禁足地の中心、巨大な樹木が佇むそのすぐそばで、同じ顔をした二人の人物が顔を合わせていた。
一人は楽しみにしていたのかニヤニヤと嬉しそうな笑みで。
もう一人はつまらなさそうにも取れる、無表情で。
*
それでェ、オレに何か用でもあるのかァ?
お前の企みを暴きに来た。
企みィ? 何を言いたいんだァ?
オレはお前を・・・。
自分を絶望させるためだけに、わざわざ蘇らせたわけじゃないだろう?
本当は、お前の下に埋葬された誰でもよかったはず。
それなのに、お前は自分を蘇らせた。だったら理由は一つ。
・・・だとしたらァ、なんだァ?
お前は『まずい飯は食べたくない』と言ってたな。
それなら、美味しいと感じられた人間を蘇らせれば良い。まずい自分を蘇らせる必要はないはず。
でも、それだと目的を達成する事ができない。
そうじゃないのか?
何が言いたい?
お前の目的は、自分を絶望の底に叩き落すこと以外にもう一つある。
それは、自分に紅葉のような『絶望の塊』を摂取させることだ。
おいおい、その言い方じャまるで、オレが『絶望の塊』を食べられないみたいじャないかァ。
そんなことは言ってない。
むしろ、『絶望の塊』はお前の大好物だろう。
けれど、ごちそうにありつくには手間がかかる。
人形や『木の精』状態だと、『絶望の塊』を摂取するのが困難だった。
普通の人間でも、吸い取った『絶望の塊』に飲み込まれてしまう。
だから、動けない自分の代わりに絶望を摂取してくれるものを探していた。
違うか?
いやァ、お見事ォ! 正解だぜェ!
それにしてもォ、よくわかッたなァ。
・・・とでもォ、言ってほしいのかァ?
別に、言いたくなければ言わなければいい。
話を戻すぞ。
お前の行動には違和感があった。
自らの正体を明かす必要がないのにすぐに明かしたこと。
それに、ただ単に絶望させたいのなら、二人の死体を住処に置いておけばよかったはず。
何度も『オレはお前だ』っていってたことや、『大噛み』を自分に襲わせたことだって、最初から『不老樹』の力を自分に使わせようとしていたからだ。
・・・まァ、そういうことにしておいてやるよォ。
そもそもォ、お前は『絶望の塊』の正体をしらないだろォ?
いいや、あの時戦って把握した。
そもそもあの骨は、紅葉の力じゃない。
あれは、『
自身がありそうな口ぶりだがァ、どうしてか説明できんのかァ?
骨にしては種別が多彩すぎる。それに、紅葉は剣術も医術も取得していない。
なのにどうして紅葉はそんな技術を知っているのか。
もし、剣の太刀筋は咢の兄弟子のもので、医術は五版達の兄貴分のものだったとしたら。
血が繋がらなくても、『兄と妹』の関係なら『守る力』が発動すると考えれば、全てが繋がる。
なるほどォ、お前をただの能無しだと思ッていたけどォ、そんなことはなかッたわけかァ。
・・・たとえ、死に体と変わらない状態だったとしても、紅葉をあんな姿にさせる必要なんてない。
あァ、あの骨だけ抜き取ッた死体のことかァ?
知らねえなァ。一度自分の事を捨てたんだぞォ。どうしようがオレの勝手だろォ?
それに、あの人間は自分の願いを叶えられたんだから、別にいいじャねェか。
何がいいものか。
あれじゃ、どちらも幸せになれるはずがない・・・。
幸せになれるはずがない・・・ねェ・・・。
―――
だか・・・ら・・・?
だから何だッて言ッてんだよォ。
人間が何を思おうがァ、何を願おうがどうだッていいッてのォ。
そんな事を言っている暇があるならァ、さッさと絶望してその身を食べさせてくれねェかなァ?
・・・・・・だ
ん? 何か言ッたかァ?
嫌だと言ッたんだ! 誰がお前なんかの言いなりになるか!!
おォ!? 怖いを通り越してビックリしたぜェ!
