結末
――白い光の奔流が、視界の全てを埋め尽くした。
一点の曇りもない、純白の空間。
もはや何も見えなくなった世界で、視覚以外の五感だけが状況を伝えてくれる。
触覚は、横たわる地面の冷たい感触をもたらし。
嗅覚は、周囲一体に広がる鉄錆に似た匂いを嗅ぎ分け。
味覚は、先程飲み干した葡萄酒の味が違うものに塗り潰されたと発し。
遠くから響く、笑っているような、泣いているような、怒っているような声を聴覚は伝えた。
何が起きたのか。
いや――とっくに理解している。
ただ、それを信じたくはなかっただけ。
寒気がする。
体温が失われていく。
原因は一つ。
自らの心臓に、刃が突き立ち――とめどなく、血が体内から溢れているからだ。
戦に負けた?
答えは、否。
自分は、勝利した。
数々の強敵を相手取り、一歩も引くことなく、着実な勝利を重ねてきた。
だから、これは実力及ばず敵に敗れたわけではなく。
自らの手で、自らの得物で、自らの心臓を刺したのだ。
無論、そのようなことをしなければならない理由などなく。
なればこそ、このような事態に陥った原因は、一つしか考えられない。
――――裏切られた。
その結論に至った瞬間、これまでの記憶が、まざまざと蘇る。
そして、気付くのだ。
全ては、自分の失態。
こうなることは、当然の帰結なのだと。
破壊された心臓から、大切なものが零れ落ちていく。
生命の灯火が、刻々と失われていく。
恐怖はない。
あるのは、ただ――どうしようもない、口惜しさだけ。
手を伸ばそうとする。
せめて、責任を果たさねば。
邪悪なる企みを、止めなければ。
だけど、身体はもうぴくりとも動かなかった。
――それすらも、自明の理。
だからこその、この仕打ち。
最後の最後で妨害を受けることがないように、入念に策を練り、成功する確信があったからこそ、こうして実行に移したのだろうから。
身体が、粒子となって消えていく。
現世に生きる常人とは異なる肉体は、徐々に解け、崩れ落ち、空気と溶け合うかのように消失していく。
未だ続く光の世界。
せめてその果てを見届けようと思うが、どうやらそれも叶いそうになかった。
ああ、やはり、天罰が降ったのだ。
またとない好機を得て、そのために邁進して――
そして、
意識が薄れていく。
胸の内をじりじりと焦がすのは、絶望と後悔。
次は、もうないだろう。
だけど。
それでも。
神々が、もう一度次の機会をくれるのならば。
せめて、この無念だけは絶対に忘れないように――
――消失。
そして――厄災が、世界を覆った。