※FGO第一部のネタバレを含みます。
(にぎやかな話し声と喧騒。交差点を行き交う車列。信号が赤に変わる)
(横断歩道の信号が青になり、一斉に人の群れが動き始める)
(誰かの悲鳴)
(急ブレーキ。衝突音)
(誰かの悲鳴と泣き声)
(サイレンの音)
(ざわめき)
(ざわめき……)
◇◆◇
「ようこそ藤丸立香くん。突然だが私は神だ。そして君は、先程トラックに轢かれて死んだ」
「────待って。どこからツッコめば良いのかまるで分からない」
大いなる無限光に輝く白亜の聖堂で、超偉い神様こと俺は一人の少年と対面していた。
少年の名前は藤丸立香。21世紀日本に生きていた一般日本人だ。神界への
「君の死は、その運命が定めたものよりも随分と早い。平たく言えば、こちらの手違いだ……そこで、理外の夭折を遂げてしまった君に何らかの埋め合わせをしたいと思ってね。こうして来てもらったというわけなのだよ」
「いや、あの、手違いって」
自らの死という残酷な現実を前に困惑を隠せない様子の立香少年だが、それも無理からぬ話であろう。多くの若者は死を恐れない。いつ訪れるとも知れぬ死の恐怖に怯えていては、その短い生すら
「さて、時間も惜しいゆえ手短にいこう。何か望みはあるかね? 転生を求めるならば、新たな生に幾らかの
「……生き返ることは?」
「駄目だ。神の定めにより、やがて死すべき定命なる人間に、約束されざる復活は許されない」
「……」
押し黙ってしまう立香少年。しかし、
「望みの時代と土地はどこだ? 人理の続く限り、君にはあらゆる世界へ転生する権利がある」
「え、えっと」
「選択肢が多すぎて困るかね? では、直接見て決めるがいい」
そう言って、
立香少年の時代には、Google EarthやGoogle Street Viewなどのいじらしい努力が成されていたはずだ。説明が簡単に済むので、
「地球以外の星を希望するなら言ってくれたまえよ……そうだな……君の生国ならば、江戸時代など中々良いんじゃないか? 海外なら……フム……いっそ思い切り時代を遡って古代文明というのもエキサイティングだろうな」
実のところ、神はそういうのも嫌いではない。……最近の人間は、スマートフォンの予測変換やアプリの売上ランキングなどにばかり頼って苦行や死ぬ系の試練をしなくなり、スマホアプリで脳死周回やリセマラばかりしているので、あほになりつつあると思う。
ウルクはタフな都市だった。これはメキシコと同じくらいにはタフということだ。そんなところに適性のある立香少年は、逆にあまり文明の進んだ時代とは相性が悪いかもしれないが、真の男になれば生きていける。剣を捨てるな。銃はギターケースに隠しておけ。転生先でもタフになれ。
「……あるいは未来が良いか? 剪定に編纂を重ねたとて、未来はなお節操もなく分岐する。……そら、君のいた世界の未来を見せてやろう」
そう言って、半ばサービス気分で立香少年の前の地球モデルを少しだけ動かした。
見せるのは、そうだな。ざっと10年後……2025年でいいか────
────未来の地球は、燃えていた。
「燃えてるのナンデ!?」
「ハハハ落ち着きたまえ藤丸立香くん。ハハハ人類が滅ぶなど天の神たるこの私にとってはハハハ日常茶飯事に過ぎないのだよハハハハハ」
一般人らしく取り乱す立香少年を、
「────ハッ!?」
気づいてしまった。
いや、
この白亜宮は、
約73億人──それは、藤丸立香少年が生きていた西暦2015年地球における全人口に相当する。
冷たい汗(神様的比喩表現)が全身から吹き出すのを感じた。なぜなら、
立香少年が死ななければ人類は滅ばなかった。逆に言えば、我がゴッドミステイクによって立香少年が死んだせいで人類が滅んだということだ。つまり……
……かつて記された黙示を経ることなく訪れた終末。
黙示録。それは、
73億人、その全てを転生させねばならない。
それは、
「藤丸立香くん。君のいた地球の未来には
そう告げて、自らの知覚をどこまでも発散させていく。
『総当り探索──全空間/全時間/全因果より、地球人類に好適なる居住環境』
内なる言葉で命令を下せば、刹那の間に世界を構成する因子の全てが掌握された。
次いで、過去と未来の宇宙全ての姿が認識される。
