とある飛空士の重巡航管制機《アイガイオン》   作:篠乃丸@綾香

7 / 33
第7話〜天使達とのファーストコンタクト〜

島に向かって機首を下げていく、急降下によりマイナスGで頭に血が上っていく。不快な感覚も、頭が潰れるようなことも、気持ち悪さもない。全て慣れたことだ、むしろ頭が冴える。

 

まだ表面までだいぶ距離があるため、戦闘が起きている空域を見る。もうすでにドッグファイトが始まっているようで、葵い空に対し、紅い曳光弾達の軌跡が空を汚ししている。たびたび敵機らしき戦闘機が炎の尾を引き、地面へ落ちていく。復翼爆撃機に対しても地上からの高射砲対空砲の花火がちらほら、ちらほらと爆裂の花を咲かせている。

 

ロレンズは改めて武装を確認、まずは機銃の安全装置を解除する。次にAAMサイドワインダーが4発、この武装はこの島の戦闘機がIFFを積んでいない可能性があるため、赤外線誘導のミサイルは誤射の危険性がある。安全装置は解除はするものの、使用は後回しだ。偵察用のポットを抱えているため、武装がこれだけしかないがロレンズにとっては問題ない量だ。

 

近くの空に大きめの雲を見つけた。ロレンズエンジンの出力全開で近場の雲に隠れ、雲を切り裂くように戦闘空域へと突入する作戦を思いついた。アフターバーナーを最大まで上げる。エンジンノズルから数千度の陽炎を吹き出し、空気を焦がすと、機体の速度計の速度はみるみるうちに上がっていき、搭乗者に心地の良い加速Gを与える。

 

雲まであと1400メートル、高度およそ4400メートル。音速の2倍の速さで空を切り裂くフランカーであれば、ものの数秒で到達する距離だ。島へのソニックブームの発生を防ぐ為に、地面に着く前に減速する必要がある。ロレンズはスロットルを引こうとした。

 

 

 

 

その刹那、雲から巨鯨が飛び出して来た。

 

 

 

「⁉︎」

 

 

慌ててロレンズはフットペダルを左に踏み、機体を回避行動に移す。フランカーの動きはこんな時でも血が繋がっているかのように反応が早い。それでも当たりそうな機体の角度を変える為左に半ロール、そしてそのまま巨鯨のせり立つガラス張りの巨塔、その目の前を横切る形でフランカーは駆け抜けた。

 

機体を急減速、島の表面に対し水平になるように調整してロレンズは巨鯨を見上げた。

 

黒光りする装甲、船のスクリューを大型化し島すら吹き飛ばしそうな推進装置、台座にいくつも取り付けられたハリネズミの如き対空砲、その巨体に似つかわしい大きさの甲板に禍々しい長身の砲塔を何基も積んだ戦闘艦。旧世代の海戦で花形と呼ばれた戦艦と呼ばれる種類の戦闘艦だ。

 

 

「戦艦…なのか…?」

 

 

よく見ればロレンズの知っている大戦時の戦艦とはかけ離れた形をしている。艦首はせり出し、分厚い装甲にはきらびやかな装飾がなされ、ノースポイント産のサブカルチャー作品に出てきそうなファンタジー風の飛行戦艦がそこにいた。1隻しか確認できないがこんなものまで配備しているとは。

 

どうやら、ロレンズのフランカーは艦橋のすぐ目の前を超音速で通過してしまったらしい。幸いにも艦橋の窓ガラスは割れていないようだが、乗組員達を驚かせてしまったことを心の中で謝罪する。

 

山脈を飛び越え、空戦空域に到達する。高度3500メートル、敵機はここから600メートルほど下で戦っている。状況は島側の軍隊の方が有利な様だ。だが、爆撃機は一機も撃墜できていない様でその翼の下の爆弾を下ろすのを今か今かと舌舐めずりしているようだった。

 

 

「まずは制空権の制圧だな」

 

 

と、ロレンズの目に高翼機に追われた一機の複座戦闘機が目に映った。まだ複座戦闘機の方は油断しているのか、後ろに気づていない。

 

 

「シュトリゴン0、交戦!(エンゲージ!)

