再生した自分は、絶望を摂取して生きていく。   作:影斗朔

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幕間 三

最初は何が起きたのか、はっきりとはわからなかった。

彼女の悲鳴と、何者かの笑い声。

一瞬にして辺りに満ちる血の匂い。

賊だ。と思った瞬間にはもう遅く、あっという間に俺は床にねじ伏せられていた。

力を使おうとしたが、体がうまく動かせない。

おそらく毒を打ち込まれたのだろう。

そんな、不用心だった俺は、賊が怯える彼女に迫る様子を見る事しかできなかった。

このままだと、俺は毒で死ぬ。

それは当然といってもおかしくはない、バケモノとしては相応しい末路だ。

でも、彼女は違う。

彼女はバケモノでも罪人でもない。

絶望に満ちた世界を必死に生き抜いているただの少女だ。

だが、このままでは、彼女も俺と同じような末路を辿ってしまう。

家族は随分前に亡くした。信じられる友と呼べる人物も一人もいない。

彼女を守ることが出来るのは俺一人だけしかいない。

そんな俺もこのままでは彼女を守るどころか、彼女が賊に襲われるところを見ながら死ぬ事になるのだ。

それだけは絶対に嫌だ!

彼女が苦しむなんて事、あっていい筈がない!

俺はただ、彼女の幸せを永遠に守りたいだけなんだ!!

 

 

「―――()()()()()()()()()?」

 

 

っ!? 誰だ!?

体の奥底から声が聞こえた。

男性とも女性とも子供とも老人とも聞こえるような声色で、何者かは言葉を続ける。

 

「君が彼女を永遠に守り続けられる力を与えるよ」

 

本当か・・・?

頼む! 彼女を守るためなら俺はなんだってしてやる! だから・・・!

 

「全て失うことになるけれど?」

 

構わない!

彼女以外に俺は何も要らない!

たとえ俺の肉体が無くなったとしても、()()()彼女を守れたら、それでいいんだ!!

 

 

「―――じャあ、君の全てを頂こうかねェ!」

 

 

何者かの声色が急に醜悪さを増した途端、身を引き裂かれるような痛みに襲われ、俺は意識を失った。

 

 

・・・そこからの記憶は酷く曖昧だ。

とにかく、彼女に害を与えようとしたものへ、がむしゃらに力を振るっていた気がする。

そんな俺は、もう死んでいるのだろう。

何もできず無様な様子を晒して、彼女の前で醜い死体と化したのだろう。

 

―――だが、何者かは俺の願いをかなえてくれた。

俺は彼女の身を守る盾にも、障壁を穿つ矛にもなれる。

彼女が怪我をしたらその手当もできる。

そして何より、彼女を永遠に護り続けられる。

それも彼女の傍、誰も寄り付かせない程すぐ近くで。

 

俺は幸せだ。

彼女が幸せになれる手助けができる。

それだけで俺は満足なんだ。

・・・だから。

 

 

 

 

「―――だから、お前が何者かはどうでもいい。ここから出ていけ」

 

ここは俺たちの世界だ。

手を加えないなら攻撃するつもりはない。

だが、敵意を向けてくるのなら何者だろうと殺す。

たとえ、自分の願いを叶えた何者かであったとしても。

 

「―――別に、青葉に用があって来たわけじゃない」

「名前を知っている癖に、よくもそんな事を言えるな・・・!」

「用があるのはお前だ、紅葉」

「・・・俺に何の用があるんだ?」

「妹を守れずに絶望しただろう? 絶望しながら力を欲しただろう?」

「どうしてそれを・・・」

「その絶望を壊すために、自分はここに来た」

 

突如目の前に現れた少女はそう語った。

眉一つ動かない無表情な顔。

だけど、その顔に決意の色があることは十分理解できる。

あの日・・・彼女を守ると誓いを立てたあの日の俺とそっくりだった。

絶望を壊す、か―――。

 

「誰だか知らないけれど、お前には関係ない話だ」

「関係ある。だからここにいる」

「・・・どうだか。彼女の幸せを奪いに来たんだろ?」

「そうやって実の妹を閉じ込め続けることが幸せなことだと思うのか、紅葉」

「それは・・・」

 

どうやら、俺のことを・・・いや、彼女のことも全てわかっているようだ。

―――それなら、生かしておくわけにはいかない。

 

「とりあえず、死ね」

「―――!」

 

右手から瞬時に生やし、勢いよく振るった骨の剣は、少女の首を音もなく切り落とした。

致命の一撃。胴体から切断された頭はこちらへと勢いよく転がる。

切り裂いた感覚は確かにあった。

・・・だが、その体は倒れる事なく、首から血液が吹き出す事もなかった。

 

「―――悪いけれど、自分はそう簡単に死ねない」

「な・・・っ!?」

 

頭を失った体の何処かから声が聞こえて来た。

切り落とした頭は、腐食したかのように一瞬にして枯れ果てていく。

それどころか、元の体の方では切断面の首元から枝が伸びて、人間の頭を形成し始めていた。

 

「なんだ・・・お前・・・?」

 

散々バケモノだと言われ続けられた俺から見ても、俺の中に進入し首を切断されても平然としている、目の前に立つ少女の方がよっぽどバケモノのように思えた。

 

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