とある飛空士の重巡航管制機《アイガイオン》 作:篠乃丸@綾香
「……驚きました、まさか空賊がこのような財産を持っていたとは」
あたり一面に並んでいるのは、飛行機飛行機飛行機飛行機飛行機飛行機飛行機飛行機。どれもファルケンより小さかったり、又はそれより大きかったりと大きさはバラバラ。
それに、機体の色も形も全然違う。まるで、
「ここは空賊の研究施設だったと予測される、地下倉庫です。並べられている機体はストレンジリアル世界と同じ機体から、出所不明の機体、原理不明の機体まで様々です」
「まるで博物館だな……」
「空賊はこれらの研究を行なっていたと?」
アメリアが質問する。
「おそらくですが、そうだと考えられます。ですが、これらの機体がどこからやって来て、空賊がいつ手に入れたのかは資料の大部分が焼却されており、不明です」
謎は深まるばかりだった。空賊側の資料が破棄されている以上、分かるのは各機体の名前くらいだ。名前だけは、地面にプレートが付けられていて判別することができた。
「ダニエル軍曹」
ヴィクトルは、近くでこれらの飛行機の解析を行っているダニエル軍曹に声をかける。
「お客さんにこれらの説明をしてくれるか?」
「この機体達を一つづつ説明するんだな。了解した!」
「頼んだ」
ダニエル軍曹はヴィクトルとイスラの3人を連れ、倉庫の中を歩く。
「まずは一番手前にあるこの機体だが……」
「翼の角度が左右で違くないか?」
ルイスが指差した機体は、左側の翼が胴体に対して低い角度になっており、速度が出そうな角度をしていた。しかし、右側の主翼はテーパー翼のように角度がつき、速度が出なさそうに見える。
「これは可変翼という機構で、速度によって主翼の角度を変えられます」
「ほう、翼の角度を変えられるのか……」
「まだ音速機が多く出ていない時代に作られた古い機体だからな、このような特殊な機構を持っているんです。名前はF-14スーパートムキャット、ストレンジリアル世界にも存在しますぜ」
「面白いが、整備士泣かせだな」
レオポルドの予想通り、実際このような可変翼は整備性や機構の問題もあって、あまり多く採用されていない。最近はステルス機もトレンドなので、だんだん廃れつつある。
「貴方方の世界にもあるということは……使えるのですか?」
アメリアが質問をする。
「いや、この機体は使えないんだ」
「見たところ、問題はなさそうだが?」
「問題は内部だ」
ヴィクトルは説明をする。このF-14はほとんど無傷であったが、アビオニクスやFCSなどに致命的なバグがあった。
「この機体の中核を担っているシステム……つまりはストレンジリアル世界の機体になくてはならない計算機だが、それに致命的な不具合があってな……」
「例えばどんな?」
「『自転車一つを破壊するのにどのような手段を使うか?』とプログラムに質問したら、『核兵器を使う』という回答が飛び出た」
イスラ側の三人が、口を開けて項垂れる。
「核兵器というのは……君たちが見せた映像にあった、ベルカの新型爆弾かね?」
「はい」
「自転車ひとつの為に、あんな悲劇を繰り返そうとするとは……この機体は相当な頓珍漢だな」
ルイスも思わず品のない言葉で罵る。一方のアメリアは「ルイス提督は怒ると品のない言葉を使う」と心にメモをした。もちろん、F14用の予備パーツは空中艦隊には無いため、放置である。
「これはなんだね?」
「『震電改』という名前の機体だ」
二つ目はノースポイントで開発された珍しいエンテ式のレシプロ戦闘機の震電……のはずなのだがエンジンはなぜかジェットエンジンに作り変えられていた。これは『震電改』と呼ばれる、史実では実現できなかった改造案だ。
赤い塗装の機体で状態も新しかったが、肝心のジェットエンジンに多数被弾しているようであり、当然使い物にならなかった。ちなみに名前の入ったプレートが操縦席にあり、『イサオ専用震電改』と書かれていた。
「誰がこんな派手な塗装を?」
「元の持ち主は、相当な目立ちたがり屋だったんだろうな」
次に見せられたのは、風防の無い緑色の機体だ。機体の下部に何やら機械のような物がついており、それを地面に付けないために車輪が高くなっている。全体的に流線的で速度が出そうな機体だ。
「これは『迎撃戦闘機セズレⅣ』という機体です」
「迎撃機か……」
「ですが、機体の飛行原理は謎ばっかりですよ。この世界どころか