 

 

機体をブレイク、2機の上方から接近、機銃を打つ為に首尾線を敵機に合わせる。

 

操縦桿の発射トリガーをほんの一瞬だけ、それこそ拳銃を撃つかの如く素早く引く。ベテランパイロットらしい制御された機銃掃射。フランカーに搭載されたユークトバニア製GSh-30-1航空機関砲から打ち出される30ミリ弾は、連射性能こそオーシア製航空機機銃であるM61バルカン砲には及ばないものの、高い破壊力を持っている。たった3発だが木製の高翼機に対して30ミリは、もはやオーバーキルに値する。

 

着弾するなりパックリと、それこそ飛行機の模型を手で壊すかのようにバラバラに砕け散った。

 

 

「まずは一機!」

 

 

そのまま機種を上げ、追われていた複座戦闘機の目の前を通り過ぎる。

 

次は違う複座戦闘機の上方から接近する別の高翼機、複座戦闘機は前方の高翼機を追うのに夢中で上からやってくる刃に気づいていない。照準を素早く合わせる。

 

再び機銃掃射、今度は4発。一瞬高翼機の操縦士が驚愕する顔が浮かんだが、直ぐに血飛沫に変わってしまった。

 

 

「2機!」

 

 

ロレンズの存在に気づいたのか、一機の高翼機が急接近してきた。高翼機などジェット戦闘機には全く持って脅威ではないが、低速域での機動性は互角である。重たいジェット機よりも軽い高翼機の方が機動性を確保できるからだ。そのため背後を取られたら回避行動に移る。撃ち出された両翼の曳光弾を華麗にバレルロール、照準がままならない下手な射撃は目標を見失った。

 

相手からミサイルが来るわけでもない、ロレンズはフレアも炊かずに、振り切ってやろうと速度を上げる為スロットルに手を掛けた。

 

ん?待てよ、フレア?

 

「やってみるか」

 

 

良いことを思いついた。

ロレンズは速度を下げて、機首を上げ、高度を高翼機よりも上に取る。そのトロトロとした動きに高翼機は貰ったとばかりに照準を合わせる。次の瞬間、ロレンズはフレアのスイッチを押した。

 

機尾から放出される数百の火球、いきなり燃え出したかのように見えたフランカーに驚いた高翼機は、そのままいくつもの火球にぶち当たり、木製の機体を炎の流れ星となる。だが火を出したフランカーは何故か損傷した様子はなく、ただ悠然と飛び続ける。

 

フレアというのは赤外線ロックオンをくらます為、機体の温度より高い火球を放出する。その正体は燃えるマグネシウムであり、温度は数千度となる。直ぐに燃え尽きるものの、フレアに当たりでもすれば、木や布などに燃え移る。つまり、木と布で出来た旧式高翼戦闘機はあっという間に燃え尽きる。3機目。

 

 

<<こちら空挺騎士団!乱入してきた戦空機はなんだ⁈>>

 

<<すごい速さで3機もやりやがった!あいつは味方なのか⁈>>

 

<<こちら飛空科一年カルエル・アルバス、少なくとも敵ではないようです!>>

 

<<りょ、了解だ!全機、あの血塗りに獲物を全部奪われる前に俺たちも行くぞ‼︎>>

 

 

この島の軍隊らしき隊員たちの通信も、いきなり現れたフランカーに驚いている様子だ。無線は混乱しているが、その分ロレンズが奮闘すればいいだけである。

 

すると味方が多数落とされて頭に血が上ったのだろう、敵高翼機が3機こちらへ向かってくる。少し遊んでみるか、ロレンズはアフターバーナーを吹かし、一気に引き離す。距離がみるみるうちに離れていき、まだ敵機が見える範囲で急減速。操縦桿を引き、機首を上げ、それについて来る敵機をよそに宙返りをする。主翼がペイパーコーンを帯び、水蒸気の三角錐が浮かび上がる。

 

一方、追ってきた高翼機の操縦士達は下手な操縦しかしない。機体の加速が足りずに高度を上げるにつれて速度が緩み、機体が失速しかけて宙返りの半径はみるみるうちに大きくなっていく。彼らが半円を描く前にフランカーが一回転。それでも敵機が上昇し続けるのは機体の性能を理解していないからなのか、それとも敵を見失ったからなのか。

 

