「それでは皆さん、お疲れさまでした! かんぱぁ~い!」
『かんぱぁ~い!』
長々とした挨拶は省略されて、乾杯の音頭と共にみんなが各々のグラスを掲げる。
私――立花響が飲んでいるのは普通のオレンジジュース。この場で数少ない未成年者である私と友達は一つのテーブルに集まって仲良く会話を楽しんでいた。
「はぁ~。肩の荷が一つ下りました」
グラスの中身を半分くらい飲み干して、銀髪の少女――雪音クリスちゃんがホッと一息つく。
クリスちゃんは撮影現場で唯一の同年代という事で仲が良くなり、オフの日でも頻繁に遊んだりしている。撮影では乱暴な口調の女の子を演じているが、普段は礼儀正しい子だ。
「やっぱり、役とはいえ乱暴な言葉遣いは慣れません」
「そうかなぁ。けっこう似合ってたよ?」
「演じるにあたって台本を何回も読み返してましたから。もう擦り切れてボロボロです」
両親に有名な俳優と女優を持つクリスちゃんは、こと演じる事に対して妥協を一切しない。例え普段の自分と真逆のキャラであったとしても全力で演じる子だ。
「響ちゃんだって、これが初出演で初主演と思えないほどに上手だったよ。よく他の役者さんのアドリブに合わせられたね?」
「あはは。これでも元演劇部だからね~。私の入ってた演劇部の人達はアドリブしかやらなかったから自然と身に着いちゃったんだ」
中学時代の演劇部の仲間を思い出し、苦笑する。おかげで私もアドリブをする事が日常になってしまったものだ。
「ほらほら~。楽しんでるか~い?」
「わっ。つ、翼さん?」
「つ、翼先輩。って、すごいお酒臭いですよ。どれだけ飲んだんですか?」
「ん~。二本くらいかな。日本人だから二本飲んだんだよ~」
あまり面白くないギャグを口にして私達の間に割って入ったのは、数々のドラマや舞台に立った大女優――風鳴翼さん。普段から陽気な人だけど、お酒が入っているせいか更に性格や口が柔らかくなっている。
そして、彼女が来たという事は――
「翼が悪いねぇ」
「かなでぇ~。もぉ~のんでるぅ~?」
「飲んでるよ。あ、さすがに一升瓶まるまるはいらないからな? あ、ちょ、なんで押し付け……」
一升瓶をまるまる渡されて困ったように笑うのは、天羽奏さん。作品では一話で退場してしまったが、色々と指導してもらった恩師のような存在だ。そして作中と同じく翼さんとユニットを組んでいる人でもある。
奏さんは貰った一升瓶を困ったように見て、仕方ないとため息を吐くと蓋を開けてごくごくと豪快に飲み始めた。これは二日酔い確定じゃないかな。お酒飲んだ事ないから分からないんだけどね。
「奏さん大丈夫なんでしょうか……」
「明日はオフって言ってたけど、これは一日中寝込むパターンじゃないかな?」
「オフの日は特にする事ないって言ってたけど、寝込むだけってのも……なんか悲しいですよね」
「悲しいというかなんというか……私達からすると勿体ないって思っちゃうよね」
「分かります。一日損した~って思っちゃいます」
そう言いながら微笑むクリスちゃん可愛い。もし私が男だったら告白してたね。
奏さんは翼さんを連れて大人組がいるテーブルに戻ると、とつぜん弦十郎さんと飲み比べを始めた。あの一升瓶のラッパ飲みで枷が外れたのか、自重しないでどんどん飲んでいく。よく見ると翼さんが四本目に手を伸ばして……あ、緒川さんに止められて説教され始めた。さすが敏腕マネージャー。
しかし、こうして見ると出演者全員キャラがとても濃い気がする。弦十郎さんはスタント無しであんなアクションやってるし、緒川さんはリアル水面走りするし、フィーネさんは普通に素っ裸になってるし。って――
「フィーネさん本気で酔ってるじゃん!」
「フィーネさん! 服を着てください服を!」
「いいのよ! 私に見られて恥ずかしいところなんかないんだから!」
「同性としてそれを肯定するわけにはいきません! 服を着てください!」
旦那さんから露出癖があると聞いていたが、まさかここまで酷いとは思わなかった。数少ない男性陣が思いっきり顔赤くして目を逸らしてるし。あぁもう、この人の突拍子ない行動のせいで場が混沌としてきた。
翼さんはいいぞもっとやれ~! って煽ってるし、奏さんは頭抱えてダウンしてる。こうなったらこの場で素面である私達が服を着せるしかない。
「フィーネさんの下着はどこ!」
「見つけました! 後はとりあえずコートを!」
「変態っぽい恰好になるけどどうこう言ってられない! 服を着せる事を優先しよう! 翼さんは煽らないで奏さんの介抱をしてあげてください!」
レースの網目が色っぽい黒い下着を着せてその上にコートを着せ、痴女一歩手前というか完全に痴女としか思えない恰好にしてからようやく一息つく。さっきの裸よりは万倍マシだろう。
一気に慌ただしくなってしまった。主にこの痴女のせいで。
「えぇい。大人組でまともなのは弦十郎さんと緒川さんくらいか!」
「フィーネさんがすまないな、響君」
「さすがに僕たちが着せるわけにはいきませんからね」
「あ。気にしないでください」
この場で唯一まともな二人に頭を下げさせるわけにいかないので、それを手で制してフィーネさんを横にする。とりあえず旦那さんに電話しておこう。
まぁそんなこんなで、「戦姫絶唱シンフォギア」の打ち上げ会の夜は更けていくのだった。
追記――フィーネさんは旦那さんにこっぴどく怒られましたとさ。