おそらくだが、この機体の飛行原理は機体下部に付いているこの剥き出しの機械だろう。付近には『水厳禁!』と書かれた注意書きもあるため、精密機械なのは頷ける。しかし、原理不明すぎる未知の機械のため、容易く触れないので放置である。
「次はこれです」
「なんだねこれは?」
次に見せられたのは、逆ガル翼に機首の機銃が取り付けられた、奇妙な機体だ。先ほどの原理不明機とは違い、こちらにはジェットエンジン機特有のエアインテークが胴体の両脇に付けられている。
「この機体は『ジグラントⅢ』。ジェットエンジン機です」
「この機体に関しては製造国が明らかになっておりまして、『神聖ミリシアル帝国』という国が製造した艦上多目的機という事だけは分かっています」
ダニエルとヴィクトルが解説をする。
「ジェットエンジン……という事は……」
「いや、この機体はジェットエンジンを搭載していることは分かったのですが、その燃料が不明なんです」
「燃料?」
「ええ、機体の燃料タンクの中に入っていたのは、謎の液体金属のような粘性の高い液体だけでして」
そう言って、ヴィクトルは近くの整備士からそのサンプルを手渡され、掲げる。試験管の中に詰まった銀色の液体は、水銀のような美しくも毒々しい見た目をしている。
「この液体の事ですね。我々にもなんなのかは全く不明です。データ観測をしたところ、常に電磁波とも違うような謎の反応を示しており、現在解析中です」
「なるほど……機体の性能的にはどうでしょうか?」
その質問に、ダニエルが答える。
「エンジンを分析してみましたが……一言で言うとひどい有様ですよ。エンジンの燃料と空気の割合を左右する『パイパス比』という値があるのですが、それを調節する機械がめちゃくちゃな出来でして……おそらくですが、時速は500キロ台が限界だと思います」
「ジェットエンジンなのにか……?」
「ええ、それだけ酷い有様なんです! これを作った技術者に文句を言ってやりたいくらいですよ!」
そう言ってダニエルは腕を組んで怒りをあらわにした。
「うーむ……こうして聞いてみると、この機体も使い物にならなさそうだね……」
「なんだか、誰かの技術を模倣しようとして、技術の根本を理解していない感じがするんですよ。ただの猿真似、技術への冒涜ですよこれは」
見た目はかなりカッコいいのだが、中身はダメダメのポンコツような物だ。
「まあ、とにかくここに保存してあった機体のほとんどはこんな感じです。どこか壊れていたり、ボロボロだったり、原理不明だったり、技術体系が違ったり等々。おそらくですが、まともに使えそうなのは……」
そう言ってダニエルは歩き始め、他の機体に見向きもしないで通り過ぎる。そして、一機の巨大な黒色の機体にたどり着く。それは、翼が恐ろしいほどに前に迫り出した、禍々しい機体だった。
「まともに使えるのは、こいつだけですね」
「これは……?」
「Su-47ベルクート、ストレンジリアル世界のユークトバニアという国が作り上げた戦闘機です」
特徴的なのは、やはりその主翼だろう。主翼というのはイスラの機体のようなテーパー翼か、フランカーのような後進翼が普通だとイスラの人々は考えていた。
しかし、この機体はそれを真っ向から否定している。前に前にと迫り出し、大きな角度が付いたこの主翼は、全ての戦空機の常識を塗り替える新秩序のようだ。
「ぜ、前進翼……?」
「そう、この機体の特徴は前に迫り出した前進翼だ。これにより、格闘性能や機動性を上げることを目的にしていたらしい」
Su-47ベルクートはかなりの高性能であり、一時期はユークトバニアの主力戦闘機になるのでは? と盛り上がったが、そのコストの高さやピーキーさから少数配備に留まった。オーシアで言うYF-23のような、コストの悪さ故の不運な機体である。
「この機体に関しては、同じ機体がもう一機見つかりましてね。共食い整備をすれば、一機は稼働出来るかもしれませんぜ」
「ほほう……このようなロマンあふれる機体が新たに使えるようになるのか……!」
ルイスは興奮気味に言うが、レオポルドとヴィクトルは不安視していた。もちろん、ルイス自身も不安だった。
空中艦隊もイスラも補給を受けられない以上、これから先は共食い整備をする必要に迫られる。このアンタレスで手に入れた物資はほんの僅かしない。手に入れられたのは意味不明な機体達だけで、使えるのは燃料だけ。