ロレンズのフランカーは風を切り、飛行機雲を引きながら、彼らの背後を取る。ロレンズは操縦桿の射撃トリガーを引いた。機銃弾で3機の高翼機がバラバラに砕け散り、木製の破片が空に舞う。これで通算6機目、制空権はもう直ぐ確保できそうだ。

 

 

「?」

 

 

周りを見渡すと、ロレンズは敵の複翼爆撃機を見つけた。そのまま決して小さくない湖の近くの街へと向かっていく、もうすでにここからでも街の空襲警報が聞こえてくる。対空砲は何故か彼らに射撃する気配はない。

 

 

「まずいな」

 

 

ロレンズは見逃せなかった。一度ピッチアップ、そのまま高度を上げて操縦桿を引く。上から回り込む形、背面飛行の状態から期待を水平に戻してHUDのマーカーを確認する。相手は木製とはいえ爆撃機、機銃では破壊するまでの時間が惜しい。ロレンズはAAMを使うことにした、目標を熱探知ロック。フレアを搭載していない爆撃機などただの的である。

 

 

「目標ロック!シュトリゴン0、FOX2!

(赤外線誘導空対空ミサイル発射!)

 

 

途端、矢が放たれた。機体が一発100キロ近いサイドワインダーを2発放つと、機体が軽くなり、ふわりとした感覚がロレンズを包む。

 

ロックオンされたことに気づいていない2機の爆撃機は重たい爆弾を積みながら、左右に回避しようとするものの、12Gの旋回が可能なユークトバニア製AAMは、ここまでノロマな目標を逃すことは絶対にない。ミサイルの近接信管が作動、爆撃機は炎に包まれた。命中。当然の事だ。ロレンズはあまり喜びもせずにすぐさま別の爆撃機に機銃の照準を合わせようとする。

 

 

「⁉︎」

 

 

途端、背後からの殺気に気づいたロレンズはすぐさまフットペタルを踏み込み、右に滑る。さっきまでロレンズがいたところを曳光弾が駆け巡る。

 

後方を見るとジェット機であるフランカーに対し、死に物狂いで追いかけてくる高翼機が。こちらは亜音速で飛行しているが、相手はほぼ最高速度に近い。

 

 

「なるほど、まだ残っていたか」

 

 

後ろを取られたのにもかかわらずロレンズはむしろこの状況を楽しんでいる。新しいおもちゃを与えられた子供のように。するとロレンズはフランカーのスロットルを限界まで減速、胴体のエアブレーキが飛び出し、空気抵抗がます。すぐさまコックピットの計器から失速警報が出る。ロレンズはまるで聞こえていないかのようにそのまま機体のピッチを垂直にあげる。視界が黒くなる、雲が狭い視界いっぱいに広がる。

 

 

 

 

相手の機体が通り過ぎた。

 

 

 

 

ロレンズは操縦桿を倒し、機体を垂直から水平に戻す。同時にスロットルを元に戻し、失速状態から回復、フランカーは何事もなかったかのように飛んでいる。目の前には先程まで後ろを追いかけていた高翼機。

 

 

「喰らえっ!」

 

 

機銃が火を噴く、曳光弾の軌跡が古い高翼機を粉々に粉砕していった。

 

ピッチ上げ運動、これだけなら普通の戦闘機、それこそレシプロ機でもできる簡単な動作だ。通常ピッチを上げ、上昇する時は重力に逆らうので上昇力の低いレシプロ機だと、まず加速をつけてからでないと上昇力が足りない。に対しジェット機は加速も速度も速い為垂直にアフターバーナーを発てなくても上昇距離は高い。だが、機首を上げてその場に静止するとなれば話は別だ。

 

 

 

プガチャフ・コブラ

 

 

 

戦闘機のマニューバの1つで、水平飛行中に進行方向と高度を変えずに機体姿勢を急激にピッチアップして機首の角度を90度近く取り、そのまま水平姿勢に戻る機動。その瞬間的な挙動と急減速に伴う操縦の困難さのため、非常に難易度が高く、パイロットに高い技量が求められるだけでなく、「フランカーシリーズ」や「F-22ラプター」などの一部の機体でしかできない機動と言われている。

 

 

「久しぶりだな、この機動は」

 

 

