とある飛空士の重巡航管制機《アイガイオン》   作:篠乃丸@綾香

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第9話〜信頼の機体〜

「さて、最初の質問だ。君はどこからやって来た?」

 

 

先程と同じ尋問室、ルイスは一番はじめに一番答えづらい質問をして来た。どうするべきだろうか、ここは正直にありのまま起こったことを全て話せばいいのだろうが、地図を見せても異世界人だと信じてくれなかったソニアのこともあるため不安が残る。が、それしかないだろう。

 

 

「まず、私……いえ我々はこの世界の人間ではありません」

 

「お前……まだふざけているのか?」

 

「まあまてソニア君……この世界の人間ではないというと?」

 

「これを見てください」

 

 

先程ソニアに見せた地図を再び広げる。ロレンズの世界の四つの大陸が綺麗に描かれた世界地図だ。

 

 

「これは……」

 

「我々の世界の大陸を表した世界地図です。これが我々がこの世界の人間ではないと言う証拠になるでしょう」

 

「提督、この地図は我々の探索していない地域の大陸という可能性があります。こいつの妄言をあまり信用しないほうがよろしいかと……」

 

 

ソニアの言葉を聞き流すかのように、ルイスは広げられた地図をじっくりと見渡す。その目を青い目を宝石のように輝かせ、新しい発見をした子供のように。やがて一通り見終わったのかおもむろに口を開いた。

 

 

「ほうほう、たしかに我々がまだ確認していない国々ばかりだな。君がさっき言ったエストバキアという国はどこにあるのかね?」

 

 

ロレンズはそう言われて地図の西端の北側の大陸、アネア大陸を指す。そのから辿ってアネア大陸の東側にあるエストバキアを指差す。

 

 

「この国がエストバキア連邦となります」

 

「ほう、なるほど。我々とは異なる世界か……たしかに、どこまで行っても地平線が続く我々の世界とは地理が違うようだな」

 

 

今だに半信半疑のようで、また地図をじっくりと確認する。もう少し粘れば信用してもらえそうだ。しかし、ルイスは口を開き「だが」というと。

 

 

「所詮は紙の地図だ。「異世界からやって来た」とはたしかにロマンスの魅力溢れるが、これだけではその主張は信じたくても信じきれないね」

 

 

と答えた。信じきれない、というルイスの反応は至極真っ当だろう。やはりか……と思いつつロレンズが反論をしようとする前にルイスが「そこで……」と繋げてもう一つの質問を提示した。

 

 

「二つ目の質問だ。君が乗っていたあの血塗りの戦空機はどのような代物なのかね?ジェットエンジンは我々3カ国ではどこもまだ考察段階なのだが?」

 

 

ルイスは好奇心旺盛な子供のように目を輝かせて質問して来た。

 

さっきから度々出てくる戦空機と言う言葉はさっきも聞いたが、戦闘機のことだろうか?聞き間違いのないように確認しておきたい。そのことを質問すると「それは方言程度の差だろう」と、ルイスに返された。三ヶ国の中でも言語に差はあるらしく、戦空機ひとつ取っても様々な言い方があるそうだ。

 

 

「わかりました、本題に戻りましょう。あの戦闘機はsu-33「シー・フランカー」という名前です。フランカーという名の大型格闘戦闘機を艦上機に改修した機体で、製造国はユークトバニア連邦共和国、あれはエストバキアへの輸出モデルとなります」

 

「あの大きさで艦上機だと……着艦する空母は一体どれだけの大きさなんだ……」

 

 

ソニアはおそらくだが空軍に所属しているのかもしれないとロレンズ思った。航空機に関する知識から見たからこその驚きようが伝わってくるからだ。

 

 

「なるほど、機体の大まかな性能を聞かせてくれ」

 

「航続距離1200海里、実用上昇限度10,000メートル。速度は最高巡航速度約800キロ、最高速度1700キロ以上だ」

 

 

とは言ったが、かなりスペックを下げて誤魔化しておいた。これから友好関係を築く相手とはいえ、機密である戦闘機の性能を完全に公にするわけにはいかないからだ。それでもフランカーの性能はかなり高い為、盛らずともこれだけの性能を持っているからだ。

 

 

「じ、時速1700キロだと……」

「なんと……音速をも超えることができるかのか!素晴らしい!」

 

 

そのためもあってか、ルイス達にとってはかなりの衝撃だったようで、二人は各々の反応をした。常識を超えた性能に開いた口が塞がらないソニアを横目にルイスが口を開く。

 