そんな中で、運用できる機体が一機でも増えるのはありがたい。ルイスは神様に感謝し、ヴィクトルは自らを導いた存在に感謝をしていた。
「とにかく、このアンタレスに存在している設備や物資は謎だらけです。彼らは彼らの事を『アルディスタの来賓』又は『財産』と呼んでいました。このアンタレスの調査を進めながら、空賊の謎に迫るしかありません」
これらの設備や物資については、後々調査する必要があるだろう。タンドリーチキン隊に関しても、彼らはアイガイオン空中艦隊より早く撃墜されていたが、何故かこの世界に来たのは空中艦隊より後だった。その事に関しても調査が必要だ。
「空賊には謎が多いからな……奴らが持っていたこの機体たちは、いったい何処から来たのやら……」
「もしかしたら、空賊は本当に神の使いでこれらも異世界から引っ張ってきたのかもしれませんな」
レオポルドにルイスが冗談まじりに言う。
「我々も彼らのことを創生神話を元に調査をします。いずれは、空中艦隊の皆様にも創世神話について見ていただいた方が良いですね」
「ええ」
と、その時。アンタレスの警報機から甲高いサイレン音が鳴り響いた。天井にある赤いランプも点滅し、付近に緊張を走らせる。
「一体なんだね?」
「少しお待ちを」
ヴィクトルはトランシーバーを片手に地下施設を飛び出して行った。彼の持つ通信機器では、この地下から通信するのは不可能であるため、外に出たのだ。
「……はい……空賊の奇襲ですね……了解です、直ちに避難させます」
イスラの面々も彼に着いていく。外にいたヴィクトル中尉は、通信機器を片耳に当てマイクに何度か話しかける。
「空賊の奇襲です。我々は地下にある施設に隠れましょう」
「地下というと、あの博物館の事かね?」
ヴィクトルはルイスの苦笑いまじりの問いに対し、真面目な笑顔で答える。
「ええ勿論。あの博物館は、司令部よりも頑丈にできていますから」
◇◆◇◆◇◆◇◆
イスラ中央庁舎、ここはイスラの政治軍事方針を決める場所だ。爆撃からもなんを逃れ、現在でも煌びやかな装飾が四人議会を彩っている。四人の重役たちを見守るように、ニナ・ヴィエントは座っている。
と言っても、ニナは何もしない。何もしないし、何もできない。彼女は四人議会の意見を聞き、方針が決まったらそれに対して首を縦に振る職業だ。ニナも、自分がお飾りであることを知っている。
「これより、イスラ方針会議を開催いたします」
ニナの挨拶により、方針会議が開始される。しかし、今回の会議は四人以上で行う。ニナの向かい側には、カメラとテレビが設置されている。彼らは空を飛んでいる空中艦隊の機体とのテレビ通信だ。イスラと空中艦隊との同盟により、彼らの意見も参考にする為、四人会議は十人会議になった。
『まず初めにご報告を致します。本日午後に発生した空賊の奇襲攻撃ですが、シュトリゴン隊によって20機中16機を撃墜いたしました』
空中艦隊のマカロフ大佐が、テレビ画面越しに報告をし始める。午後に奇襲した空賊は、少ない数の戦空機で奇襲して来た。20機中、16機を撃墜されて撤退したが問題はそこではない、来た方向と戦術だ。
『空賊機はイスラの南西方向から追いかける様に飛来して来ました。問題はこの方向です。ニコライ少佐、解説を』
『はい。空賊機の飛来した方向からコンピューターで予想したところ、イスラの後方400キロほどから出撃したものと思われます。つまるところこれは……』
「ストーカーされているな」
ルイスが見透かしたかのようにそう言った。
『はい、先日こちらを待ち伏せしたものと同規模の飛行要塞が、イスラの後方から追従して来ていると見て間違いありません』
「なら、今回の奇襲は威力偵察かね?」
『はい、おそらくは』
ニコライからマカロフに変わり、さらに言葉を続ける。
『それから、空賊機はかなりの低空飛行でこちらに接近して来ました。おそらくはレーダー範囲から逃れるための行動でしょう』
今回の空賊機編隊は、聖泉スレスレを這うように飛行していた。レーダー探知機の範囲内から逃れ、静かに近づくための手段だったのだろう。しかし、大昔のレーダーと違いルックダウン機能を備えているアイガイオンのレーダーは、彼らを無慈悲に探知していた。
そのあとは悲惨だ。アイガイオンからスクランブル発進したフランカーのAAMで、イスラの影を見るまもなく撃墜された。16機が撃墜された時点で撤退したのは、良い判断だったと言えよう。