相手はただの高翼機、速度が遅いためコブラ中のフランカーを通り過ぎるのに時間がかかったほど性能、技量共に差がありすぎる。ロレンズに勝つことはできないだろう。だが、ロレンズは相手が高翼機であろうと容赦はしない。誰であろうと本気で戦うのが彼の戦い方だった。

 

機体もそれに応えるように魔術師のエムブレムを輝かせた。

 

 

 

 

 

 

「くそっ!数が多すぎる!」

 

 

カルエルはそう吐き捨てて操縦把柄を握りしめる。空賊高翼機は1機1機はたいした実力ではない。しかし、数に身を任せ2機で1機を仕留めるかのごとく空挺騎士団や撤退途中で空戦空域に入ったエル・アルコンまでとも互角に戦っていた。エスコリアル飛空場まではかなり近くなったが、これでは逃げるのに必死で着陸どころではない。

 

その時、閃光弾の曳光がカルエル機を襲った。カルエルは咄嗟にフットペダルを左に踏み込む、機体が滑るように曲がっていくのを感じ取ると閃光弾の曳光だけがさっきまで居た空に取り残される。

 

 

「カルエルくん!爆撃機が!」

 

 

後席のクレアがいきなり叫び出す。はっとして編隊飛行する爆撃機達を見ると、まだ半分も撃墜されていない。爆撃機は悠々と対空陣地に突っ込んで行っている。まるで度胸試しのように。

 

これはまずい事になった。複翼爆撃機であろうと爆撃機は爆撃機、腹に空対地爆弾を2つ抱え、センテジュアル地区へと向かっている。他の戦空機は高翼機を撃ち落とす兎狩に夢中で誰も気づいていない。

 

 

「対空陣地は何をやっているんだ⁉︎」

 

 

肝心の対空砲も爆撃機に撃つ気配が全くない。毒を吐き、参戦できない悔しさが体のそこから湧いてくる。

 

 

「あっ!カルエルくん後ろ!」

 

 

伝音管から声がした、見れば背後から空賊の高翼機が機銃をむき出して迫って来ていた。どうやらさっきのやつが反転してきたようだ。驚愕をよそに空賊機は敵に対し一矢報いようと、勇敢にもその牙を剥いた。

 

相手が旧式戦闘機だからといって油断した、思えば相手は旧式とはいえ、十分人を殺せる装備を揃えた兵器だ。これは空戦、油断したものからやられていく。クレアが慌ててライフルを向けるものの、時すでに遅し。

 

 

 

空賊機はそのボロボロの牙を振りかざそうとする。

 

 

 

刹那──

 

 

 

曳光弾が高翼機に襲いかかる。

 

 

 

グシャリ。

 

 

 

──敵の高翼機が潰れた。

 

 

 

「「え?」」

 

 

 

クレアと声が重なった。同時に風を切り裂くかの様な音が聞こえてくる、早い疾風の様な音。明らかな殺意を持って近く悪魔の様な風、その正体を確かめようとした瞬間──

 

 

 

──疾風が通り過ぎた。

 

 

 

衝撃でエル・アルコンはバランスを崩しかけ、機体をガタガタと軋ませる。

 

 

「きゃあ‼︎」

「な、何?今の音⁉︎」

 

 

一瞬だけだが、風の全貌を見ることができた。

 

美しさとおぞましさを兼ね備えた戦空機だ。雷撃機と見間違えるほどの大きな主翼。尾翼は水平尾翼、垂直尾翼だけでなく、何故か機首の先にも2枚付いている。確か、先端翼と呼ばれる機構だった気がする。3枚の翼は綺麗な三角形の形をしている。

天蓋がなく、ひどく視界の良さそうな風防は前に前にとせり出して、ちょうど先端翼のあたりにある。

翼の端には小さく、細長い空雷のような物を4発積んでいるが、あの細さで威力は十分なのだろうか?

