とある飛空士の重巡航管制機《アイガイオン》 作:篠乃丸@綾香
あっという間にできちゃった、前回が長すぎたのかもね。
クソッタレの旅だ。
あるかもわからない空の果てを目指し、きれいに飾り付けられた島流しの旅だ。
そうやって邪魔なやつらを卑怯な手段で追い出して、今頃自分達だけでたらふく繁栄しているんだろう?
お前達はいつもそうだ。
クソッタレの旅に出よう。
何もかもなくなってしまえ。
8月21日イスラ中央庁舎執務室
「イスラ航海長」ルイス・デ・アラルコルは空挺騎士団からの報告書を読み上げていた。
イスラは今、警戒態勢にある。
元々空飛ぶ要塞としての機能があるイスラには多数の戦空機が配備され、聖泉に踏み入る前から警戒は続いていた。だが近日、謎の勢力「空賊」の奇襲を受けたばかりでありその警戒はさらに増している。
しかし聖泉に入り、海水から水素を取り出し燃料とする戦空機の水素補給がままならないことや、空挺騎士団団長レオポルド・メルセの「雷撃機を偵察に回したくない」と言う策略により不十分な偵察しか行われていない。
そもそも「空賊」には謎が多い、わかっているのは相手が高翼機などの旧式の戦空機を使用し、聖泉に踏み入るものを容赦無く攻撃するということだけだ。
だが先日、それを覆すであろう出来事が起きた。突然、イスラの防空警戒圏を突破して偵察機が気づかないルートで進行してきた謎の飛空機。血気盛んなレオポルド団長は警告なしに配下に撃墜させたが、機体はイスラ左岸に墜落。だが、駆けつけた騎士団からの報告は常軌を逸脱していた。
──人が乗っていない飛空機だなんてなんの冗談だ?
夢見がちなロマンチストと呼ばれるルイスですら、これは流石に自分の常識を超えている。ルイスは騎士団が撮ったと思われる白黒写真を数枚手に見比べていた。
騎士団からの報告では撃墜した飛空機には
ずんぐりとした図体、横に伸びた真っ直ぐな主翼に板みたいな水平の尾翼、通信アンテナらしき謎のレドーム、白黒写真からでもわかるキラリと光る白色の塗装。そして操縦席らしき部分は風防でもなんでもないただの白い装甲板が貼られている、大きさからしても人が乗れる大きさでもない。
「藪を突いたら亡霊が出てきたか」
木製の高翼機しか持たない空賊にこんな隠し球があるとは、とルイスは感心する。一体全体どうやって無人の偵察機を作ったのかはわからない、だが飛空機より飛空艇の方が詳しいルイスでもこの飛空機の価値がどれだけ高いか身にしみてわかる。
敵地偵察という任務は孤独で危険な任務だ。
味方の支援が期待できない中、敵に姿がバレることなく細心の注意を払い、情報を入手する。もし、敵に発見されればたった一機で行動する偵察機が帰還してくる可能性は低い。
だがもし、偵察機に割く人員が必要ないとしたら?人が乗っていないのでいくらでも無茶な偵察行動ができる、さらに貴重な飛空士を失うこともない。これ以上に洗練された偵察機はこの世界のどこを探しても見つからないだろう。
「アメリアの言うとおり、我々は手玉に取られていた訳だな」
「お呼びでしょうか?」
噂をすればなんとやら、声の主はアメリア・セルバンテス。24歳と言う若さでこのイスラを仕切る四人会議の一人──ルイスやレオポルドもその一人──イスラ「外務長」正式には対外防諜・積極諜報・宣伝謀略本部長(長い)を務めるこの美しい女性がノックをする前に扉の前でそう言った。
「失礼します」と言ってから部屋に入ったアメリアは白の将校服に身を包み、何やら分厚い紙の束を持っていた。
「例の無人飛空機の構造解析第一次報告書です、ご閲覧を」
目を通せと言われた資料に言われたとおりに目を通す、箱を開けてみればますます気味が悪い。機首の装甲板を外してみれば、棺桶の様な謎の機械が出てきたらしい。「中に死んだ人間が入っている」だの「亡霊が操縦している」だの出所不明の噂が空挺騎士団の中で広まってしまい、今では整備科でも近づきたがらなくなってしまっている。
「アメリア、君はこの飛空機についてどう思う?」
「現時点ではこれを運用可能な、何処かの組織所属の偵察機としか言いようがありません。無人である為イスラへ近づき過ぎ、好戦的な団長率いる空挺騎士団に撃墜された。ただそれだけです」
「そうじゃない、あまりに現実味がなさすぎないかね」
「幻想家である提督にしては珍しく弱気ですね、ですがこれは事実です。確かに無人で飛空機が飛び、イスラ表面を撮影しました」
確かに、それは事実だ。無人の飛空機だなんて未だに信じられないが、こうして実際に言及されると現実味が増してくる。そして、ルイスは聖泉に初めてたどり着いた日、アメリアが言っていた事を思い出す。
「……君は前に「空賊は我々に偽の情報をつかませようとしている」と言った事を覚えているかね?」