なんだァ、そんな表情もできるんだなァ。
できるさ。自分が人間じゃなくなったとしても、感情がなくなったわけじゃないんだから。
そして、今決めた。
自分は絶望に屈しない。
どんなことがあったとしても最後まで抗う。
ハッハァ! 面白い事言うじャねェか!
でもなァ、お前がどう抗ッたッて、お前もこの世界もオレの玩具であることには変わりねェ。飽きたらいつでも捨てられる消耗品だァ。
そんなお前に、一体何が出来る?
『今は何もできないかもしれない、でも、その時はきっと訪れる。諦めない限り。』
お前・・・まさかァ・・・。
ああ、紅葉のおかげで全て思い出した。
*
一面が白に染まった無菌室。
図書館から出たことがない自分が、唯一見たことある外の世界。
そこにいたのは全身をビニールで包んだ白ずくめの人たち。
彼らは自分へと理想を語ってくれた。
君は決して幸せになれないだろう。
そして、今まで苦しんだ以上に、君はもっと苦しむことになる。
今のままだったらの話だけどね。
殴ってきた男に仕返しをしたいと思ったことはないかい? 侮蔑してきた女に罵声を浴びせようと思ったことも、きっとあるだろう。
でも、君はそれをしなかった。
『呪印』を刻まれた時から、今に至るまで、誰にも危害を加えようとしなかった。
正しかったのは、一体どちらの方なんだろうね。
・・・私たちが呪いに対してできることは、ほんの僅かだ。
このままだと、皆を助けることなんて到底できない。
これから先も、君に訪れるのは不幸せな出来事しかない・・・かもしれない。
・・・でも、私たちは君を救いたい。
希望を知らず、喜びを知らない君が幸せに暮らせる未来を、私たちは作りたいんだ。
今は何もできないかもしれない、でも、その時はきっと訪れる。諦めない限り。
その時をどうか待ち望んでいてほしい。
だから、今日から君を名前で呼ばせて・・・。
え、名前はない?
なら私たちが名付けよう。
見果てぬ遠い希望を、決して諦めないという決意を込めて。
今日から、君の名前は―――
*
自分の名前は望だ。
三百年前では人間として扱われなかったどころか、多くの人から都合のいい存在として扱われてきた。
無知で無力で、無気力な子供だった。
でも、その中には決して多人数ではなかったけれど確かに自分のことを思ってくれた人たちが、呪いをなくそうと努力していた人たちがいた。
だから、自分は彼らのようになる。
この世界が絶望で満ち溢れているというなら、その絶望を徹底的に潰す。
お前が人々へ絶望を接種するのなら、その絶望を摂取して生きる。
だから、これ以上お前の好きにはさせない。
おいおい、そりャあ宣戦布告ってやつだぜェ。いいのかァ、オレを敵に回しちまッてもォ?
何を言っているんだ。『呪木』は最初から人類の敵だ。
お前こそ何言ッてんだァ?
今のお前もオレと同じ存在なんだぜェ?
それに、無知なお前に何ができるわけェ?
とある作家は愛の正体を知り、愛に絶望した。
けれど、その作家は絶望しながらもその絶望に対して、誰も愛さないという答えを出した。
・・・はァ?
今のは例えでもあって証明でもある。絶望は回避できる、絶望は克服できるということの。
お前は、自分が生きている時間は殆ど無いと言ったけれど、残念ながら時間ならいくらでもあった。知識を得る為の環境も状態も全てが整っていた。
前世で生きていた十四年は決して短い時間じゃない。知恵を蓄えるには十分すぎる期間だった。
それでもォ、お前と俺の知識量なんて天と地の差なんだぜェ?
おまけに三百年の空白付きときたァ。
お前がどれほどあがこうともォ、結局無駄にしかなんねェよォ!
それはどうだろう? 窮鼠猫を噛むということわざだってある。
空いてしまった三百年の空白なんて関係ない。
いかなる絶望が襲い掛かろうが、自分はお前を倒す。絶望の輪廻を断ち切る!
その時までその下品な笑みでも浮かべてろ。
―――あッそ。まァ、精々頑張ればァ?
*
宣戦布告と挑戦受容。
言い合いをしていた二つの影は早々と会話を終わらせると、何者に見られることも、影を残すこともなくその場から姿を消した。