機体は赤黒い血をぶちまけた様な恐ろしい色をして、まるで吸血鬼の様だった。そしてカルエル達飛空科生は目を疑った。その機体はプロペラ無しで飛んでいたからだ。

 

 

 

まさかジェットエンジン?いやそれはバレステロス、斎ノ国、ベナレスの3カ国でもまだ考察段階じゃ……そんな疑問に答えることはなく、血塗りの戦空機は後尾に付いた謎のノズルから陽炎の炎を上げていくだけ。

 

 

 

その後の空戦は、もはや空戦と呼べる代物ではなく一方的な虐殺に等しいかった。

 

 

 

そのまま血塗りの戦空機は別のラガルディアに上から襲いかかってくる高翼機に対し照準を合わせる。ラガルディアは目の前の高翼機に夢中で周りを見ていなかった。高翼機ごときに上を取られるとは、空挺騎士団はこの程度か、と血塗りの戦空機に乗った飛空士が言っているように思えた。

 

 

 

連続した銃弾の刃が敵を包む。

 

 

 

先程カルエル機を追う敵機を粉砕した機銃の首尾線が、哀れな空賊機にぴったりと合わせられ、機関銃弾の牙が走る。またも、空賊機は粉々になった。

 

 

「すごい……」

 

 

カルエルは言葉を失い、クレアも一言だけ呟く。他の飛空科生もあの血塗りの戦空機の軌道と戦い方に見とれているようだった。

 

彼の存在に気づいたのだろう、別の方向から空賊機が後ろを取った。機銃の照準を合わせることなく空賊機は曳光弾を乱射するが、血塗りの戦空機は華麗な螺旋機動をとり容易に回避。余裕ができたのか「どうぞ後ろを取ってください」と言わんばかりに機首を上にあげた。そして──

 

 

 

機尾から紅の炎を吹き出した。

 

 

 

紅の火球は白い煙の尾を引きながら無数に落ちていく。突然飛び出してきた火球に空賊機は成すすべなく次々と当たってしまう。木製の高翼機はすぐさま翼から燃え移る、飛空機の命である主翼から出火した空賊機はそのまま赤い紅蓮の尾を引いて墜落していった。

 

あれはなんだ?

まさか後ろについた敵機を火だるまにする装備が搭載されているのか?なんて野蛮で、なんて汚い手品で、なんて──

 

 

「美しい灯の軌跡なんだ……」

 

 

汚い手品と思いながらも、カルエルは天使の羽のような炎の煙の軌跡に目を奪われた。

 

 

<<こちら空挺騎士団!乱入してきた戦空機はなんだ⁈>>

 

<<すごい速さで3機もやりやがった!あいつは味方なのか⁈>>

 

 

空挺騎士団員もあの血塗りの戦空機を確認したようだった。血塗りの突然の乱入に通信が混乱しているようで、指示を求めている。

 

 

「こちら飛空科一年カルエル・アルバス、少なくとも敵ではないようです!」

 

<<りょ、了解だ!全機、あの血塗りに獲物を全部奪われる前に俺たちも行くぞ‼︎>>

 

 

これで空挺騎士団の士気も上がったようだった。空挺騎士団の戦空機ラガルティアが翼を翻して空賊機に集まり、攻撃を加熱させていく。

 

すると怒った空賊機が今度は背後から3機襲いかかる。血塗りの戦空機はそれに対し振り向きもせずに、確認したように見えた。血塗りの戦空機のノズルの陽炎が増す。機体が加速していき、みるみるうちに空賊機を引き離す。カルエルはあんな速さで飛ぶ戦空機を見たことがなかった。

 

血塗りの戦空機が機首を上げる、宙返りだ。平然と行っているが空賊機は加速が足りずに宙返りの半径がみるみるうちに大きくなっていく。同時に血塗りの戦空機の主翼からも飛行機雲が引かれる。宙返りして自分まで失速したか?と思ったが違った。奴は失速して雲を引いているのではなく、あまりの機動性の高さに翼が雲を引いていたのだ。そして血塗りの戦空機は驚くほど狭い半径の宙返りを行い、空賊機の背後を取った。ただの宙返りで。

 

 

 

息をするかのような無慈悲な殺意。一瞬、もがれた翼の断末魔が聞こえた気がした。

 

 

 

3機同時撃墜、凄まじい技量だ。その機動性もさることながら、乗っている飛空士もとんでもない技量を持っていることが、カルエルには身にしみるかのように思い知らされた。

 

 

「カルエルくん!今の内に飛空場まで戻ろう!」

 

「う、うん!みんなエスコリアル飛空場まで一直線だ!」

 

 