「文脈が多数省略されていますが、要約するならばそれで合っています」
「君の言葉に確信が持てた気がするよ」
「と言うと?」
「彼らが古めかしい高翼機ばかり使っていた事そのものが敵の罠だったと思うようになったんだ、君の言うとおりね。
こんな先進的過ぎる飛空機を保有しているなら、撃墜した飛空機そのものがフェイクだったとしても不思議ではない」
ルイスはアメリアのこの意見に当初は「いくらなんでも、そこまでやるかね?」と冗談交じりの返答をするほど、あまり信じてはいなかった。だが、いよいよ彼女の先を見越す能力は計り知れない、つくづく敵に回したくないと感じながらルイスはこの説を信じるしかなかった。
しかしその理論だと、ある矛盾が生じる。
「それですと敵地に自身の切り札である無人飛空機をわざわざ偵察に回した意図が分かりません。本来の使用目的とはいえ、安易に自らの手の内を晒す様な真似を彼らがするでしょうか?」
う〜む、とルイスはうな垂れた。
確かに、今まで高翼機などを使って我々を油断させようとしていた空賊どもが、いきなりこんな先進的過ぎる隠し球を敵地のど真ん中に墜落させてしまうだなんてヘマを犯す方も何かおかしい。
「提督」
「なんだね」
「これらの矛盾から私はこの無人飛空機の持ち主は、この聖泉の何処かにいる第三勢力では無いかと推測します」
「我々でも、空賊でも無く?」
そんなはずはないだろう、今この聖泉上空には空賊以外では我々イスラしかいないはず、幾ら何でも聖泉が広いとは言え、それは信じられない。何故なら聖泉には空賊という敵性勢力が存在するからだ。それにもし、我々の探索していない海域に未知の国があったとしても、聖泉まではかなり遠い。想像神話が伝わって、大規模な探索隊でもない限り安易にこの聖泉に近づこうとは思えないだろう。ましてや我々以外の探索隊は、現時点では確認されていない。
だが、もし誰か我々以外の誰かがイスラを偵察しにあの無人飛空機を送ってきたとしたら全ての辻褄が合うだろう。
「今のところは無差別に攻撃をする様な勢力とは言えません、もしかすると我々への接触が目的かと。
近々、彼らの使者がイスラにやってくる可能性もあり得ます。今のうちに交渉の準備と練習をなさる事をお勧めします」
「何処かの鼻息の荒い団長のせいで、交渉は無人飛空機の処遇で丸潰れになりそうだがね」
ルイスはお得意の冗談交じりの返答を返す。
それでもアメリアは表情を変えていない。
「確かに、その無人飛空機の撃墜に関する処遇は彼らとの争点になるでしょう。我々は事を荒立てず、できる限りの謝罪で誠意を伝えることが重要です。まあ、勝手に侵入してきた彼らの仕業でもあるので言及するつもりですが、現時点で新たな敵を作ることは愚策です」
「団長のせいで嫌な要求を飲まされるかも知れないよ」
「責任は全て彼に押し付けましょう、今からあの
蛮族ことレオポルド団長とは犬猿の仲であるアメリアは敵意むき出しの内容の話を無表情で続けた。
──その時、庁舎にまで伝わる甲高いサイレンが鳴り始めた。
空襲警報だ。ルイスはとっさに立ち上がり、飛空場方面の窓を開ける。まだ敵機は上空には確認できない。おそらく左岸ヴァン・ヴィール地区から攻められているのだろう。
「敵襲か?」
「その可能性が高いと思われます、直ちに避難を」
「敵は空賊か?」
「それは分かりかねます」
アメリアはこんな状況でも冷静な口調で対応した。執務室の扉を開け、木製の床の廊下をアメリアと共に早歩きで防空壕へと向かう中、ルイスはふと思った。
「無人飛空機の報復じゃなければいいが……」
飛空場からラガルディアのローター音が鳴り響き、その機体が宙を飛び、イスラ左岸ヴァン・ヴィール地区へと飛んでいく。そこにイスラの運命を変える出会いが待ち受けているとも知らず。
彼らはこれから起こる出来事に注目しなければならない。そうでなければ運命に飲み込まれてしまう。
だが、今はただ──
──天使とダンスしてな。
今回は初めてのイスラサイドです。
飛空士勢にとってエスコン世界の技術の数々は全て信じられないだろうだね。無人で飛ぶ飛空機ってとこから発狂しそう。
解説コーナー
《イスラ》
「浮遊岩」と呼ばれる鉱物からなる高度2000メートルに浮揚する空飛ぶ島。東西9キロメートル、南北25キロメートル、外周70キロメートル、上層の表面積243平方キロメートル。強大な武装や飛空場を備え、高い制空能力を持つイスラは軍事的緊張を招く恐れがあったため、平和な時代ではかえって持て余されていた。バレステロスの皇王グレゴリオ・ラ・イールはこれを空の果てを見つけるために利用する「イスラ計画」を立案し。そして隣国の斎ノ国、帝政ベナレスとともに、共同してイスラの改造作業を行った。
島とは言え、デカすぎない……?