最後に表出するのは因果である。原初の混沌、無限に渦巻く情報の海の深みから、見捨てられた分枝の可能性、剪定された世界群さえも摘み上げる。
このようにして、
眼前に展開された星々の美しさに、立香少年が感嘆の声を上げた。その素朴な感情は、彼を感動せしめし偉大な神を喜ばせる。俺のことだ。
内なる霊感が囁き、第一の候補を指し示す。
「きたれ」
そう告げて見ていると、地球に瓜二つの姿をとる星が現れた。そして、その星の名は「地球」と言い、それは立香少年の住む地球の過去の形であった。
その地に住むのは死から解き放たれた人々である。時の因果は、その星が立香少年と全ての地球人類が燃え尽きた後、46億年の時を遡って作り出された新世界であることを語っていた。
『逆行運河/創世光年』。
「この星を君たちの新たなる天地としよう」
その星には既に空と大地と海があり、太陽と月と星とを夜の天蓋に浮かべていて、植物と魚と鳥と獣と家畜たちが息づいていた。だが神の目には、73億の人間全てを一度に転生させるには少々不足であるようにも思われた。
「では、長い時をかけて73億の全てを転生させるとしよう。地を治め、人の社会を築くがいい」
それでも、73億の人々が産声を上げるには数千年の時が必要だった。そこで
「まず、始まりの土地を与えよう。それは2つの大河に挟まれた肥沃なる平野。人類文明発祥の地の一つ。君たちが『メソポタミア』、あるいは『カルデア』とも呼んだ地だ」
立香少年は「メソポタミア文明……」と呟く。その呟きが終わらぬうちに、次の
「人が独りでいるのは良くない。君のために、ふさわしい助け手を転生させるとしよう」
すると立香少年の小指からスルスルと赤い糸が伸び、幾重にも枝分かれして白亜の宮殿の窓から外へと伸びていく。興味深いことに、糸の多くは彼の時代において既に死せる者たちの小指へと結びつけられた。人の辿る運命は数奇である。
「ふむ、『マシュ・キリエライト』か……善き魂だ。その魂にふさわしい
すると、そのようになった。
こうして、神様転生のための全ての準備が整った。
力を使ったので
「では、転生の儀を始めよう。心の用意はいいかね? 質問があれば受け付けるが」
「えっと……色々よく分からないままなんですけど、まあ、はい。たぶん大丈夫です」
立香少年は答える。
なんと謙虚な! 転生を司る神様は感動した。俺のことだ。
大いなる力の流れを前にしたときは、逆らわず流されるべきこともある。その真理を知る少年に、
「行きなさい。新たなる人類の旅立ちだ。──『産めよ、増えよ、地に満ちて地を従わせよ』」
このようにして、一人の少年と一人の少女が転生したのである。
世界の片隅で幸福に生きた彼らはやがて子を作り、その子らがまた子を成して、人々は繁栄していった。そして多くの代を経て、彼らの居住地域が先にいた者たち──死の概念を持たぬ者たちと重なったとき。人々は、彼らを神秘なるものとして崇め奉った。ある者は土地の神として、またある者は精霊や幻想の住人となり、人類と共に長い時を生きていくことになる。
定命なる人々はやがて死に、新生し、その過程で神の手により旧地球の魂たちが転生する。
神秘深き時代には多くの人々が前世の記憶を朧ながらに保っていたが、やがてそれらは理性と常識によって塗りつぶされた。神秘はいつしか忘れ去られ、死を知らぬ者たちは星の幻想と成りて世界の裏側へと住居を変えた。かつて神から贈られた
それが転生神の示した人類継続の理──人理であると無意識のうちに知りながら。
因果は巡り、世界の姿が一巡する。
以下解説。不要な方は読み飛ばしてね!
【時系列】
藤丸立香事故死
↓
ゲーティア、人理焼却完了。死の概念のない惑星を創り出す。
↓
上位存在的な転生神GOD「私のちょっとした手違いで藤丸立香くんと73億人の地球人類が死んでしまったなー。転生先を探さないとなー」
↓
転生神GOD「お、この『死の概念のない惑星』が地球型惑星でいい感じじゃん! ここに死んだ人類まとめて転生させよーっと」
↓
新地球の原住民(不死)「なんか最近『人間』とかいう奴らがポコポコ増えたり死んだりしてて怖……世界の裏側でバカンスしよ」
↓
人類は繁栄しました(スタートに戻る)