在であった。そのために多少の被害を残してしまっている。
住民の間には昨日前までの安穏とした雰囲気はなくなり、その表情には不安が色濃くなっていきた。そのため、空賊達を圧倒的な力で退けた空中艦隊に頼るような雰囲気がイスラを支配していた。
彼らさえいれば、空の一族でも退けられる。そう感じているのだろう。
しかし、ルイス達は違った。空賊が本来ならば空中艦隊しか持っていないジェット戦空機を保有していたのだ。もし、奴らのジェット機が本気で襲いかかってきたら、空中艦隊といえど無事で済むかわからない。
幸先の不安が両勢力を支配していた。
と、背後からノックが響いた。
「失礼します」
イスラ外務長アメリヤと空中艦隊幹部の一人であるセルゲイ中佐がカツカツと執務室に歩を進めた。アメリヤの手には一通の書類が握られている。
「翻訳が完了しました」
相変わらずの無機質な声とともに、アメリヤは書類をルイスに手渡した。
「随分早いな二人とも。依頼してから1日も経っていないが」
「理由は、内容を読んでいただければわかるかと思います。どうやら、私の出番はなかったようですが」
そう言ってセルゲイ中佐は書類の内容を示唆する。彼も、翻訳作業に加わっていたのだ。
「ふむ」
言われるまま、ルイスは書類へと目を走られた。
未知の国からの手紙を翻訳した書類だった。言語が違うため、ストレンジリアル世界の言語知識が堪能なセルゲイ中佐にもアメリヤを手伝ってもらっていたが、結局はわずか1日たらずで翻訳が完了したらしい。その理由は手紙を読めばわかった。
この手紙は昨夜、未知国家のジェット戦空機がメリクリウス飛空場の滑走路に投下した通信筒に入っていたものだ。
戦闘終了ののち『狩乃シャルル』を名乗る飛空士が乗った未知国家のジェット戦空機は翼を変形させて、そのまま垂直離着陸の体制に入った。そのまま着陸するのかと思いきや、風防を開けてこの手紙を投下した後、何処へと消え去っていった。
手紙を読むルイスの表情は真剣そのものだった。長い手紙ではないためすぐに読み終え、難しい表情をアメリア達へ向ける。
「君たちの意見を聞きたい」
二人は速やかに、個人的意見を伝えた。
「接触するべきです。言語体系ばかりか我々と同じ創世神話が伝えられ『聖泉』や『空の一族』と言った呼び名まで共通している。驚嘆に値します。
『聖アルディスタの種子』に至っては我々もたどり着けていない知識であり、これに関する情報を得るだけでも今後の探索に大いに役立てるかと」
「ええ、それに『聖アルディスタの来賓』というのは我々空中艦隊がなぜこの世界にやってきたのか?その謎を突き止める重要な情報になり得ます。それに、この内容から我々が何者かによって
それと……とセルゲイ中佐は続けた。彼の表情には驚きの模様が色濃く残っていたようだった。
「
偶然の一致にしては奇妙すぎます。なぜ、彼らがこの世界にいるのか?そして我々がなぜこの世界にいるのか?その理由を突き止めるにも彼らとの接触は急務かと」
「罠の可能性は?それが最も怖いのだが?」
「我々を騙すことによって先方が得る利益が少なすぎます。ここまでして我々を罠にはめて先方に何が得られるのか、見当がつきません」
「……うん、少なくとも略奪が目的ではなさそうだ」
「航海長殿。私はこの世界に来てイスラと同盟を組んだ我々空中艦隊と同じように、接触を図ってあわよくば同盟を結ぶべきかと思います。
手紙の主らが空賊と戦闘状態にあるのは疑いないようです。敵の敵は味方、という図式である程度信頼できるものではないでしょうか?」
「……信頼できると?」
「文面を読む限り、手紙の主はまず、自分たちの現状を包み隠さず単に述べ、非常に単純な要望をいきなり提示しています。これは先手譲歩という外交手段ですが、先方にとっては充分な利益を見込める要求であるかと。
包み隠さず利益を求める取引相手は信用できます。あくまで現時点における私たちの私見ですが」
「……なるほど。……ありがとう、参考にするよ」
礼を言って、ルイスは再び窓の外へと目を送った。ヴァン・ヴィール地区のその先には先の戦闘で鹵獲した新しい飛空要塞があった。イスラと架橋され、士官や車両が往き来して内部の調査に乗り出している。
イスラは今、幸先の不安を抱えている。新しい飛空要塞をものにしたおかげで補給は受けられたものの、このままの状態で戦いを続けたならば、戦力は逓減していき、やがて空中艦隊もイスラも滅びるかもしれない。本国に帰還しようにもおそらくすでに退路は断たれているはず。
これまで一度も探索艦隊が帰還できなかったのは、空賊があらかじめ退路を断った上で攻撃を仕掛けたためだろう。聖泉に踏み入れたものを、あらゆる手段を用いて生きて帰さない空賊の存在意義にも思える。
──座して滅びを待つくらいなら……
ルイスは重々しい眼差しをもう一度、未知の国からの手紙をへと走らせた。
初めに聖アルディスタへの感謝を。
遥か彼方の海に住まう、見知らぬ同胞の方々へ。
こうしてこの手紙をお読みになっているという事実が、あなた方が私共と同じく、聖アルディスタの恩恵に預かる人々であることを知らしめています。
まだ見ぬ方々。
私共とあなた方は遥かな古代に同じ神を抱いた同じ血の流れる民であることをご存知でしょうか?
