今まで生きてきて、この世界が恨めしいと思った回数は、それこそ数え切れないほどあった。
だけど、今日ほど世界を憎んだのは初めてかもしれない。
それは、彼女が涙を流した時。
途方もない苦しみを、その一身に背負わざるを得なくなった時。
命が奪われてしまう程に壮絶な痛みを、その戦いに向かない体で受けそうになった時。
彼女が持つもの全てを、何者か・・・いや、世界に奪われそうになった時。
それら全てが、彼女に襲い掛かりそうになった時、俺はもう我慢ができなかった。
幸せそうな彼女の表情を、暴力によって強張らせた者がいた。
ほんの僅かな喜びの感情を、絶望による恐怖に染め上げた者がいた。
白く綺麗な柔肌へ、一生消えない程の深い傷を付けようとした者がいた。
・・・その無垢な命を、ただの興味本位で摘み取ろうとした者がいた!
―――ああ、そうだ。
俺という存在は、いつの間にか彼女を守るためだけの存在になっていた。
この体は、彼女へ向けられた害を、一刀のうちに両断するためだけにある。
この命は、彼女へと襲い掛かる理不尽な暴力から、無傷でいられるよう守護するだけのためにある。
この魂は、これ以上彼女を孤独にさせないよう、常に彼女のすぐそばにある。
そして、この力で彼女を助けるために、何度も同じことを繰り返してきた。
何度も、彼女を守るために使う力だと誓った。
何度も、俺がいつか死ぬであろうという覚悟をしてきた。
何度も、俺へと降りかかる絶望の連鎖に耐え忍んだ。
何度も、襲い掛かる敵と思われる者たちを殺した。
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。
彼女を害そうとした者たちを、成敗という名目で殺してきた。
そのことに後悔はない。
ただ、殺すたびに彼女のそばから離れていくような、そんな感覚が常にあった。
それは暗に、いずれ俺は彼女のもとを去らないといけないという暗示のように思えた。
・・・それでも俺は、何度だってそれらを続ける。
彼女がこれ以上苦しむことが無いように。
彼女がいつまでも笑顔で過ごしていけることができるように。
殺戮兵器と化してしまったとしても一向に構わなかった。
それが、彼女の幸せを守り続けるということだから。
悪意を向ける者たちを成敗する時は、いつだってそう。
方法は多種多様に渡り、それぞれが違っていても、最初となるのはいつも同じ言葉だった。
そう、彼女に害をなす者へ、いつ何時も、何度だってこう告げるのだ。
「そうだ、俺はバケモノだ」と。