するとカルエル達が行動に入る前に血塗りの戦空機が行動に出た。機首を上げてからの背面飛行、機体を水平に戻す頃には機首はすでに爆撃機の方向へ向いていた。

 

 

 

瞬間、血塗りの戦空機の両主翼から矢が放たれた。

 

 

 

「空雷?一体何を?」

 

 

空雷というのは速度が遅く、そのまま真っ直ぐに進む。そのため、このような小さめの爆撃機相手ではすぐに回避されてしまう。なので普通空雷というのは足や機動性が遅い飛空艇や大型爆撃機に対して使われる。この場合も危険を察知した爆撃機が左右に滑り、安易に回避されてしまう。

 

だが、様子がおかしい。

真っ直ぐに進むはずの空雷が何故か自ら進路を変えた。

 

 

「「え?」」

 

 

まるで空雷自身に意思があるかのように、左右に回避した爆撃機を追尾する。

 

 

 

赤い紅蓮の花が咲く、黒煙と火の玉が爆撃機を包む。

 

 

 

何が何だかわからない、風の影響で空雷が曲がったか?と思ったが、空は青く静かに晴れ渡り、風など1つも吹いていない。思考が追いつかないまま血塗りの戦空機は次の行動に移る。後方から敵機、とっさに機体を滑らせ曳光弾を回避した血塗りの戦空機。カルエルも、クレアも、息をするのも忘れてそれを直視する。

 

血塗りの戦空機が速度を急減速する。機体の上部から兎耳のような物が飛び出して、空気抵抗を上げる。そしてそのまま機首を目一杯、それこそ垂直になるまで上げた。そして何故か血塗りの戦空機は上がるはずの高度が全く上がっていながった。それどころか、その場で急静止し続けた。

 

空賊機は信じられない様子で追い越していくと、血塗りの戦空機はそのまま水平飛行に戻った。

 

 

「「は?」」

 

 

あり得るだろうか?

 

戦空機が機首を上げたまま、空中で静止することの異常さが分かるだろうか?さらにそのまま機首を水平に戻すありえなさが分かるだろか?もしや、ラガルディアやエル・アルコンのようにローターを主翼ごと角度を変えることで空中静止することのできる戦空機なのかと思ったが、推力を作っていると思わしきノズルはほとんど向きを変えていない。

 

血塗りの戦空機は何事もなかったかのように機銃の照準を合わせる。

そして──

 

 

 

自惚れ者への裁きの鉄槌。

 

 

 

何かを叫ぶ暇もなかった。

高翼機は機銃で粉々になるまで粉砕され、跡形もなくなった。

飛空士は何が起こったのか分からぬまま死んでいった。

 

 

「あり得ない……」

 

 

自然とそんな言葉が出てくる。

 

カルエルとクレアは血塗りの機体の超機動に目を奪われる。空中で華麗すぎる飛行を行う血塗りの戦空機、騒音に近かったジェットエンジンらしき音も、もはや吸血鬼の宴の音楽に聞こえる。カルエルは機首上げ運動の時、機体についた2枚の垂直尾翼に描かれた絵を見つけた。鎌を背負い、黒いローブをかぶった──

 

 

「魔術師……」

 

 

もはやこの空戦は魔術師の空だった。

なぜ空賊はそれでも撤退しないのだろう?自らの技量の低さを知らず慢心しているのだろうか?それともただの度胸試しのつもりなのだろうか?

 

 

 

共通することは空賊が愚かな翼を翻して飛んでいることだけであった。そしてこれが、後に天使と呼ばれる飛空士達との最初の出会いであった。




用語解説コーナー

《su-33 フランカーD》
現実ではシー・フランカーなんて呼ばれている機体。ロシア製戦闘機、su-27フランカーを空母での運用を可能とした海軍仕様に改修した機体。しかし、配備当初ロシア海軍は財政が緊迫しており空母も少なかった事から、配備はごく少数の部隊に限られている。生産数たったの24機、悲しい。

エスコン世界ではユークトバニア製艦上戦闘機。エストバキア連邦も購入、シュトリゴン隊の機体として登場する。

ノリアキ「ロレンズさんはフランカーに乗れていいよな」

シャロン「おしゃべりしない」

ロレンズ「攻撃を開始します」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。