 

「ソニア君信じてあげようではないか、彼の言っていることは本当だと」

 

「て、提督⁉︎」

 

「さっきの地図もそうだが、ロレンズ君が乗って来たあの戦空機が何よりの証拠さ」

 

 

ルイスはあのフランカーについて語り出した。

 

 

「ロレンズ君が言った性能は、たしかに我々の常識を逸脱しているが、さっきの空戦でその性能は証明されている。あんなものを作れる技術は我々の世界にはない、それなら我々の知らない場所からやってきたとも考えられるさ」

 

 

たしかに、彼らの技術レベルから見れば我々で言うところのレシプロ戦闘機時代に当たる。ジェットエンジンが開発途中となればその転換期に当たるだろう。そんな彼らから見れば、純粋な第4.5世代機に当たるフランカーはまさに異次元の戦闘機に見えるだろう。まさか、それが彼らを信用させる材料になるとは……

 

 

「た、たしかに……」

 

「まさか世界の次元をまたいでやって来たとは、恐れ入った。まるで運命のように惹かれあったかのようだ。そう、運命!君と我々は風の運命に導かれて出会ったのだろう……今こうして話せているのも奇跡さ!」

 

 

ルイスは新たな発見をした科学者のように、胸を躍らせて奇跡に酔う。

 

 

「信用していただき、ありがとうございます。ルイス航海長」

 

 

ロレンズは自然と頬に笑みが浮かぶのを感じた。まさか、ロレンズが直接乗ってきたフランカーが、彼らを信用させる証拠材料になるとは。それでも、今までのしかかっていた不安が風で吹き飛んだような安心感だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イスラ左岸、エスコリアル飛空場。血塗りの戦空機が突然着陸した飛空場では、わざわざメリクリウス飛空場から持ってきたとみられるトーイングカーが血塗りの機体を牽引して飛空場の格納庫に置かれた。飛空士が尋問を受けている以上、血塗りの機体を飛ばすことができない為、トンネルを抜けてメリクリウス飛空場まで持っていけない。そのためこの飛空場で管理されることになったそうだ。

 

 

「大きいでごわすな」

 

「うん、ほんと大きいッス」

 

 

と、ウォルフガングとチハルは血塗りの戦空気機に対し各々の感想を口にする。

彼らは放課後を利用して、興味や好奇心でわざわざ血塗りの機体が格納されているエスコリアル飛空場の格納庫に見にきたのだった。先程の空戦でもそのシルエットは確認済みだったが、地上に降りた後、改めて間近で見るとかなり大きい機体だ。

雷撃機……いや、ちょっとした爆撃機かと思うほどの機体サイズに、操縦席近くの小さめの翼を含めた3対6枚の翼、垂直尾翼は二枚、珍しい機体形状の機体だ。

 

 

「あの操縦席の翼はなんスかね?」

 

「あれは先尾翼って言う機構だね、運動性能を上げるための機体構造さ」

 

 

と、飛空機の知識が深いミツオが解説をし始める。

 

「主翼の後ろに尾翼があると、激しい機体の運動や姿勢変更をした時に主翼の空気の流れのちょうど後ろに尾翼が入って舵が効かなくなることがあるらしいんだ。それを防いで機動性を上げるための機体構造だね」

 

 

少し前に斎ノ国でそれを採用した戦空機が試作されたって話があるよ、とミツオは補足をした。

 

 

「なるほど、この機体はその先尾翼とさらに水平尾翼が付いていますから、運動性能がかなり高かったのですね」

 

 

と、頭のいいベンジャミンがメガネを揃えながら冷静に分析をする。先程の空戦では機体の機動性が高すぎて主翼に水蒸気の雲が発生する程の軌道を見せつけていたが、それだけの性能を出せるのはこの機構を採用したおかげなのかもしれない。

 

 

「でもまあ、あの飛空機に整備科の生徒でも近づけないんじゃあ、詳しいことは分からないぜ」

 

 

と、いつもの軽いノリでノリアキはつまらなそうに愚痴を放つ。そう、あの戦空機が置かれる格納庫の一部は空挺騎士団によって管理されることになった、あの飛空機にもロープが貼られている。

バンデラス先生によると「何が仕掛けられているか分からんから絶対に触るな」だそうな。と、なると学校にも空挺騎士団員が入って来ることになる、生徒達には戦闘になるのではという不安が募っている。

 

 

「ん、カル、さっきからぼーっとして何を見ているの?」

 

 

