Fate/raiding disaster   作:宰暁羅

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7月7日
召喚


 

 

 

 ――かくして、ここに()()のマスターが揃った。

 

 

 

 

 

 そこは、神秘も、幻想も、魔術も存在しない世界。

 当然、本来ならば聖杯戦争など起こり得るはずのない世界。

 だがしかし、現実として聖杯はこの地に降り立ち、儀式の完遂を待ち焦がれている。

 この奇跡は偶然か、あるいは必然なのか。

 はっきりしているのは、選ばれたマスターたちは既に聖杯の存在を信じ、参加する意欲を見せているということ。

 あるいは――それも、聖杯によって歪められた思想なのか。

 

 

「――素に銀と鉄。礎に石と契約の大公」

 

 

 時は深夜。都会と違い、雲名島の夜は暗く、人の気配は失われる。あるのは、延々と木霊する虫の鳴き声くらいなものだ。

 その中で、各マスターたちが人目につかない場所を見繕い、英霊を召喚する儀式に臨んでいた。

 ある者は山奥に入り、ある者は廃工場に忍び込み、ある者は家の中で堂々と。

 

 

「降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 

 

 召喚に必要な魔法陣の描き方も、令呪が教えてくれていた。

 本来ならば生贄の血液や水銀など、魔術的な意味合いのある素材を使用すべきところを、全てのマスターがただのチョークで代用している。

 ()()()()()()()()()における魔術師が見れば稚拙さに吹き出してしまうであろうその魔法陣は、しかし現在、ほのかに発光し、確かな力を顕現させていた。

 

 

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」

 

 

 詠唱も同じく、与えられた知識にあったものだ。

 脳髄に焼き付けられた言の葉は、思い返そうとする必要すらなく、するりと口の中から自然に零れ落ちる。

 

 

「――――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

 

 魔法陣の輝きが一層増す。令呪が熱を灯し、何か見えない力のようなものが吹き荒れるのをマスターたちは感じていた。

 英霊を召喚するに際して、必要な魔術回路を彼らは持っていない。

 それなのに儀式が滞りなく進行しているのは、彼らの右手に刻まれた令呪が、その全てを代行しているからだ。

 それは、令呪従来の機能ではない。

 だが、そこに疑念を挟める存在は、この世界に存在しなかった。

 

 

「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者」

 

 

 もはや目を開けていられないほどに、魔法陣の光が周囲に満ち溢れている。

 異様なまでの高揚感。

 常識の埒外に足を踏み入れようとしている、背徳と悦楽の狭間。

 この先に進んでしまったら、もう後戻りは出来ないだろう。

 それでも、彼らは引き下がらない。

 己が望みを叶えるため、未知の領域へと手を伸ばす。

 そして――最後の一節を、唱えた。

 

 

「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

 

 爆発したかのような光の奔流。

 迸る魔力の波が物理的な衝撃となり、マスターたちの髪や服を揺らす。

 夜が明けたのかと見紛うばかりの煌々とした空間に、何者かの気配が生じたことを、彼らは察した。

 

 それは、具現化された神秘。

 

 肉体を得た幻想。

 

 降臨した魔力の塊。

 

 即ち――この世に在らざる者。

 

 こうして、聖杯戦争の幕が開く。

 勝利者となるのは誰か。

 敗北者となるのは誰か。

 今一度、マスターたちの覚悟を求めるが如く、サーヴァントたちの言葉が響き渡った――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――問おう。汝が我がマスターか」

 

 

 

 

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