「はぁ……全く空賊はイスラの事がそんなに気に入ったのかね? しつこい奴はなんとやら、だ」
ルイス提督はため息まじりに空賊を罵った。彼の気持ちの通り、ここにいる全員が空賊の粘着質さに呆れていた。
「今の我々が最も憂慮するべきは内乱であることを、空賊は知っているものかと。これまで幾多の探索艦隊を葬って来た経験から、どのような嫌がらせが効果的かを分かっているのでしょう」
『つまり……補給の受けられない我々の行き先の不安を煽り、イスラの転身を促すわけですね』
「あわよくば、イスラと空中艦隊が分断さらればなお良し、でしょう」
おそらくだが、空賊側にも空中艦隊の存在は知られているだろう。ならば、イスラと空中艦隊の同盟が途切れるようなことがあれば、空賊からしたらお願いしたいくらいである。
「今現在、イスラの進路は一度も変わっていません。それを早急に変針すべきかと」
「不動星エテュカを目指さず、不規則に変針するという事かね?」
「はい。少なくとも変針により、前回のような分進合撃は防げます」
イスラの進路を変えずにそのまま直進しているのは、空中艦隊のレーダーによる早期警戒により、空賊は早期に撃滅できると考えたからだ。確かに合撃をされる危険性はあったが、それよりもレヴァームとの合流を優先したかった。
『しかし……それではレヴァームとの合流の可能性も低くなるのではないのですか?』
セルゲイ少佐が苦言を通すようにそう言った。
「今の我々が最も優先すべきは聖泉からの脱出であり、そのための変針です。レヴァームとの合流は……残念ながら運に任せましょう」
『しかし厄介ですね……イスラの住民の様子はどうですかね?』
「反転を主張する者が増えています。何か手を打たなければ、時と共に増えるでしょう」
マカロフは次にレオポルドに聞く。
『イスラの空挺騎士団はどうでしょう?』
「今のところは、我が騎士団にも大っぴらに反転を唱える者はいない。そちらは?」
『我々空中艦隊にも、まだ反転や離反を訴えるものはいません。しかし……里心がついてホームシックと診断された乗組員もいます、問題は多いです』
「反転派やホームシックは探索行動には避けられぬ過程だよ。私は前回もそれで逃げ戻ったのだ」
探索家であったルイス提督が言うと、説得力があるのが一番困る。
「だが今回は違う。死者まで出した挙句、おめおめ逃げたりはしない」
「なら早急に、反転派を宥める弁舌が必要です。下手なやり方は出来ないので、まずは複数の宣撫官をセンデジュアルへ送って下地を作った後、住民に信頼される人物へ、よく練った演説原稿を渡す必要があります」
「住民に信頼されている人物、ね……」
ルイスは呟いて構想を練る。程なくして思いついた候補者は、その場にいる全員で意見が一致している。お飾りではあるが、最も住民に信頼されている人物が、中央に座っていた。
『しかし、その説得をするには、まず我々は空賊を退けられると言う実力を住民に示す必要があるかと思います』
今度はタイーシャ少佐が、冴えた表情でそう言った。中年女性らしいふくよかな声が、テレビからこだまする。
「というと?」
『空賊を退けられない状況でそのような演説を行なっても、住民に対する効果は低いのでは? と考えまして』
「うーむ……確かにそうだな……空賊を退けられずに戦略的敗退を繰り返していたら、下地もよく練った原稿も意味がない」
厄介なことは多い。住民が毎日鳴り続ける空襲警報に怯えている中で演説をしても、あまり効果がないのは確かだ。
『なら……私に一つ考えがあります』
と、次に発言をしたのはあの熱血漢のアズレート中佐だ。彼は久しぶりに冴えた目つきをしている。あの表情は、良い考えが浮かんだ時に出る自信だ。
「なんでしょうか?」
『毎日空襲に怯えるのが住民の不安を煽るのであれば、その原因を潰すのです』
「原因を……潰す?」
『それは私も初耳だ。聞かせてくれないか?』
『簡単ですよ……空賊が追尾してくるなら……』
マカロフに促され、アズレートは口を開く。
『空賊の拠点を、逆に潰すのです』
アズレートはそう言って、ニヤリと笑った。
三式イドラの航続距離は、BF-109より長いです。
空を回遊する国家の航空機なのですから、おそらく元ネタのドイツ機よりは航続距離が長いと思ったのです。
それから、アンタレスの地下にあった航空機達ですが、勘のいい皆様ならそれぞれの航空機がどの世界からやって来たか、分かりましたよね?