端のない滝に隔てられ、お互いに行き来できぬほど遠く遠く離れた島や大陸の中に、時折、聖アルディスタを唯一神として抱く国家や民族が存在し、彼らは互いに酷似した身体的特徴、文化、国体、言語を保有している。
私共はこの不可思議な類似性の根源を『聖アルディスタの種子』と呼んでいます。
創造神話にある通り、遥かな古代、聖アルディスタは天翔ける船にお乗りになり、訪れた島や大陸に自らの血肉と言語、子孫へと語り継ぐべき教えの種子を蒔かれました。
いかにお互いがお得隔てられていても、同じ種子から生じた血肉が、同じ知識、同じ言語、同じ道徳の下に育まれるのですから、成長の仕方、発展の度合いが類似するのも自然な成り行きなのかもしれません。
しかし、わたくしどもの知る限りにはこの種子に頼らない人々がいます。
私共とは異なりわたくしどもと同じ身体的特徴をしながらも、球面の惑星で生まれ育ち、大瀑布は見受けられず、我々と違う歴史、違う国体、そして卓越した技術を持ち合わせています。
彼らは突如としてこの世界へと現れました。信じがたいことですが、彼らはわたくしどもの世界とは違う異世界からやってきたのです。
異なる世界からやってきた同胞たち。聖アルディスタの招待を受けてこの世界へと降り立った。
私共は彼らのことを『聖アルディスタの来賓』と呼んでおります。
彼らがなぜこの世界にやってきたのか?なぜ聖アルディスタは彼らをこの世界へと招待なさったのか?残念ながら、それはわたくしどもの知る限りではありません。
しかし、世界が違いながらも、彼らは我々とわかりあい、言葉を交わして、同じ道徳を持って、共に暮らし、共に戦い、そして共に和解し合いました。
彼らは、私共と共にこの世界で共存する道を歩む事が出来たのです。
私共はもしや、我々と彼らの世界には共に分かり合えるほどの繋がりがあるのではないかと考えております。しかし、残念ながらその考察はまだ道半端で止まっているのです。
この手紙をお読みになる、見知らぬ同胞の方々へお願いがあるのです。
どうか、あなた方のことをお教えください。
私共も、知り得る限りのことをあなた方へお伝えしましょう。
《中略》
あなた方が私共と同じく、世界の秘密を解き明かしたいと願い、聖泉への探索に望んでおられるのであれば、私たちにはあなた方を微力ながら援助する用意があります。
あなた方が私たちとの接触をお望みになるのなら、どうぞ、海上艦艇なり飛空艦艇なりに聖アルディスタの御紋章を掲げて、私たちの船へお近づきになってください。
エイギル艦隊聖泉方面探索隊司令官ニコラス・A・アンダーセン中将とマルコス・ゲレロ副司令は、歓喜とともにあなた方を旗艦原子力飛空空母ケストレルへお迎えするでしょう。
ともすれば私共も同じ御紋章を掲げて貴方方に接触するもやもしれません。その時はどうか僭越な歓迎を願うものです。
身勝手な願いをお許しください。ですが、親愛と許しを基調とする聖アルディスタの教えを抱く貴方方は、きっと私共の手を払いのけることはない、そう信じるのです。
聖アルディスタの御名の元に。
友情を信じて。
神聖レヴァーム皇国 執政長官 公民議会第一人者 ファナ・レヴァーム
用語解説のコーナー
《原子力飛空空母ケストレル》
一体何トレルなんだ……?