と、カルエルの義妹であるアルエルが尋ねる。

 

 

「ん、ああ、あのエムブレムを見ていたんだ」

 

 

カルエルは空挺騎士団員によって格納庫の端に止められた血塗りの機体の尾翼を指す。尾翼には黒いローブを被った人物が巨大な鎌を持っている機体エムブレムた。一瞬見えた時は魔術師のように見えたが、あれは死神のようにも見える。先程の空戦で多数の空賊機を撃墜したあの飛空士にはぴったりのデザインだった。

 

 

「部隊章なのかな?」

 

 

先程の空戦で隣に座っていたクレアがそう呟く。彼女は会話が苦手なのか、血塗りの戦空機を眺めながら皆の後ろにいた。

 

 

「それにあの血塗りの塗装、かなり目立つんじゃない?」

 

 

アリエルの言うとうり、あの赤黒い血のような塗装では空戦時にかなり目立つ。ああいった塗装は、インペリアルエースのような腕のいいのパイロットにしか認められていないものである。ここにエースがいるぞと部隊の士気を高める為であるからだ。

 

 

「おそらく、あの塗装を認められるほど腕のいい部隊なのでしょう」

 

「それにあの機体の固定機銃、かなりの威力だったッス」

 

 

とチハルはそう言った。先程の空戦でも空賊機をいとも簡単に粉砕していたところを見ると、かなり口径の大きい機関砲なのだろう。だが、騎士らしい戦い方を好むカルエルから見ると、固定機銃は正々堂々と戦わない、卑怯な機体のようにも見える。

 

 

「すげぇな!あ、そういえばこの機体の飛空士はどんな奴だった?」

 

「うーん、なんかベナレス人ぽい顔立ちだったわね……」

 

 

シャロンは飛空場にて、血塗りの機体の飛空士の顔を見ていたのだ。大人びたシャロンは主観を交えることなく、その特徴を簡潔に述べた。そう、カルエルが一番気になるのはその飛空士のことだった。未だ開発途中のジェット機にまたがり、血塗りの塗装と部隊章を担ぐほどだ、相当腕がいいのだろう。それだけではない、カルエルの飛空士としての

 

 

「ふん、あんな野暮ったい機銃を使うような飛空士さ、どうせ大したことのない腕なんだろう」

 

 

と、カルエル達とは違う方向から声がした。カルエル達センテジュアル組とは別のヴァンビール組の生徒であるファウストは格納庫の扉近くからそう吐き捨てた。ヴァンビール組の長のような立ち振る舞いをしているファウストは、カルエルにとっては気にくわないライバルのような存在だ。

 

 

「ファウスト⁉︎いつからそこにいたの⁉︎」

 

「最初からだよ、君たちがその手品師に夢中になっているところを遠くから眺めさせてもらったよ。さて、そろそろ帰宅時間だから僕は寮に帰るよ、君たちも帰ったほうがいいんじゃない?」

 

 

そう言ってファウストは飛空場を去って行った。カルエルと同じく、彼らヴァンビール組には奇怪なものに見えるのだろう。

 

 

「なんだよあいつ……」

 

 

カルエルはわざわざここまでセンテジュアル組に小言を言ってきたファウストに不満そうな気持ちを吐き出す。彼らと血塗りの機体に対する感情が通じ合っているのを除いて、そう思った。あんな奴のことは早めに忘れた方がいい。と、カルエルは血塗りの戦空機の方を見る。機体のシルエットは3対の翼によってギザギザとして見え、血のような塗装と合わさって吸血鬼のような奇怪さを醸し出している。

 

 

「にしても……禍々しい機体だよな」

 

「そうかしら……わたしには綺麗な女性のような機体に見えるけど……」

 

 

と、クレアは以外なら感想をカルエルに話した。たしかに、禍々しく恐ろしい雰囲気を持つ機体だが、それでいて美しいラインを持つ機体のようにも見える。まるで美しく着飾ったカルエルの母上のような……

 

カルエルはもう一度血塗りの戦空機を見る。あの機体に乗ってきた飛空士のことを考えていた。あの魔術師のエムブレムを背負ったベナレス人風の顔立ちの飛空士、あの入り乱れたあの空戦であれだけの戦果を出した程の凄腕、カルエルはそのことばかり考えていた。

 

 

「あの飛空士は……一体何者なんだ?」

 

 

将来の天使の卵達、疑問のつぶやきは満点の星空の下の虚無に消えていった……格納庫の戦空機は答えることはなかった。

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